緑の指を持つ娘

Moonshine

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緑の指を持つ娘 温泉湯けむり編

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静かにフェリクスの話を聞いていたノエルは、何も言わずに立ち上がると、急にフェリクスに魔術を施した。
フェリクスがノエルにかけた魔術と同じ、守秘制約の強力な魔術。

「な、何を!」

一国の王太子に対し、ノエルが魔術をいきなり浴びせたなど実に不敬極まる行為ではあるが、ノエルはどうやらそれどころではないらしい。

(私は確か、この男に、アビーブ王家の秘密と、私の命の終わりを告げた場面だ・・が?)

おそらくフェリクスは、「おいたわしい」「なんという悲運」というような言葉をノエルから期待していたのだろう。ひょっとするとノエルがフェリクスと一緒に泣いてくれるのかもしれない。そんな事をうっすらと考えていたのかもしれない。

少なくとも、秘密を告白した相手から、全く守秘制約の魔術を許可なくかけられてキョトンとしている場面ではない気がする。

だが、目の前の男はほとんど憤怒の表情を浮かべて、フェリクスに告げていた。

「いいか、よく聞け、先ほどの映像でよくわかった。ようやくベスの秘密がわかるかもしれない。お前は勝手にメソメソ死んでいる場合ではない。さっさと面倒な仕事を終わらせて、早く俺の仕事を手伝え!」

「貴殿の仕事・・?ベスの秘密・・?」

普段は柔和で実に紳士なこの隣国の高位貴族の男、ベスが絡むと大分おかしくなることは身をもって知っているが。

「いいか。よく聞け。絶対に口外するな。口外したらお前の命がアビーブの火口に消える前に、俺がその心臓を握りつぶしてやる」

ものすごいノエルの勢いに、フェリクスはコクコクと愚か者のように頷くことしかできない。

「いいか。ベスは取り替え子だ。産みの親は誰かはわからん。気がついたら精霊の森に一人でいたそうだ。そして、色々あってすんでのところで精霊の愛し子として妖精王のオベロンの花嫁にされるところだったんだ。ついこの間の話だ。2度とこんな面倒があってたまるかと、俺が八方手を尽くしてベスの産みの親を探していたのに、道理で何をどうしても見つからないわけだ。どう見てもお前の先祖の神が絡んでるじゃねえか!」

「なんだと・・!!!ベスは取り替え子だったのか・・!!」

フェリクスの言葉など聞いてはいないような掴みかからんが勢いのノエルは、貴族とは思えないような汚い言葉でフェリクスの胸倉を掴む。

「あの映像の女が抱いていた子は、間違いない。べスに関係しているな?」

「な、なぜそんな事を思う?確かにあの赤子はべスによく似ているとは私も思うが、全くの別人かもしれないではないか」

ノエルはブンブンとフェリクスの胸倉を掴んで上下左右に振り回して、いった。

「全くな別人の訳があるか!耳をかっぽじってよく聞け!ベスは、てめえが呼ばれた外の人外の温泉に最初は亀に、次は蛇に呼ばれて行ってきたそうだ。そこでベスは、人外の風呂にガッツリ入ってきてるんだ!」

フェリクスの顔は一気に真っ赤にそまる。
あの眼裏に焼き付いて離れない、温泉での、真っ白いベスの艶やかな姿が眼裏に蘇ってくる。

(幻ではなかったのか)

無理やり神々が情けで見せてくれた幻だ、と納得させた温泉でのベスの白い姿は、幻でなどではなかった。
いるはずのない場所に、幻のように現れたあのベスの姿は、現実だったのだ。

(ベス・・ベス、ベス)

感情が溢れ出て、うわごとのようにフェリクスの頭の中には、ベスの名前しか浮かんでこない。
そんなフェリクスを放って置いて、ノエルは続ける。

「ベスが温泉の主から精霊と認識されて、人外の温泉に間違いで迷い込んでしまっただけなのであれば、簡単に説明はつく。ベスは取り替え子だ。精霊の世界で育った精霊のようなものだ。だが、説明がつかないのは、温泉の主は、その温泉にベスを浸からせたその上に、眷属までつけて森の入り口の人の世界までベスを送り届けてきた事だ。俺が温泉の主の神であるなら、そんな面倒な事はせずに、温泉に浸かったべスをそのまま神々の世界に取り込んで、人の世界には返さないでおくだろう」

「・・貴殿は、一体何を考えているのだ。教えてくれ」

ノエルは言った。

「簡単な事だ。温泉の主は、ベスに何か、人の世界で成し遂げて欲しい仕事を与えたのさ。だから温泉に呼んで、そして人の世界に帰した。ベスがあの映像の女が抱いていた赤子の子孫であるのなら、なぜそんな目にあったのかの説明もつく。ベスが己の血を引く子孫であれば、簡単に助けを求められるからな」

フェリクスは混乱して、ノエルが何を言わんとしているのかを察するべく思考が完全に停止してしまっている。

(一体何が起こっている??)

「お前、まだわからないのか?ジア殿下は同じ悲劇にあう王族の子孫が2度と現れないように、能力の全てを使ってお前を助けようとしているんだよ!ああ腹立たしい、お前なんぞを助けるために俺の可愛いベスが神々の使いっ走りをさせられているなど、冗談ではない!」

「さっさとこの国のつまらない問題は片付けて、お前は生きてベスの産みの親を探す手伝いをしろ。くそ、まさか隣国から取り替えられたなど、妖精の考えなど俺には想像が及ばなかった・・俺はベスと一緒に一生二人で楽しく生きたいだけだというのに、放っておくとすぐに神だの、精霊だの、王だのの問題に巻き込まれてしまう」

プリプリと怒りを隠さないノエルの言葉に、しかしフェリクスは気がついた。

「貴殿は・・私が生きて、人の世に帰ってくると、そう信じているのか?」

ノエルは完全に馬鹿にしたような顔をして、フェリクスに告げた。

「その為に、俺の可愛いベスが、ジア殿下に振り回されて、俺とイチャイチャする時間を、使い走りさせられているのでしょう?ああ本当に腹が立つ」





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