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第四章 ご利用は計画的に
14.ご利用を計画的にできないボンクラに食い荒らされてる
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「このような僻地までようこそおいで下さいました。領主代行を勤めておりますラバント子爵家次男のビリーと申します」
領地経営に疲れ果てた中年男が現れると予想していたが、ビリーと名乗った男はエスキニア王国の社交界に出れば注目間違いなしの美丈夫で20代の中頃の男性だった。
「モラヴィアス王国より参りましたクラレンド侯爵家次男のシモンと申します。諸般の都合によりフードを取ることが叶わず⋯⋯私の身分の証明としてはこちらを持参致しました」
シモンがテーブルに置いたのはクラレンド侯爵家の家紋が入った一振りの短剣と侯爵直筆の手紙。
ミリーに頼まれたレオンが父親の公爵に頼んで、公爵がシモンの父に頼んで書いてもらった『シモンの身分』を証明する為の手紙⋯⋯何が書いてあるのか分からないが、頼まれた公爵も書かされた侯爵も本当の目的は分かっていないだろう。
「確認させていただきます⋯⋯⋯⋯国境を越えてまで当家にお越しになられたのに大変申し訳ありませんが、ラバントのような貧乏子爵家がお役に立てることがあるとは思えず疑問ばかりが頭に浮かんでおります⋯⋯特に今は、年に一度の花祭りの準備で慌ただしくしておりまして」
忙しいからとっとと帰ってくれと言わんばかりのあからさまな物言いだが、ビリーの表情は穏やかでかなりの好印象だった。
「花祭りの準備で町中が華やかに彩られていましたね。そのような忙しい時に伺ってしまい申し訳なく思っております。なるべくご迷惑をおかけしないように簡潔にお話しさせていただきたいと考えておりますが、先ずは人払いをお願いできますでしょうか。
部屋にいるのは私達だけですが、ドアの外で待機している人には席を外していただきたいのです」
ぽやっと君に加えて最近ついたあだ名がチョロすけ君⋯⋯命名ミリー⋯⋯のシモンだが、人の気配には敏感のよう。
(コソコソしてる奴がいると臭うんだよね)
「では改めて⋯⋯実は先日若輩ながら商会を立ち上げまして、こちらには商談で伺った次第です」
「ほう、その若さで商会を。どのような品を扱われているのか非常に興味が湧いてまいりました」
ブランドール公爵家のレオンと並ぶ天才だとこの国でも噂されているクラレンド侯爵家のシモンがありふれた品を扱うとは思えないが、所詮は15歳の子供。
(領地や領民のためになる物なら良いのだが⋯⋯断って侯爵家の名前を出して来る気だったら面倒だな)
「今回は私どもが扱っている品の販売ではなく、ラバント子爵領の外れにある雑木林を商会にて購入したく思っております」
「雑木林と言われると⋯⋯国境の近くにある雑木林の事ですか?」
「はい、ここに来る前に通り過ぎましたが全くの手付かずでおられるようでしたので、利用のご予定はないのではないかと思っております」
「何であのような林を⋯⋯開発するとしても手を入れてない期間が長すぎて、育ちすぎた樹々ばかりなのですが」
澱んだ池や虫を思い出したシモンは『僕もそう思う』と心の中で呟いた。
「それは今は言えません。ただ、ビリー様にご納得いただけるだけの資金は準備して参りました」
「いや、しかし⋯⋯それは流石に無理すぎるというもの。ラバント子爵家は小さいながらも先祖代々エスキニア王国に属しております。手も入れず放置していると言っても、領地の一部をモラヴィアス王国に譲り渡すのは国賊の誹りを受けかねない所業でしょう」
「モラヴィアス王国ではなくクラレンド侯爵家でもなく、私の商会との取引となります。あの雑木林に私の商会の支部を建設するイメージとでも言いますか、建てた支部の周りが雑木林だと言いますか。
エスキニアの王家に提出する書類にもそれを明記する事をお約束致します」
商人ギルドに正式に参加している商会の本部や支部はその国の法に縛られずギルドの法に縛られる。商会に問題があれば国は商人ギルドに対し抗議等を行い、ギルドが撤退や解散など全ての責任を負う。
「商人ギルドに所属している商会なら、ある意味治外法権のような物⋯⋯出来なくはないと言うわけですか」
マッケナーが闇取引をしている戦闘民族のリンドブルム帝国と違い、エスキニア王国とモラヴィアス王国の間には過去にも現在も大きな問題が起きた事はない。
「国と国の軋轢を生むきっかけになる事を避けたいと思われるのは貴族として当然の事です。今回はラバント子爵家ではなくビリー様と我がラピス商会の取り引きをお願いしたいのです」
「あの雑木林が何の役に立つのか気になりはしますが、それよりも大きな問題があります。ご存知のように私は領主代行でしかなく、領地の売却や譲渡などに対する権限を持っていないのです。その為、兄に話をされるべきだと思いますが⋯⋯」
「現領主様は領地経営に関心がおありでなく、一年を通して王都に住み遊興に耽っておられる。そして面倒ごとも含め全てをビリー様に一任しておられます。この地に着くまでに、数多くの方から代行様への感謝の言葉を耳にしてまいりましたが、これから先もそのままで良いと考えておられるのですか?」
「痛いところをついてこられますな」
今の領都は祭りで賑わっているが、それも領地経営を圧迫するネタにしかなっていないのが現状。
他領から観光客を呼べるわけでもなく血税を食い荒らすだけの祭りだが、諸々の状況からやめることもできずにいる。
(土地は悪くないし、農業に適した温暖な気候と潤沢な水もある⋯⋯それでも下がる一方だった税収をやっとの思いで改善しても⋯⋯だが、これ以上私に何ができると言うんだ)
領地経営に疲れ果てた中年男が現れると予想していたが、ビリーと名乗った男はエスキニア王国の社交界に出れば注目間違いなしの美丈夫で20代の中頃の男性だった。
「モラヴィアス王国より参りましたクラレンド侯爵家次男のシモンと申します。諸般の都合によりフードを取ることが叶わず⋯⋯私の身分の証明としてはこちらを持参致しました」
シモンがテーブルに置いたのはクラレンド侯爵家の家紋が入った一振りの短剣と侯爵直筆の手紙。
ミリーに頼まれたレオンが父親の公爵に頼んで、公爵がシモンの父に頼んで書いてもらった『シモンの身分』を証明する為の手紙⋯⋯何が書いてあるのか分からないが、頼まれた公爵も書かされた侯爵も本当の目的は分かっていないだろう。
「確認させていただきます⋯⋯⋯⋯国境を越えてまで当家にお越しになられたのに大変申し訳ありませんが、ラバントのような貧乏子爵家がお役に立てることがあるとは思えず疑問ばかりが頭に浮かんでおります⋯⋯特に今は、年に一度の花祭りの準備で慌ただしくしておりまして」
忙しいからとっとと帰ってくれと言わんばかりのあからさまな物言いだが、ビリーの表情は穏やかでかなりの好印象だった。
「花祭りの準備で町中が華やかに彩られていましたね。そのような忙しい時に伺ってしまい申し訳なく思っております。なるべくご迷惑をおかけしないように簡潔にお話しさせていただきたいと考えておりますが、先ずは人払いをお願いできますでしょうか。
部屋にいるのは私達だけですが、ドアの外で待機している人には席を外していただきたいのです」
ぽやっと君に加えて最近ついたあだ名がチョロすけ君⋯⋯命名ミリー⋯⋯のシモンだが、人の気配には敏感のよう。
(コソコソしてる奴がいると臭うんだよね)
「では改めて⋯⋯実は先日若輩ながら商会を立ち上げまして、こちらには商談で伺った次第です」
「ほう、その若さで商会を。どのような品を扱われているのか非常に興味が湧いてまいりました」
ブランドール公爵家のレオンと並ぶ天才だとこの国でも噂されているクラレンド侯爵家のシモンがありふれた品を扱うとは思えないが、所詮は15歳の子供。
(領地や領民のためになる物なら良いのだが⋯⋯断って侯爵家の名前を出して来る気だったら面倒だな)
「今回は私どもが扱っている品の販売ではなく、ラバント子爵領の外れにある雑木林を商会にて購入したく思っております」
「雑木林と言われると⋯⋯国境の近くにある雑木林の事ですか?」
「はい、ここに来る前に通り過ぎましたが全くの手付かずでおられるようでしたので、利用のご予定はないのではないかと思っております」
「何であのような林を⋯⋯開発するとしても手を入れてない期間が長すぎて、育ちすぎた樹々ばかりなのですが」
澱んだ池や虫を思い出したシモンは『僕もそう思う』と心の中で呟いた。
「それは今は言えません。ただ、ビリー様にご納得いただけるだけの資金は準備して参りました」
「いや、しかし⋯⋯それは流石に無理すぎるというもの。ラバント子爵家は小さいながらも先祖代々エスキニア王国に属しております。手も入れず放置していると言っても、領地の一部をモラヴィアス王国に譲り渡すのは国賊の誹りを受けかねない所業でしょう」
「モラヴィアス王国ではなくクラレンド侯爵家でもなく、私の商会との取引となります。あの雑木林に私の商会の支部を建設するイメージとでも言いますか、建てた支部の周りが雑木林だと言いますか。
エスキニアの王家に提出する書類にもそれを明記する事をお約束致します」
商人ギルドに正式に参加している商会の本部や支部はその国の法に縛られずギルドの法に縛られる。商会に問題があれば国は商人ギルドに対し抗議等を行い、ギルドが撤退や解散など全ての責任を負う。
「商人ギルドに所属している商会なら、ある意味治外法権のような物⋯⋯出来なくはないと言うわけですか」
マッケナーが闇取引をしている戦闘民族のリンドブルム帝国と違い、エスキニア王国とモラヴィアス王国の間には過去にも現在も大きな問題が起きた事はない。
「国と国の軋轢を生むきっかけになる事を避けたいと思われるのは貴族として当然の事です。今回はラバント子爵家ではなくビリー様と我がラピス商会の取り引きをお願いしたいのです」
「あの雑木林が何の役に立つのか気になりはしますが、それよりも大きな問題があります。ご存知のように私は領主代行でしかなく、領地の売却や譲渡などに対する権限を持っていないのです。その為、兄に話をされるべきだと思いますが⋯⋯」
「現領主様は領地経営に関心がおありでなく、一年を通して王都に住み遊興に耽っておられる。そして面倒ごとも含め全てをビリー様に一任しておられます。この地に着くまでに、数多くの方から代行様への感謝の言葉を耳にしてまいりましたが、これから先もそのままで良いと考えておられるのですか?」
「痛いところをついてこられますな」
今の領都は祭りで賑わっているが、それも領地経営を圧迫するネタにしかなっていないのが現状。
他領から観光客を呼べるわけでもなく血税を食い荒らすだけの祭りだが、諸々の状況からやめることもできずにいる。
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