死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。

みゅー

文字の大きさ
39 / 66

第三十七話

しおりを挟む
 素晴らしい景色を眺め、おいしい空気と青空のもと、カルと楽しくサンドイッチとデザートのアプリコットタルトを食べた。

 満腹になってアザレアは、思い切ってそのまま後ろにごろりと寝転んだ。空を見ていると、たまにふわりふわりとどこからか飛んで来た草花の綿毛が左から右にと流れていった。横に座っているカルに向かって言う。

「こんな休日も素敵ですわね。とても気持ちがいいですわ」

 しばらく沈黙が続いたが、そんな時間も心地良かった。カルが答える。

「そうだね」

 カルはアザレアの横に寝転ぶと、体をこちらに向けて肘をついて上半身を軽く起こした。そしてアザレアの首筋に手を伸ばすと、髪をかき分けた。

「流石にもう虫刺されは消えてしまったね」

 そう言って、アザレアの顔の横に手をつくと、首筋に顔を近づけて言った。カルの息が首筋にかかる。アザレアの心臓は鼓動を早めた。恥ずかしさからカルから逃れるように顔を横に向ける。そして、どきどきしながら答えた。

「なぜ、カルが虫刺されのことをご存知ですの?」

 カルはクスクス笑うと言った。

「君の侍女に、君の虫刺されについて怒られてしまってね」

 アザレアは意味がわからなかった。

「なぜ、わたくしの虫刺されでカルが怒られ……」

 と言ったところで、アザレアはようやく虫の正体が誰なのか気づいた。アザレアはかっと顔が熱くなるのを感じながら、その虫刺されがあったであろう場所を手で押さえた。

 そんなアザレアの反応を見て、カルは楽しそうに微笑んだ。

「やっと君を刺した虫の正体に気がついた?」

 そう言うと、そっとアザレアの首筋に唇をあてる。そして強く吸った。アザレアは恥ずかしくて身悶えするも、抵抗虚しくされるがままとなった。首筋から唇を離すとカルは言った。

「魔法で治癒して消してしまってもいいよ。そうしたら今度は反対側につけるけどね」

 と言って今つけたばかりの痣を鼻先でなぞった。

 カルがアザレアに色々ちょっかいをかけてくると、アザレアはどうして良いかわからなくなった。カルは絶対に一線を越えるようなことはしない。アザレアもその点は信頼していたが、とにかく恥ずかしくてしょうがなかった。

「な、何をなさるんですか。もう!」

 赤くなった顔を押さえながらアザレアが少し離れると、カルはイタズラっぽく笑った。

「君は隙だらけだ」

 そう言って、片膝を立てると、立てた膝に腕を載せこちらを見た。

「これ以上君を怒らせてもいけないからね、今日はもうなにもしないよ。こっちに戻っておいで」

 カルは優しくそう言うと手招きした。アザレアはもう大丈夫だとわかっていても恥ずかしくて、カルから少し離れた場所に体育座りをする。そんなアザレアをカルは愛おしそうに見つめる。

「何度も言ってしまうけど、君は本当に愛らしいね」

 アザレアはカルが言った愛らしいという言葉に、また顔を赤くした。それを悟られまいと、カルの方を見ないようにして答える。

「もう変なイタズラは終わりですのね?」

 カルは声を出して笑った。

「残念だけどね、今日はもうしないよ。それに今日はゆっくりするために来たのだしね」

 その言葉を聞いてアザレアは、自分も少し残念に思っていることに気がついた。だが、これ以上なにかあれば、アザレアの心臓が耐えられそうになかった。

 その後顔の火照りが収まるのを待ってから、カルの隣に座った。

 カルは約束通りそれ以上アザレアにちょっかいをかけてくることはなかったので、二人は他愛ない話をして、ゆっくり過ごした。




 王宮に戻ってくると、カルは馬を厩務員へ預けアザレアを部屋まで送ってくれた。去り際に思い出させるように、アザレアの首筋の跡に軽く指先で触れる。

「独占欲の強い私を許して欲しい」

 そう言うと、微笑んで自室へ戻って行った。アザレアは首筋を抑え顔を赤くした。

 部屋にもどると、シラーとシモーヌが瞳を輝かせながらアザレアを待っていた。二人はアザレアに今日のことを訊くことはしなかったが、したり顔でアザレアの世話をした。

「今日はお疲れになられましたでしょう?」

「早めにお休みしましょうね、お嬢様」

 アザレアは二人の妙な勘違いを正そうとしたが、確かに遠出をして疲れてしまっていたので、それを諦めた。

 それに、実際早めに休めるのは有り難かった。夕食を済ませ、ふたりのお陰で早くにベッドに横になったが、疲れすぎて神経が高ぶっているのか、予想に反してなかなか寝付けなかった。

 日中は忙しくて思い出すこともないが、なにもすることがないと、召喚された聖女のことや、今日あった出来事のことを考えてしまい、じっとしていられなかった。

 結局ベッドを抜け出し、庭を散歩することにした。ネグリジェだったので、軽く上からショールを羽織ると、廊下のドアから庭に出た。

 この時間に森の方に行っては流石に危ないので、ガゼボに行って少し夜風に当たろうと思った。

 ガゼボに行くと先客が居ることに気づいた。人のことを言えた立場ではないが、明かりも灯さずにこんな時間に何をやっているのか気になった。

 目をよく凝らして見ると、そこにはフランツが立っていた。こちらが気づいた瞬間にフランツもこちらに気づいたようで、目が合った。アザレアは慌てて火球を作る。

「こんばんは、フランツ様。いい月夜ですわね」

 フランツは笑顔でこちらをみていたが、その視線が火球に照らされたアザレアの首筋に移ると、その瞬間目が獲物を追うような鋭い目つきに変わった気がした。

 アザレアは直感的にここにいてはいけないと思い、火球を消す。

わたくし失礼しますわね。ごきげんよう」

 そう言って、その場を去ろうと踵を返した。

 その瞬間、フランツがアザレアの腕をつかんだ。

 アザレアは驚き振り返る。腕を振り払って瞬間移動で自室へ戻ろうかとも考えたが、今そんなことをしたらフランツが傷ついてしまうかもしれないと思い、できなかった。

 フランツの顔を見ると、悲しげな笑顔でこちらを見ていた。このおかしな状況の中アザレアは何か言わなければと焦る。

「フランツ様……あの、どう、されたんですの?」

 フランツは切なそうに言った。

「なぜ逃げるのですか?」

 アザレアは動揺しながらも答える。

「ごめんなさい。わたくしはここにいてはいけない気がしたので」

 するとフランツは首を振る。

「逃げないで下さい。僕は貴女に危害を加えたりすることは決してありませんから」

 そして、アザレアの腕を放した。アザレアは少し緊張しながらフランツに訊いた。

わたくしは眠れなくてここにきたのですけれど、フランツ様はどうしてこちらに?」

 フランツは苦笑すると答える。

「貴女のことを考えていました。どうしたら貴女に意識してもらえるかをね。僕はいつでもあなたのことばかりを考えているんです」

 一瞬なにを言われたのか理解できずに戸惑った。しばらく考え、なにを言われたか理解すると、今度は混乱した。

 アザレアは咄嗟に答える。

「フランツ様、ごめんなさいわたくしは」

 そこまで言うと、フランツは少し大きな声で言った。

「わかっています、その先は言わないで下さい」

 そして、アザレアの首筋の跡を見つめる。

「こんな跡、今すぐに消してしまえたらいのに……。僕にはそんな魔力もない」 

 と、苦しげに言った。そして更にアザレアに近づく。

「貴女が殿下と結婚するのは構わないと思ってました。そうすれば僕はずっと貴女の側に居ることができますからね。でも僕は浅はかでした。仲睦まじい二人を目の当たりにして、こんなにも胸をかき乱されるとは……」

 そう言うと、急にフランツはアザレアから離れたところに立ち、優しく微笑んだ。

「すみません、怖がらせてしまうつもりはありませんでした」

 そう言うと、いつもの明るい笑顔になる。

「こんな夜更けに女性一人で来るなんていけませんよ。今のように誰かに会ったりすれば、変に誤解を招きかねませんから。メイドを呼びますので、部屋まで送ってもらって下さい」

 そう言ってメイドを呼ぶと、侍女にアザレアを送るよう指示した。そして、侍女にアザレアを預ける瞬間、アザレアの肩に手を置いて耳元で囁く。

「貴女が、違う方向を見ていても僕はずっと貴女を思い続けるんでしょうね」

 そう言って、微笑んだ。アザレアはその後、次女に付き添われ自室に戻ると、すぐにベッドに潜り込んだ。

 フランツはいつも誰にでも優しく、自分の感情を表に出すことがほとんどない。なので、フランツがあそこまで追い詰められていたことに、アザレアは全く気づけなかった。

 アザレアは、フランツの気持ちには答えられそうにないと思った。フランツもそれはわかっているのだろう。そう思うと切なくなった。

 今の出来事で、更に眠れそうになくなったが、とにかく目を閉じて横になることにした。

 翌朝、起きたとき昨夜のことは夢だったのでは? と思ったが、ショールが無いことに気づき、昨夜のことは夢でないのだと再確認した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!

屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。 そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。 そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。 ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。 突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。 リクハルド様に似ても似つかない子供。 そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。

聖女の任期終了後、婚活を始めてみたら六歳の可愛い男児が立候補してきた!

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
23歳のメルリラは、聖女の任期を終えたばかり。結婚適齢期を少し過ぎた彼女は、幸せな結婚を夢見て婚活に励むが、なかなか相手が見つからない。原因は「元聖女」という肩書にあった。聖女を務めた女性は慣例として専属聖騎士と結婚することが多く、メルリラもまた、かつての専属聖騎士フェイビアンと結ばれるものと世間から思われているのだ。しかし、メルリラとフェイビアンは口げんかが絶えない関係で、恋愛感情など皆無。彼を結婚相手として考えたことなどなかった。それでも世間の誤解は解けず、婚活は難航する。そんなある日、聖女を辞めて半年が経った頃、メルリラの婚活を知った公爵子息ハリソン(6歳)がやって来て――。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

【完結】偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。

雨宮羽那
恋愛
 聖女補佐官であるレティノアは、補佐官であるにも関わらず、祈りをささげる日々を送っていた。  というのも、本来聖女であるはずの妹が、役目を放棄して遊び歩いていたからだ。  そんなある日、妹が「真実の愛に気づいたの」と言って恋人と駆け落ちしてしまう。  残されたのは、聖女の役目と――王命によって決められた聖騎士団長様との婚姻!?  レティノアは、妹の代わりとして聖女の立場と聖騎士団長との結婚を押し付けられることに。  相手のクラウスは、「血も涙もない冷血な悪魔」と噂される聖騎士団長。クラウスから「俺はあなたに触れるつもりはない」と言い放たれたレティノアは、「これは白い結婚なのだ」と理解する。  しかし、クラウスの態度は噂とは異なり、レティノアを愛しているようにしか思えなくて……?  これは、今まで妹の代わりの「偽物」として扱われてきた令嬢が「本物」として幸せをつかむ物語。 ◇◇◇◇ お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます! モチベになるので良ければ応援していただければ嬉しいです♪ ※いつも通りざまぁ要素は中盤以降。 ※完結まで執筆済み ※表紙はAIイラストです ※アルファポリス先行投稿(他投稿サイトにも掲載予定です)

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

処理中です...