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〈フレドリクサス編〉
10『幸せに満たされたいなら、カレーが一番』①
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フラップとフリーナは、
それぞれの落第の理由と、これまでの経緯を、親友フレディに話しました。
フレディは、気弱で泣き虫というたったそれだけのせいで落第になった経緯を、
親友たちと人間たちに、涙を交えながら話しました。
この場面で、フラップとフリーナが、
「何だよそれ!」「ヒドイ!」以外の言葉をかける余裕は、ありませんでした。
なぜって、フラップもフリーナも、まったく予期しないことでしたから。
スクールでも主席クラスの成績優秀者だったフレディなら、
余裕で合格できると、信じて疑わなかったのです。
「理由は分からないの!?」と、レンが聞くと、
「理由は、その……ぐすっ……分からない」フレディはそう答えました。
彼の修行の課題は、精神力をみがき、泣きぐせを直すこと。
といっても、昔からのクセを正す取り組みなんて、生半可ではいきません。
「それにしてもキミが、本当にあの小野寺に捕まってたなんて」
レンは、少し深刻ぎみな表情をして言います。
「やっぱりあいつ、ドラギィのことを知ってたんだ。すごい偶然……。
でも、話を聞くかぎり、協力できそうなやつじゃないよね、ゼッタイに」
「フレディは」フラップが聞きました。
「鍵のかかった牢屋みたいなのに入れられてたんでしょ? 鳥かご、ていうの?
そんな場所から、どうやって脱出したのさ?」
「それは……」涙をふきふき、フレディは答えにくそうに言いました。
「その……す、すっごく暴れたんだ。そしたら、ぐすっ、
たまたま、錠がゆるかったから、ぐすん、錠がポトリと落ちて、扉が……。
でも、かなり痛い思いを、したから、のたうち回るうちに、無意識に巨大化して、
ぐすん、ヨシくんの部屋……めちゃくちゃに、しちゃったんだよ」
「じゃあ、その背中のケガ」と、フリーナが聞くと、
「あ、これは、脱出したあと、黒い鳥に、ぐすっ、突っつかれたんだ。
手当てしてくれて、ありがとう」
「いやあ、それよか」フリーナは言いました。
「すぐに発見できてよかったヨ! フレディを探すうちに、
空から滝みたいなのが降ってくるのが見えたの。それで、見つけられたんだよ!
あれって、フレディの能力だよね?
疲れてぐったりしてたはずなのに、すごいよう」
「あ、あれは、その……」フレディは、また歯切れの悪い言葉を漏らしました。
「た、ただの雨じゃなかったっていうか、その、ぐすん……
そう、あの強い雨が、ぼくを、ひっく、叱咤したんだと思う。負けるなって。
それで、ぼくは、ぐずっ、残った力を振りしぼって……
ホントに、ここまで、ぼくだけの、力で、なんとかしたんだよ……
大変だった、ううぅ」
何かを隠しているような言動が続きますが、辛い目にあったばかりで、
こうして泣いている相手にたいして、あれこれ追及するのはよくないと、
一同は思ったのでした。
「まあ、まあ、おぬしも相当、大変だったみたいじゃが、もう安心じゃ」
しろさんが、レンの右肩の上から声をかけてきました。
「おぬしの修行課題はたしか、泣きぐせを治す、じゃったか?
それがドラギィの学生にとって、どんな意義があるかは謎じゃが、
そんな難題を突きつけられたとしても、
この部屋には、これだけの味方がそろっておるんじゃ。
泣きぐせだろうが、なんだろうが、解決の糸口は必ず見つかるはずじゃ。
もちろん、わしも協力を惜しまん。というわけじゃから――」
むふふふ……。
いつものように気味の悪い笑い方をしてから、こう言いました。
「水を操るおぬしの能力についても、わしに研究させてくれい!
先ほどのデモンストレーションは、じつに興味深かった!
両手から水を発生させた後、超能力のごとく、空中で意のままに動かすとは。
フリーナとはまるで真逆じゃな。完ぺきに力の制御ができておる感じじゃ」
「チョットォ! わざわざ言わないでよう!」フリーナはプンプンしました。
「ぐすん、研究? ぼくを? ぐすっ、まあ、別に構わないよ。
ぐすん、ここに居させてもらえるなら。けれど――」
持ち上げられて少し気をよくしたフレディは、左腕で涙をぬぐうと、
「キミはいったいだれなんだ? 見たところ、白いネズミに見えるけど」
「ああ、この子はネズミ博士のしろさんだよ」と、フラップが言うと、
「フレデリック博士じゃ」と、しろさんは強調しました。
「まあ、おぬしらドラギィのことを研究させてもらうついでに、
ここに研究所を構えさせてもらっておるだけじゃ」
「たしか家賃は、週に一度の天竺チーズ――だったよね」タクが言いました。
「そんな契約はしておらんかったはずじゃがのう……
いつでも食わせてやるとは言ったが」
「あれさ、おれたちもいっぺん食わしてもらったけど、めっちゃウマいよな!」
ジュンが、もっかい食いたい! と言おうとしたその時でした。
トントントン! だれかが部屋のドアをノックしたのです。
「レン~? 今入ってもいい~?」
お母さんです! 一階のお店から、レンたちの様子を見に来たのです。
ふと電子時計を見れば、もう夕方の六時半ではありませんか。
「いつものとこ! いつものとこ!」
レンが小さな声で指示すると、フラップがフレディの手を取って、
「ネズミサイズに!」と小声でささやきました。
フレディは、人間のオトナから身を隠す、という行為の重要さを、
すでにヨシの家で予習済みでしたから、
フラップとフリーナが隠れる常套手段であるベッドの下のスペースへ、
フラップの手に引かれるに任せてついていきました。
ガチャ。
レンのお母さんが、バンダナキャップにエプロン姿で廊下にいました。
「市原君、浜田君。もう夜七時を過ぎちゃってるけど、大丈夫?」
「あー、すんません、おれら居座っちゃって!」
「夜八時までには帰るからって、二人とも親には伝えました」
「ああ、そうなんだ。じゃ、ついでだからさ、今夜は家でご飯食べちゃいなよ。
おばさん、まだお店の仕事があるから面倒見らんないけど、
今夜は、《わけあり》が出たからさ。みんな、好きに温めて食べちゃって」
スパイシーなカレーと煮こんだ野菜のニオイがしみついた、レンのお母さん。
フラップとフリーナも、お母さんのニオイが大好きです。
「最近は妙に暑いし、食欲落とさないようにしなきゃね。
だから、我が家の旨辛カレーで、ヒーヒー言っていきなっ!」
お母さんはそう言って、右腕に力こぶを作ってみせるのでした。
子どもたちは、もう拳を振り上げます。「「「やーりぃー!」」」
夜まで多忙なお店の厨房では、お母さんやアルバイトの人がカレーを作る段階で、
たまにちょっぴり焦がしたり、香辛料の配分を間違えたりして、
メニューとしての品質から少しずれたものが、できてしまうことがあります。
それが、レンの家で言う《わけあり》のカレーなのです。
しかし、レンとドラギィたちは、たま~に出るこのわけありカレーを、
喜びの意味をかねて『おこぼれカレー』と呼んでいます。
少しばかり品質がずれた程度なら、絶品であることに変わりないのですから。
それぞれの落第の理由と、これまでの経緯を、親友フレディに話しました。
フレディは、気弱で泣き虫というたったそれだけのせいで落第になった経緯を、
親友たちと人間たちに、涙を交えながら話しました。
この場面で、フラップとフリーナが、
「何だよそれ!」「ヒドイ!」以外の言葉をかける余裕は、ありませんでした。
なぜって、フラップもフリーナも、まったく予期しないことでしたから。
スクールでも主席クラスの成績優秀者だったフレディなら、
余裕で合格できると、信じて疑わなかったのです。
「理由は分からないの!?」と、レンが聞くと、
「理由は、その……ぐすっ……分からない」フレディはそう答えました。
彼の修行の課題は、精神力をみがき、泣きぐせを直すこと。
といっても、昔からのクセを正す取り組みなんて、生半可ではいきません。
「それにしてもキミが、本当にあの小野寺に捕まってたなんて」
レンは、少し深刻ぎみな表情をして言います。
「やっぱりあいつ、ドラギィのことを知ってたんだ。すごい偶然……。
でも、話を聞くかぎり、協力できそうなやつじゃないよね、ゼッタイに」
「フレディは」フラップが聞きました。
「鍵のかかった牢屋みたいなのに入れられてたんでしょ? 鳥かご、ていうの?
そんな場所から、どうやって脱出したのさ?」
「それは……」涙をふきふき、フレディは答えにくそうに言いました。
「その……す、すっごく暴れたんだ。そしたら、ぐすっ、
たまたま、錠がゆるかったから、ぐすん、錠がポトリと落ちて、扉が……。
でも、かなり痛い思いを、したから、のたうち回るうちに、無意識に巨大化して、
ぐすん、ヨシくんの部屋……めちゃくちゃに、しちゃったんだよ」
「じゃあ、その背中のケガ」と、フリーナが聞くと、
「あ、これは、脱出したあと、黒い鳥に、ぐすっ、突っつかれたんだ。
手当てしてくれて、ありがとう」
「いやあ、それよか」フリーナは言いました。
「すぐに発見できてよかったヨ! フレディを探すうちに、
空から滝みたいなのが降ってくるのが見えたの。それで、見つけられたんだよ!
あれって、フレディの能力だよね?
疲れてぐったりしてたはずなのに、すごいよう」
「あ、あれは、その……」フレディは、また歯切れの悪い言葉を漏らしました。
「た、ただの雨じゃなかったっていうか、その、ぐすん……
そう、あの強い雨が、ぼくを、ひっく、叱咤したんだと思う。負けるなって。
それで、ぼくは、ぐずっ、残った力を振りしぼって……
ホントに、ここまで、ぼくだけの、力で、なんとかしたんだよ……
大変だった、ううぅ」
何かを隠しているような言動が続きますが、辛い目にあったばかりで、
こうして泣いている相手にたいして、あれこれ追及するのはよくないと、
一同は思ったのでした。
「まあ、まあ、おぬしも相当、大変だったみたいじゃが、もう安心じゃ」
しろさんが、レンの右肩の上から声をかけてきました。
「おぬしの修行課題はたしか、泣きぐせを治す、じゃったか?
それがドラギィの学生にとって、どんな意義があるかは謎じゃが、
そんな難題を突きつけられたとしても、
この部屋には、これだけの味方がそろっておるんじゃ。
泣きぐせだろうが、なんだろうが、解決の糸口は必ず見つかるはずじゃ。
もちろん、わしも協力を惜しまん。というわけじゃから――」
むふふふ……。
いつものように気味の悪い笑い方をしてから、こう言いました。
「水を操るおぬしの能力についても、わしに研究させてくれい!
先ほどのデモンストレーションは、じつに興味深かった!
両手から水を発生させた後、超能力のごとく、空中で意のままに動かすとは。
フリーナとはまるで真逆じゃな。完ぺきに力の制御ができておる感じじゃ」
「チョットォ! わざわざ言わないでよう!」フリーナはプンプンしました。
「ぐすん、研究? ぼくを? ぐすっ、まあ、別に構わないよ。
ぐすん、ここに居させてもらえるなら。けれど――」
持ち上げられて少し気をよくしたフレディは、左腕で涙をぬぐうと、
「キミはいったいだれなんだ? 見たところ、白いネズミに見えるけど」
「ああ、この子はネズミ博士のしろさんだよ」と、フラップが言うと、
「フレデリック博士じゃ」と、しろさんは強調しました。
「まあ、おぬしらドラギィのことを研究させてもらうついでに、
ここに研究所を構えさせてもらっておるだけじゃ」
「たしか家賃は、週に一度の天竺チーズ――だったよね」タクが言いました。
「そんな契約はしておらんかったはずじゃがのう……
いつでも食わせてやるとは言ったが」
「あれさ、おれたちもいっぺん食わしてもらったけど、めっちゃウマいよな!」
ジュンが、もっかい食いたい! と言おうとしたその時でした。
トントントン! だれかが部屋のドアをノックしたのです。
「レン~? 今入ってもいい~?」
お母さんです! 一階のお店から、レンたちの様子を見に来たのです。
ふと電子時計を見れば、もう夕方の六時半ではありませんか。
「いつものとこ! いつものとこ!」
レンが小さな声で指示すると、フラップがフレディの手を取って、
「ネズミサイズに!」と小声でささやきました。
フレディは、人間のオトナから身を隠す、という行為の重要さを、
すでにヨシの家で予習済みでしたから、
フラップとフリーナが隠れる常套手段であるベッドの下のスペースへ、
フラップの手に引かれるに任せてついていきました。
ガチャ。
レンのお母さんが、バンダナキャップにエプロン姿で廊下にいました。
「市原君、浜田君。もう夜七時を過ぎちゃってるけど、大丈夫?」
「あー、すんません、おれら居座っちゃって!」
「夜八時までには帰るからって、二人とも親には伝えました」
「ああ、そうなんだ。じゃ、ついでだからさ、今夜は家でご飯食べちゃいなよ。
おばさん、まだお店の仕事があるから面倒見らんないけど、
今夜は、《わけあり》が出たからさ。みんな、好きに温めて食べちゃって」
スパイシーなカレーと煮こんだ野菜のニオイがしみついた、レンのお母さん。
フラップとフリーナも、お母さんのニオイが大好きです。
「最近は妙に暑いし、食欲落とさないようにしなきゃね。
だから、我が家の旨辛カレーで、ヒーヒー言っていきなっ!」
お母さんはそう言って、右腕に力こぶを作ってみせるのでした。
子どもたちは、もう拳を振り上げます。「「「やーりぃー!」」」
夜まで多忙なお店の厨房では、お母さんやアルバイトの人がカレーを作る段階で、
たまにちょっぴり焦がしたり、香辛料の配分を間違えたりして、
メニューとしての品質から少しずれたものが、できてしまうことがあります。
それが、レンの家で言う《わけあり》のカレーなのです。
しかし、レンとドラギィたちは、たま~に出るこのわけありカレーを、
喜びの意味をかねて『おこぼれカレー』と呼んでいます。
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