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81.面倒続きの旧神殿の見学
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夜のうちに降った雨も上がり、降り積もった土が洗い流された旧神殿にセアラ達が着いた頃には白い石灰岩が陽の光に映えて一層白く輝いているように見えた。
「皆様がおいでになられるのを神が祝福しておられるようですな」
無残な瓦礫の山を背にした大司教が大袈裟な身振りでバクルスを振り上げた。
「三百年の時を経て、この神殿に聖女の命とも言うべき宝物が戻ってくる。その記念すべき日を迎えられた事を心から感謝致します!」
大司教の言葉は旧神殿の入り口からセアラ達一行を覗き見していたイーバリス教信者に感動を与えた。拍手喝采で喜びを露わにする信者と泣き出しひれ伏す者達。
「イーバリス教、ばんざーい!」
悦びに打ち震える観衆の前に皇太子が立つと歓声がさらに大きくなった。
「帝国はこれから先もイーバリス教会と共にある。新しき聖女様はこれから後、我ら帝国民に偉大なる叡智をお授けくださる事でしょう」
「聖女様!!」
「イーバリス教信者は永遠だー!」
熱狂的な信者達の声は昨日の夜の大司教の不気味さに通じるものがあった。聖女がいていつでも神の掲示を受けられる我等は特別な選ばれた民だと信じ切っているのだろう。
(見慣れてないと不気味で怖すぎる光景だわ。見慣れたくないけどね⋯⋯)
「どこも風化が進んでおりまして、普段は立ち入り禁止になっております。お足元にご注意下さい」
大司教の先導で旧神殿の正面玄関だったであろう場所に向かう。
「アリエノール様、エスコートさせて頂けますか」
ジャクソン皇太子がすかさずアリエノールに腕を差し出した。
「お心遣い感謝致します」
差し出された皇太子の腕に指先を乗せて優雅に大司教の後に続くアリエノール。
ウルリカに声をかけたのは宰相の長男でアルベルト・シャーゼン侯爵子息。セアラの元にもそばかすが幼げな印象の青年がやってきたがルークが前に立ちはだかった。
「セアラ様のエスコートは私がおりますのでお気遣いなく」
「しかし、セアラ様に旧神殿についてご説明をさせて頂くようにと大司教様から指示を受けておりますので」
「我が国では婚約者のいる女性が他の殿方にエスコートされるのは不謹慎とされております。どうかご配慮の程⋯⋯」
ルークがセアラの婚約者だとは言っていないが、そう取れる言い方で相手を煙に巻いた。
「すごく上手な言い回しね」
「残念ながらリチャード殿下からの指示なんだ。セアラの婚約者は俺だって言えば話が早いって言ったんだが却下された」
残念そうなルークだがセアラはリチャードに感謝した。
「その方がいいわ。だってそんな話が王国に伝わったら後々面倒になるもの」
「そん時は現実にしてもいいんだけど?」
思わせぶりな発言をしながら顔を覗き込んできたルークだが、それに全く気付いていないセアラは旧神殿の中を見回しながら考え込んでいた。
(神殿の残骸って感じしかしない⋯⋯どこがどんなだと神聖な建物だとかって言うのはよく分からないし、大司教は何が言いたかったのかしら?)
「しかし、この後神殿奥の旧宝物庫にご案内するように申しつかっておりますし」
「まあ、それはどのような場所なのでしょうか? 聖女様の宝物に関わりのある場所ですかしら?」
セアラはルークの腕に手を置いてから、興味のあるそぶりで話しかけた。
「旧神殿で最も神聖な場所です。聖女の宝物が安置されていた場所でして、襲撃の後聖女様が発見された場所でもあります」
「それでは聖女様はきっと宝具を守ろうとなさったのですね。なんと御労しい⋯⋯」
その頃アリエノールはジャクソン皇太子から熱烈なモーションをかけられていた。
「アリエノール様を漸く帝国にお迎え出来ました」
「そのように言っていただけて光栄ですわ」
頬を少し赤らめて声が上ずっているジャクソン皇太子に比べてアリエノールはひどく杓子定規な返しをしている。
(本当に自分勝手で自己中心的な)
「我が国の事をもっと良く知って頂きたいと思っています。例えば我が国に留学とか」
「そういった事は陛下や王妃殿下の意向によりますでしょうから」
「我が国では聖女が皇太子妃になるというのはご存じですか?」
「ええ、そのように聞いた事がございます」
「聖女と言うのは我が国の女性にとって最も名誉ある役職なのです。神と対話できる唯一の女性として尊ばれ国の頂点に立つのですから、誰もが聖女になりたいと一度は憧れる存在なのです。しかし私からすれば聖女であるだけで妃に決まってしまう⋯⋯とても理不尽だと思っていました」
「王族の婚姻とは皆、そのように決まってしまいますわ」
「しかし、アリエノール様にお会いした日からその気持ちが覆ったのです。聖女に相応しい美しさと気品、地位の全てを兼ね備えたアリエノール様を皇太子妃に迎えられる喜びに打ち震えました」
「皇太子殿下のご婚約者様は侯爵令嬢でいらっしゃると記憶しております」
「心配なさらずとも暫定と言うやつです。私が皇太子となるにあたり婚約者を決めねばなりませんでした。次期聖女として相応しい者がおらず14歳のエディスが暫定で婚約者に決まっただけなのです」
24歳の第一皇子が立太子するために決めた婚約者はまだ14歳の侯爵令嬢で、現在は40代の聖女が全ての儀式を行っている。
「16歳になるまでは儀式の一つもできませんしね」
「16歳になられたら直ぐにご婚礼があるとお聞きしております」
「皇帝は側室を持つ事ができるのです。エディスはすっかりその気なので最悪そのようにするしかないかもしれませんが、皇太子妃⋯⋯将来の皇帝妃はもう決めています。アリエノール、私の気持ちを⋯⋯」
面倒なことになった。もう少し時間があると思っていたが初日の見学中に言い出すとは⋯⋯。皇太子はアリエノールが申し込みを断らないと信じきって話を続けている。
(ジャクソン皇太子の勝手な思い込みと短慮な物言い⋯⋯不快感を隠しきれなくなりそうだわ)
「アリエノール様、宜しいでしょうか?」
タイミング良く声をかけてくれたセアラにアリエノールは心からの笑みを見せた。
「皆様がおいでになられるのを神が祝福しておられるようですな」
無残な瓦礫の山を背にした大司教が大袈裟な身振りでバクルスを振り上げた。
「三百年の時を経て、この神殿に聖女の命とも言うべき宝物が戻ってくる。その記念すべき日を迎えられた事を心から感謝致します!」
大司教の言葉は旧神殿の入り口からセアラ達一行を覗き見していたイーバリス教信者に感動を与えた。拍手喝采で喜びを露わにする信者と泣き出しひれ伏す者達。
「イーバリス教、ばんざーい!」
悦びに打ち震える観衆の前に皇太子が立つと歓声がさらに大きくなった。
「帝国はこれから先もイーバリス教会と共にある。新しき聖女様はこれから後、我ら帝国民に偉大なる叡智をお授けくださる事でしょう」
「聖女様!!」
「イーバリス教信者は永遠だー!」
熱狂的な信者達の声は昨日の夜の大司教の不気味さに通じるものがあった。聖女がいていつでも神の掲示を受けられる我等は特別な選ばれた民だと信じ切っているのだろう。
(見慣れてないと不気味で怖すぎる光景だわ。見慣れたくないけどね⋯⋯)
「どこも風化が進んでおりまして、普段は立ち入り禁止になっております。お足元にご注意下さい」
大司教の先導で旧神殿の正面玄関だったであろう場所に向かう。
「アリエノール様、エスコートさせて頂けますか」
ジャクソン皇太子がすかさずアリエノールに腕を差し出した。
「お心遣い感謝致します」
差し出された皇太子の腕に指先を乗せて優雅に大司教の後に続くアリエノール。
ウルリカに声をかけたのは宰相の長男でアルベルト・シャーゼン侯爵子息。セアラの元にもそばかすが幼げな印象の青年がやってきたがルークが前に立ちはだかった。
「セアラ様のエスコートは私がおりますのでお気遣いなく」
「しかし、セアラ様に旧神殿についてご説明をさせて頂くようにと大司教様から指示を受けておりますので」
「我が国では婚約者のいる女性が他の殿方にエスコートされるのは不謹慎とされております。どうかご配慮の程⋯⋯」
ルークがセアラの婚約者だとは言っていないが、そう取れる言い方で相手を煙に巻いた。
「すごく上手な言い回しね」
「残念ながらリチャード殿下からの指示なんだ。セアラの婚約者は俺だって言えば話が早いって言ったんだが却下された」
残念そうなルークだがセアラはリチャードに感謝した。
「その方がいいわ。だってそんな話が王国に伝わったら後々面倒になるもの」
「そん時は現実にしてもいいんだけど?」
思わせぶりな発言をしながら顔を覗き込んできたルークだが、それに全く気付いていないセアラは旧神殿の中を見回しながら考え込んでいた。
(神殿の残骸って感じしかしない⋯⋯どこがどんなだと神聖な建物だとかって言うのはよく分からないし、大司教は何が言いたかったのかしら?)
「しかし、この後神殿奥の旧宝物庫にご案内するように申しつかっておりますし」
「まあ、それはどのような場所なのでしょうか? 聖女様の宝物に関わりのある場所ですかしら?」
セアラはルークの腕に手を置いてから、興味のあるそぶりで話しかけた。
「旧神殿で最も神聖な場所です。聖女の宝物が安置されていた場所でして、襲撃の後聖女様が発見された場所でもあります」
「それでは聖女様はきっと宝具を守ろうとなさったのですね。なんと御労しい⋯⋯」
その頃アリエノールはジャクソン皇太子から熱烈なモーションをかけられていた。
「アリエノール様を漸く帝国にお迎え出来ました」
「そのように言っていただけて光栄ですわ」
頬を少し赤らめて声が上ずっているジャクソン皇太子に比べてアリエノールはひどく杓子定規な返しをしている。
(本当に自分勝手で自己中心的な)
「我が国の事をもっと良く知って頂きたいと思っています。例えば我が国に留学とか」
「そういった事は陛下や王妃殿下の意向によりますでしょうから」
「我が国では聖女が皇太子妃になるというのはご存じですか?」
「ええ、そのように聞いた事がございます」
「聖女と言うのは我が国の女性にとって最も名誉ある役職なのです。神と対話できる唯一の女性として尊ばれ国の頂点に立つのですから、誰もが聖女になりたいと一度は憧れる存在なのです。しかし私からすれば聖女であるだけで妃に決まってしまう⋯⋯とても理不尽だと思っていました」
「王族の婚姻とは皆、そのように決まってしまいますわ」
「しかし、アリエノール様にお会いした日からその気持ちが覆ったのです。聖女に相応しい美しさと気品、地位の全てを兼ね備えたアリエノール様を皇太子妃に迎えられる喜びに打ち震えました」
「皇太子殿下のご婚約者様は侯爵令嬢でいらっしゃると記憶しております」
「心配なさらずとも暫定と言うやつです。私が皇太子となるにあたり婚約者を決めねばなりませんでした。次期聖女として相応しい者がおらず14歳のエディスが暫定で婚約者に決まっただけなのです」
24歳の第一皇子が立太子するために決めた婚約者はまだ14歳の侯爵令嬢で、現在は40代の聖女が全ての儀式を行っている。
「16歳になるまでは儀式の一つもできませんしね」
「16歳になられたら直ぐにご婚礼があるとお聞きしております」
「皇帝は側室を持つ事ができるのです。エディスはすっかりその気なので最悪そのようにするしかないかもしれませんが、皇太子妃⋯⋯将来の皇帝妃はもう決めています。アリエノール、私の気持ちを⋯⋯」
面倒なことになった。もう少し時間があると思っていたが初日の見学中に言い出すとは⋯⋯。皇太子はアリエノールが申し込みを断らないと信じきって話を続けている。
(ジャクソン皇太子の勝手な思い込みと短慮な物言い⋯⋯不快感を隠しきれなくなりそうだわ)
「アリエノール様、宜しいでしょうか?」
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