男女比5対1の女尊男卑の世界で子供の頃、少女を助けたら「お嫁さんになりたい!」と言って来た。まさか、それが王女様だったなんて……。

楽園

文字の大きさ
1 / 24

1話 灰色の世界と秘密

しおりを挟む
 神はサイコロを振って1が出たら性別を女にしているのだろうか!?
 この世界では、六人に一人しか「女」がいない。
 そんないびつな確率論が、俺たちの世界のすべてを歪めている。
 女は希少だ。
 
 女は「産む性」として、社会の絶対的な立場にいる。
 そして男は――俺たちは、「選ばれる性」だ。
 男の価値は、いかに優れた女に見初められ、その「所有物」になれるかどうか。
 それがすべて。
 
 公爵家の「正夫」になれば、その男の一族は百年安泰。
 伯爵家の「側夫」にでも潜り込めれば、万々歳。
 男たちは、女に選ばれるためだけに、剣を磨き、魔術を学び、顔を磨く。
 
 俺は、アルト・フォン・キルシュヴァッサー。
 しがない没落貴族の一人息子で十七歳。
 そして、この世界の「常識」に、どうにも馴染なじめない男だ。
 ……なぜなら、俺には「前世」の記憶があるからだ。
 男女比がほぼ一対一だった、あの「日本」という国の記憶が……。
 
 だからこそ、この世界の在り方が、奇妙に映ってしまう。
 俺の家庭は、その「常識」とやらに見事に食い荒らされた。
 俺が十歳の時、俺の母親は、父を捨てた。
 
 俺の母親は、別の「男」にかれたのだ。
 相手は、王都でも有名な、とある有名侯爵家の「イケメン」の嫡男だった。
 まだ若いくせに、有力貴族の女たちから引く手あまたの「超優良物件」だったらしい。
 そんな男が、何を思ったか、うちの領地を訪れ、俺の母親を見つけた。
 希少な「女」である母は、その「超優良物件の男」に一目で惚れ込んだ。
 そして、俺たち家族を捨てて、その男の側室になることを選んだ。
 
 その男の家――つまり、彼の正室も、希少な「女」(俺の母)がタダで手に入るならと、喜んで受け入れたそうだ。
 父は、必死に抵抗した。
「俺の妻だ!」と。
 
 だが、母は静かに首を振った。
「ええ、でも、あちらのほうが“良物件”だわ。あなたと違って、彼は美しく、将来性があるもの」
 結局、父は「希少な女を満足させられない、甲斐性のない夫」という烙印を押され、すべてを失った。
 
 愛だの恋だの、なんて言ってられない。この世界では、あまりに力関係が不均衡だ。
 理不尽な現実だと思う。
 それ以来、父は壊れた人形のように、俺に同じことばかり言うようになった。
「アルト。お前、勉強だけはしておけ」
 
 父は、美貌も家柄も、すべて「上」の男に妻を奪われた。
 そんな父が、唯一「上」の連中に勝てる(と思い込んでいる)ものが、「知識」だった。
「いいか、アルト。顔や血筋は生まれつきだ。だが、頭脳なかみは違う。勉強しろ。勉強は誰にも奪われない、お前だけの武器だ」
 
 そして、俺はその教えを、忠実に守った。
 それが、妻に去られ、打ちひしがれた父が、俺に唯一望んだことだったからだ。
 勉強だけは、真面目にやった。
 
 この世界の歴史、政治、魔法理論。前世の知識も動員して、俺はあらゆる学問をむさぼるように吸収した。
 だが、俺には「勉強」以上に、父に隠していることがある。
 俺の「武器」は、知識だけじゃない。
 俺には、この世界の誰にも言えない秘密がある。
 この世界において、「魔力」は女の特権だ。
 
 強大な魔力を持つ女こそが、王族や上級貴族として君臨する。
 男の魔力など、ほぼないに等しい。
 だが、俺は唯一の例外だった。俺の魔力は――無限だ! 文字通り、底がない。
 
 女の頂点である女王陛下の魔力すら俺に比べれば大したことはない。
 俺は、この力を徹底的に隠している。
 もしバレたらどうなるのだ!?
 女たちに「選ばれる」?
 そんな生易しいものじゃない。
 
 俺は「希少な男」から、「危険な存在」になる。
 女の優位性を根底から覆しかねない俺は、程の良い研究材料として実験体にでもされるだろう。
 ……少なくとも、今後、父と静かに暮らすことなど、もうできなくなる。
 
 絶対に、知られてはならない。
 知識も魔力も隠し、ただ、この没落した屋敷で、父と二人、静かに、誰にも関わらず生きていく。
 
 それが俺の唯一の望みだった。
 そんな俺にも、一つだけ、胸の奥にしまってある、色せた思い出がある。
 いや、思い出というより、大いなる「秘密」だ。
 もう十年も前。俺が六歳の頃のことになる。
 俺は、領地の森で、一人泣いている少女を見つけた。
 
 服は泥だらけで、上等そうな生地がビリビリに破れていた。
 どうやら、崖上からの落石に巻き込まれたらしかった。
 腕はありえない方向に曲がり、足は血まみれだった。
 大怪我だ。普通の子供なら、死んでいてもおかしくない。
 
 俺は目の前の「死」に、前世の記憶が警鐘を鳴らした。
 周囲に誰もいないことを確認し、俺は、「彼女」の傷口に手をかざした。
 
「(ヒール)」
 男には使えないはずの、神聖魔法。
 俺の無限の魔力が、淡い光となって彼女を包む。
 骨は繋がり、血は止まり、傷は跡形もなく消えた。
 彼女は、何が起きたか分からず、泣きじゃくりながら俺を見ていた。
 
 俺は、人差し指を口に当てて、静かに言った。
「いいか。今のは秘密だ。誰にも話しちゃダメだ。親にもだ」
 六歳児なりに、必死だった。
 
「これは、俺と君だけの秘密だ。……いいね?」
 彼女は、コクコクと必死に頷いて、そして、こう言った。
「……ありがとう。私、将来あなたのお嫁さんになりたい!」
 
 不思議な子だった。
 
 命の恩人(俺)に「秘密」を強要された直後に、言うセリフだろうか。
 あの時、彼女が着ていた服の「破片」は、素人目にも分かるほどの上質な生地だったから、相当な家柄の娘だったのだろう。
「そういうのは、いらない」からとだけ返事をした。
 
 結局、彼女は迎えの大人たちにすぐ見つかって、連れていかれた。
 名前も聞けなかった。
 
 あの時の少女も、今頃十六歳か。
 きっと、どこかの高貴な女性として、立派にやっていることだろう。
 あの時の約束なぞ忘れて、今頃は自分に相応しい、立派な婚約者を迎えているに違いない。
 
 それが、この世界の「女」の生き方だからな。
 俺は、寝転がっていたベッドから起き上がる。
 
 そういえば、三年ほど前だったか。
 王家から突然、うちの家に「キルシュヴァッサー家に、新たに辺境の領地を与える」という、辞令が届いた。
 没落していた我が家には、あまりに不釣り合いな話だった。
 
 父は、あの時ばかりは壊れた人形から生気を取り戻したように喜んでいた。
「見たかアルト! やはり知識だ! 私が長年執筆していた論文が、ついに認められたんだ!」と。
 ……まあ、父さんの論文が認められたとは思えないが、俺は黙って頷いておいた。
 
 そして昨日。
 その「領地」の件の“続き”であるかのように、一通の羊皮紙が届いた。
 俺の手には、その羊皮紙がある。
「王立学園」からの、推薦入学許可証。
 俺は、その推薦状を睨みつけた。
 
 俺は、なぜか、その推薦状を見た時、あの日の森の少女を思い出した。
 あの時、彼女が言った「お嫁さんになりたい」という言葉が、なぜか懐かしく感じられた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

貞操逆転世界で出会い系アプリをしたら

普通
恋愛
男性は弱く、女性は強い。この世界ではそれが当たり前。性被害を受けるのは男。そんな世界に生を受けた葉山優は普通に生きてきたが、ある日前世の記憶取り戻す。そこで前世ではこんな風に男女比の偏りもなく、普通に男女が一緒に生活できたことを思い出し、もう一度女性と関わってみようと決意する。 そこで会うのにまだ抵抗がある、優は出会い系アプリを見つける。まずはここでメッセージのやり取りだけでも女性としてから会うことしようと試みるのだった。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます

neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。 松田は新しい世界で会社員となり働くこととなる。 ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。 PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。 ↓ PS.投稿を再開します。ゆっくりな投稿頻度になってしまうかもですがあたたかく見守ってください。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

男が少ない世界に転生して

美鈴
ファンタジー
※よりよいものにする為に改稿する事にしました!どうかお付き合い下さいますと幸いです! 旧稿版も一応残しておきますがあのままいくと当初のプロットよりも大幅におかしくなりましたのですいませんが宜しくお願いします! 交通事故に合い意識がどんどん遠くなっていく1人の男性。次に意識が戻った時は病院?前世の一部の記憶はあるが自分に関する事は全て忘れた男が転生したのは男女比が異なる世界。彼はどの様にこの世界で生きていくのだろうか?それはまだ誰も知らないお話。

貞操逆転したようなのでとりあえず女を叩く

やまいし
ファンタジー
じしんの優位性を生かして女叩きをする男の話。

貞操逆転世界に転生してイチャイチャする話

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が自分の欲望のままに生きる話。

処理中です...