ハズレ職業【フリーター】を授かった少年は、王都で騙されて多額の借金を背負う。しかし、修復スキルでガラクタを修復して最下層の泥底から成り上がる

ninjin

文字の大きさ
26 / 62

第26話 密談

しおりを挟む
 トビーが立ち止まった屋敷の重厚な鉄扉の前には、2人の警備兵が立っていた。鎧ではなく、機動性を重視した軽装備の彼らは、王都の高級住宅街の治安を守るために派遣された警備兵である。そのうちの1人が、トビーに気づき、静かに声をかけた。

 「エドワード様、ここにはもう来られない方が良いと思います」

 警備兵は、トビーの過去を知る旧知の者なのだろう、その目はどこか寂しげな色を帯びていた。

 「あぁ、でもいつかこの屋敷を取り戻してやる」

 トビーの瞳は怒りに満ちていた。先導者のスキルに支配されている状態であれば、このような感情を露わにすることはあり得ない。

 「私もフィッツジェラルド家の再興をいつまでもお待ちしています。でも、あまり無理をしてはいけません。まずはご自身を大事にして下さい」

 その時、もう一人の警備兵が、訝しげな表情で声をかけてきた。

 「おい、コイツは何者だ」
 「このお方は、以前この屋敷に住んでおられたエドワード様です」

 「あぁ、あの大事件を起こしたフィッツジェラルド家の息子か」

 衛兵は一瞬で表情を鬼のような形相に変え、トビーを睨みつけながら唾を吐き捨てるように言った。

 「お前の親父は俺たちの税金を食いつぶした糞野郎だ。しかも、若い女性を誘拐して奴隷として売っていたらしいな。糞野郎の息子がのうのうと王都の町を歩いてるんじゃねぇぞ」

 衛兵はそう言って、トビーに向かって蹴りを繰り出した。しかし、トビーは泥底で培った身のこなしでひらりとかわす。空を蹴った衛兵はバランスを崩し、石畳に転んでしまった。

 「貴様、よくもやりやがったな。治安維持院へ突き出してやる!」

 転んだ衛兵が立ち上がりながら叫ぶ。

 「やめとけ!」

 旧知の警備兵はすぐさま間に入り、トビーに向かって切羽詰まった声で叫んだ。

 「エドワード様、お逃げ下さい!」
 「離せ、すぐに応援を呼んでやる!」

 転んだ衛兵は旧知の警備兵を突き放そうとする。

 「早く、逃げてください!」

 トビーは、ここに長居すれば自身が危険に晒されること、そして旧知の警備兵まで巻き込んでしまうことを察知した。彼は一瞬、旧知の警備兵に視線を送り、踵を返して王都の町並みへと逃げることにした。


 トビーは高級住宅街を後にして、ケーニヒシュタット公園にたどり着いた。そこは、重厚な石造りの建物が立ち並ぶ王都の町並みにあって、まるで緑の宝石が埋め込まれたかのように静謐な空間だった。公園の中央には鏡のように静かな水面を湛えた大きな池が広がり、水面に映る青空と、池のほとりに植えられた色鮮やかな薔薇や、気品のある白いユリが鮮やかなコントラストを描いていた。白鳥の彫刻が施された噴水からは、規則正しい水音が響き、手入れの行き届いた芝生はまるで深い絨毯のようだった。トビーは、その公園のベンチに腰を下ろし、呼吸を整えた。すると、トビーの背後に気配もなく誰かが立つ。

 「エドワード様、ボスに裏切りの嫌疑がかけられています。それに、先導者のスキルの効果が薄れていると言ってました」

 トビーの背後に居たのは、薄い水色のシャツに、グレーのネクタイ、そして濃紺のベストと仕立ての良い黒のズボンという目立たない服装をしたシュペーアーであった。彼は、公園の利用者として完全に溶け込み、影のように立っていた。

 「そうか、いずれ気付かれると思っていたので問題ない。シュペーアー、どのように報告するつもりだ」
 「ありのままを報告します。トビーはなんらかの方法を使用して、先導者のスキルを逃れて、服従したフリをしていたと報告するつもりです」

 トビーは平然とした顔で池を見つめたまま言った。

 「お前は知っているのだろ。俺が先導者のスキルから逃れる方法を」

 シュペーアーは、全く表情を変えないまま、淡々と返答した。

 「話術士のスキルで自分自身に暗示をかけているのですね」
 「正解だ。俺はアイツに会う時はかならず、自分自身を騙して心を空にしている。だから感情をもたない俺にはアイツの先導者のスキルは効かない」

 「ボスが何を話すか想定して役者のように演じているのですね」

 シュペーアーは問いかけた。

 「そうだ。俺はボスに会う時は心を持たないロボットだ」

 トビーは淡々と種明かしをする。

 「さすがエドワード様、感服致します」

 トビーはシュペーアーに問いかけた。

 「シュペーアー、お前はどちらの味方なのだ」
 「私はボスを崇拝していますので、答えるまでもないと思います」

 トビーはニヤリと笑った。

 「嘘をつくな。お前の職業は隠密に特化している。存在を消し去る力のあるお前は先導者のスキルは効かないだろう」
 「さすがですね。ボスですら気付いていないのに……。ボスに報告するのでしょうか?」

 手の内を見破られたシュペーアーだが、声のトーンも表情も変化しない。

 「するわけがないだろう。俺とお前はお互いに情報を交換する立場だ。お前に利用価値があるうちは、ばらすつもりはない」
 「それが賢明な判断です」

 トビーは表情を引き締め、本題を切り出した。

 「ところでシュペーアー、妹の居場所はわかったのか?」

 トビーは妹、エーデルの居場所を探るよう、シュペーアーに依頼をしていた。

 「残念ですが進展はありません。ボスの屋敷にいるのは確実です。しかし、ボスの屋敷に潜入するのは危険過ぎます。いろいろとボスの関係者達の言動をチェックしているのですが、エーデル様の話は一切出てきません」
 「そうか……。引き続き捜査をお願いする」

 「わかりました。では、これで私の要件は終わりです。後は好きなようにしてください」

 シュペーアーがそう述べた瞬間。トビーの頭に、強烈な衝撃が走った。意識が遠のき、視界がぐるりと回転する。トビーは抗う間もなく、そのままベンチから崩れ落ち、意識を失った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

無能と追放された鑑定士、実は物の情報を書き換える神スキル【神の万年筆】の持ち主だったので、辺境で楽園国家を創ります!

黒崎隼人
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――勇者パーティーの【鑑定士】リアムは、戦闘能力の低さを理由に、仲間と婚約者から無一文で追放された。全てを失い、流れ着いたのは寂れた辺境の村。そこで彼は自らのスキルの真価に気づく。物の情報を見るだけの【鑑定】は、実は万物の情報を書き換える神のスキル【神の万年筆】だったのだ! 「ただの石」を「最高品質のパン」に、「痩せた土地」を「豊穣な大地」に。奇跡の力で村を豊かにし、心優しい少女リーシャとの絆を育むリアム。やがて彼の村は一つの国家として世界に名を轟かせる。一方、リアムを失った勇者パーティーは転落の一途をたどっていた。今さら戻ってこいと泣きついても、もう遅い! 無能と蔑まれた青年が、世界を創り変える伝説の王となる、痛快成り上がりファンタジー、ここに開幕!

「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ

天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。 彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。 「お前はもういらない」 ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。 だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。 ――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。 一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。 生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!? 彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。 そして、レインはまだ知らない。 夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、 「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」 「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」 と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。 そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。 理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。 王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー! HOT男性49位(2025年9月3日0時47分) →37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。 「ヨシュア……てめえはクビだ」 ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。 「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。 危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。 一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。 彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

俺の好きな人は勇者の母で俺の姉さん! パーティ追放から始まる新しい生活

石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが別に気にも留めていなかった。 ハーレムパーティ状態だったので元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、三人の幼馴染は確かに可愛いが、リヒトにとって恋愛対象にどうしても見られなかったからだ。 だから、ただ見せつけられても困るだけだった。 何故ならリヒトの好きなタイプの女性は…大人の女性だったから。 この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。 勿論ヒロインもチートはありません。 他のライトノベルや漫画じゃ主人公にはなれない、背景に居るような主人公やヒロインが、楽しく暮すような話です。 1~2話は何時もの使いまわし。 亀更新になるかも知れません。 他の作品を書く段階で、考えてついたヒロインをメインに純愛で書いていこうと思います。

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し
ファンタジー
 パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。

処理中です...