【完結】亡くなった婚約者の弟と婚約させられたけど⋯⋯【正しい婚約破棄計画】

との

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35.待ちに待った⋯⋯開戦

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「メスカルって知ってるかしら」

「ん? いやぁ、聞いた事ないっすね」

「料理されたリュウゼツランって言う意味なんですって。試しに輸入した物で、この国には出回るどころかまだ名前も知られてないかも」

「ほっほう、そいつはすげぇな」

「アルコール度数は40度以上で4年寝かせた熟成物。ほとんど無色透明で蒸し焼きにした時のスモーキーな香味」

「のった! で、今回は何?」



「明日なんだけど例の書類一式を馬車に積み込むわ。行き先は2種類、第二騎士団に行くか裁判所と教会に行くかの好きな方を選んで」

「もち、裁判所と教会だな。第二騎士団なんて面倒事がわんさか思い浮かぶっす」

「では、私はノアと馬車で第二騎士団に行くからデレクは騎馬で行けるように馬を準備しておいて。書類にサインさせたら直ぐ正門に向かうから出発は同時に」

「りょーかーい」

「その後第二騎士団に来てね」

「えー、それずるいっす。それじゃあ2箇所でお仕事じゃないっすか」

「だって裁判所と教会にお使いに行くだけでメルカルをプレゼントはできないもの。なんだったらターニャ様担当に任命し⋯⋯」

「いいえ! 裁判所と教会で手続きが終わりましたら直ちに伺います!!」

 第三騎士団団長のマックスがデレクと練習試合をしたと聞きつけてからというもの、ターニャ王女に追いかけ回されているデレクは完全なターニャ恐怖症に陥っている。

「しっかし、やっとですねえ。これであのバカの顔を見なくなると思えば⋯⋯祝酒が進みそうっす」



 翌朝使用人達が起きる前に、馬車に書類一式と念の為の着替えや武器を載せた。


「屋敷に貴重品は残してないわね」

「はい、先週のお休みの時運んでおきました」

「サラはこの後予定通りに。もし少しでもおかしなことがあればシェルバーン伯爵家に行ってね。ミリアーナ様にお願いしてあるから名前を言えば直ぐにわかってくださるわ」

「はい」

 今日の予定が順調に進めばこの屋敷は騎士団に包囲され家宅捜査が行われる。ライラ・ノア・デレク・サラ、4人の荷物はすでにライラ所有の別宅に運ばれており、ライラ達が出発した後サラは別宅で帰りを待つ事になっている。

「ここに戻れるのはいつになるか分からないし、壊されたりなくなったりする可能性が高いから忘れ物はしないでね。
別邸の場所は誰にも知らせてないけど、行く時はくれぐ⋯⋯」

「お嬢、大丈夫だから。サラはこう見えてちゃっか⋯⋯しっかりしてるから心配ないっす」

 デレクが言い直した言葉に反応したサラが柳眉を逆立てた。

「あ、ごめんなさい。サラさん、最高っす」


「そうね、私ったら緊張しすぎてるわね。今日だけは失敗できないって思うとつい」

「別に今日じゃなくても大丈夫~くらいの気持ちじゃだめっすか?」

「デレクの言う通りです。ビクトールが上手に踊れば今日だし、ケツが重ければ明日もあるって事にしませんか?」

 わざとなのかテンションが上がっているのかノアの言葉遣いが乱れているが、誰も突っ込まないのは全員がそれなりに緊張しているからだろう。

「お父様とお母様はいつも通りお昼頃までお部屋から出てこられないはずだから」

「それまでにお嬢様に頼まれた物を買いに行くと言ってここを出ます」

「じゃあ、出発しましょう」



 ほぼいつも通りの時間に馬車が屋敷を出発した。デレクとノアはいつも通り御者台に座っているし、緊張感のないデレクと生真面目に背を伸ばしたノアもいつも通り。

 学園の正門近くで馬車を降りるとシェルバーン伯爵家の馬車がやってくるのが見えた。ミリセントが来るのを待って3人で校舎へ向かうのもいつも通り。


「ねえ、来週のゴーシュ子爵家のパーティーなんだけど珍しい楽器を使う楽団が来るって知ってる?」

「ええ、ブズーキって言って洋梨を半分に割った形のボディと長いネックを備えた弦楽器だって聞いたんだけどどんな音色なのか想像もつかないわ」

「ゴーシュ子爵家はいろんな国の楽器の収集をされるのが趣味でいらっしゃるから毎回とても楽しみなの」

「ミリセント、今日よろしくね」

「了解!」




 午前中の授業を終わらせて3人が食堂に向かうと、いつものように大勢の生徒がテーブルについて食事をしたり列を作っているのが見えてきた。

 昼食はいつも3種類、前もって券を購入しておきそれぞれの列に並んで料理を受け取る。お金のやり取りなどがないせいか混乱もなく順調に列が短くなって行く。

 窓際のテーブルが空いたのでライラとミリセントが並んで座り向かい側にノアが腰掛けた。半分くらい食べ終わった頃あちこちから聞こえていた話し声や笑い声が段々と小さくなってきた。

 入り口に向かって座っていたノアが表情を変えないまま呟いた。

「来ました」


 ライラが食堂にいるのを見つけるとしょっちゅうビクトールが絡んでくるので、周りの生徒達は『またか』とうんざりしたような顔になっていた。

「ライラ! 貴様、俺に恥をかかすとはどういう了見だ!?」

 渋々のように立ち上がったライラ。

「ごきげんよう、何のことを仰っているのか分かりかねます」

「キャサリンが今度のパーティーのドレスを買おうとしたらどの店からも追い出されたが、お前の指示だと言われたそうだ!!」

「え! それって酷くない?」

「恋人虐めって本当だったの?」

 食事の後何気にビクトールの前をフラフラして暴言を誘発しようと思っていたライラは、タイミングの良い話に内心小躍りしていた。


「先程も申し上げましたが何のことを仰っているのか分かりかねます。第一、たかが一令嬢が全ての店に指示を出せるわけがありませんわ。
それに⋯⋯わたくしは店でドレスを誂えたことがございませんの。ですから、懇意にしているドレスショップもございませんし」

「貴様、店でドレスを買うのなんか普通の事だろうが!?」

「ええ、それに関して何も申し上げておりません。わたくしは行ったことがないと申し上げただけですわ」

「ビクトール様、仕方ありませんわ。わたくし⋯⋯手持ちのもので何とかいたします。アクセサリーも買えませんでしたけれど、高位貴族の方の希望を叶えたお店には悪気はなかったのですから」

「なんて奥ゆかしいんだ。キャサリンのような令嬢こそ高位貴族の夫人に相応しい」


「つかぬことをお聞きしますけれど、アクセサリーを売ってもらえなかったのであればご友人のお店に行かれては? お名前はなんて仰ったかしら⋯⋯確かアリシア様だったかしら?」

「セシリアよ!! わざと名前を間違えるなんて酷すぎます!」

「ビクトールはそのお店で代金を踏み倒した⋯⋯踏み倒そうとしたのどちらかだと先日仰っておられましたが、サルーン嬢も売ってもらえなかったのですか?
お友達なのにお可哀想ですわ」

「踏み倒すだと!! 俺様がそんなことをするわけないだろうが!」


「えー、踏み倒し?」

「侯爵家が?」

「最低⋯⋯」


「わたくしもそうであって欲しいと思いますわ。高位貴族が一商会にそのような暴挙をしたなどと信じられませんもの。もしそれが本当であればターンブリー侯爵家は地に落ちたと言われかねない事態ですわ。
そう言えば、あの後ターンブリー侯爵家は支払いされましたの?」

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