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第十八話
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ブラックダイヤモンドのカットが済んだのは、それから数日後だった。
五ミリ程の縦長の形のブリリアントカットの物を五つと、三ミリ程の丸い形のラウンドカットのものを一つ、これで花のモチーフにする予定だ。
あとはこのダイヤモンドを使ってフラワーホルダーブローチを作ってもらうよう、王都の職人に注文するだけだった。
アザレアは、先日城下町へ行った際に目星をつけている職人がいた。引き受けてくれるかはわからないが、とにかく当ってみることにした。
ドレスを着替えると、職人通りへ向かう。カルから贈られた、目立たなくする効果が付与されたイヤリングは、逆に高価過ぎてアザレア自身よりも目立ってしまう気がして、カルには申し訳なかったが着けずに出かけることにした。
アザレアはシラーには正直に出かけることを伝えた。最初はアザレアが一人で出かけることを心配し、随行を申し出てきかなかった。しかし、それでは逆に何かあった際、逃げ遅れたシラーが人質になることもありえる。
そう説明すると、シラーは納得したようなしてないような不満げな顔になりつつ、アザレアが一人で外出するのを了承してくれた。だが、念の為と行き先だけは伝えた。
今回は城下町を見て回ることが目的ではなかったので、そのままお目当てのマユリと言う職人のいるお店へ向かう。
時空魔法で路地裏へ移動し、そこからお店の前まで行くと、マユリが店先で言い争っているのが見えた。
相手の男性は貴族だろうか? だとしたら、アザレアがここにいるのを見られると困ったことになる。アザレアはそう思いながら、マユリと言い争っている相手を観察した。
彫りが深く、青い瞳、金髪の緩く癖のある髪は耳の下まで伸ばしている。一番目を引いたのは奇抜な服装で、ブラウスに淡いピンクのチョッキ、ピンクのコート、ピンクの膝丈ズボンにロングブーツ、ピンクのシルクハットをかぶっており、そこには大きな鳥の羽がついていた。
アザレアの記憶の限り、こんな奇抜な服装を好む貴族には会ったことがなかった。それに一度でも会ったことがあるなら、絶対に忘れたりはしないだろう。
マユリはその紳士に言った。
「ったく、何度も言っているだろう、無理なものは無理だ。俺は作らん」
マユリは銀髪、碧眼で眉間に深いシワが刻まれており、体格もよく少し怖い雰囲気だ。そんなマユリに臆することもなく奇抜な服装の紳士は言う。
「う~ん、そこを頼むよぉ。これはお前にしかできない仕事なんだ、わかってるよねぇ?」
と、マユリの肩に手を回し、もう片手でマユリの胸をポンポンと叩く。紳士が動く度に帽子の羽根飾りがゆらゆら揺れた。
そんなやり取りをぼんやり見ていると、アザレアに気がついたマユリが、笑顔で近づいてくる。
「お嬢ちゃん、お客さんかい?」
アザレアは頷く。
「これで作ってもらいたい物があるんです」
アザレアは手のひらに乗せた布を広げ、その中にあるカットされたブラックダイヤをマユリに見せた。マユリは興味深げにそれを覗き込む。
そして、一つつまんでとり、胸ポケットからルーペを出すと、しばらく眺めたあと驚いた顔でいった。
「お嬢ちゃん、こりゃ凄いな。これはどこで取れた石で、なんて石なんだ? 光沢がオニキスとは全く違う」
その横で先程の紳士が石を見たあと、アザレアの顔を覗き込みじっと瞳を見つめた。そして何かに気づいたようにアザレアに向かって言った。
「あ、わかった! 君ってばケルヘール家のご令嬢じゃないか。流石貴族だねぇ、こんな凄い石持ってるなんて」
アザレアはなぜバレたのかサッパリわからず、その紳士を見つめた。その横でマユリが目を見開いてアザレアを見る。
「なんだって? 貴族のお嬢ちゃんがまた何でこんなところに……」
マユリが驚いてるのを尻目に紳士は
「う~ん」
と、言いながらアザレアを上から下まで舐めまわすように見て、アザレアの周囲をぐるぐる周りだした。
「いやぁ、うん。いいねぇ、なるほどねぇ」
そう言うと、恭しく一礼した。
「挨拶が遅れて申し訳ありません。私デザイナーのファニーと申します、以後お見知りおきを。なんてね。いかにも僕みたいなペテン師っぽい奴が言いそうな台詞でしょう?」
と、言うと何が面白いのか声を出して笑いだした。アザレアは、ファニーの名前だけ貴族の間で噂されていたのを聞いたことがあった。特に誰の後ろ盾もなかったのだが、王妃の目に止まり新鋭してきたファッションデザイナーだ。
アザレアはとにかくファニーのあまりの奇行に呆気にとられ
「はい、どうも」
と、間の抜けた返事をした。アザレアとファニーのやり取りを見ていたマユリは周囲を見回して言った。
「まぁ、とりあえずこんなところでする話じゃない。お嬢ちゃん早く店に入んな」
店のドアを開け、手招きして中へ入るように促した。店内に入ると、入ってすぐ左手にある小さなジュエリーケースに商品が少しだけ並んでおり、右手が広くなっていてソファとテーブル、正面に木製のカウンター、その奥に作業台やジュエリーを作るための道具などがチラリと見える。
「お嬢ちゃん、とりあえず話を聞きたいからソファーに座ってくれ」
と言ったあと、ファニーを見た。
「お前は帰ってもいいんだぞ」
右手で追い払うような仕草をした。だがファニーはマユリを無視して、さっさとソファーに座ってしまった。そして自分の隣の空いている場所ををポンポンと叩く。
「さぁ、ご令嬢も座って、座って」
アザレアはどうしたら良いのか困惑し、マユリを見る。マユリはファニーを見てため息をついた。
「そいつのことは気にしないで、まぁ、気になるだろうが放っておいていい。とりあえず、お嬢ちゃんも座って」
と再度、座るように促してきた。一瞬迷ったが、アザレアはファニーのはす向かいに座る。マユリはファニーの隣に座った。
マユリはファニーの方向を見ずに、親指でファニーを指差した。
「こいつが騒がしくてすまんな、気持ち悪い奴だが、無害だから安心してくれ」
アザレアは首を横に降ると言った。
「いえ、こちらこそお話し中のところすみませんでした」
マユリは両手を面前で振って言った。
「いやいや、全然かまわねぇよ。で、お嬢ちゃんはどんな依頼で来たんだ?」
アザレアは先ほどみせた、カット済みブラックダイヤをもう一度マユリに見せた。そして、紙とペンを借りると作って欲しいフラワーホルダーブローチのデザインの絵をを書いて見せ、どういった物なのかを説明した。
マユリは顎に手を当てながら、黙ってずっと説明をきいていたが、こちらの説明が終わると顔をあげ、笑顔になって言った。
「面白そうだな、是非作らせてくれ」
アザレアは断られるのも覚悟していたので、ほっとした。
「本当ですか? 宜しくお願いします!」
そう言って軽く会釈をする。するとずっと隣で頬杖をしながら話を聞いていたファニーが、次は自分の番と言いたげにアザレアの方に身をのりだした。
「ところでご令嬢、この石ってまだあるかな? あるんなら、うちでドレス作りたいんだけど、どぉ?」
と言った。それは願ったり叶ったりだ。新鋭のデザイナーにブラックダイヤを使ってドレスのデザインをしてもらえば、一気にブラックダイヤの認知度が上がる。
「作っていただけるなら、宜しくお願いします。ただこの石のことは口外しないと言う約束で」
そう言うと、満面の笑みで
「了解、嬉しいなぁ。まずはご令嬢、君の採寸からだねぇ。それから王妃に言って。時間がないなぁ、デザインも変更か?」
と独り言を言い始めた。ファニーの口からなぜか王妃陛下の話が出たので、アザレアは慌てた。
「ファニーさん、実は私婚約者候補は辞退しているので、王妃殿下には何も言わないで下さい」
それを聞いてファニーは、驚いた顔のまま、十秒ほど固まっていたが突然動き出した。
「えっ? 今、僕、王妃のことなんて言った? 秘密にしないといけないのにね、あはは!」
と、その後ずっと声を出して笑っている。横で見ていたマユリが申し訳なさそうに言った。
「こいついつもこんななんだ、すまんな。ところでお嬢ちゃん、貴族なんだろう? なんでまたこんなところに?」
アザレアは正直に話す。
「あの、以前マユリさんの作品をお見かけして、是非マユリさんに直接お願いしたくて」
横で笑っていたファニーが現実に戻ってきたようで
「そそ、そうなんだよね~こいつ腕だけは凄いからさぁ」
と、マユリの背中をバシバシ叩いた。マユリは迷惑そうにしていたが、アザレアは思わず笑ってしまい、それを見てつられてマユリも笑った。
五ミリ程の縦長の形のブリリアントカットの物を五つと、三ミリ程の丸い形のラウンドカットのものを一つ、これで花のモチーフにする予定だ。
あとはこのダイヤモンドを使ってフラワーホルダーブローチを作ってもらうよう、王都の職人に注文するだけだった。
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ドレスを着替えると、職人通りへ向かう。カルから贈られた、目立たなくする効果が付与されたイヤリングは、逆に高価過ぎてアザレア自身よりも目立ってしまう気がして、カルには申し訳なかったが着けずに出かけることにした。
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相手の男性は貴族だろうか? だとしたら、アザレアがここにいるのを見られると困ったことになる。アザレアはそう思いながら、マユリと言い争っている相手を観察した。
彫りが深く、青い瞳、金髪の緩く癖のある髪は耳の下まで伸ばしている。一番目を引いたのは奇抜な服装で、ブラウスに淡いピンクのチョッキ、ピンクのコート、ピンクの膝丈ズボンにロングブーツ、ピンクのシルクハットをかぶっており、そこには大きな鳥の羽がついていた。
アザレアの記憶の限り、こんな奇抜な服装を好む貴族には会ったことがなかった。それに一度でも会ったことがあるなら、絶対に忘れたりはしないだろう。
マユリはその紳士に言った。
「ったく、何度も言っているだろう、無理なものは無理だ。俺は作らん」
マユリは銀髪、碧眼で眉間に深いシワが刻まれており、体格もよく少し怖い雰囲気だ。そんなマユリに臆することもなく奇抜な服装の紳士は言う。
「う~ん、そこを頼むよぉ。これはお前にしかできない仕事なんだ、わかってるよねぇ?」
と、マユリの肩に手を回し、もう片手でマユリの胸をポンポンと叩く。紳士が動く度に帽子の羽根飾りがゆらゆら揺れた。
そんなやり取りをぼんやり見ていると、アザレアに気がついたマユリが、笑顔で近づいてくる。
「お嬢ちゃん、お客さんかい?」
アザレアは頷く。
「これで作ってもらいたい物があるんです」
アザレアは手のひらに乗せた布を広げ、その中にあるカットされたブラックダイヤをマユリに見せた。マユリは興味深げにそれを覗き込む。
そして、一つつまんでとり、胸ポケットからルーペを出すと、しばらく眺めたあと驚いた顔でいった。
「お嬢ちゃん、こりゃ凄いな。これはどこで取れた石で、なんて石なんだ? 光沢がオニキスとは全く違う」
その横で先程の紳士が石を見たあと、アザレアの顔を覗き込みじっと瞳を見つめた。そして何かに気づいたようにアザレアに向かって言った。
「あ、わかった! 君ってばケルヘール家のご令嬢じゃないか。流石貴族だねぇ、こんな凄い石持ってるなんて」
アザレアはなぜバレたのかサッパリわからず、その紳士を見つめた。その横でマユリが目を見開いてアザレアを見る。
「なんだって? 貴族のお嬢ちゃんがまた何でこんなところに……」
マユリが驚いてるのを尻目に紳士は
「う~ん」
と、言いながらアザレアを上から下まで舐めまわすように見て、アザレアの周囲をぐるぐる周りだした。
「いやぁ、うん。いいねぇ、なるほどねぇ」
そう言うと、恭しく一礼した。
「挨拶が遅れて申し訳ありません。私デザイナーのファニーと申します、以後お見知りおきを。なんてね。いかにも僕みたいなペテン師っぽい奴が言いそうな台詞でしょう?」
と、言うと何が面白いのか声を出して笑いだした。アザレアは、ファニーの名前だけ貴族の間で噂されていたのを聞いたことがあった。特に誰の後ろ盾もなかったのだが、王妃の目に止まり新鋭してきたファッションデザイナーだ。
アザレアはとにかくファニーのあまりの奇行に呆気にとられ
「はい、どうも」
と、間の抜けた返事をした。アザレアとファニーのやり取りを見ていたマユリは周囲を見回して言った。
「まぁ、とりあえずこんなところでする話じゃない。お嬢ちゃん早く店に入んな」
店のドアを開け、手招きして中へ入るように促した。店内に入ると、入ってすぐ左手にある小さなジュエリーケースに商品が少しだけ並んでおり、右手が広くなっていてソファとテーブル、正面に木製のカウンター、その奥に作業台やジュエリーを作るための道具などがチラリと見える。
「お嬢ちゃん、とりあえず話を聞きたいからソファーに座ってくれ」
と言ったあと、ファニーを見た。
「お前は帰ってもいいんだぞ」
右手で追い払うような仕草をした。だがファニーはマユリを無視して、さっさとソファーに座ってしまった。そして自分の隣の空いている場所ををポンポンと叩く。
「さぁ、ご令嬢も座って、座って」
アザレアはどうしたら良いのか困惑し、マユリを見る。マユリはファニーを見てため息をついた。
「そいつのことは気にしないで、まぁ、気になるだろうが放っておいていい。とりあえず、お嬢ちゃんも座って」
と再度、座るように促してきた。一瞬迷ったが、アザレアはファニーのはす向かいに座る。マユリはファニーの隣に座った。
マユリはファニーの方向を見ずに、親指でファニーを指差した。
「こいつが騒がしくてすまんな、気持ち悪い奴だが、無害だから安心してくれ」
アザレアは首を横に降ると言った。
「いえ、こちらこそお話し中のところすみませんでした」
マユリは両手を面前で振って言った。
「いやいや、全然かまわねぇよ。で、お嬢ちゃんはどんな依頼で来たんだ?」
アザレアは先ほどみせた、カット済みブラックダイヤをもう一度マユリに見せた。そして、紙とペンを借りると作って欲しいフラワーホルダーブローチのデザインの絵をを書いて見せ、どういった物なのかを説明した。
マユリは顎に手を当てながら、黙ってずっと説明をきいていたが、こちらの説明が終わると顔をあげ、笑顔になって言った。
「面白そうだな、是非作らせてくれ」
アザレアは断られるのも覚悟していたので、ほっとした。
「本当ですか? 宜しくお願いします!」
そう言って軽く会釈をする。するとずっと隣で頬杖をしながら話を聞いていたファニーが、次は自分の番と言いたげにアザレアの方に身をのりだした。
「ところでご令嬢、この石ってまだあるかな? あるんなら、うちでドレス作りたいんだけど、どぉ?」
と言った。それは願ったり叶ったりだ。新鋭のデザイナーにブラックダイヤを使ってドレスのデザインをしてもらえば、一気にブラックダイヤの認知度が上がる。
「作っていただけるなら、宜しくお願いします。ただこの石のことは口外しないと言う約束で」
そう言うと、満面の笑みで
「了解、嬉しいなぁ。まずはご令嬢、君の採寸からだねぇ。それから王妃に言って。時間がないなぁ、デザインも変更か?」
と独り言を言い始めた。ファニーの口からなぜか王妃陛下の話が出たので、アザレアは慌てた。
「ファニーさん、実は私婚約者候補は辞退しているので、王妃殿下には何も言わないで下さい」
それを聞いてファニーは、驚いた顔のまま、十秒ほど固まっていたが突然動き出した。
「えっ? 今、僕、王妃のことなんて言った? 秘密にしないといけないのにね、あはは!」
と、その後ずっと声を出して笑っている。横で見ていたマユリが申し訳なさそうに言った。
「こいついつもこんななんだ、すまんな。ところでお嬢ちゃん、貴族なんだろう? なんでまたこんなところに?」
アザレアは正直に話す。
「あの、以前マユリさんの作品をお見かけして、是非マユリさんに直接お願いしたくて」
横で笑っていたファニーが現実に戻ってきたようで
「そそ、そうなんだよね~こいつ腕だけは凄いからさぁ」
と、マユリの背中をバシバシ叩いた。マユリは迷惑そうにしていたが、アザレアは思わず笑ってしまい、それを見てつられてマユリも笑った。
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