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10.オープン前ですけど
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雑貨店を襲撃したイーサンはその後一ヶ月タウンハウスに籠っていた。
「黒魔術⋯⋯メリッサ⋯⋯仕返し⋯⋯ママァ」
ベッドに潜り込んで布団を被ったままブツブツと呟くばかりのイーサンに嫌気がさしたアリーシャは、執事から小銭をふんだくっては街を彷徨いていた。
「もう、情けないんだから。他に金になりそうな奴がいないから我慢してあげてるのに⋯⋯執事はしけてるし、イーサンは腰抜けだし⋯⋯あの時の男の方がいい男だったよなあ。ローゼン商会の給料ってどの位だろ。
多分獣人だから夜とか凄そう。遊びには良いかもだけど、もうちょっと間を開けた方が⋯⋯ぶつぶつ⋯⋯」
妄想を垂れ流していたアリーシャの耳にカフェでお茶を楽しんでいるカップルの声が聞こえてきた。
「結婚式のケータリングはローゼン商会に頼みましょうよ」
「ローゼン商会?」
「夏には食料品部門を立ち上げてカフェとレストランをはじめるって聞いたの。だから、ケータリングはやらないのか聞いてみたらどうかなって」
「それは面白そうだな」
「ローゼン商会なら珍しい食材とか見たことのない料理とかも出来そうでしょ?」
「よし、早速調べてみよう。ローゼン商会の新規事業かあ、招待客が喜ぶ顔が見えそうだ」
「ふーん、それめちゃめちゃ良さそうじゃん。急いで帰らなくちゃ、あんなのに先を越されてたまるもんですか!」
ドレスの裾をつまんで脱兎の如く駆け出したアリーシャは汗まみれになりながら公爵家のタウンハウスに駆け込んだ。
「イーサン! いい話があるの、出てきなさい!!」
ホールに響き渡ったアリーシャの声にイーサンが布団から顔を覗かせた。
「ここが事務所か、デカいな」
イーサンとアリーシャがやって来たのは食品部門の倉庫を兼ねた事務所。中には多くの商会員と窶れ果てたタイラーが仕事をしていた。
イーサンが勢いよくドアを開けると中にいた商会員が一様に顔を上げた。
「責任者に会いに来た」
カウンターの近くまでズカズカと歩いて来たイーサンは名前も名乗らずに横柄な態度で商会員を指差した。
「そこのお前が責任者か?」
運悪く外出先から帰って来たばかりで、一人上質のスーツを身につけていた商会員が首を傾げた。
「失礼ですがお名前とご用件をお伺いしてよろしいでしょうか?」
白いシャツの袖を上げた年配の商会員が立ち上がり、カウンターの中から声をかけた。
「ふん、俺はボクス次期公爵のイーサンだ。仕事を持って来てやったんだ、さっさと案内しろ」
「仕事⋯⋯大変申し訳ありませんが、営業はまだ数ヶ月先でございますのでお役には立てないと存じます」
「だーかーらー、その数ヶ月先の初仕事を与えてやると言ってるんだ!」
事務所の奥の方で話を聞いていた商会員の一人がそっと立ち上がりタイラーを呼びに走っていった。
イーサンとアリーシャにソファを勧めたのはタイラーの補佐をしているナッシュ。
「それで、どのようなお話しでしょうか」
「俺達は5ヶ月後に結婚式を挙げるんだが、その時の料理やケーキの全てをこの店に頼んでやる。次期公爵の結婚式に相応しい食材をふんだんに使った料理を準備しろ」
商会員の連絡を受けて『本当に来た~!』と慌てて事務所に駆け込んだタイラーの耳にイーサンの暴言が聞こえてきた。
「レストランとカフェの予定で準備を進めており、所謂ケータリングなどの出張サービスは今のところ予定しておりませんのでお役に立てそうにありません」
「だーかーらー、新しい企画として受ければいいだろうが! その程度の企画力もないなんてローゼン商会も大した事ないな」
一ヶ月前から『ほんとに僕のとこに来たらどうしよう』と不安に思い、食事の量は激減し睡眠不足で目の下のクマは濃くなる一方だったタイラーは恐る恐る足を前に出してイーサン達に近付いて行った。
「あ、あの⋯⋯しょ、食品部門担当の⋯⋯タ、タイラー・ノックスと申します」
イーサンのような輩の前で吃れば舐められると気合を入れたタイラーだが、足が震えそうになるしやはり吃ってしまう。
「お前がぁ? まあ⋯⋯いいだろう、そこに座って俺の話をしっかりと聞けば、これがどれほどいい話かわかるはずだからな」
上から目線のイーサンの言葉だがタイラーは上手く言い返せず素直にソファに座ってしまった。
「黒魔術⋯⋯メリッサ⋯⋯仕返し⋯⋯ママァ」
ベッドに潜り込んで布団を被ったままブツブツと呟くばかりのイーサンに嫌気がさしたアリーシャは、執事から小銭をふんだくっては街を彷徨いていた。
「もう、情けないんだから。他に金になりそうな奴がいないから我慢してあげてるのに⋯⋯執事はしけてるし、イーサンは腰抜けだし⋯⋯あの時の男の方がいい男だったよなあ。ローゼン商会の給料ってどの位だろ。
多分獣人だから夜とか凄そう。遊びには良いかもだけど、もうちょっと間を開けた方が⋯⋯ぶつぶつ⋯⋯」
妄想を垂れ流していたアリーシャの耳にカフェでお茶を楽しんでいるカップルの声が聞こえてきた。
「結婚式のケータリングはローゼン商会に頼みましょうよ」
「ローゼン商会?」
「夏には食料品部門を立ち上げてカフェとレストランをはじめるって聞いたの。だから、ケータリングはやらないのか聞いてみたらどうかなって」
「それは面白そうだな」
「ローゼン商会なら珍しい食材とか見たことのない料理とかも出来そうでしょ?」
「よし、早速調べてみよう。ローゼン商会の新規事業かあ、招待客が喜ぶ顔が見えそうだ」
「ふーん、それめちゃめちゃ良さそうじゃん。急いで帰らなくちゃ、あんなのに先を越されてたまるもんですか!」
ドレスの裾をつまんで脱兎の如く駆け出したアリーシャは汗まみれになりながら公爵家のタウンハウスに駆け込んだ。
「イーサン! いい話があるの、出てきなさい!!」
ホールに響き渡ったアリーシャの声にイーサンが布団から顔を覗かせた。
「ここが事務所か、デカいな」
イーサンとアリーシャがやって来たのは食品部門の倉庫を兼ねた事務所。中には多くの商会員と窶れ果てたタイラーが仕事をしていた。
イーサンが勢いよくドアを開けると中にいた商会員が一様に顔を上げた。
「責任者に会いに来た」
カウンターの近くまでズカズカと歩いて来たイーサンは名前も名乗らずに横柄な態度で商会員を指差した。
「そこのお前が責任者か?」
運悪く外出先から帰って来たばかりで、一人上質のスーツを身につけていた商会員が首を傾げた。
「失礼ですがお名前とご用件をお伺いしてよろしいでしょうか?」
白いシャツの袖を上げた年配の商会員が立ち上がり、カウンターの中から声をかけた。
「ふん、俺はボクス次期公爵のイーサンだ。仕事を持って来てやったんだ、さっさと案内しろ」
「仕事⋯⋯大変申し訳ありませんが、営業はまだ数ヶ月先でございますのでお役には立てないと存じます」
「だーかーらー、その数ヶ月先の初仕事を与えてやると言ってるんだ!」
事務所の奥の方で話を聞いていた商会員の一人がそっと立ち上がりタイラーを呼びに走っていった。
イーサンとアリーシャにソファを勧めたのはタイラーの補佐をしているナッシュ。
「それで、どのようなお話しでしょうか」
「俺達は5ヶ月後に結婚式を挙げるんだが、その時の料理やケーキの全てをこの店に頼んでやる。次期公爵の結婚式に相応しい食材をふんだんに使った料理を準備しろ」
商会員の連絡を受けて『本当に来た~!』と慌てて事務所に駆け込んだタイラーの耳にイーサンの暴言が聞こえてきた。
「レストランとカフェの予定で準備を進めており、所謂ケータリングなどの出張サービスは今のところ予定しておりませんのでお役に立てそうにありません」
「だーかーらー、新しい企画として受ければいいだろうが! その程度の企画力もないなんてローゼン商会も大した事ないな」
一ヶ月前から『ほんとに僕のとこに来たらどうしよう』と不安に思い、食事の量は激減し睡眠不足で目の下のクマは濃くなる一方だったタイラーは恐る恐る足を前に出してイーサン達に近付いて行った。
「あ、あの⋯⋯しょ、食品部門担当の⋯⋯タ、タイラー・ノックスと申します」
イーサンのような輩の前で吃れば舐められると気合を入れたタイラーだが、足が震えそうになるしやはり吃ってしまう。
「お前がぁ? まあ⋯⋯いいだろう、そこに座って俺の話をしっかりと聞けば、これがどれほどいい話かわかるはずだからな」
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