【完結】婚約者取り替えっこしてあげる。子爵令息より王太子の方がいいでしょ?

との

文字の大きさ
47 / 48

47.過保護と溺愛

しおりを挟む
 ミゲルは2週間に一度、エリーは以前と同じく月に一度のペースで手紙を書き交流を深めた。学園の長期休暇には帝国で正式発表と盛大なパーティーが開催された。
 ミゲルは2ヶ月に一度エリーの元を訪れ帝国の話を聞かせてくれた。最終学年の休みに約束の灯台に登りガレオン船に乗った。

「ミゲルの言った通りよ。波がすごく綺麗!」

 大喜びで船首から身を乗り出して海を覗き込むエリーを青い顔をしたミゲルが後ろから抱え込んでいた。

「エリー、危ないから。落ちるから」

 同行しているシリルとケビンが少し離れた場所でケタケタ笑っている。

「笑ってないで助けてくれよ!」

 シリルが細めのロープを持ってやって来てエリーとミゲルのウエストに括り付けた。

「はい、これで落ちる時は一蓮托生よ。ミゲルが大事ならエリーも気をつけるんじゃないかしら?」

「・・シリル、これ狡い。次いつ乗れるかわからないのに、もうちょっと見たかった」

「いつでも乗れるじゃん、もしかしてこの船の船主誰か知らないの?」

 首を傾げるエリーの横でロープを解いていたミゲルが顔を赤らめた。

「ミゲルは資金ができて一番にこの「シリル、ロープ。ロープが固くて外れない。馬鹿力すぎだよ」」

「もしかしてミゲルの船なの?」

「うっ、うん。調べたら船主の家族なら女性が乗ることはよくあるっていうから」

「ありがとう。また時間のある時乗せてね」

 晴れやかな顔で頷くミゲルと嬉しそうに笑うエリー。

「アリシアだって船いっぱい持ってるのにねえ」
「アリシアの事だからよ、ミゲルが船買って準備してるの知ってて自分も持ってるよーとか言わなかったんじゃね?」


 2年後17歳になったエリーは正式にミゲル皇太子の婚約者となり、1年後の挙式に向けて準備がはじまった。

「エリーはミゲルの事許したの?」

「まあね、でもちょっとでもおかしな事したら速攻でお仕置きするつもり」

「アリシア様とマイラ様の仕込み・・超怖そう」






(皇妃様は陛下の事を愛していらっしゃるわ・・)

 エリーが感じたイライザの印象は無理をしすぎて疲れている人。濃い化粧と派手なドレスでやや顎を突き出し高慢な目付きで人を睥睨していたが、人の目のない時に陛下を見つめるイライザの目は憧憬と諦めで暗く沈んでいたり怒りに澱んでいたりする。

 ミゲル達から絵師の元に通うイライザとベルナールミゲルの弟の話を聞いたエリーは不思議に思っていた。

(陛下を愛してるのに浮気ってなんだか凄く不自然な気がするわ)

 幼い頃は仲の良い兄弟だったと聞いていたが、ベルナールは会食やパーティーにも滅多に参列せず偶にミゲルと顔を合わせても殆ど口を聞かないらしい。

「シリル、どう思う?」
「それ、アタシに聞くの?」

「だって恋愛相談なんてシリルとしか出来ないもの」
「ミゲルはエリーしか見えてないしケビンはそっち方面はからっきしだしねえ」

「ミゲルは危険だって言うけど、皇妃様とお話ししてみようかしら」
「いーんじゃない? エリーは機微に聡いとこあるから突破口になるかも」

 エリーはサイラス達との暮らしのせいなのか言動から人の本質や考えに気づく事がよくある。

(ミリー達につけ込まれないためにちょっとした変化とかに敏感になったのかも)


 イライザとお茶会をする度にエリーは確信を深めていった。

(イライザ様は陛下の事を愛してるし本当は凄く優しい方)

 陛下と前皇妃は政略結婚だったにも関わらずとても仲が良く、陛下は側妃を持つことも嫌がっていた。議会のゴリ押しでイライザが側妃に選ばれた後も陛下の関心は全て前皇妃に向いていた。
 渋々のように数回夜のお渡りはあったものの陛下の無関心を知る使用人達のイライザに対する扱いはぞんざいで王宮内で孤立していた。イライザが皇妃となった後も陛下の態度は変わらず、大人しかったイライザは段々ときつい言動が増えていった。

「陛下の態度に問題ありだわ。いつまでも無関心でいられたらイライザ様の心が荒んで当然だし使用人達もそれを見習って感じの悪い態度を取りはじめるものよ。私だってお祖母様や叔母様がいらっしゃらなかったらイライザ様と同じようになってたと思う」

「でも、それと浮気は別よー」

「それは勿論そうなんだけど、イライザ様はミゲルを傷つけるような方じゃないと思うの。精々睨むとか意地悪を言うとか、そう言う可愛い意地悪くらいしかされないと思う」

「ミゲルの周りで起きてることには関わってないって言いたいのね」

 陛下によく似た絵師を見て魔が差したのか絵師に誘惑されたのかのどちらかではないかと予想している。

「問題の絵師の絵を見つけたけどたいした腕じゃなかったわ。それなのにベルトラム侯爵家からの推薦で皇宮に出入りさせた。陛下によく似た人が心の折れてるイライザ様の側で優しい言葉を吐き続けたら」

「・・でもねぇ、イライザは今でも彼に会いに行ってるのよ?」

「だって陛下はイライザ様に全然関心を寄せておられないって来たばかりの私にだってわかったのよ。イライザ様の心の支えなのかも」

「陛下とミゲルは変なとこで似てるって事ね。一人に夢中になったら他が一切目に入らない」

「あっ、うぅそれはまあ」

 エリーに対するミゲルの過保護と溺愛ぶりは有名で既に劇や吟遊詩人の詩にもなっている。

 エリーはイライザの動向をシリルに調べて貰い、国外から来た外交官を交えた会食があった数日後秘密裏に馬車に乗り込もうとするイライザを捕まえた。

「陛下に文句を言いに行こうと思っていて、そのご相談のためにお待ちしていました」

しおりを挟む
感想 75

あなたにおすすめの小説

妹は謝らない

青葉めいこ
恋愛
物心つく頃から、わたくし、ウィスタリア・アーテル公爵令嬢の物を奪ってきた双子の妹エレクトラは、当然のように、わたくしの婚約者である第二王子さえも奪い取った。 手に入れた途端、興味を失くして放り出すのはいつもの事だが、妹の態度に怒った第二王子は口論の末、妹の首を絞めた。 気絶し、目覚めた妹は、今までの妹とは真逆な人間になっていた。 「彼女」曰く、自分は妹の前世の人格だというのだ。 わたくしが恋する義兄シオンにも前世の記憶があり、「彼女」とシオンは前世で因縁があるようで――。 「彼女」と会った時、シオンは、どうなるのだろう? 小説家になろうにも投稿しています。

「お姉さまみたいな地味な人を愛する殿方なんてこの世にいなくってよ!」それが妹の口癖でした、が……

四季
恋愛
「お姉さまみたいな地味な人を愛する殿方なんてこの世にいなくってよ!」 それが妹の口癖でした。

【完結】あなたにすべて差し上げます

野村にれ
恋愛
コンクラート王国。王宮には国王と、二人の王女がいた。 王太子の第一王女・アウラージュと、第二王女・シュアリー。 しかし、アウラージュはシュアリーに王配になるはずだった婚約者を奪われることになった。 女王になるべくして育てられた第一王女は、今までの努力をあっさりと手放し、 すべてを清算して、いなくなってしまった。 残されたのは国王と、第二王女と婚約者。これからどうするのか。

醜い私は妹の恋人に騙され恥をかかされたので、好きな人と旅立つことにしました

つばめ
恋愛
幼い頃に妹により火傷をおわされた私はとても醜い。だから両親は妹ばかりをかわいがってきた。伯爵家の長女だけれど、こんな私に婿は来てくれないと思い、領地運営を手伝っている。 けれど婚約者を見つけるデェビュタントに参加できるのは今年が最後。どうしようか迷っていると、公爵家の次男の男性と出会い、火傷痕なんて気にしないで参加しようと誘われる。思い切って参加すると、その男性はなんと妹をエスコートしてきて……どうやら妹の恋人だったらしく、周りからお前ごときが略奪できると思ったのかと責められる。 会場から逃げ出し失意のどん底の私は、当てもなく王都をさ迷った。ぼろぼろになり路地裏にうずくまっていると、小さい頃に虐げられていたのをかばってくれた、商家の男性が現れて……

双子の妹を選んだ婚約者様、貴方に選ばれなかった事に感謝の言葉を送ります

すもも
恋愛
学園の卒業パーティ 人々の中心にいる婚約者ユーリは私を見つけて微笑んだ。 傍らに、私とよく似た顔、背丈、スタイルをした双子の妹エリスを抱き寄せながら。 「セレナ、お前の婚約者と言う立場は今、この瞬間、終わりを迎える」 私セレナが、ユーリの婚約者として過ごした7年間が否定された瞬間だった。

なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい

木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」 私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。 アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。 これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。 だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。 もういい加減、妹から離れたい。 そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。 だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。

妹が私の婚約者と結婚しちゃったもんだから、懲らしめたいの。いいでしょ?

百谷シカ
恋愛
「すまない、シビル。お前が目覚めるとは思わなかったんだ」 あのあと私は、一命を取り留めてから3週間寝ていたらしいのよ。 で、起きたらびっくり。妹のマーシアが私の婚約者と結婚してたの。 そんな話ある? 「我がフォレット家はもう結婚しかないんだ。わかってくれ、シビル」 たしかにうちは没落間近の田舎貴族よ。 あなたもウェイン伯爵令嬢だって打ち明けたら微妙な顔したわよね? でも、だからって、国のために頑張った私を死んだ事にして結婚する? 「君の妹と、君の婚約者がね」 「そう。薄情でしょう?」 「ああ、由々しき事態だ。私になにをしてほしい?」 「ソーンダイク伯領を落として欲しいの」 イヴォン伯爵令息モーリス・ヨーク。 あのとき私が助けてあげたその命、ぜひ私のために燃やしてちょうだい。 ==================== (他「エブリスタ」様に投稿)

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました

さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア 姉の婚約者は第三王子 お茶会をすると一緒に来てと言われる アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる ある日姉が父に言った。 アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね? バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

処理中です...