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第4章 モンスター襲来
第33話「ベルンハルトと【予言】」
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なんてことはない。
単にトカゲの尻尾切りをすればいいだけの話だ。
勿論、こんな大規模な犯行が十七歳の少年一人の企てでした、なんて誰も本心からは信じないだろう。
そもそもロニーはもう戸籍上ミルザムの人間なわけで。下手すればミルザム伯爵家も咎められる可能性はある。
でも、オレが。
“当代勇者様にして王家の信任厚きミルザム伯爵家の長子、ベルンハルト・ミルザム様“が――悪いのは、ミルザム伯爵家に入り込んだネズミ一匹だけだと断言すれば誰もなにも言えなくなるのだ。
真実なんてものは始めから存在しない。
より権力を持った人間の言葉で後から作り上げられていくものなんだよ。
「事を荒立てるのはあの男……ブルーノも望まないだろうし、オレに感謝こそすれども、邪魔立てはしないさ」
まあ……“未知の魔法で領民を脅かそうとしていた犯人を未遂で捕らえた素晴らしい領主様“だ、と自分の功績にはするかもしれないが。
「さて……グレン。この計画に穴は?」
「ありません。完璧ですよ、さすがはベルです。ああでも……念のため――」
グレンは柔らかく優しい声でオレを褒め称えたその口で。
「【予言】――“この者と、その血を継ぐ者がこの先、ベルンハルト・ミルザムの不利益になる行いをすることがあれば、その身は即座に石となって砕かれるだろう“」
恐ろしい予言をエステルに与えた。
……え、なにそれ。そんなんありなの??
「と、まあ……こんな感じで、シャウラ子爵家の人間に片っ端から【予言】を使えばより安全ですね」
事後報告……。
てか今の例のつもりなんだ。えぐいな。
「うん……そうだね……」
「あ、もしかして石じゃない方がよかったですか? ネズミになって食われろとか、羽虫に変われとか……」
「ああいや……石でいいよ」
そんなとこにこだわりはないです。断じて。
「え……なに今の……なんであんたがベルンハルト様のスキルを……!! あんたのスキルは【防衛】……ただの盾のはずだろ!!」
放心していたエステルが、ハッとなってグレンを見上げる。
おお。すごい……チート主人公へのテンプレみたいな反応がようやく見れた……ちょっと嬉しい。
「これが俺の真のスキル ――【皇帝】です。その気になれば貴方のスキルだって使えますよ」
グレンもそれっぽい返ししてる。
わーい原作(?)再現だーーー!!
◇◇◇
エステルを追い返してから、オレとグレンは話し合いを始めた。
「ベル。まずは謝ります――貴方のスキルを、何度もお借りして……本当に申し訳ありません」
「え? なにが??」
初手謝罪……。
借りるっていうか、【皇帝】ってそういうスキルなんだからしょうがなくない? なんで謝ってんの……。
「だって……あの力は、本来貴方にだけ与えられたものなのに……俺、何度も軽々しく使ってしまって……」
まあ便利だもんね。
オレの身体だと反動で死にそうな予言連発してもグレンなら大丈夫なんだし、いくらでも使えばいいと思うよ。
と、まあ……オレの方はそういう気持ちなんだけど。グレンとしてはそうは思えないんだろう。
神から授かった【能力】は、その人間のアイデンティティ。誇り。
そういう考えの人間も少なくないはずだ――というかベルンハルトは多分そう。
だから、ベルンハルトに与えられたスキルを自分が使ってしまうことに、グレンは罪悪感を覚えているわけだ。
さて……どうしたものか。
「オレを守るためなんだろう? だって、【皇帝】はオレのためにしか使えないんだから」
「はい……でも……」
慰めてみたが、こうかはいまひとつのようだ。
――肉体でお慰めするのはどうかな?
井上さん。ステイ……と言いたいところだが、それかもしれない。
――え、マジで言ってる??
マジマジ。だから二人にして。
「グレン……おいで」
腕を広げて、呼びかける。
オレの身体は、グレンのように逞しくもなければ、女の子のように柔らかくもない。
だけどこの腕だって、誰かを……好きな人を抱きしめることぐらいはできる。グレンは、望んでくれる。
「ベルンハルト……」
グレンはオレの胸元に顔を埋めた。
「なぁ、グレン。お前にとってオレはなんだ?」
「ベル……ベルンハルト様……貴方は、俺の全てです。俺の心は貴方のためにだけあるんです……」
胸元が濡れていく。案外泣き虫だな、ヒーロー。
「そうだ。オレはお前の全て。ならお前も……オレの全部だよ、グレン」
――お前は、オレに全てを与えるんだ。
――オレの奴隷に、父に、友人に……その全てにお前がなれ。
頭の中に流れ込んでくる――いや、よみがえってきたのは、ベルンハルトの言葉だ。
グレン・アルナイルにとってはベルンハルト・ミルザムが全てで、その逆も然り。
「お前の神はオレで……オレの神はお前だ。そうだろう?」
「はい……ベルンハルト」
抱擁をといて、唇を交わす。
「グレン・アルナイル――お前には、オレの全てを行使する権利があるんだ。この肉体も、スキルも、心も……お前のものだ」
吐息の隙間の囁きは、自分でも驚くほどに淫らで――それでいて、神聖な響きを持っていた。
「好きです、愛してます……貴方のためなら俺は、なんだってします」
「オレも、愛してる……グレン……」
ああ――本当に、オレが始めからベルンハルトだったらよかった。
そしたらこんな風に、嘘を抱えたまま彼と触れ合う必要はなかったんだ。
ごめん、グレン。
ごめん、ベルンハルト。
終わりがきたら、ちゃんと返す。全部……返すから。
「あっ……グレン……」
「ベル、ベル……」
今だけ、オレにも与えて。与えさせて。
仮初の愛を――。
――めちゃくちゃBLみたいなこと言うじゃん。
井上さん!!! 二人にしてって言ったよね!!??
あとオレめっちゃシリアスな空気出したんだから空気読んで!!!
――井上さんはハピエンBLの伝道師だから……シリアスは受け入れられないんだよねぇ。
知らねぇよ。
――てかさぁ、NTRについてずっと悩むのやめよ? いいじゃん。セックスしまくってればそのうちどうでもよくなるって。
なんないです。
――あと、言いたかないけど、そんなことしてる場合じゃなくない? 早くしないと伯爵死ぬよ??
あ、忘れてた。
「……っグレン、本邸に行くぞ」
全部さっさと終わらせて――そんでめちゃくちゃセックスするからな!!!!
――赤谷くん、よく言った!!!
イマジナリー井上さんの声援を浴びながら、オレは本邸に向かうことに――。
「あ、毒殺ならもう防いでおきました」
……よーし。もう驚かないぞ~~!!
グレンくんはチートだもんな……!! 遠隔で毒殺の阻止ぐらい余裕……。
「いや、そんなことできるんだ……」
むりだ。スルーするには色々訊きたいことが多すぎる……。
単にトカゲの尻尾切りをすればいいだけの話だ。
勿論、こんな大規模な犯行が十七歳の少年一人の企てでした、なんて誰も本心からは信じないだろう。
そもそもロニーはもう戸籍上ミルザムの人間なわけで。下手すればミルザム伯爵家も咎められる可能性はある。
でも、オレが。
“当代勇者様にして王家の信任厚きミルザム伯爵家の長子、ベルンハルト・ミルザム様“が――悪いのは、ミルザム伯爵家に入り込んだネズミ一匹だけだと断言すれば誰もなにも言えなくなるのだ。
真実なんてものは始めから存在しない。
より権力を持った人間の言葉で後から作り上げられていくものなんだよ。
「事を荒立てるのはあの男……ブルーノも望まないだろうし、オレに感謝こそすれども、邪魔立てはしないさ」
まあ……“未知の魔法で領民を脅かそうとしていた犯人を未遂で捕らえた素晴らしい領主様“だ、と自分の功績にはするかもしれないが。
「さて……グレン。この計画に穴は?」
「ありません。完璧ですよ、さすがはベルです。ああでも……念のため――」
グレンは柔らかく優しい声でオレを褒め称えたその口で。
「【予言】――“この者と、その血を継ぐ者がこの先、ベルンハルト・ミルザムの不利益になる行いをすることがあれば、その身は即座に石となって砕かれるだろう“」
恐ろしい予言をエステルに与えた。
……え、なにそれ。そんなんありなの??
「と、まあ……こんな感じで、シャウラ子爵家の人間に片っ端から【予言】を使えばより安全ですね」
事後報告……。
てか今の例のつもりなんだ。えぐいな。
「うん……そうだね……」
「あ、もしかして石じゃない方がよかったですか? ネズミになって食われろとか、羽虫に変われとか……」
「ああいや……石でいいよ」
そんなとこにこだわりはないです。断じて。
「え……なに今の……なんであんたがベルンハルト様のスキルを……!! あんたのスキルは【防衛】……ただの盾のはずだろ!!」
放心していたエステルが、ハッとなってグレンを見上げる。
おお。すごい……チート主人公へのテンプレみたいな反応がようやく見れた……ちょっと嬉しい。
「これが俺の真のスキル ――【皇帝】です。その気になれば貴方のスキルだって使えますよ」
グレンもそれっぽい返ししてる。
わーい原作(?)再現だーーー!!
◇◇◇
エステルを追い返してから、オレとグレンは話し合いを始めた。
「ベル。まずは謝ります――貴方のスキルを、何度もお借りして……本当に申し訳ありません」
「え? なにが??」
初手謝罪……。
借りるっていうか、【皇帝】ってそういうスキルなんだからしょうがなくない? なんで謝ってんの……。
「だって……あの力は、本来貴方にだけ与えられたものなのに……俺、何度も軽々しく使ってしまって……」
まあ便利だもんね。
オレの身体だと反動で死にそうな予言連発してもグレンなら大丈夫なんだし、いくらでも使えばいいと思うよ。
と、まあ……オレの方はそういう気持ちなんだけど。グレンとしてはそうは思えないんだろう。
神から授かった【能力】は、その人間のアイデンティティ。誇り。
そういう考えの人間も少なくないはずだ――というかベルンハルトは多分そう。
だから、ベルンハルトに与えられたスキルを自分が使ってしまうことに、グレンは罪悪感を覚えているわけだ。
さて……どうしたものか。
「オレを守るためなんだろう? だって、【皇帝】はオレのためにしか使えないんだから」
「はい……でも……」
慰めてみたが、こうかはいまひとつのようだ。
――肉体でお慰めするのはどうかな?
井上さん。ステイ……と言いたいところだが、それかもしれない。
――え、マジで言ってる??
マジマジ。だから二人にして。
「グレン……おいで」
腕を広げて、呼びかける。
オレの身体は、グレンのように逞しくもなければ、女の子のように柔らかくもない。
だけどこの腕だって、誰かを……好きな人を抱きしめることぐらいはできる。グレンは、望んでくれる。
「ベルンハルト……」
グレンはオレの胸元に顔を埋めた。
「なぁ、グレン。お前にとってオレはなんだ?」
「ベル……ベルンハルト様……貴方は、俺の全てです。俺の心は貴方のためにだけあるんです……」
胸元が濡れていく。案外泣き虫だな、ヒーロー。
「そうだ。オレはお前の全て。ならお前も……オレの全部だよ、グレン」
――お前は、オレに全てを与えるんだ。
――オレの奴隷に、父に、友人に……その全てにお前がなれ。
頭の中に流れ込んでくる――いや、よみがえってきたのは、ベルンハルトの言葉だ。
グレン・アルナイルにとってはベルンハルト・ミルザムが全てで、その逆も然り。
「お前の神はオレで……オレの神はお前だ。そうだろう?」
「はい……ベルンハルト」
抱擁をといて、唇を交わす。
「グレン・アルナイル――お前には、オレの全てを行使する権利があるんだ。この肉体も、スキルも、心も……お前のものだ」
吐息の隙間の囁きは、自分でも驚くほどに淫らで――それでいて、神聖な響きを持っていた。
「好きです、愛してます……貴方のためなら俺は、なんだってします」
「オレも、愛してる……グレン……」
ああ――本当に、オレが始めからベルンハルトだったらよかった。
そしたらこんな風に、嘘を抱えたまま彼と触れ合う必要はなかったんだ。
ごめん、グレン。
ごめん、ベルンハルト。
終わりがきたら、ちゃんと返す。全部……返すから。
「あっ……グレン……」
「ベル、ベル……」
今だけ、オレにも与えて。与えさせて。
仮初の愛を――。
――めちゃくちゃBLみたいなこと言うじゃん。
井上さん!!! 二人にしてって言ったよね!!??
あとオレめっちゃシリアスな空気出したんだから空気読んで!!!
――井上さんはハピエンBLの伝道師だから……シリアスは受け入れられないんだよねぇ。
知らねぇよ。
――てかさぁ、NTRについてずっと悩むのやめよ? いいじゃん。セックスしまくってればそのうちどうでもよくなるって。
なんないです。
――あと、言いたかないけど、そんなことしてる場合じゃなくない? 早くしないと伯爵死ぬよ??
あ、忘れてた。
「……っグレン、本邸に行くぞ」
全部さっさと終わらせて――そんでめちゃくちゃセックスするからな!!!!
――赤谷くん、よく言った!!!
イマジナリー井上さんの声援を浴びながら、オレは本邸に向かうことに――。
「あ、毒殺ならもう防いでおきました」
……よーし。もう驚かないぞ~~!!
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