ハズレ職業【フリーター】を授かった少年は、王都で騙されて多額の借金を背負う。しかし、修復スキルでガラクタを修復して最下層の泥底から成り上がる

ninjin

文字の大きさ
29 / 62

第29話 続舌戦

しおりを挟む
 ベルゼブブのしゃがれた声による追求に対し、トビーは表情1つ変えることなく、深く頭を下げたまま答えた。

 「左様でございます。ご指摘の通り、否定はいたしません」

 その言葉選びは、断罪を待つ罪人とは思えぬほど豪胆だ。

 「ほほう、潔く認めるのだな。蠅の王の金に手を出すとどうなるのか、理解しているのか?」

 ベルゼブブは黒いシルクハットの下から、冷酷な目つきでトビーを睨みつけた。その視線だけで常人なら気絶するほどの殺気がある。しかし、トビーは顔を上げて涼しげな瞳で老人を見返した。

 「もちろん、存じ上げております。……ただ、畏れながら1つだけ、私の愚見を述べさせていただいてもよろしいでしょうか」

 ベルゼブブは、トビーの度胸に興味を持ったのか、短く答えた。

 「許そう」

 トビーは流れるような動作で一礼をし、静かに話し始めた。

 「寛大なお言葉、痛み入ります。……確かに私は蠅の王の売り上げの一部、すなわち、お店への勧誘の際にお客様から拝借した全財産を、私が頂戴しております。しかし、これは決して独断ではなく、お店の店員の方々との取り決めであります」

 トビーは、あくまで現場の合意があったことを強調する。

 「私は、雲の上の存在であられるベルゼブブ様と直接お話しする機会など、到底与えられません。ゆえに、店員の方々との口約束を信じてしまった私の不徳の致すところであり、蠅の王の金を盗んだと断罪されても致し方ないことだと自覚しております。……ですので、どのような罰でも、真摯に受け入れる所存でございます」

 トビーは自分の落ち度を正々と認め、逃げも隠れもしない姿勢を示した。

 「本当に、どのような罰でも受けるのだな?」

 ベルゼブブは、口元を歪めてニヤリと笑みを浮かべながら問うた。

 「ベルゼブブ様の御前で、虚言など決して申しません。……しかし、これだけはご理解いただきたいのです」

 トビーがさらに言葉を続けようとした時、ベルゼブブの顔色が豹変し、怒りの形相を見せた。だが、トビーは決して臆することなく、声を張った。

 「蠅の王の本業である賭博場の売り上げは不安定であり、近年、経営の方は決して順風満帆とは言えないはずです」

 会場の空気が凍りつく。ベルゼブブに対して「経営が上手くいっていない」と言い放ったのだ。しかし、トビーは畳み掛ける。

 「私は、蠅の王の資金を増やすために、経費も少なく、永久的にお金を生み出す仕組みを提案し、実行いたしました。その結果、今では賭博場の売り上げの倍のお金を生み出しております。……私という【金のなる木】を、今ここで切り捨てるのは、あまりにも早計かと存じます」

 トビーは、自身の命乞いをするのではなく、あくまで組織にとっての利益と損失という観点から、堂々と自分の存在意義を説いた。それを聞いたベルゼブブの表情は、瞬間的な怒りから、得体の知れない不気味なものへと変わっていった。老人は、自身の隣に立つ屈強な黒服の1人に視線を向けた。

「ウコン、お前はどう判断する」

 ベルゼブブが意見を求めたその男、ウコンこそが、トビーが言及した賭博場の責任者である。ベルゼブブの問いを受け、隣に控えていたウコンは、主君へ深々と頭を下げてから口を開いた。

 「ベルゼブブ様、私に発言の許可を与えて下さってありがとうございます」

 ウコンはベルゼブブへの一礼を終えると、トビーの方を向いた。その眼光には凄まじい殺気が宿っていたが、ウコンは湧き上がる感情を理性で抑え込み、あくまで丁寧な口調で話し始めた。

 「あなたのご指摘があったように、確かに賭博場の売り上げは不安定であり、最近は客足が遠のいています。しかし、それはあなたが多くの新人に多額の借金を背負わせたため、彼らが賭博場に出入りすることができないのです。ベルゼブブ様に仕える身の者が、ベルゼブブ様の仕事を邪魔するというのは、いかがなものでしょうか」

 ウコンは、トビーが客を「食いつぶす」ことで、本業である賭博場の売り上げが落ちているという正当な主張を展開した。ベルゼブブは、興味深そうにトビーに視線を向けた。
 
 「反論はあるのか」

 反論の許可を得たトビーは、ゆっくりと視線を動かしながらウコンの方を向いた。

 「泥底という狭い社会でお互いに客を奪い合い、競い合うのは市場の原理です。最も大事なのは、最終的にベルゼブブ様にどれだけ大きな利益がもたらされるか、ということだと思います」

 トビーの言い分に、ベルゼブブは納得したように頷き、再びウコンに問う。

 「アイツはあのように言っているが、反論はあるか」

 ウコンは、トビーの詭弁に怒りで体が震えていた。しかし、ここで感情的になれば負けだと自分に言い聞かせ、冷徹さを装ってトビーに言った。

 「論点にずれが生じています。この話題の発端は、あなたが蠅の王の金を横領したことです。本当に店員の許可を取ったのでしょうか?まずはその真偽を議論すべきだと思います」

 分が悪いと感じたウコンは、論点を「利益」から「横領の罪」へと切り替えた。ウコンの言い分を聞いたベルゼブブは、トビーに鋭く問うた。

 「お前はワシに嘘を言っているのか」

 トビーは、間髪入れずに答えた。

 「嘘か本当かは問題ではありません。私の方が使い道があると言っているのです」

 トビーは、揺るぎない目でベルゼブブを見据えた。真実よりも実利。その開き直りとも取れる態度に、ウコンの理性の糸が切れた。

 「ベルゼブブ様! アイツは嘘を言ったと認めたのです!」

 ウコンは先ほどの冷静な態度をかなぐり捨て、勝ち誇ったように大声を上げた。ベルゼブブの許可なく発言し、口調も荒くなっている。

 「ベルゼブブ様に嘘をつく忠義の無い者よりも、私のように忠義の厚い者こそ、ベルゼブブ様の配下にふさわしいのです! アイツを即刻処分すべきです!」

 ベルゼブブは、興奮するウコンを一瞥し、淡々とトビーに問うた。

 「反論はあるか」

 トビーは冷静さを微塵も崩さず、穏やかに、しかし残酷な言葉を紡ぎ出した。

 「忠義など、鉄貨一枚の価値もありません」

 会場がどよめく中、トビーは続ける。

 「私はベルゼブブ様に莫大な利益を差し上げています。私の忠義は口先だけの精神論ではありません。お金です。たくさんの利益をベルゼブブ様に差し出すことこそが、最大の忠義と言えます」

 トビーの言葉に、ウコンの怒りは爆発した。

 「ふざけるな!ベルゼブブ様のために命をかけて尽くすことが忠義だ!」

 ベルゼブブは、顔を真っ赤にして叫ぶウコンと、氷のように冷たいトビーを見比べ、楽しげにトビーに問うた。

 「反論はあるか」

 トビーは、ウコンに冷徹な視線を向けて言った。

 「私はウコンさんのように、簡単に命をかけるなどとは言えません。……ウコンさん、それほどベルゼブブ様に忠義を尽くしているのであれば、自らを奴隷として売りに出して、その身の代金でベルゼブブ様に利益を与えればよいでしょう」

「な……っ!?」

 トビーの言葉を聞いたウコンは、言葉を失い、顔面蒼白になって下を向いた。自分の命(忠義)を金に変えて捧げろと言われ、即答できなかったのだ。それを見たベルゼブブは、会場に響き渡る大声で笑った。

 「カカカカ! 傑作だ!」

 そして、笑い涙を拭いながら、絶句する部下に問いかけた。

 「ウコン、忠義を示せ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

無能と追放された鑑定士、実は物の情報を書き換える神スキル【神の万年筆】の持ち主だったので、辺境で楽園国家を創ります!

黒崎隼人
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――勇者パーティーの【鑑定士】リアムは、戦闘能力の低さを理由に、仲間と婚約者から無一文で追放された。全てを失い、流れ着いたのは寂れた辺境の村。そこで彼は自らのスキルの真価に気づく。物の情報を見るだけの【鑑定】は、実は万物の情報を書き換える神のスキル【神の万年筆】だったのだ! 「ただの石」を「最高品質のパン」に、「痩せた土地」を「豊穣な大地」に。奇跡の力で村を豊かにし、心優しい少女リーシャとの絆を育むリアム。やがて彼の村は一つの国家として世界に名を轟かせる。一方、リアムを失った勇者パーティーは転落の一途をたどっていた。今さら戻ってこいと泣きついても、もう遅い! 無能と蔑まれた青年が、世界を創り変える伝説の王となる、痛快成り上がりファンタジー、ここに開幕!

「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ

天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。 彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。 「お前はもういらない」 ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。 だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。 ――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。 一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。 生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!? 彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。 そして、レインはまだ知らない。 夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、 「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」 「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」 と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。 そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。 理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。 王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー! HOT男性49位(2025年9月3日0時47分) →37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。 「ヨシュア……てめえはクビだ」 ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。 「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。 危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。 一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。 彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

俺の好きな人は勇者の母で俺の姉さん! パーティ追放から始まる新しい生活

石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが別に気にも留めていなかった。 ハーレムパーティ状態だったので元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、三人の幼馴染は確かに可愛いが、リヒトにとって恋愛対象にどうしても見られなかったからだ。 だから、ただ見せつけられても困るだけだった。 何故ならリヒトの好きなタイプの女性は…大人の女性だったから。 この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。 勿論ヒロインもチートはありません。 他のライトノベルや漫画じゃ主人公にはなれない、背景に居るような主人公やヒロインが、楽しく暮すような話です。 1~2話は何時もの使いまわし。 亀更新になるかも知れません。 他の作品を書く段階で、考えてついたヒロインをメインに純愛で書いていこうと思います。

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し
ファンタジー
 パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。

処理中です...