【完結】結婚しておりませんけど?

との

文字の大きさ
9 / 33

9. 誰がためにざまぁする

しおりを挟む
 ニヤリと笑ったメリッサがパチンと指を鳴らした。

「ぎゃあー、なにこれええ!!」

「痛い、痛い痛い痛い! おま、黒魔術だな。やめろおー」

 イーサンとアリーシャの髪がまるで誰かに掴まれているように引っ張り上げられ、顔を引き攣らせて叫ぶ二人が入り口に向かって歩きはじめた。

 誰も触れていない入り口のドアがバタンと大きな音を立てて開き⋯⋯。

「うぎゃ!」
「あが!」

 ドスンという音と共に入り口から放り出された。

 カランカランカラン

 ドアが静かに閉まった後の鎮まり帰った店の中にはドアベルの優しい音が鳴り響いた。



 パチ、パチパチパチ


 2階から階下の様子を伺っていた客達の拍手が聞こえてきた。

 真っ赤な顔をしたメリッサが優雅な礼をして2階を見上げた。

「お騒がせ致しました事、心よりお詫び申し上げます。お詫びにもなりませんが、お帰りの際にお声をかけていただければささやかなお品をプレゼントさせていただきます」

 店の隅に下がったサラはメリッサの周りをふわふわと飛び回る精霊の姿を目で追いかけていた。

(風の精霊ね、ありがとう)

 キャラキャラと笑った精霊達はメリッサの周りで飛び跳ねて⋯⋯ふっと姿を消した。


「メリッサ様、素敵でした!」
「あれは風の精のお力ですか?」
「権力なんかに負けない、最高のレディですわ!」

「お慕いしております!」



 その日の夕刻、談話室に集まったメンバーの中でアイスワインを抱えたライリーがギルバートから羽交締めにされていた。

「それ全部一人じゃ飲めねえよな。ほら、俺が開けてやるからよお⋯⋯みんなでパーっと飲もうぜ!?」

「くっ! ギルバートに飲まれたら俺の口に入らなくなるだろうが! これはぜーんぶ俺のものだー」

「やっぱりサラには見えるんだね」

「うん、すごく可愛かった」

「なな、何が見えるんですか?」

 部屋中を逃げ回るライリーと追いかけるギルバートを無視したまま、サラ達3人はオレンジジュースで祝杯をあげていた。

 少し吃る癖のあるタイラーはギルバートの幼馴染。

 タウンハウスが隣同士だったのが縁で結ばれた兄弟のような関係だとギルバートは言うが、『げげ、下僕かペット』とタイラーが小声で呟いたのを全員が聞き逃さなかった。

 ギルバートはタイラーが可愛くてしょうがないらしいが、脳筋すぎてタイラーを振り回している事に気付いていない。

 気の弱いいじめられっ子だったタイラーを守るのは自分しかいないと思い込んでいたギルバートがタイラーを守ると決めてから20年近く経っていると言う。

 タイラーもギルバートの優しさに気付いてはいるのだが、ギルバートの暑苦しい兄弟愛に溺れ気味でアップアップする事も多かったらしい。

 少し引きこもり体質だったタイラーを『社会勉強だ!』と言って引き摺って⋯⋯首根っこを捕まえて引き摺ってきたのがサラ達との付き合いのはじまり。

『ロロ、ローゼン商会に入ってから、すっ少しマシに⋯⋯たた、頼りにはなるけど』



 逃げ回っていたライリーがアイスワインをタイラーの膝の上に『ポン!』と投げて落とした。

「ひやぁ!! ななな、なにを」

「⋯⋯⋯⋯くそ、負けた~!」

 タイラーに甘いギルバートは彼の手からアイスワインを奪えないと知っているライリーの作戦勝ち。

「メリッサの積年の恨みも晴らせて『ダブルざまぁ』だったな」

「ええ、もーすっきり爽快って感じ~! サラにお礼をしたいくらいだわ」

「不幸中の幸いってやつだな」

 アイスワインとギルバートを交互に見ながらニヤッと笑ったライリーがメリッサに向かってサムズアップした。

「次はサラんとこかライリーのとこだよな? もっかい賭けようぜ」

「私はサラんとこに賭けるわ」

「俺もサラのとこかな」

「ぼぼ、僕もサラさんとこに」

「えー、それじゃあ賭けになんねえ。なら俺はライリーんとこだな」

「私はタイラーに賭ける」

 サラの発言で全員がキョトンと首を傾げた。

「⋯⋯えーーー! ぼぼぼ、僕ですか!?」

「なら、俺は賭けから抜けて景品を準備しとこうかなぁ」

「ライリー、せこいぞ! サラの予測ならタイラー一択じゃねえか」

「ふっふっ、言ったもん勝ち~。景品はカルディアのホールケーキ」

「あ、あの⋯⋯なな、なんで僕なんですか? まま、まだ店開いてませんけど」


「告知は済んでるから、どこかで話を聞いたら押しかけてくるんじゃないかな~って。
結婚式の料理とかなら予約だけだからお金を持ってなくてもいけるとか思いそうだし、他の人より先駆けてローゼン商会の新規事業を利用したとかって自慢しそうじゃない?」

「自慢になるか?」

「自慢になると言うより自慢できると思い込む⋯⋯かな」

しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

王太子とさようならしたら空気が美味しくなりました

きららののん
恋愛
「リリエル・フォン・ヴァレンシュタイン、婚約破棄を宣言する」 王太子の冷酷な一言 王宮が凍りついた——はずだった。

婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話

ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。 リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。 婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。 どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。 死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて…… ※正常な人があまりいない話です。

お父様、お母様、わたくしが妖精姫だとお忘れですか?

サイコちゃん
恋愛
リジューレ伯爵家のリリウムは養女を理由に家を追い出されることになった。姉リリウムの婚約者は妹ロサへ譲り、家督もロサが継ぐらしい。 「お父様も、お母様も、わたくしが妖精姫だとすっかりお忘れなのですね? 今まで莫大な幸運を与えてきたことに気づいていなかったのですね? それなら、もういいです。わたくしはわたくしで自由に生きますから」 リリウムは家を出て、新たな人生を歩む。一方、リジューレ伯爵家は幸運を失い、急速に傾いていった。

エメラインの結婚紋

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢エメラインと侯爵ブッチャーの婚儀にて結婚紋が光った。この国では結婚をすると重婚などを防ぐために結婚紋が刻まれるのだ。それが婚儀で光るということは重婚の証だと人々は騒ぐ。ブッチャーに夫は誰だと問われたエメラインは「夫は三十分後に来る」と言う。さら問い詰められて結婚の経緯を語るエメラインだったが、手を上げられそうになる。その時、駆けつけたのは一団を率いたこの国の第一王子ライオネスだった――

包帯妻の素顔は。

サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。

辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~

サイコちゃん
恋愛
聖女エイリスは結界しか張れないため、辺境伯として国境沿いの城に住んでいた。しかし突如王子がやってきて、ある少女と勝負をしろという。その少女はエイリスとは違い、聖女の資質全てを備えていた。もし負けたら聖女の立場と爵位を剥奪すると言うが……あることが切欠で全力を発揮できるようになっていたエイリスはわざと負けることする。そして国は真の聖女を失う――

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

裁判を無効にせよ! 被告は平民ではなく公爵令嬢である!

サイコちゃん
恋愛
十二歳の少女が男を殴って犯した……その裁判が、平民用の裁判所で始まった。被告はハリオット伯爵家の女中クララ。幼い彼女は、自分がハリオット伯爵に陥れられたことを知らない。裁判は被告に証言が許されないまま進み、クララは絞首刑を言い渡される。彼女が恐怖のあまり泣き出したその時、裁判所に美しき紳士と美少年が飛び込んできた。 「裁判を無効にせよ! 被告クララは八年前に失踪した私の娘だ! 真の名前はクラリッサ・エーメナー・ユクル! クラリッサは紛れもないユクル公爵家の嫡女であり、王家の血を引く者である! 被告は平民ではなく公爵令嬢である!」 飛び込んできたのは、クラリッサの父であるユクル公爵と婚約者である第二王子サイラスであった。王家と公爵家を敵に回したハリオット伯爵家は、やがて破滅へ向かう―― ※作中の裁判・法律・刑罰などは、歴史を参考にした架空のもの及び完全に架空のものです。

処理中です...