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第四章 ご利用は計画的に

15.頑張ってるビリーと頑張らされてるシモン

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 三圃式農業を取り入れて収穫量が上がれば王都の借金取りから督促状が届く。人口が増えて人頭税が増えれば煌びやかな宝石やドレスに隠された多額の請求書が何枚も送られてくる。

(賭博の借金に喧嘩の治療費や慰謝料、王宮の権力者への献金に派手なパーティーへの参加費用⋯⋯その度に領地に使う金が消えていく)

 父親である先代領主が存命の頃から自堕落な暮らしを好み、勉強から逃げ出してばかりいた兄のトールが領主になったのはこの国の法律が『爵位の長子継承』を定めているから。

 父や彼と意を同じくする者達が当時の国王に嘆願書を送り法の改正を願っていたが叶わぬまま他界し、法に則ってトールが新領主となった。

(それまでもその後も領地に戻って来るのは年に一回あるかないか⋯⋯しかも大勢の友を引き連れて乱痴気騒ぎをして帰って行くだけなのに、母上が兄上の更生を信じておられるから⋯⋯)

 ラバント領の状況を事細かにトールへ知らせているのは母親のイライザで、トールにだけは知られたくない領地の整備用に溜め続けている資金や運よく手に入った援助金などの情報も筒抜けになっている。

 イライザ専属の侍女がビリーの執務室に忍び込んだり、あちこちで聞き耳を立てたり⋯⋯彼女達が手に入れた情報はイライザからトールに知らされ、多額の金額が記された請求書の形でビリーに帰って来る。

「これから先もこのまま⋯⋯変わりたくとも変われないのが現状と言わざるを得ません。ご存知のようにこの国は長子継承ですから」



 諦めに似た言葉を口にしたビリーだが、彼は母親にも知られないように僅かづつではあるが資金を貯め続けていた。

(興味を示している出資者の感触もいい感じだし、河川を走れる船の購入も目処が立ってきた。河川貿易に乗り出せたらラバント領は大きな進歩を遂げられる。
ラバント領の深くて広い川は領民達を救ってくれるはずなんだ)


 ビリーが領地の数箇所にとうもろこし畑を作らせたのは農民達の糊口を凌ぐ為。

(近くに住む農民達に世話を頼み育ったとうもろこしは全て彼等に一任したんだ。食べるも良し、売るも良し⋯⋯とうもろこしは農民達を飢えから救ってくれた)


 問題は山積みだが少しずつ先が見えてきたと思っていた⋯⋯原因不明の皮膚病の報告があちこちから上がってきはじめるまでは。

(シモン殿が通ってこられたルートからも皮膚病の報告が上がっていたはず。もし他国の高位貴族の子息が罹患していたら⋯⋯花祭りが終わったらすぐに詳しい調査をする予定でいたのに)





『もし弟君がモゴモゴしてたら、エスキニアを腐らせてるのは働きもせずに国庫を食い荒らしてる耄碌ジジイ達だって知ってるよ~ってキッパリと言ってやって。
んで、そいつらに尻尾を振ってるク◯兄の金蔓になり続けてるけど、国が落ちぶれて行く手助けになっちゃってますね~。耄碌ジジイ達に餌を運ぶだけの人生は楽しいですかぁって聞いちゃえ』


「若輩者の戯言だと聞き流していただきたいのですが⋯⋯ゴクリ⋯⋯エ、エスキニア王国の発展を妨げているのは資金面の問題だと他国では言われていますが⋯⋯そ、その⋯⋯本当の問題は先王の代から王宮で権勢を誇る方々なのではないでしょうか」

「どうしてそんな事を⋯⋯どこでそんな話を聞いたのですか!?」

 資金の問題で改革が進められないのと王宮内の意見が分裂していて政が滞っているのでは大きく意味が変わってくる。

(新国王は革新を求めておられるが、先王の代から力を保持している長老達が蔓延る政は亀の歩みを続けている⋯⋯それを他国の貴族が知っているなんて!? モラヴィアスはこの国に間者を放っているのか?)

 新国王は老害達が長い時間をかけて不正に溜め込んだ資金を吐き出させる為に調べているが、老獪な長老達のガードが硬すぎて調査はほとんど進んでいないのが現状。

(もしこの事が国民に知れ渡ったら⋯⋯自分達が貧困に喘いでいるのが長老達のせいだと知れば暴動が起きるかも⋯⋯それだけは何としてでも避けなくては。この男をこのまま国に帰らせるのは危険だな)

 ビリーの目に剣呑な光がチラつくのを見たシモンは溜息を飲み込んだ。

(あぁ、アレを言わなきゃダメ? やっぱり言わなきゃなのかな⋯⋯無礼打ちされるとは思わないけど、決闘を申し込まれたりとかならありかも。でも、はっきり言わないとビリー様のガードに罅は入れられそうにないし⋯⋯)

 意を決したシモンはミリーの意見を婉曲に伝える為に何度も練習してきた台詞を口にした。

「あ、兄君に言われるまま資金を送っておられるビ、ビリー様はその⋯⋯彼等に資金援助しているのと同じ事になりはしませんか?」

「なっ!」

 思いもよらない言葉にビリーは唖然とした。

(私があいつらに資金援助している事になるだと!?⋯⋯そうか、そんなふうに考えた事はなかったが、言われるまま兄上に送った資金が奴等を肥え太らせる為に使われているのは間違いない)

(見ないふりをしているのは兄の悪行だけだと思っていたが⋯⋯当家にも諸事情があり⋯⋯いや、それは結果論でしかない。私が陛下の足を引っ張って⋯⋯)




 顔色をなくし黙り込んでいたビリーがポツリと言葉を漏らした。

「私は⋯⋯何をやっているんだろう」

 横暴な兄に振り回され、溺愛する兄の為に犠牲を強いてくる母親に懇願され続けるだけの日々。

 努力は虚しく消えていくばかりで、後に残るのは苦い思いと一から積み上げねばならない現実だけ。



「ビリー殿に商会ミリーから提案があるのですが⋯⋯お聞きになられますか?」

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