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26.マイケルの昔話
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マイケルと3歳年下の弟は幼い頃からとても仲が良かったが、イライザが2人が一緒にいるのを酷く嫌がっていたのでいつも隠れて中庭や城の塔の外れで遊んでいた。
マイケルが7歳の時王妃であるマイケルの母が流行病で急死した。盛大な国葬が行われた後の王宮は火が消えたような陰鬱な場所になり、気落ちした陛下は以前にもまして政務にのめり込むようになった。
マイケルは隙を見つけては母のお気に入りだった温室に籠り本を読んでいたがある日弟がやって来た。
「あにさま、ぼくもここにいていい?」
「イライザ様は?」
「ははさまはおでかけしたの。あにさま、おうひさまがいなくなってさみしい?」
まだ死を理解できない弟はマイケルの顔を覗き込んできた。
「うん、そうだね。すごく寂しい」
「ぼくがいっしょにいてあげるね」
その日から弟はイライザの目を盗んでは絵本を持って温室を訪れるようになったが・・。
「ぼくのおなまえはね、とうさまとおんなじなんだよ」
持ってきた絵本の人物の1人を指差しながら『この人』と、嬉しそうに話してくれた。その人物は陛下とよく似た風貌の男性で産まれたばかりの赤子を抱いている。
イライザが持ち出しを禁じているというその絵本は初めて見る物で本の末尾に作者の署名があった。
何も知らない弟はその人物と会った時の話を何度もしてくれた。その男性とはイライザと共に馬車で出かけた先で会いイライザと弟の絵を描いてもらうそうで、その屋敷には沢山の肖像画が飾られている。
「ときどきぎゅってだっこしてくれるの。このあいだはおひげがくすぐったかった」
くすくすと思い出し笑いをした弟は『絶対誰にも言っちゃ駄目なの』と無邪気に笑った。
「あにさまとぼくのひみつ」
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
マイケルはその時の事を思い出し青褪めハンカチで冷や汗を拭いながら震える身体をを真っ直ぐ保とうと必死に頑張っていた。
モブレー公爵とシリルはマイケルの状態は分かっていたが甘えは禁物だからと不調に気付かないふりをしていた。
マイケルが大きく息を吸って話を続けた。
「弟の話が幼い故の勘違いでないなら・・父上のお名前の中にベルナールと言う名前はありません。父上が髭を伸ばした事はありませんでしたし、王家筋の方々のお名前も調べましたがありませんでした。
絵本の末尾に記されていた署名はベルナール・モートン。調べてみたら以前短い期間ですが同姓同名の絵師が宮廷に出入りしていたそうです」
「それが本当ならとんでもない話じゃない。5年も秘密を抱えてたなんて辛抱強いと言うかクソ真面目なお馬鹿さんね。さっさと陛下にゲロっちゃえば良かったのに」
「陛下は施政者としても父としても素晴らしい方だから話せば良かったんだけど・・証拠もないし、4歳児の言葉だし。僕は勇気がなくて」
「まあ、チビちゃんのこと考えたら二の足踏んじゃうのもわかるわぁ。しっかしまあ、これって予想以上にヤバいじゃん。ケビンと傭兵召集する?」
モブレー公爵達はイライザの狙いはイライザ若しくはベルトラム侯爵家が自分の血筋の子を皇太子にしたがっているのだと考えていたが、弟の話が真実で弟が絵本を持ち出した事やマイケルに話したことがバレているとしたら。
「マイケルの警護と山の採掘現場とカリオナイト輸送中の護衛、一個小隊いりそうだな。絶対に信用できる傭兵は何人いる?」
「傭兵はアタシ達を含めて7人ってとこかしら。但し5人を集めるのにはちょっと時間がかかる」
もともと予測していたかのようにシリルがサクッと答えた。
「採掘現場の護衛用にうちから出来る限り人を出そう。執事のアーロンをつけときゃお利口に働くはずだからな」
モブレー公爵家執事のアーロンは一時期ケビンに弟子入りしていたパンクラチオンの達人。アーロン曰く、
『うちの旦那様は何をしでかすか分からない方なので、通常の護衛では間に合いません』
「なら傭兵4人をそっちに回すわ。んでアタシとケビンと傭兵の計3人でマイケルとカリオナイトの輸送の護衛かしら」
一気に予定が組み上げられていく様にマイケルは目を白黒させていた。
(これがこの人達の実行力なんだ。僕も頑張らなきゃ)
「カリオナイトの輸送も込みだからそれがベストだな。俺もこっちの仕事が落ち着き次第お前らに合流するし」
マイケルが7歳の時王妃であるマイケルの母が流行病で急死した。盛大な国葬が行われた後の王宮は火が消えたような陰鬱な場所になり、気落ちした陛下は以前にもまして政務にのめり込むようになった。
マイケルは隙を見つけては母のお気に入りだった温室に籠り本を読んでいたがある日弟がやって来た。
「あにさま、ぼくもここにいていい?」
「イライザ様は?」
「ははさまはおでかけしたの。あにさま、おうひさまがいなくなってさみしい?」
まだ死を理解できない弟はマイケルの顔を覗き込んできた。
「うん、そうだね。すごく寂しい」
「ぼくがいっしょにいてあげるね」
その日から弟はイライザの目を盗んでは絵本を持って温室を訪れるようになったが・・。
「ぼくのおなまえはね、とうさまとおんなじなんだよ」
持ってきた絵本の人物の1人を指差しながら『この人』と、嬉しそうに話してくれた。その人物は陛下とよく似た風貌の男性で産まれたばかりの赤子を抱いている。
イライザが持ち出しを禁じているというその絵本は初めて見る物で本の末尾に作者の署名があった。
何も知らない弟はその人物と会った時の話を何度もしてくれた。その男性とはイライザと共に馬車で出かけた先で会いイライザと弟の絵を描いてもらうそうで、その屋敷には沢山の肖像画が飾られている。
「ときどきぎゅってだっこしてくれるの。このあいだはおひげがくすぐったかった」
くすくすと思い出し笑いをした弟は『絶対誰にも言っちゃ駄目なの』と無邪気に笑った。
「あにさまとぼくのひみつ」
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
マイケルはその時の事を思い出し青褪めハンカチで冷や汗を拭いながら震える身体をを真っ直ぐ保とうと必死に頑張っていた。
モブレー公爵とシリルはマイケルの状態は分かっていたが甘えは禁物だからと不調に気付かないふりをしていた。
マイケルが大きく息を吸って話を続けた。
「弟の話が幼い故の勘違いでないなら・・父上のお名前の中にベルナールと言う名前はありません。父上が髭を伸ばした事はありませんでしたし、王家筋の方々のお名前も調べましたがありませんでした。
絵本の末尾に記されていた署名はベルナール・モートン。調べてみたら以前短い期間ですが同姓同名の絵師が宮廷に出入りしていたそうです」
「それが本当ならとんでもない話じゃない。5年も秘密を抱えてたなんて辛抱強いと言うかクソ真面目なお馬鹿さんね。さっさと陛下にゲロっちゃえば良かったのに」
「陛下は施政者としても父としても素晴らしい方だから話せば良かったんだけど・・証拠もないし、4歳児の言葉だし。僕は勇気がなくて」
「まあ、チビちゃんのこと考えたら二の足踏んじゃうのもわかるわぁ。しっかしまあ、これって予想以上にヤバいじゃん。ケビンと傭兵召集する?」
モブレー公爵達はイライザの狙いはイライザ若しくはベルトラム侯爵家が自分の血筋の子を皇太子にしたがっているのだと考えていたが、弟の話が真実で弟が絵本を持ち出した事やマイケルに話したことがバレているとしたら。
「マイケルの警護と山の採掘現場とカリオナイト輸送中の護衛、一個小隊いりそうだな。絶対に信用できる傭兵は何人いる?」
「傭兵はアタシ達を含めて7人ってとこかしら。但し5人を集めるのにはちょっと時間がかかる」
もともと予測していたかのようにシリルがサクッと答えた。
「採掘現場の護衛用にうちから出来る限り人を出そう。執事のアーロンをつけときゃお利口に働くはずだからな」
モブレー公爵家執事のアーロンは一時期ケビンに弟子入りしていたパンクラチオンの達人。アーロン曰く、
『うちの旦那様は何をしでかすか分からない方なので、通常の護衛では間に合いません』
「なら傭兵4人をそっちに回すわ。んでアタシとケビンと傭兵の計3人でマイケルとカリオナイトの輸送の護衛かしら」
一気に予定が組み上げられていく様にマイケルは目を白黒させていた。
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