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第四章 ご利用は計画的に

17.戦いには理由がある

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 花祭りの当日は晴天に恵まれ、どこかから聞こえてくる音楽と一緒に調子ハズレな歌声が響いていた。

「美味しいジャンブル、焼き立てですよ~」

 ジャンブルとは『寄せ集めて混ぜる』と言う意味で、S字や8の字などの珍しい形をしているビスケットの一種。

「串焼きと一緒に出来立てのエールはいかがですかぁ!?」

「並んだ、並んだ~! 領主様から届いた数量限定のミード蜂蜜酒の販売をはじめるぞ~。不死の飲み物、最高級のミードだよ~」

「恒例の一番くじだよ~! 奥方様の美貌にあやかりたい娘っ子は寄っといで~!」

 普段は仕事に追われ疲れ果てている領民達は店や屋台を冷やかしながら、どこか明るい笑顔を浮かべていた。





 その頃、ミリーはというと⋯⋯。

「お~、こりゃあ美味い。ミリーが作った人参に負けとらんで、一つ食ってみんか?」

「ううん、やめとく⋯⋯でも、ありがとう」

「ワシの奢りじゃで、遠慮せんでええのに」

「欲しがりません勝つまではってのが私のポリシーなんだ~」

(セオじいもターニャ婆も優しすぎるから、奢ってもらうのが癖になってたらヤバいもん。実里の中の本物ミリーは眠っていても私の行動を見てる気がするから)

 害悪にしかならない親や兄姉から独立する為にお金が必要なのは間違いないが、それと同じくらい一人でも戦える強さが必要だと実里は思っている。

(3歳で夢に逃げ込むしかない位に怯えていたミリーの心の成長の為に、強くなる方法を教えてあげなくちゃ。昔の私みたいにならない為に⋯⋯)

 親に見放されるのが恐ろしい、親に愛されたい⋯⋯誰もが願う事だと思うが、相手が毒親なら切り捨てる強さを持たなければ、一生涯振り回されるだけ。

(実里の後悔を成長の糧として、ミリーには強く生きて欲しい)

「新鮮な人参の丸齧りって最高だよね~。うちの畑の人参はちっちゃいちゃんばっかりになったから、味もイマイチなんだけど頑張って育ってくれてるからありがたくいただいてる。それにね、ハーブは頑丈だからなんとかなりそうな予感がしてるんだ~」

 土が痩せすぎて売り物に出来る野菜が出来なくなり、現在無収入のミリーは細々と作っている人参達を自家消費しつつ、ハーブ農家に移行しようとしている最中。

「ワシらから貰うのが嫌なら、マッケナーからぶんどった金で人参くらい買えようにのう」

「あのお金は次の投資に使い込んじゃったから残ってないもん。あ! セオじい、情報提供ありがとう。セオじいに払う情報料は持って来たからね~」

「ワシは情報料なんぞ貰うつもりはないで。その金で美味いもんでも買うてきたらええ」

「いやいや、等価交換だって言ったじゃん。セオじいの情報があったからマッケナーとの商談が上手くいったんだもん。ちゃんとお代を受け取ってもらわなきゃ、次の情報を貰いにくくなるじゃん」

 三圃式農業の後に輪栽式農業が発展したという歴史を知っていたのは実里だが、その情報をどこに売るか悩んでいた時にマッケナーの情報を教えてくれたのがセオじいだった。

 珍しい家畜を飼っている事やマッケナー領と帝国との間にある山の事⋯⋯セオじいの情報がなければあれほど優位な契約先は見つからなかっただろう。

(国交がない帝国側の情報なんてセオじいが教えてくれないと調べようがなかったもん。今回のエスキニア王国の内情とかラバント領の現状とかも怖いくらい詳しかったし⋯⋯セオじいって何者なんだろう。アーノルド達がセオドア殿って呼んでたんだよね)

 あの時『自分にとってセオじいはセオじいだ』と言い切り、セオじいの過去を聞かなかった事を実里は少し後悔していた。

(好々爺のフリをしてるけど、本心が見えない狸だもんなぁ)

 商会を作り他国に商会の本拠地を作りたいと考えた一番の理由は、平民になった後のミリーの逃げ場を作る為。

 モラヴィアス王国にいてはミッドランド侯爵家の影響から逃れられない可能性が高いが、力のない平民のままでは他国に逃げても貴族の横暴に振り回されかねない。

(ミリーが自由を勝ち取る方法は、複数の国や商人達に認められる大商人になる事。商会の存続が自分達の利益に繋がると思わせる事が出来れば、取引先がミリーを守る盾になってくれるはず。そうならなくても多額の資金はミリーに多くの選択肢を与えられるから)



「前にミリーは貸しひとつ言うとったで、マッケナーの分でチャラにしてくれたら助かるのう。ミリーに貸しを作ったままにしとると、貸しがデカくなっていきよる気がするで」

「い~や~で~すぅ~⋯⋯セオじいへの貸しはキープしといて、利息をたんまりつけといた方がいい気がするんだもん。あの時の貸しは大事にとっとく。トイチの複利位で計算しとくね~」

「⋯⋯人参、食わんか? めちゃくちゃ美味いで?」

「人参で利息を減らそうとしてない?」

「ん~、何のことやら。年寄りにはよう分からんでのう」

「シモン、上手くやれてるかなぁ。ネイサンに喰われる前に帰って来れたら良いんだけど⋯⋯」

「大丈夫じゃろうて。長年、老若男女に纏わりつかれすぎたシモンは無意識に完璧な防御を身につけとる。攻撃型のレオンは熊に変身を果たしおったが、完璧防御のシモンは亀になりおったでのう」

「そうか⋯⋯『ぽやっと君』ならぬ『ぬらりひょん』なのか。じゃあ、ネイサンは忠実な子分の『朱の盆』って事で⋯⋯」

 実里の頭の中で『ゲ、ゲ、ゲゲゲの⋯⋯』と言う懐かしい音楽が流れ始めた。


 


 本人の知らぬところで妖怪認定されたシモンとネイサンはその頃⋯⋯。

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