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38.アリシアを前にガグブル
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サイラスがリューゼルの屋敷を訪れアリシアの居所を問いただし騒ぎ立てている頃、アリシアはサロニカのタウンハウスに戻ってきた。
「今回はモブレー公爵様とお会いしてきたわ」
「何かわかったのですか?」
「ええ、それで今週末エリーと話し合わなくてはと思って急ぎ帰ってきたの」
モブレー公爵が皇太子と繋がっている事は有名なのでアリシアは今まで公爵に一切連絡を取っていなかったが、サイラスの愚行が判明した為急遽連絡をとりモブレー公爵の別邸で落ちあった。
「今回は社交辞令抜きの本音でお話しして頂きたいと思って参りましたの」
開口一番アリシアの軽いジャブが入りモブレー公爵は思わず背筋を伸ばし座り直した。
(こりゃ、ヤバそうだ)
「パドラス附属学園に入学された事は存じておりますが、もう4年生になられているので勉強も大変になられているのでしょう」
「エリーは周りの方が思う以上に優秀です。鳶が鷹を産んだと申しますでしょう?」
「確かに、ご兄妹とは随分差があるようですね」
「そろそろどのような状況になっているのかお聞かせ頂けますかしら? それともまだこのまま無言を続けるおつもり?」
「正直申しますと若干時期尚早ではあります。しかしアリシア様が連絡を下さったと言うことは何か不測の事態があったという事でしょうか?」
「さあ、それはどうでしょう。状況を理解した上でもわたくしかなり機嫌が悪うございますの。それを踏まえてお話頂けると幸いですわ。いずれにせよ相応のお覚悟をして頂くつもりではおります」
アリシアの厳しい口調と冷ややかな視線にモブレー公爵は顔を引き攣らせた。通常貴族の婦人はどんな時でも感情を露わにしないよう躾けられているので今回のように歯に衣着せない物言いはとても珍しい。
(噂以上だな、普通の貴族婦人とは迫力が違う。とんでもない事になっちまった。やっぱり打つ手を間違えたな)
実際のところ随分前からアリシアはかなり腹を立てていた。話の内容やモブレー公爵の態度如何によってはそれなりの返礼を考え既に準備を整えている。
(4年以上梨の礫ですからね。エリーとは違ってわたくしの堪忍袋の尾はとうに切れておりましてよ)
「確かにアリシア様の仰る通りです。あれからもうじき5年、その間一度もご連絡を差し上げずおりました事心からお詫び申し上げます」
「言い訳を聞きにきたわけでも謝罪を求めているわけでもありませんのよ。事実だけをお聞きしたいと思っております」
(懐柔の余地なしか?)
「恐らくアリシア様であればかなり詳しく状況を把握しておられると思いますが・・」
どんな危険な時でも余裕をなくしたことのない公爵が生まれて初めて恐怖を覚えた。
(マジやべえよ。足が震えそうだぜ)
額に冷や汗を浮かべたモブレー公爵が背筋を硬直させたまま話しはじめた。
週末寮から帰ってきたエリーとマイラを前にアリシアがモブレー公爵との面談内容を話しはじめた。
「帝国や皇太子の状況はわたくし達の想像通りでした。前より頻度は下がったようだけど時折不審な事が起きるのでシリルさん達は今でも護衛についたまま・・」
婚約者候補の選定は最有力候補が辞退した後、その他の候補者達から事故の調査が最優先だと言われ一旦白紙に戻った状態になっている。しかし帝国議会は16歳の皇太子に婚約者候補が決まらないのは異例の事態だと騒ぎはじめており第二皇子擁立の声がまた聞こえはじめた。
「皇太子様は今でも婚約者候補をお決めにならず、王宮を安全な場所にしてから・・エリーを迎えにと仰せになられているそうなの」
「もしかしてそのせいで議会でのお立場が・・」
「そうね、それは大いにあるでしょうね」
「別の方を迎えるべきだとご連絡差し上げるべきでしょうか?」
「さあ、それはわたくしが決める事ではないわ。エリーはどうしたいのかしら?」
「問題が危険があるからということだけならお迎えに来て欲しいですけど、今まで一度もご連絡頂けなかった事に対してちょっと思うところがあります。
それに私が行けば別の問題が起きるだけだとわかっていますし」
エリーの身分では帝国議会は納得しないだろう。アリシアがいくら優秀な資産家だと言っても今回の件は荷が重すぎるし、サイラス達は間違いなく足枷にしかならない。エリーは胸元の指輪を握りしめた。
『もう会えないって思ったら手紙と一緒に送ってくれるかな』
(やっぱり、そうするしかない? てか、その方がいい気がしてきた)
「それからとても不愉快な話がひとつ。サイラスがエリーの婚約を取り決めたの」
「えっ?」
「お相手はフレディの友人でミリーの恋人だった子爵の嫡男」
(ミリーの恋人? 子爵・・ああそう言うことか)
エリーはそれまで我慢していた涙がこぼれ落ちた。
「だっ、だったらもう・・何もかも終わりですね」
「それがエリーの決断ならわたくしから言うことは何もありません」
「今回はモブレー公爵様とお会いしてきたわ」
「何かわかったのですか?」
「ええ、それで今週末エリーと話し合わなくてはと思って急ぎ帰ってきたの」
モブレー公爵が皇太子と繋がっている事は有名なのでアリシアは今まで公爵に一切連絡を取っていなかったが、サイラスの愚行が判明した為急遽連絡をとりモブレー公爵の別邸で落ちあった。
「今回は社交辞令抜きの本音でお話しして頂きたいと思って参りましたの」
開口一番アリシアの軽いジャブが入りモブレー公爵は思わず背筋を伸ばし座り直した。
(こりゃ、ヤバそうだ)
「パドラス附属学園に入学された事は存じておりますが、もう4年生になられているので勉強も大変になられているのでしょう」
「エリーは周りの方が思う以上に優秀です。鳶が鷹を産んだと申しますでしょう?」
「確かに、ご兄妹とは随分差があるようですね」
「そろそろどのような状況になっているのかお聞かせ頂けますかしら? それともまだこのまま無言を続けるおつもり?」
「正直申しますと若干時期尚早ではあります。しかしアリシア様が連絡を下さったと言うことは何か不測の事態があったという事でしょうか?」
「さあ、それはどうでしょう。状況を理解した上でもわたくしかなり機嫌が悪うございますの。それを踏まえてお話頂けると幸いですわ。いずれにせよ相応のお覚悟をして頂くつもりではおります」
アリシアの厳しい口調と冷ややかな視線にモブレー公爵は顔を引き攣らせた。通常貴族の婦人はどんな時でも感情を露わにしないよう躾けられているので今回のように歯に衣着せない物言いはとても珍しい。
(噂以上だな、普通の貴族婦人とは迫力が違う。とんでもない事になっちまった。やっぱり打つ手を間違えたな)
実際のところ随分前からアリシアはかなり腹を立てていた。話の内容やモブレー公爵の態度如何によってはそれなりの返礼を考え既に準備を整えている。
(4年以上梨の礫ですからね。エリーとは違ってわたくしの堪忍袋の尾はとうに切れておりましてよ)
「確かにアリシア様の仰る通りです。あれからもうじき5年、その間一度もご連絡を差し上げずおりました事心からお詫び申し上げます」
「言い訳を聞きにきたわけでも謝罪を求めているわけでもありませんのよ。事実だけをお聞きしたいと思っております」
(懐柔の余地なしか?)
「恐らくアリシア様であればかなり詳しく状況を把握しておられると思いますが・・」
どんな危険な時でも余裕をなくしたことのない公爵が生まれて初めて恐怖を覚えた。
(マジやべえよ。足が震えそうだぜ)
額に冷や汗を浮かべたモブレー公爵が背筋を硬直させたまま話しはじめた。
週末寮から帰ってきたエリーとマイラを前にアリシアがモブレー公爵との面談内容を話しはじめた。
「帝国や皇太子の状況はわたくし達の想像通りでした。前より頻度は下がったようだけど時折不審な事が起きるのでシリルさん達は今でも護衛についたまま・・」
婚約者候補の選定は最有力候補が辞退した後、その他の候補者達から事故の調査が最優先だと言われ一旦白紙に戻った状態になっている。しかし帝国議会は16歳の皇太子に婚約者候補が決まらないのは異例の事態だと騒ぎはじめており第二皇子擁立の声がまた聞こえはじめた。
「皇太子様は今でも婚約者候補をお決めにならず、王宮を安全な場所にしてから・・エリーを迎えにと仰せになられているそうなの」
「もしかしてそのせいで議会でのお立場が・・」
「そうね、それは大いにあるでしょうね」
「別の方を迎えるべきだとご連絡差し上げるべきでしょうか?」
「さあ、それはわたくしが決める事ではないわ。エリーはどうしたいのかしら?」
「問題が危険があるからということだけならお迎えに来て欲しいですけど、今まで一度もご連絡頂けなかった事に対してちょっと思うところがあります。
それに私が行けば別の問題が起きるだけだとわかっていますし」
エリーの身分では帝国議会は納得しないだろう。アリシアがいくら優秀な資産家だと言っても今回の件は荷が重すぎるし、サイラス達は間違いなく足枷にしかならない。エリーは胸元の指輪を握りしめた。
『もう会えないって思ったら手紙と一緒に送ってくれるかな』
(やっぱり、そうするしかない? てか、その方がいい気がしてきた)
「それからとても不愉快な話がひとつ。サイラスがエリーの婚約を取り決めたの」
「えっ?」
「お相手はフレディの友人でミリーの恋人だった子爵の嫡男」
(ミリーの恋人? 子爵・・ああそう言うことか)
エリーはそれまで我慢していた涙がこぼれ落ちた。
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