「隠れ有能主人公が勇者パーティから追放される話」(作者:オレ)の無能勇者に転生しました

湖町はの

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【番外編】バック・ステージ

グレンくんは18歳② ―第29話の舞台裏―

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   ―― side:グレン ――

 
 風呂に入りたい、と言うベルンハルトを連れて大浴場にきた俺は、躊躇いなく服を脱ぎ捨てた。

「……なんで脱いでんだよ」

「俺も入ろうかと思いまして」

 男同士なんですから何を気にすることがあるんですか、と平然と告げると、彼は視線を彷徨わせる。

「そう、だけど……」

 意識してくれているのだ、と感じて喜びに胸が満たされた。

「……こっち、あんまり見るなよ」

 彼は小さな声で言い、おずおずと服を脱いでいく。
 その恥じらう様に興奮を覚える己を律しながら、彼がどこからか持ち込んできたジュースを眺めた。

 ベリーいちご味……いちいちチョイスまで可愛いな。なんだこの人。

 可愛さと愛しさに最早苛立ちを感じながらも、どうにかポーカーフェイスを保ち、彼が支度を終えるのを待つ。

 衣擦れの音がやけに生々しく響いて、いっそのこと思いっきり見ている方がマシだったかな、なんて後悔に襲われた頃、背後から彼に声をかけられる。

「……まじで一緒に入んの?」

 ベルンハルトが腰にタオルを巻いた姿で立っている。

 勿論見るのは初めてではないし、触ったことだってあるのに。
 晒された肌の白さに理性の糸が切れそうになった。
 
「いつ敵が襲ってくるかわからないんですよ? しかも裸で、一番無防備な状態で襲われたら……」
 

 ――襲ってくるはずない。

 犯人はシャウラ子爵家だ。

 死の魔法――既にスキルによって全てを知ることができた、“元“未知の魔法――なんてものに頼らないといけないような者たちが直接襲撃してくる可能性は低い。

 それに、襲ってきたところで俺に敵う相手などいるはずもないのだ。

 
 むしろ一番危ないのはお前だろう、と頭の中で自身が怒るのをねじ伏せて、彼の腕を掴む。

 ……細い。

 そのか弱さに、やっぱりこの人を少しの間でも一人にしておくことなんてできないと、頭の中の自分とも和解した。

「あーわかった。わかったから離せって!」

「わかっていただけて何よりです。いきましょうか」



 ◆◆◆



「あー……生き返る……」

 ベルンハルトが上機嫌なのと対照的に、俺は危機を迎えていた。
 
 ……ベル、こっちは死にそうです。

 暖かな湯で上気する白い肌を恨めしく見つめる。

 常は不健康な人形のような姿に血が通ったその様は美しい。それだけなら、まだいい。

 あー……ピンク……。

 薄い胸のいただきの色が、可憐な薄桃なことを意識してからはもうダメだった。

 いや、見たことあるし、なんなら散々触っただろ……なにを今更……!!

 でも、と薔薇の香りのする泡に身を沈める。

 ――だって……何年、我慢してたと思ってるんだ。

 
 “赤谷蓮“の叔父に擬態している頃は、間違っても彼をそんな目で見ることは許されなかったし、ベルンハルトに対しては汚れた欲望を抱くことさえ罪だと思っていたのだ。
 ……たまに、我慢しきれなくてベルンハルトの姿や声を思い出して自慰をしてしまったことはあるけど。

 本当は……ずっと、その肌に、唇に触れたかった。
 腕の中に閉じ込めて自分のものにしたかった。

 そんな思いを閉じ込めて、我慢して生きていたのだ。

 ――そのせいで暴走して、つい回帰した生き返った彼を襲ってしまった。

 その後も、彼が満更でもないような反応を返してくれるのが嬉しくてついつい触れていたが、誓って最後までする気なんてなかった。
 痛がらせて、怖がらせてしまったことも酷く後悔していたのに。

 それを……あのクソ猫!!

 スピカヒロインを名乗った悪ふざけに踊らされて、その身を奥まで暴いてしまった。

 いや、流された俺も悪い。でもあいつが一番悪い!

 
 そんな葛藤を知らないベルンハルトは、楽しそうに泡で遊んだり、ジュースを飲んだりしている。

「グレン。もしオレが死んだら風呂に沈めてくれ……多分生き返るから……」

「生き返るわけないでしょう」

「あ? 冗談だし比喩だろ」

「……」

 他の冒険者たちと比べれば並みだが、ベルンハルトと比べればかなり大柄な体躯をどうにか縮こめ、隅で固まりながらため息をついた。

「……お前って、結構めんどくさいよな」

「貴方に言われたくない……」

 そんなところも勿論好きです、と心の中で付け足しながら、顔を背けると、ちゃぷ、と音を立てながら彼が近づいてくる。
 
「オレは素直で純真だろうが」

「違いますけど?? ベルは素直じゃなくて歪んでるのが可愛いんです。……というか、近寄らないでもらえませんか」

 頼むからその可愛い顔を近づけないでくれ……。

 俺は危険人物なんです離れてください――と、壁際に身を寄せた。

「いつもはお前からベタベタしてくるくせに。なに……やっぱ、嫌になったわけ?」

 え? 俺が貴方を嫌いになることなんか、絶対にありえませんが?

「そりゃ、そうだよな……」

 沈んだ声で、こちらに伸ばしていた腕を力無く下ろすベルンハルトの目に涙が滲んでいくのが見えて、慌てて肩を抱く。

「ちょ、ベル……? なんで泣いて……」

「役立たずだし、弱いし、ひねくれてるし、性格悪いし、それに、それに……」

 彼の唇から漏れる言葉と嗚咽は止まらない。

 俺の脳内にも、濁流のように気持ちが溢れた。

 
 役立たずって……貴方は生きているだけで生まれてきてくれただけで世界の希望ですけど?
 むしろ俺の世界そのものなんで、役に立つどころの騒ぎじゃないです。
 強くても弱くてもこれからはずっと俺が守るから関係ないし、ひねくれてるところも可愛いって言ったじゃないですか!!
 性格の良い悪いなんて個人の価値観だし、どっちでも愛してますし、それに――!
 

「ベル……」

 何かを言わないと、と開いた唇は。

「グレン、オレを抱けよ。それで……オレの物になれ」

 ベルンハルトのその言葉で、固まった。

 
 ――だく? だく……抱く??

 抱き上げろって、こと……いや、……違う……。

 だってそれだと文脈がつながらない。
 

 フリーズしかかった頭が彼の言葉を理解した頃には、身体の方はとっくにになってしまっていた。

 
「ベル……っ、まって」

 やばい、これ以上はだめだ、と理性を総動員する。

「なに、やなの?」

「嫌じゃないですけど……」

 この人が、急にこんなこと言うのは絶対におかしい。

 原因を考えていると、彼が手に持っている瓶が視界に飛び込んできた。もしかしなくても、あれか。

「……ベル、貴方なんでジュースで酔ってるんですか」

「はぁ? ジュースで酔うわけないだろ」

 瓶の中身を煽る姿はどう見たって酔っ払いなのに、壮絶に色っぽい。
 飲み切れなかった薄ピンクが唇の端から溢れていくのが目に毒だ。

「あー……まあ確かに見た目はアルコールっぽいですけど……すごいな。雰囲気で酔ったのか。貴方、成人してもぜったいにお酒は飲まないでくださいね」

 酔っ払いに手を出すほど愚かなことはない、と自分に言い聞かせるように饒舌になりながら、どうにか距離を取ろうとしたが――もう、後ろは壁だ。

 めり込むしかない。
 そんな覚悟を決めかけた俺の下肢に、ベルンハルトの指先が触れる。

「ふーん……よくわかんないけど、ヤろうぜ……ほら、お前も勃ってる」

 赤い舌を覗かせて、誘う。

 
 ……神様。ベルンハルト様。俺は十分我慢したと思うんです。

「ああ、もう……っ後悔しても知りませんからね!」

「しねーよ。いいなその顔……そそるぜ?」

 諦めて襲いかかった俺の首に腕を回した彼は、そんなどこかの魔王が好みそうなフレーズを吐いて笑う。

「……ちゃんと、覚えててくださいよ」

 まあ無理だと思うので身体に覚えさせます、と俺も同じようなBLみたいな台詞を告げて、ベルンハルトの身体を膝に乗せ、唇を塞いだ。

「ふ……、ん……あっ」

 キスをしながら洗浄魔法をかけて、彼の後孔を指でなぞる。

 泡が体内に入ると良くないんだったか、いいや後で魔法で取り除こう、といつになく適当なことを考えながら、まだ硬い窄まりをゆっくりとほぐしていく。

「あ、っ……ん……う」

 触れ合う唇からも、肌からも甘い匂いがする。

「は、ぁ……ベル……ベルンハルト……好き、好きです……愛してます……」

 心の中で、夢の中で幾度となく繰り返した囁きを絶えずその耳に流し込む。身体中に刻みつけるように、滑らかな肌に唇を押し当てる。
 
「う、あ……ンっ、グレン……あ、ナカ、熱い……っ」

 押し開かれていく蕾にお湯が入り込んでしまったのか、ベルンハルトは快感とも苦悶ともつかない嬌声で訴えてきた。

 ――お湯風情が、俺より先に彼の中に入って許されると思うなよ。

 熱にうかされ、そんな訳のわからない思考回路で彼の後孔へ自らの熱を押し当てる。

「大丈夫……すぐ、追い出してあげます」

 そしてそのまま、強引に下から突き挿れた。
 
「ひ、っあ……!! っ、や……あン、う」

「ほら、俺ので熱いの……出ていったでしょう?」

「や、あっ……ん、まだ、あつい……ッ」

 しがみついてくるベルンハルトの身体をきつく抱きしめて、唇を舐めた。

「ええ……もっと、いっぱい熱くしてあげる」

 揺さぶって、内側の彼の感じる場所を擦り上げる。

「あ……っ! や、う、ッ……グレ、ン……そこ、だめ……変なかんじ、する……」

「そういうのは……気持ちいいって、言うんですよ――ね、言ってみて?」

 耳朶を食んで促す。

「ひ、ぁ……う、きもち、い……あっ……グレン、そこ……もっと……っ!」

「良い子ですね、ベル。俺の肩に手を置いて……自分で、そこ……いっぱい擦ってください」
 
「ふ……ぁ、あ、ああ……っん」

 彼は従順に、俺の肩に手を置き、自ら腰を振り始めた。

 
 ああ……もう、死んでもいいかもしれない。


 
 そんな風に思っていた俺は、数分後。
 ベルンハルトがうわごとのように呟く言葉に本気で死を覚悟することになった――。
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