「隠れ有能主人公が勇者パーティから追放される話」(作者:オレ)の無能勇者に転生しました

湖町はの

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【後日譚】幸せ貞操危機生活 〜ちゃすてぃてぃくらいしす・らいふ!〜

Days1「正直、精神的にはまだ処女」

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 いっけなーい! 転生!転生!

 オレ、十八歳高校生、赤谷せきやれん
 自分をモデルにした主人公グレンがチートスキルで無双する“追放もの“小説を書くのが大好き!
 でもある日、主人公を追放して死んじゃう無能勇者のベルンハルトに転生しちゃってもう大変!!
 しかも何故か主人公がバグって勇者(inオレ)に迫ってきて……。

 オレが書いてたのはBLじゃないのに~~!!

 イマジナリーフレンド、腐女子の井上さんをアドバイザーにして、どうにかハッピーエンドを目指します!!


 と思ったら、実はオレは元々ベルンハルトで、色々あったけど今はグレンと二人で幸せに暮らしています。 
 ~完~


 ……そんな感じで、オレの異世界転生は終わった。
 特になんの山場もなく終わり、これからもなにも起こらない。だってハッピーエンドだもの。

 物語で、ハッピーエンドの先が描かれることはあまりない理由がよくわかる。描かれたとしても苦難が待っている。
 だって、ただ幸せなだけの日々なんて退屈だからだ。

 
「相変わらず根暗だねぇ……」

 そんなオレの持論に、井上さん改めて、魔王改め、スピカは苦笑した。

「るっせぇな。ああそうだよ根暗陰険地味眼鏡ですよオレは!!」

 ふかふかのソファーに身を沈めて叫ぶ。

「ベルンハルトくん。今の君は眼鏡かけてないし地味じゃないよ。白皙の美少年だよ~」

「知ってるよ……でも慣れないんだよ……まだ自分のこと日本人だと思ってる節があってさ……」

 寝ぼけながら鏡を見たときとか、「うわっ、なんだこの金髪碧眼の美少年!!」ってナルシストみたいになるときがあって困る。(もう十八歳なのに美じゃないのが悲しいかなグレンくんとの差ですね。)

「わかる~! 私も日本に残してきたBL本が恋しい」

「一緒にしないでくれません?? こっちは半分記憶喪失なんで!!」

 そう。オレはまだ“ベルンハルト・ミルザム“の十八年間の記憶を――《一周目》の記憶を完全には取り戻していない。

「さっさと思い出しなよ。なんだったらグレンくんに、忘却魔法解いて~って頼めば一発でぜんぶ思い出せるよ?」

「ムリ。怖いじゃん。だって一回死んだんでしょ?」

「“赤谷くん“も死んだじゃん。ああでも、バスの事故で一瞬だもんねぇ」

「そうだよ……痛いとか思う暇なかったし。でもさぁ、オレの《一周目》の死に方って結構壮絶というか……」

 血まみれの身体で冷たい雪の中に横たわり、一人で息絶える。――記憶を取り戻すということは、そんな死に際を追体験することになるのだ。

 
「ベル。その話やめてください。地雷なんで」

「うお……グレンか」

 頭を抱えていると、ティーセットをお盆に乗せたグレンがワープで真横に現れた。
 開き直ったのか、最近のグレンはバンバン人外っぽいことするようになってきててたまにビビる。

「おいスピカ。お前だろ、グレンにこんな俗っぽい言葉教えたの……やめろよ」

「教えてないって。勝手に覚えたんじゃない?」

 まあ……そうか。そういえばグレンもチート小説読み漁ってたもんな。

 そう納得したオレの身体を持ち上げ、当たり前のように膝の上に乗せながらグレンは眉をひそめた。

「ベル……いや、蓮。俺まだ恨んでるんですからね。貴方が『追放皇帝』の中で、無駄に“勇者“の最期だけ細かく描写したの……ほんっと地雷だったんで」

「いや、あれは叔父さ……グレンが、やたら細かく“ベルンハルト“の設定教えてくれたせいって言うか……」

 
 今考えると理由はわかるが――叔父さんは異常なほど、“ベルンハルト当て馬勇者“の設定にうるさかった。

 ――ベルンハルトは金髪碧眼の絶世の美少年だよ。
 ――身長は蓮と同じくらいで……で、華奢。とにかく細身で……かっこいいよりは綺麗な感じかな。
 ――あ、当然色白ね。雪みたいに白くて……血の色が、すごく目立つんだ。

 やたらと早口で綿密に伝えてくるその姿を見て、オレは思ったのだ。

 叔父さん、男リョナ性癖美少年を甚振るのが癖なのかな……って。

 だから、オレは彼の期待に応えようと思い、ベルンハルトの最期についても指示を仰いだ。
 叔父さんはびっくりして、悲しそうな顔をしつつも教えてくれた。

 ――彼には、白が似合うよ。雪の草原っていう、危険なダンジョンに一人で挑んで……白い雪の中で、血に汚れて死ぬんだ。

 
 そんなわけでオレは、“ベルンハルト“の最期をやたらと細かく描写した。なのに叔父さんには引かれた。もう少し温情を……と。

「うん。やっぱりグレンが悪い」

「だって……『どうやって死ぬと思う?』なんて訊かれると思わなかったので咄嗟に、正直に答えてしまったんです。……あれにはトラウマ掘り返されまくりました」

 グレンは若干涙目になりながら、顔中にキスをしてくる。

「グレンくん、勉強用の“追放もの“でも幼馴染勇者が当て馬の場合は死ぬシーン読むのきついって言ってたもんねぇ」

「へぇ……それは悪いことを……」

 
 赤谷蓮だった頃のオレに《一周目》の記憶はグレンの忘却魔法でなかったはずだが、衝撃的な部分は――スピカいわく――魂が覚えているものらしい。

 その結果、『追放皇帝』は叔父さん(グレン)に教えられていない部分も結構現実とリンクしてた。

 おそらく、それには“ベルンハルト“の感情も含まれるのだろう。

 グレンへの恐れ、劣等感。憧れ。――執着。
 その辺は多分、オレの魂に刻まれていた。

 
「ベルも……こんなこと考えてたのかなって……俺、しばらくずっと落ち込んでクソ猫にからかわれ続けたんですよ」

 そのせいで無駄にリアルな最期を書いてしまって、今こうしてグレンに恨み言を言われているわけだ。

「あー……はいはい。ごめんね」

「いやぁ……あのときのグレンくんの動揺っぷりはすごかったね。私もハピエン厨だからわりと苦手ではあったけど……グレン×ベルンハルトはほら、ループものなんで。この後もう一度巡り会ってやり直せるから……って思って精神の均衡を保ちました」

 あとカップリングにされて、腐女子魔王の餌食になっている。

「井上さん。ナマモノの話しを本人たちの目の前でするのはルール違反ですよ」

「お、同人マナーに詳しいじゃん~! さてはハマったことがあるな!!」

 ねぇよ。



 ◇



「そう言えばスピカ」

 グレンの髪を撫でてやりながら、ずっと気になっていたことを訊くことにした。
 忘れがちだけどこの、魔王だから訊いたら大体のこと答えてくれるんだよな。

「ん? なんだい」

「前にお前が言ってたさぁ……【皇帝インペラトル】の弱点って、あれ嘘だろ」


 彼女が、“ヒロインのスピカ“を装っていたときに述べた、グレンの能力スキルの三つの弱点。
 
 一つ。
 【皇帝】が扱えるのは、グレンが存在を認識しているスキルのみ。
 
 二つ。
 【皇帝】はグレンが心より守りたいと思う人間のために発現し、そしてその相手を守護するためにだけ用いることができる。
 
 三つ。
 【皇帝】のスキルを持つ人間は、愛する人間とのまぐわいを定期的に行わなければ、弱体化し死に至る。

 ……一つ目と二つ目はともかく、三つ目は絶対嘘だ。絶対ただの趣味だ。


「嘘とも言えるし、嘘でもないとも言える」

「はぐらかすな」

「いや、だってそうとしか言いようがないんだもん」

「……ベル。今回ばかりは彼女が言う通りなんです」
 
 手足をばたつかせるスピカをグレンが(珍しく)擁護する。

「え、どういうこと?」

「ちょっと! グレンくんが言ったら一瞬で信じるのなに!! 魔王差別反対!!!」

「黙ってろクソ猫。――ベル、まずオレが【皇帝】によって扱えるスキルについてですが、存在を認識していないと使えない、というのは本当なんです。ただし、オレは彼女にこの世界に存在する全てのスキルを教えられたので、今は全て使えます」

 相変わらず、オレとオレ以外への対応の温度差すごいね。

「じゃあ、全知全能ってこと?」

「平たく言えばそうです。で、二つ目も前半は本当です。このスキルは貴方を守るために発現したものなので……まあ、間に合いませんでしたけどね」

 おっと、また《一周目トラウマ》のこと思い出してるなこいつ。話変えよ。

「えー……じゃ、後半は嘘? オレを守るため以外にも使える?」

「まあ……使えなくはないですが、俺にその気がないですね」

 そうですか……。うん、まあいいや。
 別にもう伯爵領ここが襲撃されて領民を守らないと、みたいな事態は発生しないだろうし……あ、やばいあんまり言うとフラグ立っちゃう。

「そっか。教えてくれてありがと、グレン」

 従順で可愛い飼い犬こいびとの頬にご褒美のキスをしてから、スピカを見下ろす。

「……で、『セックスしないと死ぬ』ってのは、当然嘘ですよね魔王様」

「う、嘘じゃないもん!!」

 いや絶対嘘だ。目が泳ぎまくってる。
 黙って見つめていると、彼女は観念して白状し始めた。

「……その、確かに二人を進展させるために『例の部屋』に放り込みたかったから吐いた嘘、なんだけど……でもほら! 人間にとってセックス大事!! セックスのない人生なんて死んでるのと一緒じゃんか!!!」

 その理論だと十八年間清らかだった赤谷蓮くんは、童貞を拗らせて死んだことになるんですけど。魔法使いも三十歳からだろうが。

「ちょっと! 私が心読めるからって喋るのさぼらないでよ!!」

「あーはい。じゃあもう聞きたいことは全部聞けたんで、今日は帰ってもらってもいいですか。グレンくんもなんか帰って欲しそうなんで」

「いやグレンくんは常にそう思ってるよ。……仕方ない、帰るか。また今度ね~」



 ◇◇◇



 ノーセックス、ノーライフ。
 そんなことはさすがに言わないが、まあそれなりに大事だとはオレも思っている。


「ベル……触っていいですか」

「……いいよ」

 なので、グレンに誘われたらちゃんと応えてるし、あんまり痛いとか嫌だとか言わないようにもしてる。


 ……でもさ。

 正直、精神的にはまだ処女なんだよな。


 わけがわからん理屈だとは自分でも思うが、オレがグレンに初めて最後まで抱かれたのは、『例の部屋』に放り込まれた末の不可抗力。その後も、基本的には成り行きだ。

 だから……こう、自分でお誘いをかける的なことができない。

 同棲――いや、事実婚?――から半年以上経っているが、きっかけを作ってくるのはいつもグレンの方だ。

 これこそハピエンBLの伝道師たる魔王様に教えを乞うべき案件なのだろうが。
 なにせ皇帝陛下はほとんどオレの傍を離れないもので、相談するタイミングを逃し続けている。
 
 なのでとりあえず――しばらくは、オレはこの複雑な精神を抱えたまま日々を送ろうと思います。


 ――いや、ベルンハルトくん。われ魔王ぞ?

 あ、そうだわ忘れてた。スピカさんとオレは脳内で会話できるんでしたね。
 ……でもこれさ、グレンにも筒抜けだったりしない?

 ――大丈夫だよ~。グレンくんは、君の心は読まないって決めてるみたいだから。

 へぇ……そうなんだ。
 じゃあスピカ、どうすればいいか教えて。

 ――ん? 普通に「ムラムラしたからヤろうぜ!!」って誘えばいいんじゃないかな。

 あ。だめだ……そういえばこういう人井上さんだった。魔王様、貴女に訊くことはもうありません……。

 ――え!? なんでさ!!!


 役に立たないアドバイザーを頭の中から追い出して、目の前のグレンとの行為に集中することにした。



 ◇



 膝の上に乗せられたまま、夢中で互いの唇を貪るようにキスをする。

「……グレン」

 上擦った声と視線でその先を促すと、グレンの手が、シャツの裾から潜り込んできた。

「……っ、お前、なんでいつも最初にそこ、触るの」

 彼はなぜかいつも必ずと言っていいほどオレの平らな胸を……いや、正確にはその上の突起を触る。

「触りたいからですけど……だめですか?」

「ダメとか、じゃ……ないんだけど……」

 なんか最近、ちょっと……たぶん、気のせいだとは思うんだけど、その、乳首が服に擦れる気がするのが……うん。

「その、たまに痛いから……いや、痛くはない、けど」

「前よりも敏感になってるってことですか」

 直球で言わないでください。

「……っ、そうだよ! お前が、いつも弄るから……なんか、変になってる」

「変じゃありませんよ。ほら……今日も可愛い」

 吐息が、肌を掠める。

「あ、っう……そんなところに、可愛いとか可愛くないとか……ないからッ」

「ありますよ。貴方は、隅から隅まで全部可愛くって、綺麗です」

「う、っく……あ」

 人差し指でくにくにと回すように触れられて、欲に濡れた声が溢れた。

「確かに……ここ、可愛いピンクだったのに……少し赤くなってきてますね」

「やっ、ぱ……お前が、触る、せいだ」

 気のせいだと思いたかったのに、人に言われたらもうダメだ。二度と人前で服脱げなくなった……!!

 恨みを込めて睨みつけると、グレンが笑う。
 
「なら、しばらく触らないでおきましょうか」

「え? あ、うん……」

 離れていく指に、まだジンジンと疼いている乳首が抗議するように立ち上がるのを隠しつつ、頷く。

 ……いや、いいし。だって開発されたら困るもん。
 もう手遅れな気もするけど。

「ベル。誤解してるみたいですけど、俺は別に乳首に執着してませんよ」

 グレンはそう言うと、オレをそっと膝から下ろし、ソファーに横たえる。
 
 いやそんな誤解はしてないですけどね。そういえば“叔父さん“のときのグレンはタバコ吸ってたな~とか、オレの乳首って依存性あるのかな、とか思ってないです。

 
「ただ……いずれ、どこを触られても反応するように貴方の身体を作り替えたいなって思ってるだけです」

 ……それ、普通に生活に支障出るよ、とツッコミかけたけど野暮だろう。
 
 例えだよね? 比喩だよね??


「……お手柔らかにお願いします……」


 ほら、精神的にはまだ処女なんで!!
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