【完結】結婚しておりませんけど?

との

文字の大きさ
10 / 33

10.オープン前ですけど

しおりを挟む
 雑貨店を襲撃したイーサンはその後一ヶ月タウンハウスに籠っていた。

「黒魔術⋯⋯メリッサ⋯⋯仕返し⋯⋯ママァ」

 ベッドに潜り込んで布団を被ったままブツブツと呟くばかりのイーサンに嫌気がさしたアリーシャは、執事から小銭をふんだくっては街を彷徨いていた。

「もう、情けないんだから。他に金になりそうな奴がいないから我慢してあげてるのに⋯⋯執事はしけてるし、イーサンは腰抜けだし⋯⋯あの時の男の方がいい男だったよなあ。ローゼン商会の給料ってどの位だろ。
多分獣人だから夜とか凄そう。遊びには良いかもだけど、もうちょっと間を開けた方が⋯⋯ぶつぶつ⋯⋯」

 妄想を垂れ流していたアリーシャの耳にカフェでお茶を楽しんでいるカップルの声が聞こえてきた。

「結婚式のケータリングはローゼン商会に頼みましょうよ」

「ローゼン商会?」

「夏には食料品部門を立ち上げてカフェとレストランをはじめるって聞いたの。だから、ケータリングはやらないのか聞いてみたらどうかなって」

「それは面白そうだな」

「ローゼン商会なら珍しい食材とか見たことのない料理とかも出来そうでしょ?」

「よし、早速調べてみよう。ローゼン商会の新規事業かあ、招待客が喜ぶ顔が見えそうだ」



「ふーん、それめちゃめちゃ良さそうじゃん。急いで帰らなくちゃ、あんなのに先を越されてたまるもんですか!」

 ドレスの裾をつまんで脱兎の如く駆け出したアリーシャは汗まみれになりながら公爵家のタウンハウスに駆け込んだ。

「イーサン! いい話があるの、出てきなさい!!」

 ホールに響き渡ったアリーシャの声にイーサンが布団から顔を覗かせた。



「ここが事務所か、デカいな」

 イーサンとアリーシャがやって来たのは食品部門の倉庫を兼ねた事務所。中には多くの商会員と窶れ果てたタイラーが仕事をしていた。

 イーサンが勢いよくドアを開けると中にいた商会員が一様に顔を上げた。

「責任者に会いに来た」

 カウンターの近くまでズカズカと歩いて来たイーサンは名前も名乗らずに横柄な態度で商会員を指差した。

「そこのお前が責任者か?」

 運悪く外出先から帰って来たばかりで、一人上質のスーツを身につけていた商会員が首を傾げた。

「失礼ですがお名前とご用件をお伺いしてよろしいでしょうか?」

 白いシャツの袖を上げた年配の商会員が立ち上がり、カウンターの中から声をかけた。

「ふん、俺はボクス次期公爵のイーサンだ。仕事を持って来てやったんだ、さっさと案内しろ」

「仕事⋯⋯大変申し訳ありませんが、営業はまだ数ヶ月先でございますのでお役には立てないと存じます」

「だーかーらー、その数ヶ月先の初仕事を与えてやると言ってるんだ!」

 事務所の奥の方で話を聞いていた商会員の一人がそっと立ち上がりタイラーを呼びに走っていった。

 イーサンとアリーシャにソファを勧めたのはタイラーの補佐をしているナッシュ。

「それで、どのようなお話しでしょうか」

「俺達は5ヶ月後に結婚式を挙げるんだが、その時の料理やケーキの全てをこの店に頼んでやる。次期公爵の結婚式に相応しい食材をふんだんに使った料理を準備しろ」

 商会員の連絡を受けて『本当に来た~!』と慌てて事務所に駆け込んだタイラーの耳にイーサンの暴言が聞こえてきた。

「レストランとカフェの予定で準備を進めており、所謂ケータリングなどの出張サービスは今のところ予定しておりませんのでお役に立てそうにありません」

「だーかーらー、新しい企画として受ければいいだろうが! その程度の企画力もないなんてローゼン商会も大した事ないな」



 一ヶ月前から『ほんとに僕のとこに来たらどうしよう』と不安に思い、食事の量は激減し睡眠不足で目の下のクマは濃くなる一方だったタイラーは恐る恐る足を前に出してイーサン達に近付いて行った。

「あ、あの⋯⋯しょ、食品部門担当の⋯⋯タ、タイラー・ノックスと申します」

 イーサンのような輩の前で吃れば舐められると気合を入れたタイラーだが、足が震えそうになるしやはり吃ってしまう。

「お前がぁ? まあ⋯⋯いいだろう、そこに座って俺の話をしっかりと聞けば、これがどれほどいい話かわかるはずだからな」

 上から目線のイーサンの言葉だがタイラーは上手く言い返せず素直にソファに座ってしまった。

しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

[完結]思い出せませんので

シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」 父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。 同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。 直接会って訳を聞かねば 注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。 男性視点 四話完結済み。毎日、一話更新

腹に彼の子が宿っている? そうですか、ではお幸せに。

四季
恋愛
「わたくしの腹には彼の子が宿っていますの! 貴女はさっさと消えてくださる?」 突然やって来た金髪ロングヘアの女性は私にそんなことを告げた。

お父様、お母様、わたくしが妖精姫だとお忘れですか?

サイコちゃん
恋愛
リジューレ伯爵家のリリウムは養女を理由に家を追い出されることになった。姉リリウムの婚約者は妹ロサへ譲り、家督もロサが継ぐらしい。 「お父様も、お母様も、わたくしが妖精姫だとすっかりお忘れなのですね? 今まで莫大な幸運を与えてきたことに気づいていなかったのですね? それなら、もういいです。わたくしはわたくしで自由に生きますから」 リリウムは家を出て、新たな人生を歩む。一方、リジューレ伯爵家は幸運を失い、急速に傾いていった。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

兄のお嫁さんに嫌がらせをされるので、全てを暴露しようと思います

きんもくせい
恋愛
リルベール侯爵家に嫁いできた子爵令嬢、ナタリーは、最初は純朴そうな少女だった。積極的に雑事をこなし、兄と仲睦まじく話す彼女は、徐々に家族に受け入れられ、気に入られていく。しかし、主人公のソフィアに対しては冷たく、嫌がらせばかりをしてくる。初めは些細なものだったが、それらのいじめは日々悪化していき、痺れを切らしたソフィアは、両家の食事会で……

[完結]本当にバカね

シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。 この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。 貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。 入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。 私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

「可愛げがない」と婚約破棄された公爵令嬢ですが、領地経営をしていたのは私です

希羽
恋愛
「お前のような可愛げのない女との婚約は破棄する!」 卒業パーティの会場で、婚約者である第二王子デリックはそう宣言し、私の義妹ミナを抱き寄せました。 誰もが私が泣き崩れると思いましたが――正直、せいせいしました。 だって、王子の領地経営、借金返済、結界維持、それら全ての激務を一人でこなしていたのは「可愛げのない」私だったのですから。 「承知しました。では、あとはミナと二人で頑張ってください」 私は手切れ金代わりに面倒な仕事を全て置いて国を出ました。 すると、国境で待っていたのは、隣国ガルガディア帝国の冷徹皇太子ことクライド様。なぜか彼は私を溺愛し、帝国で最高の地位と環境を与えてくれて……。

処理中です...