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〈フロン編〉
10『自己暗示とは、魔法をかけるようなもの』①
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翌日のこと。レンとの関係がくずれてしまったことで、
もはや審査も何もなくなってしまいました。
もちろん、修行どころではない状況でしたが、それでもドラギィたちは、
しろさんの激励を受けて、なんとか気を取り直し、
それぞれが修行らしい修行に取り組むことにしました。
「ともかく、わしの研究所にいる間は、真面目になることじゃ。
嫌な言い方になるが、今回のことはおぬしらにとってよい薬になったじゃろう?」
「そうだな。でもぼくは、あなたの研究所の中で修行に取り組むのは、
もしかしたらはじめてかもしれないな」
フラップとフリーナはすでに経験ずみでしたが、
フレディは、自分のことは自分でやろうと、
研究所のやっかいになったことは一度もありませんでしたからね。
フラップは、今まで通り空いた研究室を使わせてもらって、
火を長く吹けるようになる練習。
フリーナは、しろさんの部下たちの協力を得て、
確実に頭がよくなるとして開発されたパズルゲームに挑戦。
――そしてフレディは、涙をこらえる練習として、また人間を深く知る機会として、
動物保護にたずさわる人間たちのドキュメンタリー映画を観させてもらいました。
感動的で温かみのある、人間たちの素晴らしいおこないが印象的な映画でしたが、
フレディは、やっぱり、涙なしには見られませんでした。
だって、もしもこんな人たちに保護されていたら、
フレディもヨシにひどい目にあわされたり、
レンとの辛い別れを経験したりせずにすんだかもしれませんから。
「あー、見せた映画がいかんかったのう。開始ニ十分で泣いてしまうとは」
しろさんに成果を報告した時、彼はそんなことを言われていました。
フラップとフリーナも、今日はたいした成果を上げられませんでした。
フラップは、一週間前とくらべてわずかに火を吹ける時間が増えましたが、
それでも一秒に満たない、チリほどの時間だけでした。
フリーナは、百問ある問題の中、たった十問目でつまづいてしまうと、
「もうこれ以上はムリ~!」といって、トイレに逃げこんでしまったのでした……。
――さて、そうこうしているうちに、夕方の四時になりました。
ドラギィたちはしろさんに呼ばれて、
フレデリック・ラボの中で一番大きな研究室を訪れました。
「たしかおぬしたち、先日は黒金魚の正体を追っていたのじゃろ?」
「結局、捕まえられませんでしたけどねぇ」フラップは気を落としました。
「わしも今回は、やつらについて気になる点があって、
こちら側でいろいろと調べてみた。
そしたら、一つ面白いことを発見したんじゃ」
しろさんは、手に持った小さなリモコンのボタンを、ポチッと押しました。
すると、研究所の壁にかかった巨大スクリーンに映像が映ったのです。
その画像は、どこか夕暮れの河川敷を映したもので、
近くに電車が通る陸橋がありました。河川敷には、人も何も映っていません。
「うさみ町の自治局にハッキングして、監視カメラの映像記録をあさってみた。
これは今から三日前の映像なんじゃが、何も映ってないように見えるじゃろ?」
ドラギィたちは二度うなずきました。
「じゃが、わがフレデリック・ラボの解析技術をもってすれば……ほれ!」
しろさんが合図すると、
部下のひとりがデスク上のコンピューターをポチポチと操作しました。
すると、スクリーンの映像が一瞬、ビビッと乱れ、様子が変わったのです。
何もいないように見えていた河川敷に、何か黒いものが映りこみました。
不気味にゆらめく長い尾びれに、オタマジャクシのような丸い頭。
それはまぎれもなく、昨日フラップたちが遭遇した、あの黒金魚でした!
しかも、一匹だけではありません。映像を見るかぎり、全部で三匹もいました。
河川敷の上でぷかぷか泳ぎながら、何かを話し合っているようにも見えます。
「ええっ、どーなってるノ!?」
「何者かによって、映像に手が加えられていたんじゃ。
こいつらがいる間の時間だけ、何もいない時の映像に差しかえられてのう」
「黒金魚たちは、あそこで何をしてるんです?」
「それが分かれば苦労はないわい」しろさんは肩をすくめました。
「じゃが、やつらとあの河川敷……何か関係があるかもしれんのう」
「なあ、そもそもあの黒金魚はなんなんだ?」フレディが聞きました。
「やつらからは、裏世界のニオイがしなかった。
ということは、ぼくらとは違い、裏世界に属さないものだ。
ぼくはそこがずっと気がかりで仕方なかった」
「そうか。おぬしたちドラギィには、
裏世界の存在をかぎとる能力があったんじゃったな。
――実際、わしにもやつらの正体は分かりかねておる。
しかし、それよりもっと重要な点があるぞ」
「?」フレディは首をかしげます。
「なぜ、このように監視カメラの映像が書きかえられていたか。
そして、だれが黒金魚たちの映像を記録されぬよう、
町中の監視カメラに干渉したのか、ということじゃ。
これまで黒金魚どもが報道ざたにならんかったのは、
明らかにこれのせいなのじゃから」
「つまり……どゆこと?」フリーナが聞きました。
「黒金魚たちの裏に、何者かがいるってことさ」と、フレディが答えます。
「でも、どうしてそんなことを、今さらぼくたちに話すんです?」
「フフン」しろさんは、何か面白いたくらみを思いついた時みたいに、
エメラルドのように鮮やかな瞳を怪しげに細めながら、答えました。
「おぬしら、レンのところへ帰れるようになった時、
あいつをギャフンと言わせたいと思わんのか?
あるいは、一度手をつけた問題を解決する事なく、
このまま中途半端な状態で終わらせて、満足でいられるのかのう?」
「それは」フリーナが意気揚々と答えます。「たしかに言えてる!」
「そうだな。ぼくらはもうなんでも調査隊ではないとはいえ、
修行の一つとして、黒金魚の正体を突き止めるのも悪くない!」
「なら、ちょうど今は夕方だし、
さっそくこの映像のところまで行ってみよう!
もしかしたら、あの黒金魚さんたちに遭遇できるかもしれないよ」
しろさんのおかげで、フラップたちはすっかりその気になりました。
それから、フリーナの提案で景気づけにと、三匹で片手を乗せ合って円陣を組み、
「いくぞ、オー!」とかけ声をかけあいます。
ピンク色のドラギィの肉球が、元気の花のように三匹の頭上で輝きました。
「待て待て。今までおぬしらが明るいうちに町中を移動できたのは、
レンたちの協力があったからじゃぞ。
今回は、人間に見つからないように、いっそう注意せねばいかん」
「「「了解!」」」ドラギィたちは声をそろえました。
「――あ、そうそう」しろさんは思い出したように手を打ちました。
「先ほどおぬしたちから、『雲隠れチョーカー』を返してもらったが、
少々、機能不全を起こしておったから、アップデートを施しておいた。
これでもう、五分たたないうちに正体が現れてしまう心配はないぞ。
いちおう念のため、ここを出る前に、おのおの装備しておくがいい」
もはや審査も何もなくなってしまいました。
もちろん、修行どころではない状況でしたが、それでもドラギィたちは、
しろさんの激励を受けて、なんとか気を取り直し、
それぞれが修行らしい修行に取り組むことにしました。
「ともかく、わしの研究所にいる間は、真面目になることじゃ。
嫌な言い方になるが、今回のことはおぬしらにとってよい薬になったじゃろう?」
「そうだな。でもぼくは、あなたの研究所の中で修行に取り組むのは、
もしかしたらはじめてかもしれないな」
フラップとフリーナはすでに経験ずみでしたが、
フレディは、自分のことは自分でやろうと、
研究所のやっかいになったことは一度もありませんでしたからね。
フラップは、今まで通り空いた研究室を使わせてもらって、
火を長く吹けるようになる練習。
フリーナは、しろさんの部下たちの協力を得て、
確実に頭がよくなるとして開発されたパズルゲームに挑戦。
――そしてフレディは、涙をこらえる練習として、また人間を深く知る機会として、
動物保護にたずさわる人間たちのドキュメンタリー映画を観させてもらいました。
感動的で温かみのある、人間たちの素晴らしいおこないが印象的な映画でしたが、
フレディは、やっぱり、涙なしには見られませんでした。
だって、もしもこんな人たちに保護されていたら、
フレディもヨシにひどい目にあわされたり、
レンとの辛い別れを経験したりせずにすんだかもしれませんから。
「あー、見せた映画がいかんかったのう。開始ニ十分で泣いてしまうとは」
しろさんに成果を報告した時、彼はそんなことを言われていました。
フラップとフリーナも、今日はたいした成果を上げられませんでした。
フラップは、一週間前とくらべてわずかに火を吹ける時間が増えましたが、
それでも一秒に満たない、チリほどの時間だけでした。
フリーナは、百問ある問題の中、たった十問目でつまづいてしまうと、
「もうこれ以上はムリ~!」といって、トイレに逃げこんでしまったのでした……。
――さて、そうこうしているうちに、夕方の四時になりました。
ドラギィたちはしろさんに呼ばれて、
フレデリック・ラボの中で一番大きな研究室を訪れました。
「たしかおぬしたち、先日は黒金魚の正体を追っていたのじゃろ?」
「結局、捕まえられませんでしたけどねぇ」フラップは気を落としました。
「わしも今回は、やつらについて気になる点があって、
こちら側でいろいろと調べてみた。
そしたら、一つ面白いことを発見したんじゃ」
しろさんは、手に持った小さなリモコンのボタンを、ポチッと押しました。
すると、研究所の壁にかかった巨大スクリーンに映像が映ったのです。
その画像は、どこか夕暮れの河川敷を映したもので、
近くに電車が通る陸橋がありました。河川敷には、人も何も映っていません。
「うさみ町の自治局にハッキングして、監視カメラの映像記録をあさってみた。
これは今から三日前の映像なんじゃが、何も映ってないように見えるじゃろ?」
ドラギィたちは二度うなずきました。
「じゃが、わがフレデリック・ラボの解析技術をもってすれば……ほれ!」
しろさんが合図すると、
部下のひとりがデスク上のコンピューターをポチポチと操作しました。
すると、スクリーンの映像が一瞬、ビビッと乱れ、様子が変わったのです。
何もいないように見えていた河川敷に、何か黒いものが映りこみました。
不気味にゆらめく長い尾びれに、オタマジャクシのような丸い頭。
それはまぎれもなく、昨日フラップたちが遭遇した、あの黒金魚でした!
しかも、一匹だけではありません。映像を見るかぎり、全部で三匹もいました。
河川敷の上でぷかぷか泳ぎながら、何かを話し合っているようにも見えます。
「ええっ、どーなってるノ!?」
「何者かによって、映像に手が加えられていたんじゃ。
こいつらがいる間の時間だけ、何もいない時の映像に差しかえられてのう」
「黒金魚たちは、あそこで何をしてるんです?」
「それが分かれば苦労はないわい」しろさんは肩をすくめました。
「じゃが、やつらとあの河川敷……何か関係があるかもしれんのう」
「なあ、そもそもあの黒金魚はなんなんだ?」フレディが聞きました。
「やつらからは、裏世界のニオイがしなかった。
ということは、ぼくらとは違い、裏世界に属さないものだ。
ぼくはそこがずっと気がかりで仕方なかった」
「そうか。おぬしたちドラギィには、
裏世界の存在をかぎとる能力があったんじゃったな。
――実際、わしにもやつらの正体は分かりかねておる。
しかし、それよりもっと重要な点があるぞ」
「?」フレディは首をかしげます。
「なぜ、このように監視カメラの映像が書きかえられていたか。
そして、だれが黒金魚たちの映像を記録されぬよう、
町中の監視カメラに干渉したのか、ということじゃ。
これまで黒金魚どもが報道ざたにならんかったのは、
明らかにこれのせいなのじゃから」
「つまり……どゆこと?」フリーナが聞きました。
「黒金魚たちの裏に、何者かがいるってことさ」と、フレディが答えます。
「でも、どうしてそんなことを、今さらぼくたちに話すんです?」
「フフン」しろさんは、何か面白いたくらみを思いついた時みたいに、
エメラルドのように鮮やかな瞳を怪しげに細めながら、答えました。
「おぬしら、レンのところへ帰れるようになった時、
あいつをギャフンと言わせたいと思わんのか?
あるいは、一度手をつけた問題を解決する事なく、
このまま中途半端な状態で終わらせて、満足でいられるのかのう?」
「それは」フリーナが意気揚々と答えます。「たしかに言えてる!」
「そうだな。ぼくらはもうなんでも調査隊ではないとはいえ、
修行の一つとして、黒金魚の正体を突き止めるのも悪くない!」
「なら、ちょうど今は夕方だし、
さっそくこの映像のところまで行ってみよう!
もしかしたら、あの黒金魚さんたちに遭遇できるかもしれないよ」
しろさんのおかげで、フラップたちはすっかりその気になりました。
それから、フリーナの提案で景気づけにと、三匹で片手を乗せ合って円陣を組み、
「いくぞ、オー!」とかけ声をかけあいます。
ピンク色のドラギィの肉球が、元気の花のように三匹の頭上で輝きました。
「待て待て。今までおぬしらが明るいうちに町中を移動できたのは、
レンたちの協力があったからじゃぞ。
今回は、人間に見つからないように、いっそう注意せねばいかん」
「「「了解!」」」ドラギィたちは声をそろえました。
「――あ、そうそう」しろさんは思い出したように手を打ちました。
「先ほどおぬしたちから、『雲隠れチョーカー』を返してもらったが、
少々、機能不全を起こしておったから、アップデートを施しておいた。
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