「隠れ有能主人公が勇者パーティから追放される話」(作者:オレ)の無能勇者に転生しました

湖町はの

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【後日譚】幸せ貞操危機生活 〜ちゃすてぃてぃくらいしす・らいふ!〜

Special Day ♡2/14♡ チョコとリボンと美青年の裸体

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過去に書いたものなので季節感皆無のバレンタインネタです


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 昼下がり。
 ソファーで優雅にくつろいでいると、その憩いの時間を壊す侵入者がやってきた。


「バレンタインだね!!!」

 侵入者――スピカは窓から部屋にはいってくるなりそう力強く宣言する。

 
「…………その風習ってこの世界にもあんの?」

「ないです」

 グレンが首を横に振ったのでこの話は終わりですよ、魔王様。

「いいじゃんか~~!! ジ・アース及びジャパンの記憶がある我々だけでもバレンタインで楽しもうよ!!」

「猫一匹と男二人でどうやって楽しむんだよ」

 膝の上に乗ってきたスピカの肉球をむにむにと揉みながら尋ねると、彼女は瞳孔を丸くした。

「え……? 男が二人いて楽しめないイベントなんかこの世に存在するの……? 特にバレンタインなんかチョコとリボンと美青年の裸体さえあればいくらでも楽しめるでしょ……」

 前の二つはいいんだけど最後はなに?

「あ、エプロンぐらいは許可します。グレンくんは裸と裸エプロンどっち派?」

 おいなんだその二択。あとグレンに訊くな。この流れだとオレが被害者になるだろ!!

 スピカが来てからずっと黙ったままだったグレン(何気にずっと隣に座ってました)は、淡々と答える。
 
「普通に服は着てて欲しいです。寒そうなので」

「グレン……!!」

 そうだよな、お前はそういう子だよ……! さすが爽やか正統派イケメンだ!!
 

「……邪道なんですが、ピンクメイド服に白エプロン、ですかね……」
 
 おい。

「わかる~~イベントのときはあえてコスプレ感満載な方がいいよねぇ……」

「水色もいいんですけどね。でもほら、目の色とかぶるので」

「やっぱピンクだよね!!!」

 今すぐその会議やめろ。

 
「……着ないからな」

「なぜ?? 受けたるものメイド服の一枚や二枚着るべきでは?」

「どこの世界の常識だよ。あとさ……自分で言うのもなんだけど、オレが着ても普通に似合って面白くないよ」

 女装の醍醐味ってあれだろ……似合ってないけど可愛い、みたいなやつ。(いやオレはそんな性癖ないから知らないけどね!!)

「いや似合う女装も普通に需要あるよ。主にこの辺に」

「そうですね。この辺に」

 スピカは自分とグレンをもふもふの手で示して食い下がってくる。グレンくんも同意しないでください。

「着ません!! はい、この話は終わりです!!!」

 窓から放り投げてしまおうと立ち上がると、スピカはどこから取り出したのか一冊の薄っぺらい本をオレに差し出す。
 
「そんなこと言わずに……ほら、読んでみて」

「なにこれ……魔導書?」

なので早めにね! じゃっ!!」

 追い出すまでもなく自主的に去っていった彼女の背を見送って、渡された本を恐る恐るめくった。



 ♡ ♡ ♡



 二月十四日――。

 バレンタインと呼ばれるその日、ベルンハルトはどこか朝からそわそわとしている様子だった。

 グレンはそんな彼を微笑ましく眺めながら、まろやかな頬を撫でる。

「どうしたんですか、ベル」

「……その、グレン……なにも……用意してなくて」

 バレンタインなのに、と小声で付け足された言葉に微笑む。

「いいんですよ。気持ちだけで十分です」

 本心だった。
 彼が、自分のためになにかをしようとしてくれている――そう思うだけでグレンの心は満たされたのだから。
 
「でも……」

 だがベルンハルトは納得していないらしい。
 桃色の唇を不満げに曲げて、小さな手でグレンのシャツの胸元を掴んだ。

「いつもオレ、してもらってばっかりだし……なぁ、お前はオレにして欲しいこと、ないの?」

 上目遣いに告げられた言葉にグレンは



 ♡ ♡ ♡



「…………いやなんだこれ」

 もうページをめくった先ではピンク色の世界が繰り広げられていることが目に見えていたので、勢いよく本を閉じた。

 よく見れば表紙には何かが書かれているが……古代文字かな。読めない。

「グレン、これどういう意味?」

「あー……なんか、AVのタイトルみたいなのが書いてありますね」

 要するにこれはスピカ――いや、井上さんの書いたナマモノ同人誌だ。

「なんで表紙だけ古代文字なんだ……!!」

 叫んでると頭の中で腐女子スピカも騒ぎ始めた。


 ――ちょっとなんで途中でやめるの!! 最後まで読んでよ!!

 読めるかこんなもん! てか、本人に渡すな!!

 ――いいじゃんか~めちゃくちゃ参考になると思うよ? 力作だよ?? 長い時を生きてきたこの魔王様のチョコレートにまつわる色んな知識が盛り沢山だよ!?

 どうせあれだろ、身体にチョコ塗ったり、裸にリボン巻いたり、チョコに媚薬仕込んだりするんだろ……やんねぇよ。

 ――微妙に古いって(笑)  今は人体への影響を考えて行動する攻めの方が多いよ。

 BL界の最新のトレンドとか知らないんで……知りたくないんで。


「ベル、スピカに影響されるわけじゃないですけど……せっかくですから、どこか出かけませんか?」

 グレンは俺の手からスピカ作の同人誌を取り上げて燃やすと、にこやかに笑う。

「……デート?」

「ええ。デートして、チョコレートケーキでも食べましょう」

 ベルは甘いもの好きですもんね、と髪を優しく撫でられて、頬が緩んだ。

「うん……あ、グレン。メイド服はやだけど、お前の好きな服着てやるよ。男物限定な!」

 どうせならグレンも最高にカッコいい――いや、いつも最高だけど――服装をさせよう、と浮き足立つ。


 ――いやぁ……推しCPのバレンタインデートが見れるなんて魔王は幸せだよ……。どうせならスイートルームにも泊まったらどうだい?

 泊まるかもしれないけどスピカさんは見ないでください。プライバシーなんで。

 ――いいじゃん減るもんじゃなしに。

 
「ベル......またあの猫と話してるんですか」

「あー、ごめん。しばらく無視するから、な」


 ――ほら、オレの恋人は嫉妬深いんでね。魔王様は大人しくしてろ。


 そうしてスピカを宥めていたオレは。
 グレンが焼却処分したはずの同人誌を復元して真剣に眺めていることも――それの再現を目論んでいることも知らずにいたのだ。
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