「隠れ有能主人公が勇者パーティから追放される話」(作者:オレ)の無能勇者に転生しました

湖町はの

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【番外編】バック・ステージ

グレンくんは18歳① ―第24・25話の舞台裏―

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    ―― side:グレン ――

 
「逆に、弱点を補うためには――『まぐ合わないと出られない空間』を作れば良い」

 その言葉を訊いた瞬間、俺は咄嗟に時間停止のスキルを使った。



 ◆


 
 止まった時間の中。
 “スピカ“を名乗る彼女を睨みつける。

「どういうつもりですか。突然現れて……そのうえ適当なことばかり」

「いや、グレンくんもノリノリだったじゃん」

「合わせたんですよ。俺が貴女の正体を知ってたら変でしょう」

 ベルンハルトにはまだ、彼女と俺が知り合いだと明かすわけにはいかない。
 
「まあね。それより……グレンくん、“追放前夜“にベルンハルトくんに言った言葉、覚えてる?」

 追放前夜?
 色々言ったが……どれのことだ。

「“はじめてでもないでしょうに“って……デリカシーなさすぎない??!!」

 言われて思い出す。確かにあの発言は軽率だった。

「いや、あれは……その、ベルは女性経験はあるはずだから、男に……とかじゃなくて、誰かに触られるのなんか慣れてるでしょう……という意味だったんですけど」

 でも、今考えればあの状況で男に襲われながらなら誤解するのも無理はないか。

「人を勝手に淫乱扱いしてさぁ~! 九十年代のBLじゃないんだからダメだよ。グレンくんは強引系じゃなくてスパダリ目指そう。……あ、その後の発言もアウトだからね」

 その後の発言というと。

 ――“身体を差し出せって、そう……誰かに言われたことがあるのかって、聞いてるんだ“。

「…………最低ですね」

 自己嫌悪に重くため息をついた。

「うん、最低だよ。あのさぁ、ベルンハルトくんの名誉のために言っとくけど。あの子、童貞だし処女だよ」

 固まる。

「――は? “れん“じゃなくて、ベルンハルトがですか?」

「そう」

 ……言われてみれば、女性たちに言い寄られても彼がそれに応えているのはみたことない。
 
 セシリアとドロシーのことはそれなりに好意的に見てたような気がするし、赤谷せきや蓮の頃も人並みに異性への興味があったような気もするんだけどな。

「それどころじゃなかったんだと思うよ」

「まあ……そうですね」

「グレンくん的にはどうなの? ベルンハルトくんの貞操、他の人間に奪われてもいい感じ??」

 他の、人間。

「…………俺に止める権利はありませんよ。でも、俺からベルを奪うんですから、俺よりも強くて、かつ彼と釣り合いが取れるぐらい美しい相手じゃないと許しませんけどね」

「許す気ゼロじゃん。てかさぁ、君より強いってそれ人間じゃないから」

 彼女は苦笑すると、指を鳴らす。

 ――さて、お膳立てしてあげるよ。

 その言葉と共に。
 俺のスキルを上書きするように、空間が変異し、時間が動き出した。


 
 ◆◆◆


 
 『まぐ合わないと出られない部屋』。
 もとい、『セックスしないと出られない部屋』か。ふざけやがって。

 とりあえず色んな魔法を壁に向かって放ってみる。

「壊れませんね」

 腐っても魔王のスキルで生成された空間だけあって、びくりともしない。

「あのクソ猫め……」

 ――お膳立てしてあげるよ。
 
 頭の中に響いた彼女の声を思い出して、思わず口汚く罵った。

「……どうする」

「そうですね……ここは彼女のスキルの中なので、これ以上攻撃すると……壊れても、最悪の場合は元の世界に戻れなくなるかもしれません」

 ベルンハルトが混乱しながらも自分に頼ってくるのを、不謹慎ながら少し嬉しく思いつつ説明する。

 そうだ、ここはいわば“魔王の結界“の中。壊すことは不可能ではないだろうが、その結果はどうなるかは俺にも予想はつかない。

「そうか……」

 ベッドに腰掛け顔を伏せるベルンハルトの姿に罪悪感がわいた。

 俺がちゃんと、あいつに余計なことをしないように言い含めておけばこんなことには……。

「ベル、ごめんなさい……俺の問題に貴方を巻き込んでしまって」

 彼の前に膝をついて、頭を下げる。

「いいって……いやよくないけど、仕方ないし……」

 髪を細い指に撫でられ緩みそうになる表情をどうにか引き締めた。

 ああ……ベル。正直俺はもうこのまま過ごしても構わないです……どうせしばらく経てば彼女も諦めて俺たちを出すでしょうし……。

 この空間の中の様子は、彼女からはわからない。それが彼女のスキルの弱点だ。

 どうせあの女のことだから、この方が手っ取り早いとか情緒のないことを思ったんだろうよ。
 

 【知恵プルーデンス】は、彼女が語ったような用途の限定されたものではない。
 相手のスキル、特性がわかるのは真実だが、生成できる空間の条件に制約はないのだ。

 ――なので、要するにこの部屋は完全に“スピカ“の趣味である。

 
 というか、なにが“スピカ“だ。
 あれだろ、ベルが……蓮が付けた名前考えたヒロイン
 しかし、スピカ真珠星とは……あの女には勿体無いな。いいなぁ俺もベルに名前を付け直してもらいたい。

 そんな思考に耽溺していると、ベルンハルトがこちらをじっと見つめていることに気がつき、顔を上げた。

「ベル?」

 彼は清らかな面貌に不安を浮かべている。

 待っていれば出れる……と言いたいけど、そうすると俺と魔王が知り合いなことがバレるか……。

 どうするべきかを考えあぐねていると、彼が問いかけてきた。

「グレン、質問」

「はい、なんでしょうか」

 尻尾を振る犬のように瞬時に笑顔を作って聞き返すと、彼は自分の隣を手でポンポンと叩く。

「……その前に落ち着かないから、お前もこっち座れ」

 この部屋セックス用空間で、自分を目で見ている男を躊躇いなく隣に座らせるその無邪気さは愛らしいが、心配だ。

 “蓮“にもっと警戒心を教え込んでおくべきだった。

 警戒して欲しい人間の筆頭である俺がそんな心配をするのもおかしな話だが、と思いつつも、彼の言葉に従いベッドに腰を下ろした。

 そんな俺に対して、ベルンハルトは照れるでもなく淡々と問いを投げた。
 
「お前に確認して意味あるかわかんないんだけど……そもそもセックスってなに?」

「……」

 ――頭の中で、また思考が激流のように渦巻く。

 ……いや、落ち着け。無知シチュ……とか思うな。違うからな。そんなわけないだろ……さすがに知ってる、知ってるはずだ。

 そう自分に言い聞かせつつも、念のため尋ねた。

「あの、ベル……子供の作り方ってわかりますか」

「……いや、そうじゃない。具体的に、どこまでやればこの部屋から出れるのかを考えてんだよ」

 当たり前の回答に少しがっかりした自分の性癖を疑いつつ、提案する。

「ああ。そういう……俺もわからないので、段階を踏んでみましょうか」

「段階……」

「ええ。まずは」

 白く滑らかな頬を包む。
 小作りな顔は手のひらの中に容易に収まって、その体躯の未成熟さを感じさせた。

「キス、していいですか」

 下手すればまだ十五、六にしか見えない彼に欲情する姿を、ある人は咎めるかもしれない。
 
 けれど違う。俺にとっては彼の年齢など関係ないのだ。
 ベルンハルトがベルンハルトであれば、容姿も年齢も関係なく、彼は俺の心を身体を支配する唯一になる。
 
「だから……確認すんなって……」

「そうでしたね」

 赤らんだ目元に誘われるまま、唇を塞ぐ。

「ん、む……う、ぁ……」

 こんなことは“脱出“の鍵にはならないことはわかっているが、それを承知で彼の口腔を犯した。

 可愛い声……キスも、俺とが初めてだったのかな……そうだったら、いいな。

「ベル……触っても、いいですか?」

「どこ、を」

 そんなの、本当は全部に決まっている。
 でもそんな言葉を紡ぐ余裕はもうない。
 
「あっ……グレ、ン……んっ」

 甘い唇を夢中で貪って、乱暴にボタンを外す。そのまま、彼の胸の慎ましやかな突起に触れた。

「ッ……あ!」

 指の腹で転がすようにいじると、欲に濡れた声で、ベルンハルトは喘いだ。
 
「やめ、あ……っん」

「ベルはここ、弱いですね」

 かわいい。かわいい……俺の、俺だけのベル。

 シーツに倒れ込んだ彼の胸元に顔を寄せた。
 
「あ……ちが、あ……っ」

 口付けるように愛撫して、歯で緩く食むとそこは次第に尖って、惑わせてくる。
 
「ん、う……だめ、また……あっ、そこで……イきたく、な……あっ」

 そんな淫らになっていく肉体とは裏腹に、ベルンハルトの口は拒絶を紡いで、腕は弱々しく俺の肩を押す。

「なんでここでイきたくないの?」

「だ、って……あっ……そんなとこ、やっ……あ、ふつうは……気持ちよくない、のに」

 そのあまりの艶かしさと、愛らしさに堪え切れずに笑みを漏らした。

「なんだ、そんなこと」

「そんなことってお前……っ!」

 唇を噛み締める彼の手を掴む。

「そんなの、些細な問題ですよ……ほら」

 触りもしていないのに、彼とのキスに、彼の痴態に煽られ、勝手に欲望を湛えるその場所を、白魚のような指に触れさせた。

「俺は……貴方とのキスで、貴方の身体を触って……それだけでもう、こんなに気持ちいいんです」

「だからって……触らせんなよ、変態……」

 否定はできないな、と笑って。赤く染まった耳朶へ唇を落とす。
  
「だって、その方が話が早いでしょう? 貴方は疑い深いから。言葉だけじゃなく全身で……俺が、どれだけ貴方を愛しているか――教えてあげる」

 
 ……あれ、これもしかしたらあの女に読まされた小説の台詞だったかもしれない。

 予習しときなさい、と時折渡される男性同士の恋愛を描いた物語。
 現実的でないその世界を彼女のように愛することはできなかったが、脳は勝手に単語やら言い回しやらを吸収してしまっているらしい。


 ……引かれるかな。

 そんな思いが胸を掠めたが。

「……馬鹿じゃねぇの」

 媚びるような囁きに、不安は霧散して――このままなし崩しに抱いてしまおうか、とそんな歪んだ欲求が湧き上がる。

「ねぇベル。服……脱がせてもいいですか?」

「だから、訊くなって……」

 許しを乞うのを咎めるその口ぶりは甘えを含んでいた。

 ああ……貴方のために訊いてるんですからね!? 好き勝手にして困るのはベルなのに……っ。

 八つ当たりじみたことを思いつつ、そっとその細い足からスラックスと下着を抜き取る。

「それも脱ぎますか?」

 視線で示したのは、レースの装飾のついたブラウス。
 すでにボタンは俺が外してしまっているし、いっそのこと脱いでしまった方がいいのでは、と提案するとベルンハルトは思いの外必死に首を横に振った。

「やだ! ぜったい脱がない!!」

 いや、別に着ててもいいんですけどね。

 白く華奢な肢体に純白のレース一枚をまとったその姿は、全裸よりもかえって扇情的なことに気がついて欲しい。

「……どうしてもですか?」

「どうしても!!」

 仕方ないか、と諦めて次の段階へと進むことにした。

「〈洗浄ヴァッシェン〉」

 気が変わらないうちに、と魔法をかけてから、彼の身体が少し震えていることに気がつく。
 
「ベル、怖い?」

 無理もない。魔王曰く、ベルンハルトも“赤谷蓮“も性経験がゼロらしいから。

 
 ……ああ、初めて彼の後ろに触れたときのことを思い出した。

 あのときは本当に、自分でもどうかしていたと思う。ベルに、怖くて痛い思いをさせてしまうなんて。


 本当に後悔している。もしもう一度、俺がベルを傷つけることがあったら……離れ……る、のは無理だから、彼にどう落とし前をつけて欲しいか訊くか。

 そんな風に考えている間に、ベルンハルトは覚悟を決めたらしい。
 
「うるさい……さっさとしろよ」

 震えながらも、潤んだ青の双眸で睨みつけてくる。
 まったく……。

「意地っ張り」

 ご丁寧に用意されているローションを自分の手に取る。
 それをじっと彼が見つめているのにも高揚してしまいそうになるのを堪えて、人肌になるまで温めた。

「触りますよ」
 
「……ん」

 細い脚を掴んで、開く。
 閉ざされた窄まりの縁をなぞると、ベルンハルトは控えめに喘いだ。
 
「っ、ふ……あ、っ……」

 痛がっているようではないことを確かめながら、ひどくゆっくりとその場所へ指を侵入させる。

 その光景はいやらしくて、綺麗で。
 
「……痛かったらすぐに言ってくださいね」

 歯止めが効かなくなりそうなのが怖くなって、予防線を張った。

「あ、ン……っ、う、あっ……グレ、ン……や……」

 ――ベルは望んで俺に抱かれるわけじゃなくて、あくまでも外に出るためだと思ってて、だから……落ち着け!!

 自分に言い聞かせても、彼の甘い声を、伏せられた、けぶるように長いまつ毛の先を濡らす雫が――平静をかき乱す。

「ベルンハルト……」

 名前を呼ぶ声にも、隠しきれない情欲がこもった。

「や、っ……あ、なま、え……呼ぶ、な……ッ」

「どうして? ベル――ほら、呼ぶと貴方のここ、すごく感じるみたいですよ」

「いいからっ、やめ……あっ」

「もう一本、増やしますよ」

 いけない、早く終わらせなければ、と焦って増やした指に彼の身体が強張った。

 馬鹿……怖がらせてどうするんだ。

 目蓋にキスをして、宥めるように囁きかける。
 
「大丈夫。ベル……貴方の怖いことも、痛いことも、なにもしません。貴方の気持ちいいことだけ」

 
 俺は、ベルンハルトの“痛い“や“怖い“が苦手だった。
 彼が体調を崩したときに吐き出す、彼の本心。それを言われると、胸がきつく締め付けられる。

 だから。
 もし彼が、もう嫌だとか、痛い、怖いと言うのならば自分の身体の熱など放ったらかしにして、どうにかして今すぐこの空間を壊すつもりだったのだ。

 
 そんな俺に向かって、ベルンハルトは眉を吊り上がらせて宣言した。
 
「っ……まじで、痛くしたら、お前のこと、最低でも三日は嫌いになるからな……!!」

 その言葉に。

 ベルンハルトを――失ったあの日から。
 俺の中にずっとあった恐怖が少しだけ溶けた。

「……ふ……ふ、ははっ……そっか、三日……」

 勝手に思い込んでいた。
 彼の望みを叶えられなければ、彼を傷付けたら、自分は未来永劫彼に嫌われたまま生きるよりないのだと。

「あ? なに笑ってんだ! 馬鹿にして……っ」

 笑い続ける俺を蹴ろうと、自身が裸同然なことも忘れているのかベルンハルトは脚を振り上げた。

「してませんよ。貴方が可愛くて愛しくて……たまらなくなっただけです」

 その脚を掴んで、微笑む。

 愛してる。大好き。可愛い。
 どんな言葉を何度言っても、足りない。

「ベル……ベルンハルト、愛してます」

 それでも言わないよりは余程マシだろう。甘ったるく笑って、できるだけ軽薄に聞こえるように言葉を重ねた。

「っるさい!! さっさと続きしろ!!!」

 ベルンハルトは顔を真っ赤にして怒鳴り、顔を背ける。

「続きって……はぁ、貴方はまたそうやって……」

 どこで覚えたんだ、そんなの。

 顎を引き寄せて、唇を奪う。

「んっ、う……あ、もう……キスは……しなくて、いいだろ……っ」

「必要だからしてるわけじゃないです。俺が、したいからするんですよ、ベル。前にも言ったでしょう? 俺は、ずっと……貴方に触りたかった。こうやって貴方を抱きたかった」

 思わず言葉が重くなってしまう。

 だめだ。なにも覚えていない彼に、忘れてしまった彼に……こんなの、背負わせるな。

「……グレ、あ」

 何かを言いかけたベルンハルトの腕を掴み、身を起こさせると、うつ伏せに組み敷く。

「っ、なにす……」

 ――ごめんなさい。

「本当は貴方の顔を見て、貴方の声を聞きながらしたいところですが……初めてだと、この体勢の方が楽なそうなので」

 
 嘘だ。
 
 本当は、彼の顔を見ながら繋がったら――全て、吐露してしまいそうだったのだ。

 思い出して欲しい。
 辛くても悲しくても、俺が傍にいるからと、そう告げて、記憶を取り戻させてしまいたかった。

 そんな思いを胸の中にしまって。

 
 蕩けた穴に熱を押し当て、貫く。

「――っ! あ、ぐ……ッ」

「ベル……息、吐いて……ゆっくり……」

「あ、あ……グレ、やだ……あっ」

 ベルンハルトの中は、気持ちがよかった。まるで初めから一つの存在だったかのように、俺のモノをきつく締め付けてくる。

「っ、あ……!! まだ……っ」

 汗の流れる首筋に舌を這わせて、更に奥まで腰を押し進めた。

「は……あ、っ……グ、レン……」

「ベル……ぜんぶ、はいりました」

「まだ、動くなよ……っ」

「ええ……なじむまで、このまま」

 好きだ、愛してる。犯したい、もっと――。
 原始的な欲求がとめどなく溢れて、理性で封じようとしても身体は勝手に反応してしまう。
 
「ひ、ぁ……ッ! な、お前……なんでまた、おおき、く……」

「……すみません。ベルの腰が細いなって思ってたら、つい……」

 咄嗟に口をついた言い訳は、あながち嘘ではない。片腕で抱き上げてしまえるような細腰にはずっと興奮している。

「ついじゃねぇよばか!! あっ、や……っ!!」

 誤魔化すように腰を揺さぶると、怒りの声は上擦った喘ぎに変わる。
 
「でも、俺……ちゃんと、痛いことはしてませんよ」

「動く、なっ……あっ、って……やっ……言った、のに……あ、ああ」

「言ってましたね。なじむまで、って……だから、待ちました。ね、いい子でしょ?」

「悪い子に、決まってんだろうが……ッ」

 ……そう。俺は悪いんです。貴方の意思も聞かずに勝手に時を巻き戻して、貴方の人生を弄んでいる。貴方の恐れる、魔王の末裔なんです――。

 唇を歪めて、なにも答えなかった。

 ただひたすら、ベルンハルトの内側を犯して、身体中を赤く染め上げた。

「っあ……! やだ、グレ、グレン……ッ、もっと、ゆっくり……っ!!」

 要求にも応えずに、性急にその身体を絶頂に導くためだけに責め立てた。
 
「やだ、だめ……っ! イく、イっちゃ……――!!」

「っ、ベル――」

 ベルンハルトが果てるのとほとんど同時に、熱の先端から体液が迸り、体内へと注ぎ込まれる。

 
「は……あ……」

「ベル、こっち向いて」

「やだ……向こう行け」

 腕で目元を覆いながら、ベルンハルトは喘ぎに枯れた声で俺を拒絶する。

 ……うん。俺が悪い。

 これ本当に三日で許してもらえるのかな、と落ち込みかけた俺に、ベルンハルトが人差し指を突きつけた。

「見下しやがって……次は、絶対オレがお前を泣かせてやる……っ!!」

 べしょべしょでドロドロのままの宣戦布告は――あまりにも、彼らしい。

 この人が大好きだ。可愛くてたまらない。

 込み上げる愛しさにまた笑いながら、身を起こした彼の髪に唇を落とす。
 
「へぇ……“次“があるんですか?」

「……だってお前、定期的にオレと……しないと、死ぬんだろ」

 彼はまだ、そんな戯言を信じているらしい。

「……ベルは、俺に死んで欲しくない?」

 寝そべると、ベルンハルトの腿に頭を乗せた。
 骨張っていてお世辞にも気持ちがいいとは言えないが、どんな極上の美女の太腿よりも価値がある。

「は? そんなの……当たり前、というか……別に、誰かに本気で死んで欲しいなんて、思ったことない」

 彼がまごつきながらも告げてきた言葉に、心には仄暗い猜疑心が宿った。

「……なら、貴方は。俺以外の誰かが、“貴方とセックスしないと死ぬから抱かせてください“って言ってきたら――どうするんですか?」

 自分で言っておいて……嫌だな。そんなことになったら絶対に相手を殺そう。

 身勝手な思考を巡らせていると、ベルンハルトは当たり前のように言う。
 
「いや、普通に断るよ……別の方法探す……」

 裏返せば、それはつまり。

「でも、俺ならいいんだ?」

 淀んだ感情が全て押し流されて、幸せにはにかむ。

「……っ、ああそうだよ! でも、勘違いするなよ! オレはあくまで、お前には利用価値があって、お前とは〈契約フェアトラーク〉で離れられなくて……だからっ!!!」

 それが彼の本心でないことぐらい、ツンデレの有識者腐女子魔王でない俺にも分かりきったことだ。

 
「ベル、好きです」

「脈絡ねぇな……」

「言いたくなりました」

「今後は言いたくなっても控えろ」


 出口が出現していることはもうしばらく彼には黙っておこうと、汗ばんだ手にキスをした。
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