「隠れ有能主人公が勇者パーティから追放される話」(作者:オレ)の無能勇者に転生しました

湖町はの

文字の大きさ
32 / 93
第4章 モンスター襲来

第32話「ベルンハルトとエステル」

しおりを挟む
 決めないといけないことがある。
 

「まずは……グレン。朝ごはんなににする?」
 
「え、伯爵の話は?」

 エステルは揶揄するわけでもなく、単にそう思ったから言いました、という感じの声音で問いかけてきた。

 ……純粋だなぁ。バカだからかぁ~。

 愛されて育ったんだろうね。親を見捨てる選択肢なんて持ってないぐらい。

「後回しだ。あの人はオレの人生に要らないから」

 朝ごはんの方が大事。

「ふーん……ベルンハルト様にとっては唯一の家族なのに。変なの……」

 頬杖をついて首を傾げる姿は子どもみたいだ。

 なんだこうして見れば中々かわい……いや可愛くはないな。推定百八十五センチ、十七歳の男が可愛いはずがない。

「ベルはなにが食べたいですか?」

 こっちの百八十一センチ(『追放皇帝』の中の設定だが、このグレンも多分それぐらい)、十八歳の大型犬は可愛いけど。
 ……誰が何と言おうと可愛い。もういいよ惚れた欲目で。

「ホットケーキ。ふわふわのやつ」

「カフェオレもつけるのでもう一回言ってください。ベルの口からふわふわって出てくるのすごい可愛い……好きです」

「うわぁ……よくおれの話聞いた後にそんなのん気でいられるね……特に黒髪。頭おかしいんじゃないの……」

 エステルはずっとぶつぶつ文句を言ってるが……こいつ、いつ出ていくんだろ。
 全部情報引き出せた(こいつが勝手に吐いた)から、もうどっか行ってほしいんだけど。

 
「エステル。お前さぁ……協力って、具体的にオレたちにどうしてほしいわけ」

 抱きついてくるグレンの髪を撫でながら、ついでに尋ねる。
 別に訊かなくてもいいんだけどさ、訊かないと帰りそうにないんだよなぁ。

「え……いや、単にあんたがロニーに勝ったら、あいつは伯爵にも領主にもなれなくなるから、それで……」

「つまりノープランなわけだ」

 もうちょっとまとめてから乗り込んでこいよ。めんどくせ~~。

「ベル。どうしましょうか。とりあえず犯人もわかったことですし、捕らえます? それとも泳がせますか」

 グレンはもう完全にエステルのことは無視する気でいるみたいだ。オレもそうしよっかな。

「オレとしては……伯爵が死んで、ロニーを捕らえて、かつオレは伯爵家から離れられるのがベストなんだけど。まあ面倒だし……一応止めるか」


 これからやること。

 まるいち。伯爵殺しを止める。
 まるに。ロニーを捕えて王都に連行。



 ◇◇◇



「そんなわけで、エステル。このままだとお前の家潰れるけどいい?」

 グレンがスキルで焼いてくれたふわふわホットケーキ(おいしい)を食べながら告げる。

「いいわけなくない?? え、なんで?」

 ターゲットに情報を漏らすのがどういう結果を生むのかを考えていなかったらしいエステルは、途端にうろたえだした。

 え、それもわかってなかったんだ。
 さすがにオレもわかってたのに??

「……グレン、説明してあげて」

 オレだとこの馬鹿にもわかるように説明してあげられる気がしない。

「貴方はお優しいですね、ベル。――エステル・シャウラ。お前の言った通り、子爵家が本当にベルンハルトを陥れミルザム伯爵家と伯爵領を乗っ取ろうとしていると言うのなら、それは反逆だ」

「……反逆」

「まず言うまでもなく、伯爵とその長子であるベルンハルトへ害を成すのは伯爵家への反逆。ひいては王家への反逆にもなる」

 そう。ミルザム伯爵は、王家から領土を預かり、土地を治めている。
 その伯爵領をモンスターに襲わせて、領民に被害を出す計画を立てていたのだから……これはもう立派に犯罪。王家への反逆罪。

 なのでオレたちはロニーを捕らえた後は王都へ連行する必要があるわけだ。
 
 で、彼一人の犯行でないことはエステルが証言してしまったので――まあエステルの証言がなくてもこんな規模のことが一人の犯行だとは判断されないだろう――ロニーのみならずシャウラ子爵家もチャンチャン♪


 グレンに説明されてようやく自分の置かれた状況を理解したらしい。
 エステルは立ち上がり、叫ぶ。

「っ、冗談じゃない……!! なんでおれまで……」

「お前が子爵家の人間だから。ああ、あとお前が馬鹿だからかな」

 フォークをその綺麗な顔に突きつけるようにして嘲笑ってやれば、エステルは拳を握りしめたままオレを睨みつけた。

 
「なぁ……エステル。温情が欲しいか?」

 可哀想なエステルに向かって、今度は慈悲深く微笑んでやる。

「温情……?」

「ああ。オレは“このままだと“と言っただろう? つまり、お前が……子爵家が助かる道をオレが用意してやれるんだ」

「なら……っ」

 よし、食いついた。

「ただし、条件がある」

「条件……?」

「ああ。……グレン、おいで」

 おいでもなにも隣に座ってるんだけど、なんとなく雰囲気出すためにね。

「ベル?」

「この男が、お前に言った言葉……お前は、気にしてないって言ってたよな」

 ソファーの上で行儀悪く膝を立てて、グレンと視線を合わせた。
 
 輝く黄金の瞳を覗き込んで、笑う。

 グレン。――オレの大好きな、理想の主人公。

「でもオレは。まだ……許してないんだ」

 オレのヒーローを貶したこの男を。


「そこに跪け――エステル・シャウラ」

 ブルーノ・ミルザム。ベルンハルトの父の声音を真似て、命令する。

「膝をついて、お前がグレン・アルナイルへの非礼を心から詫びるなら……ロニーを排除して、お前を助けてやろう」

「っ……」

 エステルは屈辱に顔を真っ赤にして黙り込む。
 けれど最終的には崩れ落ちるようにその場に膝をつき、頭を下げた。

「グレン・アルナイル……貴殿への非礼の数々を、お詫び申し上げます」


 ――いい趣味してるねぇ……赤谷せきやくん。

 久しぶり、井上さん。別にオレも好きでやってるわけじゃないよ。ただ……“ベルンハルト・ミルザム“ならこうするべきかなって、思っただけ。

 ――その割にはノリノリだったじゃん。いやぁ……いいね。彼は実にいい受けだ。

 
 井上さんはそれだけ言い残すと消えた。……まあ今回は実体なしだったからイマジナリー井上さんだったかもだけど。

 え、なにオレ自然に“実体あり“と“イマジナリー“の井上さんがそれぞれいるのを受け入れてるんだろ……。
 慣れってこわ……。

「ベル……その」

「ん? ああ、エステル。もう頭あげていいよ」

 グレンに促されて、エステルをかなり放置してたことに気づく。
 顔を上げたエステルは不貞腐れてそっぽを向いた。
 うん……わかってたけど反省してないわ。

「さて、エステル。お前と、お前の両親。シャウラ子爵家を救う方法は簡単だ」

 罪のなすりつけ。――彼らがオレにやろうとしていたことを、ロニーに返してやればいい。
 

「全てはロニー・ミルザム一人の企てだと、このオレが――“勇者様“が王都で証言してやろう」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!

夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。  ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公

異世界転移して出会っためちゃくちゃ好きな男が全く手を出してこない

春野ひより
BL
前触れもなく異世界転移したトップアイドル、アオイ。 路頭に迷いかけたアオイを拾ったのは娼館のガメツイ女主人で、アオイは半ば強制的に男娼としてデビューすることに。しかし、絶対に抱かれたくないアオイは初めての客である美しい男に交渉する。 「――僕を見てほしいんです」 奇跡的に男に気に入られたアオイ。足繁く通う男。男はアオイに惜しみなく金を注ぎ、アオイは美しい男に恋をするが、男は「私は貴方のファンです」と言うばかりで頑としてアオイを抱かなくて――。 愛されるには理由が必要だと思っているし、理由が無くなれば捨てられて当然だと思っている受けが「それでも愛して欲しい」と手を伸ばせるようになるまでの話です。 金を使うことでしか愛を伝えられない不器用な人外×自分に付けられた値段でしか愛を実感できない不器用な青年

転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。 目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。 同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります! 俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ! 重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ) 注意: 残酷な描写あり 表紙は力不足な自作イラスト 誤字脱字が多いです! お気に入り・感想ありがとうございます。 皆さんありがとうございました! BLランキング1位(2021/8/1 20:02) HOTランキング15位(2021/8/1 20:02) 他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00) ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。 いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!

【本編完結】異世界で政略結婚したオレ?!

カヨワイさつき
BL
美少女の中身は32歳の元オトコ。 魔法と剣、そして魔物がいる世界で 年の差12歳の政略結婚?! ある日突然目を覚ましたら前世の記憶が……。 冷酷非道と噂される王子との婚約、そして結婚。 人形のような美少女?になったオレの物語。 オレは何のために生まれたのだろうか? もう一人のとある人物は……。 2022年3月9日の夕方、本編完結 番外編追加完結。

性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000の勇者が攻めてきた!

モト
BL
異世界転生したら弱い悪魔になっていました。でも、異世界転生あるあるのスキル表を見る事が出来た俺は、自分にはとんでもない天性資質が備わっている事を知る。 その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。 魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。 その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?! ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。

神様の手違いで死んだ俺、チート能力を授かり異世界転生してスローライフを送りたかったのに想像の斜め上をいく展開になりました。

篠崎笙
BL
保育園の調理師だった凛太郎は、ある日事故死する。しかしそれは神界のアクシデントだった。神様がお詫びに好きな加護を与えた上で異世界に転生させてくれるというので、定年後にやってみたいと憧れていたスローライフを送ることを願ったが……。 

【本編完結】最強S級冒険者が俺にだけ過保護すぎる!

天宮叶
BL
前世の世界で亡くなった主人公は、突然知らない世界で知らない人物、クリスの身体へと転生してしまう。クリスが眠っていた屋敷の主であるダリウスに、思い切って事情を説明した主人公。しかし事情を聞いたダリウスは突然「結婚しようか」と主人公に求婚してくる。 なんとかその求婚を断り、ダリウスと共に屋敷の外へと出た主人公は、自分が転生した世界が魔法やモンスターの存在するファンタジー世界だと気がつき冒険者を目指すことにするが____ 過保護すぎる大型犬系最強S級冒険者攻めに振り回されていると思いきや、自由奔放で強気な性格を発揮して無自覚に振り回し返す元気な受けのドタバタオメガバースラブコメディの予定 要所要所シリアスが入ります。

【完結】悪妻オメガの俺、離縁されたいんだけど旦那様が溺愛してくる

古井重箱
BL
【あらすじ】劣等感が強いオメガ、レムートは父から南域に嫁ぐよう命じられる。結婚相手はヴァイゼンなる偉丈夫。見知らぬ土地で、見知らぬ男と結婚するなんて嫌だ。悪妻になろう。そして離縁されて、修道士として生きていこう。そう決意したレムートは、悪妻になるべくワガママを口にするのだが、ヴァイゼンにかえって可愛らがれる事態に。「どうすれば悪妻になれるんだ!?」レムートの試練が始まる。【注記】海のように心が広い攻(25)×気難しい美人受(18)。ラブシーンありの回には*をつけます。オメガバースの一般的な解釈から外れたところがあったらごめんなさい。更新は気まぐれです。アルファポリスとムーンライトノベルズ、pixivに投稿。

処理中です...