緑の指を持つ娘

Moonshine

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秋祭り

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王家の秋祭りでの山車の人気投票は秋祭りのクライマックスの一つだ。

山車の人気投票権を持つ、国中の高位貴族が一台、また一台と馬車で王宮に参内する。
ぐるりと宮殿を囲む外壁に、参内した家の家紋の入った旗が、現王家の象徴である、赤バラの大旗の下に掲げられる。

こうして宮殿をとりかこむ旗が風に吹かれている風景は、どれだけの家門がこの王家の傘下にあるのかが一目瞭然で、圧巻の光景である。

この投票の後に、王家主催の秋の舞踏会が始まる。
王宮の大広間に開放された会場には、美しく着飾った老若男女が、秋の訪れを喜び、社交シーズンの再来を祝っている。
華やかなドレスの美しい貴婦人が会場にがあふれ、会場はまるで蝶が放たれた花園の様相。
秋祭りは、庶民にとっても、貴族にとっても、恋の季節の到来なのだ。
吟遊詩人や小説家は、この日を題材にした芸術を好んで創作する。

高らかにトランペットの音が響き、王族が会場に入場する。
会場からは万雷の拍手だ。

王が第一王妃と王大子である第一王子を伴って、その王座についた。

続いて一段低い段に、第二王子、そして第三王女であるユージニア。もう一段低い段に、ユージニアの母である第二王妃、第三王妃。

第一王女、第二王女はすでに外国に嫁いで、第二王子はまだ6歳、第二王子は外国に婿入りが決まっている。

王の見守る中、山車の投票が始まる。
会場にいる大勢の参加者の中から、高位の貴族からユックリ壇上にのぼって魔力で投票を行うのだ。

「そう迷わずに、一番気に入ったものに入れるとよい」

王は実に機嫌よく、投票を逡巡する貴族たちに声をかけた。
今年の山車は見事な出来のものそろいだったのだ。

特に話題になっていたのは、エズラの山車だ。
見たこともない美しい精霊達の世界を模した世界に行けると、外国の賓客からも、大変好評だ。

「このような素晴らしい幻影魔術を見る事が出来るなど、御世の治世は安泰ですな」

「ははは、お目汚しかとは存じますがな、この国はなにせエリクサーを精製する事ができるほどには、魔術にすぐれた者がおりますのでな」

「いやはや実にうらやましい。我が国もエリクサーさえあれば、神殿に好きな振る舞いをさせずにすんだのですが」

山車を絶賛されて、エリクサーの自慢も出来て機嫌のよい王は、壇上からユージニアにも気安く声をかけた。

「ユージニアよ。お前も目覚めたからには、せいぜい王家の役に立て。お前の婚約者であるノエルは、いまだに温室にこもってしまっているという。さっさと引きずり出して婚姻を結べ。よいな」

ユージニアは振り返りもせず、父に言った。

「そうですわね。私も役に立ちたいと思っておりましたのよ。例えば、王家から腐った野菜を引きずり出して、恥知らずの無能な王を排除するなど、王家の名にとって、とても役に立って良いですわね」

「・・何??」

ユージニアの発言に、王は耳を疑った。
この姫は母の後ろ盾も弱く、頭もそう切れるわけではないと、侮っていた姫だ。
毒から目覚めてより、人が変わったように積極的に社交と外交に力を注ぐようになったと聞いてはいたが。

「お前、何を口にしたのか、自分でわかっているのか」

気の短い第一王子が、腰をあげて妹に抗議をしようとしたその瞬間だ。

ユージニアが急に立ち上がり、手元で魔法陣を練ると、空に向かって信号魔法を打ち上げた。

宮殿の頂に翻る赤いバラの大旗をはじめ、宮殿に翻る全ての王家の赤い旗は、ば、ば、ばと一斉に魔力で黄色いマリーゴールドの旗に変わった。

「ユージニア!!これは一体」

静かにその瞬間を見届けたユージニアは、体内で練っていた、大型の魔法を発動した。

ユージニアの発動した魔法は、大きな黄金の光となって宮殿の四方に光をまき散らし、王都の52の地区に散らばっている山車の屋根に置かれたマリーゴールドの魔力を支点として、それぞれの山車のマリーゴールドの魔力が糸の様につながって反応して、王都中を飲みこむ大魔法陣となった。

「失礼あそばせ、お兄様」

ユージニアはそれだけ言うと、三年間の眠りの間、体内に蓄積されていた魔力の全てを、一気に魔法陣に向けて放出した。

ドン!!!!!!

王都中に大音響の爆発音が響いた。
そして王都に張り巡らされている王家の結界が、一瞬でユージニアの魔力の支配下に置かれる。

ー王都の結界を担うものー

この国の、王たるものの条件が、それだ。
この瞬間、ユージニアはこの国の王となる条件を持った。

ユージニアの魔力が、現在王都の結界を巡らせている父である現王の魔力に競り勝ち、塗り替えられたのだ。

その時、バーン、と大きな音を立てて、無人のはずである大広間の横の控室の部屋が開いた。

「ひいいい!!!!」

「た、たすけてくれ」

そこには王家付きの魔術師が、大型の蜘蛛の魔獣の死体の上に魔法の縄により拘束されていた。
ユージニアとノエルを眠りに落とした、あの蜘蛛だ。

「掃除が必要かと思いましてね」

蜘蛛の後ろからナーランダが、ゆらりと顔を出した。

ナーランダは、遠縁ではあるが王家につながる血筋である。
対魔法の細工がいくつも張られているこの宮殿内部ではあるが、王族のみは魔法の発動が可能だ。
ナーランダの発動する魔法はこの宮殿の対魔法の限りではない。

にっこりとナーランダはほほ笑むと、足元に大きな転移魔法の魔法陣を開いた。

転移魔法陣の中からは、怒号を上げたあまたの白い鎧の騎士が滝の如く次々とあらわれて、王宮の広間を占拠した。
騎士の胸には白ユリの紋。白ユリ騎士団の名でしられるこの騎士団は、隣国の女神神殿所属の騎士団だ。
隣国の女神神殿は、第二王妃の、母の、故郷。

「ものども!」

騎士団は素早く第一王妃と第一王子の後ろにまわり、二人を後ろ手にとらえて魔法で錠を掛けた。

「な・・なんです!!この国の王妃と王太子に、このような無体がゆるされるとおもっているのです??」

大きく叫ぶ第一王妃の声が宮殿に響き渡る。

騎士団はユージニアと、その母である第二妃殿下の元をぐるりと囲み、騎士団長はユージニアに膝をついた。

「殿下、只今参上しました」

「よくきてくれたわ。ありがとう」

「ひいいい!一体何が起こっている!!誰か!誰か無法者を捕らえよ!今すぐ!」

優雅に挨拶を交わす騎士団長とユージニアを見て、口角から泡を飛ばして誰彼構わずに怒鳴り散らす王は、目の前で起こっている事の理解が追いつかない。

ユージニアは目を白黒させて混乱の極みにいる父王のいる壇上に上がり、ゆっくりと微笑んで告げた。

「父上。見ての通りですわ。私とノエルを襲わせた犯人に、法に則った正しい裁きを与えておりますの。この国の法律は王族にも適応されると、国の法典に書いておりますもの」

誰も助けにこない。
王は気が付いた。この会場にいる多くの国内貴族、外国の賓客が、その胸に、マリーゴールドの花を身に着けている事。ざっと見ただけでも全部の半数以上だ。

ユージニアの目覚めてからの精力的な内外の社交と外交活動の目的がこれであったのならば。
ユージニアは眠りについていた長い時間、ずっと意識があったと最近報告があったばかりだ。

(謀ったか)

「父上。この国の同盟国からの要請があれば、国会は緊急議会が招集できるという法律でしたわね」

王は、会場を見渡す。
赴任してきたばかりの、隣国の大使が、明後日の方向を向いている。できるだけ関与したくないのだろう。
その胸のポケットには、マリーゴールドの花が飾られていた。

「王位を返上してください。そして、その王冠を私に」

議会の過半数が「是」とすれば、王権は変わる。
そして、議会の投票権をもつ大貴族の全てが、この山車の投票に駆けつけている。見知った議員の大貴族の面々の胸ポケットに、マリーゴールドの花が飾られている事を王は知る。

マリーゴールドは、ただの今年の流行りの意匠の花だとばかり、この愚かな王は思っていた。

大きなため息をつく。

「ユージニア。目覚めてからこの短期間で、国内を掌握したのか。見事だ」




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