「隠れ有能主人公が勇者パーティから追放される話」(作者：オレ)の無能勇者に転生しました

【番外編】バック・ステージ

魔王と皇帝の密約 ―第26・27話の幕間―

　　　　――　side：グレン　――

　
　無事にあの空間から抜け出し、ベルンハルトへ“死の魔法“についての情報を説明した後。
　彼は疲れたのか眠ってしまった。


「……で、“スピカ“？　さっきは訊きそびれましたが、貴女はなんでベルの前に出てきたんですか」

　黄金魔王の目で睥睨しようが、彼女は怯えたりはしない。

「“蓮くん“にとっては折角の異・世・界・転・生・なんだもん。ヒロインの一人ぐらい会わせてあげようかと思って」

　彼女こそが、黄金の瞳が忌まわしき象徴となった由縁。魔王そのものなのだから。

「はぁ……魔王の眷属……でしたっけ」

「そうそう。“叔父さん“猫耳フェチ疑惑の原因～」

「あー……やっぱり誤解してたんですか、蓮は……」

　俺は“叔父さん“として『追放皇帝』のキャラクターや世界設定のアドバイスをしていたのだが、あるときうっかり「魔王は猫……」と口走りかけて、「魔王の眷属は猫耳が生えた女の子でどうかな」と誤魔化したのだ。

　真実とはいえ魔王が猫なんて言ったら変な性癖持ちだと思われそうだな……と思ってそうしたが、結局は別の誤解を生んだ。

「……あと、あのふざけた空間はなんだクソ猫」

「御先祖様をもっと敬いたまえよ。君だって楽しめたでしょ？　ま、ぶっちゃけた話……ほら、一発ヤれば色々思い出してスッキリするんじゃないかなって！！」

　とても魔王とは思えない軽い調子に、深くため息をついた。

「……無理やり思い出させて、なにになるって言うんですか。俺は別に、彼が全てを忘れたままだって構わないんです」

　“ベルンハルト・ミルザム“の十八年間は、あまりにも凄惨だ。あの小さな身体に背負わせていいようなものではない。

「矛盾だねぇ。全部忘れてもいいって言うなら、完全に記憶を消してしまえばよかったのに。君にならできたでしょ」

「それは……」

　反論は、出てこなかった。

「ま、ゆっくり考えなよ。君がどうしてもベルンハルトくんの傍を離れる必要がある場合は私が見守る。“井上さん“のときみたいにね」

　彼女は前足で人間のように頬杖をついて、目を細める。

「……でも忘れたらダメだよ。ベルンハルトくんの幸せには、君が必要不可欠なんだからね」

「はいはい……では、“スピカ“。早速ですが、俺は念のため石の解析をしてきますので、少しの間……ベルを頼みます」

　本当はここを離れる必要などない。
　ただ、少しだけ頭を冷やしたかっただけだ。

「いいよ、行ってらっしゃい。君のお姫様はこの魔王が命に替えても守ってみせますとも」

　彼が、お姫様みたいに大人しく守られてくれてる人であればよかったのに。
　おとぎ話の姫の傲慢さ――与えられる庇護を当然のように受け取ることのできる性質を、彼は持ち合わせていない。

　もちろん、ベルのそんな不器用さも含めて愛していますけどね。