48 / 48
48.大団円
しおりを挟む
エリーの言葉を聞いたイライザは傲慢な態度で鼻を鳴らした。
「お好きになさると宜しいのではなくて? エリー様は陛下と皇太子様のお気に入りですもの、何を言っても許してくださる筈ですわ。わたくし急いでおりますの」
イライザはツンと顎を上げてマントの裾を持ち上げエリーを迂回して歩きはじめた。
「陛下の無礼を正すのでご一緒して頂けませんか?」
「・・はあ?」
思わず立ち止まったイライザは吃驚しすぎたのか淑女らしからぬ声を上げ、影に隠れていたシリルは吹き出しかけて慌てて口を押さえた。
「イライザさまが側にいて下さったら心強いです」
「わた、わたくしにはなんの力もありません。ただのお飾りの皇妃ですからね。皇太子様にお願いされれば良いでしょう? わたくしよりあの厳つい護衛の方が信頼されていましてよ」
「それが嫌なんです。女性の立場を軽んじておられる方と家族になりたいとは思いません」
「お勉強のしすぎで大事な事をお忘れのようですね。女はどんな事があったとしても従うしか許されないのです」
「婚約する時ミゲル様とどちらからでも無条件に婚約破棄できるとお約束しましたから、陛下があのままの態度を改めないのであれば婚約破棄してお祖母様の元に帰るつもりです」
「皇太子様はお許しになりません。それともご存知なのですか?」
「まだ話してませんの。話したら・・多分おかしな事になりそうで。女性の気持ちは女性にしか理解できませんもの」
勢いを削がれたイライザはそのまま自室に戻った。エリーは翌日陛下へ謁見の申し入れをし2日後の午後イライザと共に陛下の執務室を訪ねた。
「お忙しい中お時間をいただきありがとうございます」
エリーの斜め後ろにいるイライザをチラリと見た陛下が身振りでソファを勧めながらエリーを話しかけた。
「堅苦しい挨拶はいらぬ。大切な話があると聞いたが?」
「はい、婚約を破棄して頂こうかと悩んでおりご相談に参りました」
陛下が目を見開きテーブルに手をついて前のめりになった。
「何があった、ミゲルが何かしでかしたのか? あれは其方に夢中になりすぎて突っ走るところがあるが、其方の事を心から大事に思っておるのだ」
「はい、それは疑っておりません。でも陛下とは家族になれないと思うんです。ですから・・」
「なっ、余に問題が?」
「陛下は女性蔑視でいらっしゃるようにお見受けいたします。女性の立場はひどく脆くて側にいる殿方の態度次第でとても暮らしにくくなります」
「イライザ、其方がエリーに不満を?」
陛下に睨まれたイライザが青褪めガタガタと震えはじめた。
「イライザ様は何も仰いません。私の考えで参りましたが今のような陛下の態度が・・私には無理だと言いますか」
さっぱり意味がわからない陛下は眉間に皺を寄せ首を傾げた。
「陛下は前皇妃様をとても大切にされていて今でも御心は変わらない。その為イライザ様には何の関心もないと皇宮内で噂されています」
心当たりのある陛下は何も言えず黙り込んだ。
「陛下にお立場がおありのようにイライザ様にもお立場があります。陛下を尊敬しておられるミゲル様は陛下のような立派な帝王になろうと日々努力されていますから、ミゲル様も陛下のように妃と言う立場を守って下さらない施政者になりそうだなと思いまして」
無言で考え込む陛下と俯き今にも気絶しそうなイライザを尻目にエリーは堂々と背を伸ばし陛下を見つめていた。静まりかえった部屋の中で長い時間宙を見つめていた陛下が溜息をついた。
「・・痛いところをつかれたな。確かに其方の言う通りだ。ミゲルがどのような施政者になるかはわからぬが、余が皇妃としてのイライザの立場を気にかけておらなんだのは事実。イライザ長い間辛い思いをさせた、許せ」
「陛下、もったいのうございます。わたくしが至らなかっただけで」
ハンカチを握りしめ涙を堪えるイライザと陛下を残しエリーが自室に戻りのんびりお茶を飲んでいると、ノックもなく大きな音を立ててドアが開きミゲルが駆け込んできた。
「エリー、陛下と謁見って何かあったのか?」
「えーっと、誰から聞いたの?」
「シリルから。謁見を申し込んでたエリーが陛下の執務室から出て来たよーって言うんだ」
シリルは態と謁見が終わるまで黙っていたらしい。エリーは仕方なく簡単に説明した。
「そんな! それって陛下の返答次第では婚約破棄するつもりだったって事? なんで先に話してくれなかったんだ」
「インパクト? ミゲルが知らない方が陛下にお話しした時の衝撃度がアップしそうだなって。陛下とミゲルはとっても似てるから必ずお話を聞いてくださるって確信してたの」
(女性の気持ちに疎いとこまでそっくりだしね)
その後、公の席で陛下とイライザが和やかに会話する姿が見かけられるようになり、二人きりで庭を散策する姿も見かけられるようになった。イライザは穏やかで気品ある皇妃として内外から認められるようになり件の絵師は姿を消した。
「兄上、姉上。ありがとう」
ベルナールは王位継承権を放棄し研究者として身を立てるべくサロニカ王国へ旅立っていった。
「ベルナールが一番辛い思いを抱えていたと思うんだ。時間を作っていっぱい会いに行こう。次に会った時は謝って兄弟としてやり直したい」
ベルナールが皇位継承権を放棄してからベルトラム侯爵一派は瓦解し、エリーとミゲルの婚礼の祝賀パーティーの翌日病気治療のためという名目でイライザは皇宮を去った。
「あの日、イライザから全てを聞いた。あれのした事は許し難いが余の行いがあそこまで追い込んだのだから」
イライザは断罪を求めたがミゲルに対する陰謀には手を貸していなかったこともあり、陛下はエリー達の婚礼までイライザを留め置くと決め時間の許す限り交流を深めた。
(あれが余にできる精一杯の謝罪であった。出来る事なら幸せに・・)
「お好きになさると宜しいのではなくて? エリー様は陛下と皇太子様のお気に入りですもの、何を言っても許してくださる筈ですわ。わたくし急いでおりますの」
イライザはツンと顎を上げてマントの裾を持ち上げエリーを迂回して歩きはじめた。
「陛下の無礼を正すのでご一緒して頂けませんか?」
「・・はあ?」
思わず立ち止まったイライザは吃驚しすぎたのか淑女らしからぬ声を上げ、影に隠れていたシリルは吹き出しかけて慌てて口を押さえた。
「イライザさまが側にいて下さったら心強いです」
「わた、わたくしにはなんの力もありません。ただのお飾りの皇妃ですからね。皇太子様にお願いされれば良いでしょう? わたくしよりあの厳つい護衛の方が信頼されていましてよ」
「それが嫌なんです。女性の立場を軽んじておられる方と家族になりたいとは思いません」
「お勉強のしすぎで大事な事をお忘れのようですね。女はどんな事があったとしても従うしか許されないのです」
「婚約する時ミゲル様とどちらからでも無条件に婚約破棄できるとお約束しましたから、陛下があのままの態度を改めないのであれば婚約破棄してお祖母様の元に帰るつもりです」
「皇太子様はお許しになりません。それともご存知なのですか?」
「まだ話してませんの。話したら・・多分おかしな事になりそうで。女性の気持ちは女性にしか理解できませんもの」
勢いを削がれたイライザはそのまま自室に戻った。エリーは翌日陛下へ謁見の申し入れをし2日後の午後イライザと共に陛下の執務室を訪ねた。
「お忙しい中お時間をいただきありがとうございます」
エリーの斜め後ろにいるイライザをチラリと見た陛下が身振りでソファを勧めながらエリーを話しかけた。
「堅苦しい挨拶はいらぬ。大切な話があると聞いたが?」
「はい、婚約を破棄して頂こうかと悩んでおりご相談に参りました」
陛下が目を見開きテーブルに手をついて前のめりになった。
「何があった、ミゲルが何かしでかしたのか? あれは其方に夢中になりすぎて突っ走るところがあるが、其方の事を心から大事に思っておるのだ」
「はい、それは疑っておりません。でも陛下とは家族になれないと思うんです。ですから・・」
「なっ、余に問題が?」
「陛下は女性蔑視でいらっしゃるようにお見受けいたします。女性の立場はひどく脆くて側にいる殿方の態度次第でとても暮らしにくくなります」
「イライザ、其方がエリーに不満を?」
陛下に睨まれたイライザが青褪めガタガタと震えはじめた。
「イライザ様は何も仰いません。私の考えで参りましたが今のような陛下の態度が・・私には無理だと言いますか」
さっぱり意味がわからない陛下は眉間に皺を寄せ首を傾げた。
「陛下は前皇妃様をとても大切にされていて今でも御心は変わらない。その為イライザ様には何の関心もないと皇宮内で噂されています」
心当たりのある陛下は何も言えず黙り込んだ。
「陛下にお立場がおありのようにイライザ様にもお立場があります。陛下を尊敬しておられるミゲル様は陛下のような立派な帝王になろうと日々努力されていますから、ミゲル様も陛下のように妃と言う立場を守って下さらない施政者になりそうだなと思いまして」
無言で考え込む陛下と俯き今にも気絶しそうなイライザを尻目にエリーは堂々と背を伸ばし陛下を見つめていた。静まりかえった部屋の中で長い時間宙を見つめていた陛下が溜息をついた。
「・・痛いところをつかれたな。確かに其方の言う通りだ。ミゲルがどのような施政者になるかはわからぬが、余が皇妃としてのイライザの立場を気にかけておらなんだのは事実。イライザ長い間辛い思いをさせた、許せ」
「陛下、もったいのうございます。わたくしが至らなかっただけで」
ハンカチを握りしめ涙を堪えるイライザと陛下を残しエリーが自室に戻りのんびりお茶を飲んでいると、ノックもなく大きな音を立ててドアが開きミゲルが駆け込んできた。
「エリー、陛下と謁見って何かあったのか?」
「えーっと、誰から聞いたの?」
「シリルから。謁見を申し込んでたエリーが陛下の執務室から出て来たよーって言うんだ」
シリルは態と謁見が終わるまで黙っていたらしい。エリーは仕方なく簡単に説明した。
「そんな! それって陛下の返答次第では婚約破棄するつもりだったって事? なんで先に話してくれなかったんだ」
「インパクト? ミゲルが知らない方が陛下にお話しした時の衝撃度がアップしそうだなって。陛下とミゲルはとっても似てるから必ずお話を聞いてくださるって確信してたの」
(女性の気持ちに疎いとこまでそっくりだしね)
その後、公の席で陛下とイライザが和やかに会話する姿が見かけられるようになり、二人きりで庭を散策する姿も見かけられるようになった。イライザは穏やかで気品ある皇妃として内外から認められるようになり件の絵師は姿を消した。
「兄上、姉上。ありがとう」
ベルナールは王位継承権を放棄し研究者として身を立てるべくサロニカ王国へ旅立っていった。
「ベルナールが一番辛い思いを抱えていたと思うんだ。時間を作っていっぱい会いに行こう。次に会った時は謝って兄弟としてやり直したい」
ベルナールが皇位継承権を放棄してからベルトラム侯爵一派は瓦解し、エリーとミゲルの婚礼の祝賀パーティーの翌日病気治療のためという名目でイライザは皇宮を去った。
「あの日、イライザから全てを聞いた。あれのした事は許し難いが余の行いがあそこまで追い込んだのだから」
イライザは断罪を求めたがミゲルに対する陰謀には手を貸していなかったこともあり、陛下はエリー達の婚礼までイライザを留め置くと決め時間の許す限り交流を深めた。
(あれが余にできる精一杯の謝罪であった。出来る事なら幸せに・・)
116
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(75件)
あなたにおすすめの小説
妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。
バナナマヨネーズ
恋愛
四大公爵家の一つ。アックァーノ公爵家に生まれたイシュミールは双子の妹であるイシュタルに慕われていたが、何故か両親と使用人たちに冷遇されていた。
瓜二つである妹のイシュタルは、それに比べて大切にされていた。
そんなある日、イシュミールは第三王子との婚約が決まった。
その時から、イシュミールの人生は最高の瞬間を経て、最悪な結末へと緩やかに向かうことになった。
そして……。
本編全79話
番外編全34話
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
永遠の誓いをあなたに ~何でも欲しがる妹がすべてを失ってからわたしが溺愛されるまで~
畔本グラヤノン
恋愛
両親に愛される妹エイミィと愛されない姉ジェシカ。ジェシカはひょんなことで公爵令息のオーウェンと知り合い、周囲から婚約を噂されるようになる。ある日ジェシカはオーウェンに王族の出席する式典に招待されるが、ジェシカの代わりに式典に出ることを目論んだエイミィは邪魔なジェシカを消そうと考えるのだった。
王宮で虐げられた令嬢は追放され、真実の愛を知る~あなた方はもう家族ではありません~
葵 すみれ
恋愛
「お姉さま、ずるい! どうしてお姉さまばっかり!」
男爵家の庶子であるセシールは、王女付きの侍女として選ばれる。
ところが、実際には王女や他の侍女たちに虐げられ、庭園の片隅で泣く毎日。
それでも家族のためだと耐えていたのに、何故か太り出して醜くなり、豚と罵られるように。
とうとう侍女の座を妹に奪われ、嘲笑われながら城を追い出されてしまう。
あんなに尽くした家族からも捨てられ、セシールは街をさまよう。
力尽きそうになったセシールの前に現れたのは、かつて一度だけ会った生意気な少年の成長した姿だった。
そして健康と美しさを取り戻したセシールのもとに、かつての家族の変わり果てた姿が……
※小説家になろうにも掲載しています
【完結】あなたにすべて差し上げます
野村にれ
恋愛
コンクラート王国。王宮には国王と、二人の王女がいた。
王太子の第一王女・アウラージュと、第二王女・シュアリー。
しかし、アウラージュはシュアリーに王配になるはずだった婚約者を奪われることになった。
女王になるべくして育てられた第一王女は、今までの努力をあっさりと手放し、
すべてを清算して、いなくなってしまった。
残されたのは国王と、第二王女と婚約者。これからどうするのか。
(完)貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね?
青空一夏
恋愛
公爵令嬢の私は婚約者の王太子殿下と優しい家族に、気の合う親友に囲まれ充実した生活を送っていた。それは完璧なバランスがとれた幸せな世界。
けれど、それは一人の女のせいで歪んだ世界になっていくのだった。なぜ私がこんな思いをしなければならないの?
中世ヨーロッパ風異世界。魔道具使用により現代文明のような便利さが普通仕様になっている異世界です。
なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?
ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。
だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。
これからは好き勝手やらせてもらいますわ。
堅実に働いてきた私を無能と切り捨てたのはあなた達ではありませんか。
木山楽斗
恋愛
聖女であるクレメリアは、謙虚な性格をしていた。
彼女は、自らの成果を誇示することもなく、淡々と仕事をこなしていたのだ。
そんな彼女を新たに国王となったアズガルトは軽んじていた。
彼女の能力は大したことはなく、何も成し遂げられない。そう判断して、彼はクレメリアをクビにした。
しかし、彼はすぐに実感することになる。クレメリアがどれ程重要だったのかを。彼女がいたからこそ、王国は成り立っていたのだ。
だが、気付いた時には既に遅かった。クレメリアは既に隣国に移っており、アズガルトからの要請など届かなかったのだ。
悪いのは全て妹なのに、婚約者は私を捨てるようです
天宮有
恋愛
伯爵令嬢シンディの妹デーリカは、様々な人に迷惑をかけていた。
デーリカはシンディが迷惑をかけていると言い出して、婚約者のオリドスはデーリカの発言を信じてしまう。
オリドスはシンディとの婚約を破棄して、デーリカと婚約したいようだ。
婚約破棄を言い渡されたシンディは、家を捨てようとしていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
エリーは頑張っただけ実りがある……とてもとても素敵な物語でした。
あととても読み易かったです。
読ませて頂いて有難うございました。
ありがとうございます。
そう言って頂けるなんてとても嬉しいです😂😂
読ませていただきました 一気読みでございます
今一つお願いが このまま完結は 寂しく……登場人物達も まだまだ 動きたいはず!
すみません まだまだ 続きが 読みたいです〜!
ありがとうございます。
確かに・・シリル辺り暴れたりないと騒いでそうです😅
え、終わり!?
ありがとうございます。
かっ考えてみます(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾