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第三十七話
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素晴らしい景色を眺め、おいしい空気と青空のもと、カルと楽しくサンドイッチとデザートのアプリコットタルトを食べた。
満腹になってアザレアは、思い切ってそのまま後ろにごろりと寝転んだ。空を見ていると、たまにふわりふわりとどこからか飛んで来た草花の綿毛が左から右にと流れていった。横に座っているカルに向かって言う。
「こんな休日も素敵ですわね。とても気持ちがいいですわ」
しばらく沈黙が続いたが、そんな時間も心地良かった。カルが答える。
「そうだね」
カルはアザレアの横に寝転ぶと、体をこちらに向けて肘をついて上半身を軽く起こした。そしてアザレアの首筋に手を伸ばすと、髪をかき分けた。
「流石にもう虫刺されは消えてしまったね」
そう言って、アザレアの顔の横に手をつくと、首筋に顔を近づけて言った。カルの息が首筋にかかる。アザレアの心臓は鼓動を早めた。恥ずかしさからカルから逃れるように顔を横に向ける。そして、どきどきしながら答えた。
「なぜ、カルが虫刺されのことをご存知ですの?」
カルはクスクス笑うと言った。
「君の侍女に、君の虫刺されについて怒られてしまってね」
アザレアは意味がわからなかった。
「なぜ、私の虫刺されでカルが怒られ……」
と言ったところで、アザレアはようやく虫の正体が誰なのか気づいた。アザレアはかっと顔が熱くなるのを感じながら、その虫刺されがあったであろう場所を手で押さえた。
そんなアザレアの反応を見て、カルは楽しそうに微笑んだ。
「やっと君を刺した虫の正体に気がついた?」
そう言うと、そっとアザレアの首筋に唇をあてる。そして強く吸った。アザレアは恥ずかしくて身悶えするも、抵抗虚しくされるがままとなった。首筋から唇を離すとカルは言った。
「魔法で治癒して消してしまってもいいよ。そうしたら今度は反対側につけるけどね」
と言って今つけたばかりの痣を鼻先でなぞった。
カルがアザレアに色々ちょっかいをかけてくると、アザレアはどうして良いかわからなくなった。カルは絶対に一線を越えるようなことはしない。アザレアもその点は信頼していたが、とにかく恥ずかしくてしょうがなかった。
「な、何をなさるんですか。もう!」
赤くなった顔を押さえながらアザレアが少し離れると、カルはイタズラっぽく笑った。
「君は隙だらけだ」
そう言って、片膝を立てると、立てた膝に腕を載せこちらを見た。
「これ以上君を怒らせてもいけないからね、今日はもうなにもしないよ。こっちに戻っておいで」
カルは優しくそう言うと手招きした。アザレアはもう大丈夫だとわかっていても恥ずかしくて、カルから少し離れた場所に体育座りをする。そんなアザレアをカルは愛おしそうに見つめる。
「何度も言ってしまうけど、君は本当に愛らしいね」
アザレアはカルが言った愛らしいという言葉に、また顔を赤くした。それを悟られまいと、カルの方を見ないようにして答える。
「もう変なイタズラは終わりですのね?」
カルは声を出して笑った。
「残念だけどね、今日はもうしないよ。それに今日はゆっくりするために来たのだしね」
その言葉を聞いてアザレアは、自分も少し残念に思っていることに気がついた。だが、これ以上なにかあれば、アザレアの心臓が耐えられそうになかった。
その後顔の火照りが収まるのを待ってから、カルの隣に座った。
カルは約束通りそれ以上アザレアにちょっかいをかけてくることはなかったので、二人は他愛ない話をして、ゆっくり過ごした。
王宮に戻ってくると、カルは馬を厩務員へ預けアザレアを部屋まで送ってくれた。去り際に思い出させるように、アザレアの首筋の跡に軽く指先で触れる。
「独占欲の強い私を許して欲しい」
そう言うと、微笑んで自室へ戻って行った。アザレアは首筋を抑え顔を赤くした。
部屋にもどると、シラーとシモーヌが瞳を輝かせながらアザレアを待っていた。二人はアザレアに今日のことを訊くことはしなかったが、したり顔でアザレアの世話をした。
「今日はお疲れになられましたでしょう?」
「早めにお休みしましょうね、お嬢様」
アザレアは二人の妙な勘違いを正そうとしたが、確かに遠出をして疲れてしまっていたので、それを諦めた。
それに、実際早めに休めるのは有り難かった。夕食を済ませ、ふたりのお陰で早くにベッドに横になったが、疲れすぎて神経が高ぶっているのか、予想に反してなかなか寝付けなかった。
日中は忙しくて思い出すこともないが、なにもすることがないと、召喚された聖女のことや、今日あった出来事のことを考えてしまい、じっとしていられなかった。
結局ベッドを抜け出し、庭を散歩することにした。ネグリジェだったので、軽く上からショールを羽織ると、廊下のドアから庭に出た。
この時間に森の方に行っては流石に危ないので、ガゼボに行って少し夜風に当たろうと思った。
ガゼボに行くと先客が居ることに気づいた。人のことを言えた立場ではないが、明かりも灯さずにこんな時間に何をやっているのか気になった。
目をよく凝らして見ると、そこにはフランツが立っていた。こちらが気づいた瞬間にフランツもこちらに気づいたようで、目が合った。アザレアは慌てて火球を作る。
「こんばんは、フランツ様。いい月夜ですわね」
フランツは笑顔でこちらをみていたが、その視線が火球に照らされたアザレアの首筋に移ると、その瞬間目が獲物を追うような鋭い目つきに変わった気がした。
アザレアは直感的にここにいてはいけないと思い、火球を消す。
「私失礼しますわね。ごきげんよう」
そう言って、その場を去ろうと踵を返した。
その瞬間、フランツがアザレアの腕をつかんだ。
アザレアは驚き振り返る。腕を振り払って瞬間移動で自室へ戻ろうかとも考えたが、今そんなことをしたらフランツが傷ついてしまうかもしれないと思い、できなかった。
フランツの顔を見ると、悲しげな笑顔でこちらを見ていた。このおかしな状況の中アザレアは何か言わなければと焦る。
「フランツ様……あの、どう、されたんですの?」
フランツは切なそうに言った。
「なぜ逃げるのですか?」
アザレアは動揺しながらも答える。
「ごめんなさい。私はここにいてはいけない気がしたので」
するとフランツは首を振る。
「逃げないで下さい。僕は貴女に危害を加えたりすることは決してありませんから」
そして、アザレアの腕を放した。アザレアは少し緊張しながらフランツに訊いた。
「私は眠れなくてここにきたのですけれど、フランツ様はどうしてこちらに?」
フランツは苦笑すると答える。
「貴女のことを考えていました。どうしたら貴女に意識してもらえるかをね。僕はいつでもあなたのことばかりを考えているんです」
一瞬なにを言われたのか理解できずに戸惑った。しばらく考え、なにを言われたか理解すると、今度は混乱した。
アザレアは咄嗟に答える。
「フランツ様、ごめんなさい私は」
そこまで言うと、フランツは少し大きな声で言った。
「わかっています、その先は言わないで下さい」
そして、アザレアの首筋の跡を見つめる。
「こんな跡、今すぐに消してしまえたらいのに……。僕にはそんな魔力もない」
と、苦しげに言った。そして更にアザレアに近づく。
「貴女が殿下と結婚するのは構わないと思ってました。そうすれば僕はずっと貴女の側に居ることができますからね。でも僕は浅はかでした。仲睦まじい二人を目の当たりにして、こんなにも胸をかき乱されるとは……」
そう言うと、急にフランツはアザレアから離れたところに立ち、優しく微笑んだ。
「すみません、怖がらせてしまうつもりはありませんでした」
そう言うと、いつもの明るい笑顔になる。
「こんな夜更けに女性一人で来るなんていけませんよ。今のように誰かに会ったりすれば、変に誤解を招きかねませんから。メイドを呼びますので、部屋まで送ってもらって下さい」
そう言ってメイドを呼ぶと、侍女にアザレアを送るよう指示した。そして、侍女にアザレアを預ける瞬間、アザレアの肩に手を置いて耳元で囁く。
「貴女が、違う方向を見ていても僕はずっと貴女を思い続けるんでしょうね」
そう言って、微笑んだ。アザレアはその後、次女に付き添われ自室に戻ると、すぐにベッドに潜り込んだ。
フランツはいつも誰にでも優しく、自分の感情を表に出すことがほとんどない。なので、フランツがあそこまで追い詰められていたことに、アザレアは全く気づけなかった。
アザレアは、フランツの気持ちには答えられそうにないと思った。フランツもそれはわかっているのだろう。そう思うと切なくなった。
今の出来事で、更に眠れそうになくなったが、とにかく目を閉じて横になることにした。
翌朝、起きたとき昨夜のことは夢だったのでは? と思ったが、ショールが無いことに気づき、昨夜のことは夢でないのだと再確認した。
満腹になってアザレアは、思い切ってそのまま後ろにごろりと寝転んだ。空を見ていると、たまにふわりふわりとどこからか飛んで来た草花の綿毛が左から右にと流れていった。横に座っているカルに向かって言う。
「こんな休日も素敵ですわね。とても気持ちがいいですわ」
しばらく沈黙が続いたが、そんな時間も心地良かった。カルが答える。
「そうだね」
カルはアザレアの横に寝転ぶと、体をこちらに向けて肘をついて上半身を軽く起こした。そしてアザレアの首筋に手を伸ばすと、髪をかき分けた。
「流石にもう虫刺されは消えてしまったね」
そう言って、アザレアの顔の横に手をつくと、首筋に顔を近づけて言った。カルの息が首筋にかかる。アザレアの心臓は鼓動を早めた。恥ずかしさからカルから逃れるように顔を横に向ける。そして、どきどきしながら答えた。
「なぜ、カルが虫刺されのことをご存知ですの?」
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「君の侍女に、君の虫刺されについて怒られてしまってね」
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「なぜ、私の虫刺されでカルが怒られ……」
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そんなアザレアの反応を見て、カルは楽しそうに微笑んだ。
「やっと君を刺した虫の正体に気がついた?」
そう言うと、そっとアザレアの首筋に唇をあてる。そして強く吸った。アザレアは恥ずかしくて身悶えするも、抵抗虚しくされるがままとなった。首筋から唇を離すとカルは言った。
「魔法で治癒して消してしまってもいいよ。そうしたら今度は反対側につけるけどね」
と言って今つけたばかりの痣を鼻先でなぞった。
カルがアザレアに色々ちょっかいをかけてくると、アザレアはどうして良いかわからなくなった。カルは絶対に一線を越えるようなことはしない。アザレアもその点は信頼していたが、とにかく恥ずかしくてしょうがなかった。
「な、何をなさるんですか。もう!」
赤くなった顔を押さえながらアザレアが少し離れると、カルはイタズラっぽく笑った。
「君は隙だらけだ」
そう言って、片膝を立てると、立てた膝に腕を載せこちらを見た。
「これ以上君を怒らせてもいけないからね、今日はもうなにもしないよ。こっちに戻っておいで」
カルは優しくそう言うと手招きした。アザレアはもう大丈夫だとわかっていても恥ずかしくて、カルから少し離れた場所に体育座りをする。そんなアザレアをカルは愛おしそうに見つめる。
「何度も言ってしまうけど、君は本当に愛らしいね」
アザレアはカルが言った愛らしいという言葉に、また顔を赤くした。それを悟られまいと、カルの方を見ないようにして答える。
「もう変なイタズラは終わりですのね?」
カルは声を出して笑った。
「残念だけどね、今日はもうしないよ。それに今日はゆっくりするために来たのだしね」
その言葉を聞いてアザレアは、自分も少し残念に思っていることに気がついた。だが、これ以上なにかあれば、アザレアの心臓が耐えられそうになかった。
その後顔の火照りが収まるのを待ってから、カルの隣に座った。
カルは約束通りそれ以上アザレアにちょっかいをかけてくることはなかったので、二人は他愛ない話をして、ゆっくり過ごした。
王宮に戻ってくると、カルは馬を厩務員へ預けアザレアを部屋まで送ってくれた。去り際に思い出させるように、アザレアの首筋の跡に軽く指先で触れる。
「独占欲の強い私を許して欲しい」
そう言うと、微笑んで自室へ戻って行った。アザレアは首筋を抑え顔を赤くした。
部屋にもどると、シラーとシモーヌが瞳を輝かせながらアザレアを待っていた。二人はアザレアに今日のことを訊くことはしなかったが、したり顔でアザレアの世話をした。
「今日はお疲れになられましたでしょう?」
「早めにお休みしましょうね、お嬢様」
アザレアは二人の妙な勘違いを正そうとしたが、確かに遠出をして疲れてしまっていたので、それを諦めた。
それに、実際早めに休めるのは有り難かった。夕食を済ませ、ふたりのお陰で早くにベッドに横になったが、疲れすぎて神経が高ぶっているのか、予想に反してなかなか寝付けなかった。
日中は忙しくて思い出すこともないが、なにもすることがないと、召喚された聖女のことや、今日あった出来事のことを考えてしまい、じっとしていられなかった。
結局ベッドを抜け出し、庭を散歩することにした。ネグリジェだったので、軽く上からショールを羽織ると、廊下のドアから庭に出た。
この時間に森の方に行っては流石に危ないので、ガゼボに行って少し夜風に当たろうと思った。
ガゼボに行くと先客が居ることに気づいた。人のことを言えた立場ではないが、明かりも灯さずにこんな時間に何をやっているのか気になった。
目をよく凝らして見ると、そこにはフランツが立っていた。こちらが気づいた瞬間にフランツもこちらに気づいたようで、目が合った。アザレアは慌てて火球を作る。
「こんばんは、フランツ様。いい月夜ですわね」
フランツは笑顔でこちらをみていたが、その視線が火球に照らされたアザレアの首筋に移ると、その瞬間目が獲物を追うような鋭い目つきに変わった気がした。
アザレアは直感的にここにいてはいけないと思い、火球を消す。
「私失礼しますわね。ごきげんよう」
そう言って、その場を去ろうと踵を返した。
その瞬間、フランツがアザレアの腕をつかんだ。
アザレアは驚き振り返る。腕を振り払って瞬間移動で自室へ戻ろうかとも考えたが、今そんなことをしたらフランツが傷ついてしまうかもしれないと思い、できなかった。
フランツの顔を見ると、悲しげな笑顔でこちらを見ていた。このおかしな状況の中アザレアは何か言わなければと焦る。
「フランツ様……あの、どう、されたんですの?」
フランツは切なそうに言った。
「なぜ逃げるのですか?」
アザレアは動揺しながらも答える。
「ごめんなさい。私はここにいてはいけない気がしたので」
するとフランツは首を振る。
「逃げないで下さい。僕は貴女に危害を加えたりすることは決してありませんから」
そして、アザレアの腕を放した。アザレアは少し緊張しながらフランツに訊いた。
「私は眠れなくてここにきたのですけれど、フランツ様はどうしてこちらに?」
フランツは苦笑すると答える。
「貴女のことを考えていました。どうしたら貴女に意識してもらえるかをね。僕はいつでもあなたのことばかりを考えているんです」
一瞬なにを言われたのか理解できずに戸惑った。しばらく考え、なにを言われたか理解すると、今度は混乱した。
アザレアは咄嗟に答える。
「フランツ様、ごめんなさい私は」
そこまで言うと、フランツは少し大きな声で言った。
「わかっています、その先は言わないで下さい」
そして、アザレアの首筋の跡を見つめる。
「こんな跡、今すぐに消してしまえたらいのに……。僕にはそんな魔力もない」
と、苦しげに言った。そして更にアザレアに近づく。
「貴女が殿下と結婚するのは構わないと思ってました。そうすれば僕はずっと貴女の側に居ることができますからね。でも僕は浅はかでした。仲睦まじい二人を目の当たりにして、こんなにも胸をかき乱されるとは……」
そう言うと、急にフランツはアザレアから離れたところに立ち、優しく微笑んだ。
「すみません、怖がらせてしまうつもりはありませんでした」
そう言うと、いつもの明るい笑顔になる。
「こんな夜更けに女性一人で来るなんていけませんよ。今のように誰かに会ったりすれば、変に誤解を招きかねませんから。メイドを呼びますので、部屋まで送ってもらって下さい」
そう言ってメイドを呼ぶと、侍女にアザレアを送るよう指示した。そして、侍女にアザレアを預ける瞬間、アザレアの肩に手を置いて耳元で囁く。
「貴女が、違う方向を見ていても僕はずっと貴女を思い続けるんでしょうね」
そう言って、微笑んだ。アザレアはその後、次女に付き添われ自室に戻ると、すぐにベッドに潜り込んだ。
フランツはいつも誰にでも優しく、自分の感情を表に出すことがほとんどない。なので、フランツがあそこまで追い詰められていたことに、アザレアは全く気づけなかった。
アザレアは、フランツの気持ちには答えられそうにないと思った。フランツもそれはわかっているのだろう。そう思うと切なくなった。
今の出来事で、更に眠れそうになくなったが、とにかく目を閉じて横になることにした。
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