33 / 62
第33話 終幕
しおりを挟む
ヴァレリウス、その名がシュペーアーの口から発せられた瞬間、会場を支配していた熱気は、絶対零度まで急降下した。
トビーの頭の中で完璧に描かれていた、緻密な勝利の絵図は、まるでガラス細工のように音を立てて崩れ落ちた。これは完全に計算外だった。シュペーアーの2重の裏切り、そして【あのお方】が、この泥底の王を決める場に自ら降臨するという事態は、トビーのすべてのシナリオを根底から覆す。
トビーは跪いたまま、微動だにできない。彼が流した一筋の汗は、顎の先から冷えた木の床へと滴り落ち、僅かな音を立てた。
黒い仮面の奥、ヴァレリウスの視線がトビーを捉える。その視線は、獲物を値踏みするのではなく、既に仕留めた獲物をただ眺めているかのような、絶対的な無関心と冷酷さを帯びていた。そして、ヴァレリウスがゆっくりと口を開いた。彼の声は、囁きのように静かでありながら、会場全体を支配する力を持っていた。
「アウレリア」
その呼びかけは、凍った湖の底から響いてくるような、感情のない冷徹な音色だった。
「エドワードの、ワシに対する挑戦について、本当の評価を教えてくれ」
そのたった一言が、直前までトビーの巧みな話術に翻弄され、最高顧問という新たな地位に甘美な高揚感を覚えていたアクネラ――真の名をアウレリア――の意識を一瞬で引き戻した。彼女の思考は、まるで強制的に電源を落とされた機械のように停止し、ヴァレリウスの服従者としての原初の恐怖を呼び起こされた。
「お、お久しぶりでございます、ヴァレリウス様」
黄金の蜘蛛と恐れられた、妖艶で傲慢な女の面影はそこにはなかった。豪華なドレスを纏った彼女は、まるでか弱い少女のように表情を強張らせ、素早く床に深く跪き、小刻みに震え始める。
「私ごときに、意見を述べさせてもらえること、光栄の極みでございます」
アウレリアは、震える声で言葉を紡いだ。
「エドワードさんの力は、確かに見事なものです。彼は、一般職業である話術士の力を極限まで磨き上げ、上級職にも匹敵するほどの力を発揮しました。その手腕に、私でさえも思わず、このまま配下になっても良いとさえ感じました」
彼女はそこで一呼吸置き、喉の奥から絞り出すように本質を述べた。
「しかし……所詮、一般職です。どんなに巧みに操ろうとも、その力はヴァレリウス様の足元には及びません」
アウレリアはさらに身体を丸め、その美しい頭を深々と垂れる。
「私たち泥底の支配者という肩書は、ヴァレリウス様から与えられた地位でございます。私たちは、ヴァレリウス様の圧倒的な強さという太陽の下でしか存在できない、影に過ぎません」
ヴァレリウスは、膝を折って怯える二人の支配者を見下ろす。その空間に満ちる冷たい威圧感は、トビーがこれまでに体験したどの暴力よりも、魂を凍らせるものだった。
ヴァレリウスの登場により、会場内は目に見えない絶対的な権力の磁場が形成されている。それは、トビーの計算も、話術も、策略も、すべてを無効化する、格の違い、すなわち王都の闇を統べる実質的な支配者としての絶対的な強者感だった。
アウレリアの震える告白を受け、ヴァレリウスは満足げに小さく頷いた。その冷徹な視線は、次いでベルゼブブへと向けられる。
「マルクス。貴様はどうだ? 貴様の評価を述べろ」
ヴァレリウスの姿を直視した時からマルクスは、トビーがかけた話術の影響が水で流れるように消え去り、その絶対的な威厳の前に、ただの弱い老人に成り下がっていた。彼の体はガクガクと震え、椅子に座りながらも、今にも崩れ落ちそうだった。
マルクスは発言を求められ、何とか口を開こうとする。しかし、顎の震えが激しすぎて言葉にならない。
「あ、あ、あ、ヴァ、ヴァレリウス……さま……」
マルクスが無理やり声を発しようと顎をガクガクと震わせたその瞬間、口の中からガタッと音がして、入れ歯が勢いよく宙に飛び出した。
「フガ、フガフガフガ!」
空気を切って飛んだ入れ歯は、絨毯の上に落ち、マルクスの口からは意味不明な音だけが漏れる。さきほどまでトビーと対等に渡り合っていた貫禄は完全に消え失せ、彼はただ老いぼれたよぼよぼの老人の姿を晒した。
ヴァレリウスは、その情けない失態を前に、眉1つ動かさなかった。ただ、深く、呆れたような溜息を吐く。
「もうよい、マルクス」
その声には、怒りさえ含まれていなかった。ただの無関心な一言だった。マルクスは、その一言を聞くと、安堵と恐怖がないまぜになった嗚咽を漏らし、目に涙を流しながら床に頭を深く下げた。ヴァレリウスは、闇の王の座からトビーを見下ろす。その声は、場にあるすべての空気を凍らせた。
「エドワード。お前が何かを企んでいるのは、最初からわかっていた。だが、ワシは敢えてお前を泳がせ、自由を与えていた。どうしてワシを裏切ったのだ?」
ヴァレリウスの恫喝に対し、トビーの動揺は隠せない。彼は、ヴァレリウスの質問を無視し、自ら抱えていた疑問をぶつけた。
「お前は……いつからそこにいたのだ?」
その問いに答えたのは、トビーの脇に立つシュペーアーだった。彼は心底楽しそうな、裏切者の笑みを浮かべる。
「その質問は私が答えましょう」
シュペーアーは、もはやトビーを軽蔑の眼差しで見ている。
「あなたが馬車でこの場へ運ばれた直後、私はすぐにヴァレリウス様に報告にいったのです。すると、ヴァレリウス様もぜひとも子供の演劇を観てみたいとおっしゃいましたので、私がご招待申し上げたのです」
シュペーアーは一歩前に進み出た。
「エドワード様、あなたは実に素晴らしい才能の持ち主です。緻密な計算を行い、人を、環境を、すべてを演出の道具として使いこなす様は、まさに神業でしょう。しかし、ヴァレリウス様の御前では、それは子供の演劇会となってしまうのです」
シュペーアーの残酷な言葉は、トビーの胸を突き刺す。
「王都の全ては、ヴァレリウス様の影響下にあると言っても過言ではありません。あなたがどんな手を使おうとも、誰も、ヴァレリウス・オーガスタス・アイゼンブラント公爵――すなわち、現国王の兄に畏怖しない者などいないのです。あなたがどうあがいても勝てる相手ではなかった」
トビーは、自分がヴァレリウスの手のひらの上で、ただ踊らされていた道化であったことを悟った。しかし、トビーの瞳の奥、妹を助けるという魂の火はまだ消えていなかった。彼は、震える膝をどうにか踏ん張り、最後の悪あがきを開始する。
「……俺を、殺すのか? ヴァレリウス!」
トビーは声を絞り出した。
「俺は、まだまだ利益を生み続けるぞ。あのアルトというガキをうまく使えば、錬金術のようにゴミを金に変えることができるのだ!俺は、お前の金庫番として使えるはずだ!」
ヴァレリウスの表情は動かない。静かに言い返す。
「あのガキは使えるな。だが、お前はもう必要ない」
「まて!アイツを最大限に活かして使えるのは俺だけだ。お前の威圧による先導には、致命的な弱点があるだろう!」
トビーは最後の交渉を挑む。
トビーの最後の切り札、すなわち【威圧による先導の弱点】の指摘に対し、ヴァレリウスは微動だにしなかった。その声は深海の氷のように冷たいままだ。
「ワシの職業である先導者に、弱点などない」
その断言は、トビーの必死な言葉を無価値なものとして切り捨てた。だが、トビーはここで引けば死ぬ。彼は既にヴァレリウスへの敬意を捨て去っていた。
「嘘をつけ!」
トビーは血が滲むほど拳を握りしめた。
「威圧によって服従した者は自分の意思で行動ができなくなり、自身の力を最大限に引き出すことができなくなる!それが先導者、の致命的な欠陥だ!」
トビーは、なりふり構わず、ヴァレリウスの最も強固な支配構造を揺さぶりにかかる。
「アルトはまだ成長過程だ。アイツは感情によってさらに進化する。俺の話術士のスキルなら、アイツの心を操り、奴を最高の道具としてまだまだ成長させて、お前に最大限の利益を与えることができるはずだ」
トビーは、自分の利用価値を冷静かつ最大限に提案する。
「お前には野望があるのだろう。王都を裏で支配するなど、その野望を叶えるための布石でしかないはずだ。俺なら、お前の究極の野望を果たすための手伝いをすることができる。だから、俺を死ぬまで使い続けろ!」
ヴァレリウスは、トビーの必死な訴えに、初めて小さく、冷笑的な笑みを浮かべた。その笑みは、トビーが勝利を確信した時のものよりも遥かに冷酷で恐ろしい。
「フッ……確かにワシの野望を成就するには、まだまだ資金と手駒が不足だ。あのアルトという少年は使える。その評価は正しい」
ヴァレリウスはトビーの主張を一部認めながら、その言葉の端々には嘲りが含まれていた。
「だが、ワシの情報によると、アルトは借金を返し終えれば、お前の元を去る契約を交わしているはずだろう。お前の嘘の戯言が、このワシに通用すると思っているのか? 身の程を知れ、エドワード!」
ヴァレリウスは激しく恫喝した。トビーは顔から動揺を拭い去り、狂気を帯びた眼差しで言い返す。
「ヴァレリウス、俺を舐めるな。アルトの心は、既に掌握済みだ。あのガキにとって、俺は王都で唯一、心の底から慕う兄なんだ。アイツは一生、俺の金のなる木として生き続ける運命にあるのだ!」
トビーの、友を完全に道具として断言する言葉を聞いたヴァレリウスは、再び大声で冷たく笑った。その笑い声は、王都の闇の底で響く不協和音のようだった。
「アッパレだ。お前は、ワシをもお前の劇場に引きずり込むつもりだな。だが、覚えておけ。所詮、お前の職業はありふれた一般職。ワシのようなレア職業の前に、お前の劇場はただの砂上の楼閣だ」
ヴァレリウスは、冷笑を止めることなく、部屋の奥の暗闇に向かって声を発した。
「おい。もう姿を見せてもいいぞ」
その声に呼応するように、部屋の隅の影から、一人の少年が涙目で顔を歪ませながら、よろめきつつ姿を現した。
「ぼ……僕は、本当にお前のことを王都でできた唯一の友達だと思っていたんだぞ。トビー……また僕を騙していたのか」
そこに立っていたのは、トビーの最も重要な道具であり、トビーの復讐の鍵である、アルトだった。ヴァレリウスの言葉と、トビーの冷酷な本性を同時に突きつけられたアルトは、心底からの絶望に打ちひしがれ、その場に立ち尽くしていた。
トビーの頭の中で完璧に描かれていた、緻密な勝利の絵図は、まるでガラス細工のように音を立てて崩れ落ちた。これは完全に計算外だった。シュペーアーの2重の裏切り、そして【あのお方】が、この泥底の王を決める場に自ら降臨するという事態は、トビーのすべてのシナリオを根底から覆す。
トビーは跪いたまま、微動だにできない。彼が流した一筋の汗は、顎の先から冷えた木の床へと滴り落ち、僅かな音を立てた。
黒い仮面の奥、ヴァレリウスの視線がトビーを捉える。その視線は、獲物を値踏みするのではなく、既に仕留めた獲物をただ眺めているかのような、絶対的な無関心と冷酷さを帯びていた。そして、ヴァレリウスがゆっくりと口を開いた。彼の声は、囁きのように静かでありながら、会場全体を支配する力を持っていた。
「アウレリア」
その呼びかけは、凍った湖の底から響いてくるような、感情のない冷徹な音色だった。
「エドワードの、ワシに対する挑戦について、本当の評価を教えてくれ」
そのたった一言が、直前までトビーの巧みな話術に翻弄され、最高顧問という新たな地位に甘美な高揚感を覚えていたアクネラ――真の名をアウレリア――の意識を一瞬で引き戻した。彼女の思考は、まるで強制的に電源を落とされた機械のように停止し、ヴァレリウスの服従者としての原初の恐怖を呼び起こされた。
「お、お久しぶりでございます、ヴァレリウス様」
黄金の蜘蛛と恐れられた、妖艶で傲慢な女の面影はそこにはなかった。豪華なドレスを纏った彼女は、まるでか弱い少女のように表情を強張らせ、素早く床に深く跪き、小刻みに震え始める。
「私ごときに、意見を述べさせてもらえること、光栄の極みでございます」
アウレリアは、震える声で言葉を紡いだ。
「エドワードさんの力は、確かに見事なものです。彼は、一般職業である話術士の力を極限まで磨き上げ、上級職にも匹敵するほどの力を発揮しました。その手腕に、私でさえも思わず、このまま配下になっても良いとさえ感じました」
彼女はそこで一呼吸置き、喉の奥から絞り出すように本質を述べた。
「しかし……所詮、一般職です。どんなに巧みに操ろうとも、その力はヴァレリウス様の足元には及びません」
アウレリアはさらに身体を丸め、その美しい頭を深々と垂れる。
「私たち泥底の支配者という肩書は、ヴァレリウス様から与えられた地位でございます。私たちは、ヴァレリウス様の圧倒的な強さという太陽の下でしか存在できない、影に過ぎません」
ヴァレリウスは、膝を折って怯える二人の支配者を見下ろす。その空間に満ちる冷たい威圧感は、トビーがこれまでに体験したどの暴力よりも、魂を凍らせるものだった。
ヴァレリウスの登場により、会場内は目に見えない絶対的な権力の磁場が形成されている。それは、トビーの計算も、話術も、策略も、すべてを無効化する、格の違い、すなわち王都の闇を統べる実質的な支配者としての絶対的な強者感だった。
アウレリアの震える告白を受け、ヴァレリウスは満足げに小さく頷いた。その冷徹な視線は、次いでベルゼブブへと向けられる。
「マルクス。貴様はどうだ? 貴様の評価を述べろ」
ヴァレリウスの姿を直視した時からマルクスは、トビーがかけた話術の影響が水で流れるように消え去り、その絶対的な威厳の前に、ただの弱い老人に成り下がっていた。彼の体はガクガクと震え、椅子に座りながらも、今にも崩れ落ちそうだった。
マルクスは発言を求められ、何とか口を開こうとする。しかし、顎の震えが激しすぎて言葉にならない。
「あ、あ、あ、ヴァ、ヴァレリウス……さま……」
マルクスが無理やり声を発しようと顎をガクガクと震わせたその瞬間、口の中からガタッと音がして、入れ歯が勢いよく宙に飛び出した。
「フガ、フガフガフガ!」
空気を切って飛んだ入れ歯は、絨毯の上に落ち、マルクスの口からは意味不明な音だけが漏れる。さきほどまでトビーと対等に渡り合っていた貫禄は完全に消え失せ、彼はただ老いぼれたよぼよぼの老人の姿を晒した。
ヴァレリウスは、その情けない失態を前に、眉1つ動かさなかった。ただ、深く、呆れたような溜息を吐く。
「もうよい、マルクス」
その声には、怒りさえ含まれていなかった。ただの無関心な一言だった。マルクスは、その一言を聞くと、安堵と恐怖がないまぜになった嗚咽を漏らし、目に涙を流しながら床に頭を深く下げた。ヴァレリウスは、闇の王の座からトビーを見下ろす。その声は、場にあるすべての空気を凍らせた。
「エドワード。お前が何かを企んでいるのは、最初からわかっていた。だが、ワシは敢えてお前を泳がせ、自由を与えていた。どうしてワシを裏切ったのだ?」
ヴァレリウスの恫喝に対し、トビーの動揺は隠せない。彼は、ヴァレリウスの質問を無視し、自ら抱えていた疑問をぶつけた。
「お前は……いつからそこにいたのだ?」
その問いに答えたのは、トビーの脇に立つシュペーアーだった。彼は心底楽しそうな、裏切者の笑みを浮かべる。
「その質問は私が答えましょう」
シュペーアーは、もはやトビーを軽蔑の眼差しで見ている。
「あなたが馬車でこの場へ運ばれた直後、私はすぐにヴァレリウス様に報告にいったのです。すると、ヴァレリウス様もぜひとも子供の演劇を観てみたいとおっしゃいましたので、私がご招待申し上げたのです」
シュペーアーは一歩前に進み出た。
「エドワード様、あなたは実に素晴らしい才能の持ち主です。緻密な計算を行い、人を、環境を、すべてを演出の道具として使いこなす様は、まさに神業でしょう。しかし、ヴァレリウス様の御前では、それは子供の演劇会となってしまうのです」
シュペーアーの残酷な言葉は、トビーの胸を突き刺す。
「王都の全ては、ヴァレリウス様の影響下にあると言っても過言ではありません。あなたがどんな手を使おうとも、誰も、ヴァレリウス・オーガスタス・アイゼンブラント公爵――すなわち、現国王の兄に畏怖しない者などいないのです。あなたがどうあがいても勝てる相手ではなかった」
トビーは、自分がヴァレリウスの手のひらの上で、ただ踊らされていた道化であったことを悟った。しかし、トビーの瞳の奥、妹を助けるという魂の火はまだ消えていなかった。彼は、震える膝をどうにか踏ん張り、最後の悪あがきを開始する。
「……俺を、殺すのか? ヴァレリウス!」
トビーは声を絞り出した。
「俺は、まだまだ利益を生み続けるぞ。あのアルトというガキをうまく使えば、錬金術のようにゴミを金に変えることができるのだ!俺は、お前の金庫番として使えるはずだ!」
ヴァレリウスの表情は動かない。静かに言い返す。
「あのガキは使えるな。だが、お前はもう必要ない」
「まて!アイツを最大限に活かして使えるのは俺だけだ。お前の威圧による先導には、致命的な弱点があるだろう!」
トビーは最後の交渉を挑む。
トビーの最後の切り札、すなわち【威圧による先導の弱点】の指摘に対し、ヴァレリウスは微動だにしなかった。その声は深海の氷のように冷たいままだ。
「ワシの職業である先導者に、弱点などない」
その断言は、トビーの必死な言葉を無価値なものとして切り捨てた。だが、トビーはここで引けば死ぬ。彼は既にヴァレリウスへの敬意を捨て去っていた。
「嘘をつけ!」
トビーは血が滲むほど拳を握りしめた。
「威圧によって服従した者は自分の意思で行動ができなくなり、自身の力を最大限に引き出すことができなくなる!それが先導者、の致命的な欠陥だ!」
トビーは、なりふり構わず、ヴァレリウスの最も強固な支配構造を揺さぶりにかかる。
「アルトはまだ成長過程だ。アイツは感情によってさらに進化する。俺の話術士のスキルなら、アイツの心を操り、奴を最高の道具としてまだまだ成長させて、お前に最大限の利益を与えることができるはずだ」
トビーは、自分の利用価値を冷静かつ最大限に提案する。
「お前には野望があるのだろう。王都を裏で支配するなど、その野望を叶えるための布石でしかないはずだ。俺なら、お前の究極の野望を果たすための手伝いをすることができる。だから、俺を死ぬまで使い続けろ!」
ヴァレリウスは、トビーの必死な訴えに、初めて小さく、冷笑的な笑みを浮かべた。その笑みは、トビーが勝利を確信した時のものよりも遥かに冷酷で恐ろしい。
「フッ……確かにワシの野望を成就するには、まだまだ資金と手駒が不足だ。あのアルトという少年は使える。その評価は正しい」
ヴァレリウスはトビーの主張を一部認めながら、その言葉の端々には嘲りが含まれていた。
「だが、ワシの情報によると、アルトは借金を返し終えれば、お前の元を去る契約を交わしているはずだろう。お前の嘘の戯言が、このワシに通用すると思っているのか? 身の程を知れ、エドワード!」
ヴァレリウスは激しく恫喝した。トビーは顔から動揺を拭い去り、狂気を帯びた眼差しで言い返す。
「ヴァレリウス、俺を舐めるな。アルトの心は、既に掌握済みだ。あのガキにとって、俺は王都で唯一、心の底から慕う兄なんだ。アイツは一生、俺の金のなる木として生き続ける運命にあるのだ!」
トビーの、友を完全に道具として断言する言葉を聞いたヴァレリウスは、再び大声で冷たく笑った。その笑い声は、王都の闇の底で響く不協和音のようだった。
「アッパレだ。お前は、ワシをもお前の劇場に引きずり込むつもりだな。だが、覚えておけ。所詮、お前の職業はありふれた一般職。ワシのようなレア職業の前に、お前の劇場はただの砂上の楼閣だ」
ヴァレリウスは、冷笑を止めることなく、部屋の奥の暗闇に向かって声を発した。
「おい。もう姿を見せてもいいぞ」
その声に呼応するように、部屋の隅の影から、一人の少年が涙目で顔を歪ませながら、よろめきつつ姿を現した。
「ぼ……僕は、本当にお前のことを王都でできた唯一の友達だと思っていたんだぞ。トビー……また僕を騙していたのか」
そこに立っていたのは、トビーの最も重要な道具であり、トビーの復讐の鍵である、アルトだった。ヴァレリウスの言葉と、トビーの冷酷な本性を同時に突きつけられたアルトは、心底からの絶望に打ちひしがれ、その場に立ち尽くしていた。
4
あなたにおすすめの小説
隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
無能と追放された鑑定士、実は物の情報を書き換える神スキル【神の万年筆】の持ち主だったので、辺境で楽園国家を創ります!
黒崎隼人
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――勇者パーティーの【鑑定士】リアムは、戦闘能力の低さを理由に、仲間と婚約者から無一文で追放された。全てを失い、流れ着いたのは寂れた辺境の村。そこで彼は自らのスキルの真価に気づく。物の情報を見るだけの【鑑定】は、実は万物の情報を書き換える神のスキル【神の万年筆】だったのだ!
「ただの石」を「最高品質のパン」に、「痩せた土地」を「豊穣な大地」に。奇跡の力で村を豊かにし、心優しい少女リーシャとの絆を育むリアム。やがて彼の村は一つの国家として世界に名を轟かせる。一方、リアムを失った勇者パーティーは転落の一途をたどっていた。今さら戻ってこいと泣きついても、もう遅い! 無能と蔑まれた青年が、世界を創り変える伝説の王となる、痛快成り上がりファンタジー、ここに開幕!
「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ
天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。
彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。
「お前はもういらない」
ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。
だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。
――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。
一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。
生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!?
彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。
そして、レインはまだ知らない。
夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、
「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」
「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」
と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。
そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。
理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。
王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー!
HOT男性49位(2025年9月3日0時47分)
→37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)
追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした
新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。
「ヨシュア……てめえはクビだ」
ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。
「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。
危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。
一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。
彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。
俺の好きな人は勇者の母で俺の姉さん! パーティ追放から始まる新しい生活
石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが別に気にも留めていなかった。
ハーレムパーティ状態だったので元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、三人の幼馴染は確かに可愛いが、リヒトにとって恋愛対象にどうしても見られなかったからだ。
だから、ただ見せつけられても困るだけだった。
何故ならリヒトの好きなタイプの女性は…大人の女性だったから。
この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。
勿論ヒロインもチートはありません。
他のライトノベルや漫画じゃ主人公にはなれない、背景に居るような主人公やヒロインが、楽しく暮すような話です。
1~2話は何時もの使いまわし。
亀更新になるかも知れません。
他の作品を書く段階で、考えてついたヒロインをメインに純愛で書いていこうと思います。
さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。
ヒツキノドカ
ファンタジー
誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。
そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。
しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。
身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。
そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。
姿は美しい白髪の少女に。
伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。
最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。
ーーーーーー
ーーー
閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります!
※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す
名無し
ファンタジー
パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる