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第四章 ご利用は計画的に

13.前門のミリー、後門の実里

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「ようやく領都に着いたけど、花祭りって随分と賑やかなんだね」

 天使と崇められた2日後、シモン達はようやく領都に足を踏み入れる事が出来た。

 昨日泊まった町は関所からラバント領の他幾つもの領を抜けて隣国まで続く街道沿いの町にしては活気がないが、前日の村に比べるとごく普通の暮らしが営まれている町だった。

 入り口で馬車と馬を預け徒歩で入ると決められていたお陰で道は歩きやすく、人々はゆったりと買い物を楽しめている。小さいながら清潔な宿には酒場が併設され、威勢の良い掛け声の女給がエールと一緒に料理を運ぶ姿が見えていた。


「ラバント領の端の村では病に苦しんでいると言うのに不謹慎な気がして気に入りませんねって⋯⋯そう言えば村の名前聞き忘れました」

 領都の店々の軒先には色鮮やかな花が飾りつけられ、公園では出店用のテントが張られている最中。

 道行く買い物客は少し浮かれ気味に見え、商人達がその間を元気よく走り回っていた。

「安いよ安いよ~! さっき入ったばかりのオレンジはどうだい?」

「お花の注文受け付けてま~す。花祭りの前日にお届けしますよ~」

 ラバント領最大のイベントである花祭りは6年前に領主が代替わりしたのを機に始まったと言う。




 宿を取り荷物を置いてすぐに町の見学にやって来たシモンは目深にフードを被り、ネイサンの横にピッタリと張り付いている。

「ネイサン、もう少しゆっくり歩いてくれない? フードが外れてこの間みたいになったら⋯⋯」

 村人に拝まれるという騒動でようやくほんの少しだけ危機意識を持ったシモンは両手でフードを握りしめていた。

(こんな場所でひれ伏されたら、卒倒する自信があるもん)

 ラバントの領都では珍しい貴族然とした青年が、フードで顔を隠した青年らしい人と二枚貝のようにピッタリと寄り添って歩いている⋯⋯近くを通りかかった領民が妄想を膨らませるのは仕方ない光景だが、当の二人は気付きもせず店を冷やかして歩いていた。



「この騒ぎって、大切なおかあたまのお誕生日を祝いたいってボンクラ現領主様が言い出したからでしたよね?」

 屋台で買った出来立ての串焼きを手に持ち、座る所を探していたネイサンがシモンの耳元で囁いた。

 先代の領主が事故で他界し気鬱の病に罹った母親を慰める為、現領主となったラバント子爵が言い出したのは⋯⋯。


《大好きな花で領都を覆い尽くし、母上の誕生日を領民全員で祝おう》


「ああいうのを『マザコン』って言うんだってミリーが言ってた。マザーコンプレックス⋯⋯ 青年期の息子が母親に対して強い愛着や執着を持っている状態の事だって。ピッタリすぎて笑っちゃったよ」

 くすくすと笑っているらしく肩を揺らすフードの男と、ずり落ちそうになったフードを慌てて直す青年は、周りの目にどんなふうに映っているのやら⋯⋯。


 王都で派手に遊び回っているラバント子爵だが、未だに結婚しておらずその気配もないと言う。

「その理由がママより素敵な人がいないからだって言うんだから呆れるよね。次の領主を育てるのも領主の役目だって考えてないのかなぁ」

 因みに、ラバント子爵は『俺より先に弟に子が出来たら相続争いになる』と言い、領主代行をさせている弟に結婚を禁止している。

 ここまで兄に好き勝手されても大人しく従っている弟もかなりのマザコンなのは間違いない。


『弟がマザコンなだけなら何とかなるけどブラコンも入ってたら契約にこぎ着くのは至難の業だよ。その時はさっさと見切りをつけて帰ってきて良いからね』




 近くにいたカップルがベンチから立ち上がったのを見つけて空いたベンチに座り、ネイサンは串焼きに齧り付いたがシモンは長年の習慣から『齧り付く』事が出来ず途方に暮れていた。

(齧り付くか齧り付けないか⋯⋯契約するのか契約出来ないのか。交渉時の最大の壁は⋯⋯)

(レオン様が並んで座るなと仰ってたような⋯⋯でも⋯⋯まぁ、いっか)


 ラバント子爵がブラコンではなかった場合は山を買う為に交渉しなければならないが、他国の者が山を買うなど交渉が一筋縄でいかないのは明白。失敗したらミリーにお仕置きされそうな予感もしている。

 ラバント子爵がブラコンだった場合は即日で退却できるが、ミリーの中には次の目的地が決まっている気がする。新しい場所と任務がどんなものなのか、ミリーの考えは型破りすぎて予想がつかない。

(進むも地獄退くも地獄⋯⋯ 前門の虎後門の狼⋯⋯後は、進退維谷しんたいいこくとかかなぁ)

 自分にとってどちらが望ましいのか、何度も考えていたシモンだが未だに答えが分からない。

「はぁ、レオンみたいにミリーに言いたい放題で文句を言ってみたいなぁ」

「言っちゃえば良いんじゃないですか? ミリーさんって後に引きずるタイプじゃなさそうですから」

「代わりにとっちめられて撃沈して終わりそうなんだもん。レオンでさえやり込められてばっかりだし、僕には無理かな」

 シモンのなけなしの男としての矜持が『まだ無理』だと言わせた。

「ミリーさんはほんとにおかしな人ですよねぇ。子供らしいなと思ってたら、うちの婆様よりも年寄りに見えたり。私の婆様は56歳なのにミリーさんの方が分別臭い事を言うから⋯⋯ちょっとその、不気味な気がするんです。別の世界から来た魔女だったりしても不思議じゃない気がするんです」

 ネイサン⋯⋯惜しい!




「花祭りの当日までに交渉が纏まらなかったら撤退することになってるから、今日を入れたら1週間とちょっと。やるならすぐに取り掛かった方が良さそうだね」

「では宿に帰って代行様への手紙を書いていただけますか? 訪問の為の先触れを出さなくては」

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