死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。

みゅー

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第三十六話

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 講義ももちろんだが聖女のお披露目パレードの準備もあり、アザレアは忙しく過ごしていた。カルと出かける約束をしていたが、気づけばそれから一ヶ月も過ぎてしまっていた。

 身支度を調えながらシラーが言った。

「今日はヒュー先生の都合により、講義がお休みになるそうです。それで王太子殿下より今日出掛けることはできないかと、お誘いがありました」

 そう聞いたアザレアは、今日約束を果たさなければ、もう約束を果たすことは無理かもしれないと思った。

「殿下に『今日でかまわない』と伝えてもらえるかしら」

 そうシモーヌにお願いして、シラーにはいつでも出かけられるように準備を頼んだ。シラーは瞳を輝かせる。

「まぁ、お嬢様もしかしてデートですのね? でしたら気合いを入れて準備して差し上げますわ」

 そう言うと、張り切って準備を始めた。そこにシモーヌが戻ってくる。シモーヌはシラーに慌てて言う。

「シラー、今日はなるべく動きやすい格好でと、王太子殿下より申し使っているから、その範囲内でお願いね」 

 アザレアはどこまで行くのだろう? と思いながら、準備を整えた。朝食をとり部屋でくつろいでいるとカルが部屋を訪ねて来た。

「待たせてしまったかな? さぁ行こう」

 そう言うと、アザレアに手を差し伸べた。その手を取りエスコートされるがまま部屋を出る。背後でドアが閉まった瞬間、ドアの向こうからシラーとシモーヌの声が聞こえた。

「キャー王太子殿下素敵ですわ!」

「本当に格好良いですわ!!」

「それにお嬢様と本当にお似合いですわ~!」

「いや~ん、たまりませんわね~!」

 アザレアとカルは思わず立ち止まり、顔を見合わせて笑った。

 カルにエスコートされ歩いてゆくと厩務員きゅうむいんが馬を連れて立っていた。アザレアはカルの顔を見上げる。

「もしかして、馬ででかけますの?」

 とカルに訊いた。カルはわたくしに微笑む。

「アズは何処へでも一瞬でいけてしまうだろうが、出かける途中の景色もなかなか良いものだよ。せっかく出かけるのだからそれも楽しんで欲しい」

 そう言うと、厩務員に目配せし馬に跨った。アザレアは困ってカルに言った。

「申し訳ありませんが、乗馬ができる格好をしてきませんでしたわ」

 カルは肩を竦めた。

「そうだろうね、私も馬に乗るとは伝えていないからね。大丈夫、私と相乗りだから」

 そう言うと、アザレアに手を差し伸べた。一瞬躊躇したがアザレアはその手をつかみあぶみに足をかけた。するとカルは軽々とアザレアを馬上へ引き上げた。

 カルは横乗りしたアザレアを、抱きかかえるようにして、馬を走らせる。

 最初のうちは怖いのと、恥ずかしさでカルにしがみついて周囲を見る余裕もなかったが、慣れてくると頬にあたる風の心地よさと、流れる景色に目を奪われた。

「まぁ、王宮の裏手にはこんなに素敵な景色が広がってましたのね」

 それを聞いて、カルは嬉しそうに言った。

「もっと素敵な場所に連れて行ってあげるよ。さあ、舌を噛んだらいけないから、おしゃべりはここまで」 

 カルは鞭打ち馬の走る速度を上げる。しばらくそうして馬を走らせ、森を抜け、丘陵の続く場所に出ると、突然視界が開けた。その景色にアザレアは歓声を上げる。

 そして前方にある丘の上まで駆け上がると止まった。

「さぁ、着いたよ」

 カルは先に馬から降り、アザレアを抱きかかえて馬から下ろした。

 アザレアが周囲を見渡すと、丘陵が続いておりその先に海が見えた。反対側には続く丘陵の先に森が広がっており、その先に王宮が見える。

「カル、連れてきてくれてありがとう、景色が素晴らしいですわ。遠くまで見えて、ほら、海も見えますわ」

 アザレアは思わずはしゃいだ。心地よい風が頬をなで、気持ちの良い雲ひとつない天気で、大きく深呼吸をする。カルはそんなアザレアを優しい眼差しで見つめると言った。

「この場所を気に入ってくれたみたいで、本当に良かったよ。じゃあ君は少しここで待っていて、私は馬を木に繋いでくるから」

 そう言うと少し離れた木に向かい、馬をつなぐ。そして馬に載せていたバスケットを下ろすと、それを持って戻ってきた。

「景色の良い場所で、お茶を飲んでランチを取って寝転ぶ。たまにはそんな休日もいいだろう?」

 言いながら、籠からシートを取り出し広げ、その上にバスケットを置いて座った。アザレアもそれに続いてカルの隣に座る。するとカルはおどけて言った。

「お嬢様、本日はサーモンとクリームチーズのベーグルサンドと生ハムのサンドイッチ、デザートにアプリコットタルトをご用意させていただきました」

 アザレアもそれに合わせる。

「あら、貴方にしては上出来ね、食べてさし上げてもよろしくてよ?」

 ふたり、顔を見合わせて笑った。その後、カルが言いにくそうに言った。

「いずれ、もし君が良ければだが、また手作りの差し入れが欲しいな。私の我が儘なので嫌なら別にかまわないが」

 アザレアは、王宮でカルが『食べてる暇はない』と叫んでいたのを思い出した。

「でも、カルは『差し入れを食べてる暇はない』のでしょう?」

 意地悪っぽく言った。カルは驚いた顔になると慌てて答える。

「君の差し入れをもらっておいて、そんなふうに思ったことはないよ」

 アザレアはカルに疑いの眼差しを向けながら言う。

わたくし倒れたときにカルがそう言ったのを聞きましたの」

 カルは納得した顔になって答える。

「あの時のことか、もっと早くに弁解しておくべきだったね」

 そう言って苦笑した。

「言い訳のように感じるかもしれないが、以前君が来る直前にコシヌルイ公爵令嬢が謁見に来ていた、と言ったよね。実はその時に彼女は、なぜアザレアからの謁見や花、お菓子の差し入れが許可されているのに、他の令嬢は許可されないのかってフランツに詰め寄ったんだ。わたしはフランツからそんな報告を受けたあとだったからね、『差し入れを……』と聞いて、てっきりコシヌルイ公爵令嬢からの差し入れだと勘違いをしてしまってね。いや、それにしても『食べてる暇はない』は酷かったね、すまなかった」

 そう言って頭を下げた。

「まぁ、そうでしたの」

 アザレアは、そういうことならもっと早く訊いておけば良かった。と、後悔した。それと同時に自分だけ許されていたとは知らず、先日ピラカンサが言っていたことは本当だったのだと思った。

 アザレアはせっかくの機会なので、色々カル本人に訊いてみることにした。

「いい機会なので、もう一つお訊きしたいことがありますわ。以前、カルは、その、わたくしに冷たかったと思うのです。なぜですの?」

 カルは苦笑いした。

「それは本当に私の勘違いだ。君に気に入ってもらいたくてね、格好いい完璧な王太子殿下を演じていた。なぜか君は完璧な王太子殿下を求めていると信じて疑わなかったからね。国を、国民を第一に考える完璧な王太子殿下を支える君。そんなふうに未來を描いていた」

 そう言って自嘲気味に微笑む。

「その結果がどうなったかは君が一番よく知っているね」

 アザレアも苦笑した。カルは話を続ける。

「それに私は昔父上に反発していたと言ったね、信用を失っている状態だった。ああ見えて父上は厳しい人間だ。その資格がないと判断すれば、実の息子である私すら切り捨てるだろう。王位を継ぐ、それは重力魔法の封印を解くということだし、厳しくても仕方がないと思う」

 そう言ったあと、アザレアの髪を指で弄びながら瞳を見つめた。

「君は父上のお気に入りだ。父上は信用ならない人間に君を嫁がせることはしなかったろう。そんなこともあって、当時父上にも君にも認められるよう躍起になっていた。ぴりぴりしていたかも知れない」

 これもピラカンサが言っていたことと、ほぼ一致している。アザレアは自分が周囲をちゃんと見ていなかったことを反省した。

「ごめんなさい、わたくしそんなことも知らなくて」

 そう言うと、カルは驚いて言った。

「なぜ? 君は謝る必要はないよ。その頃は君だってお妃教育が物凄く忙しくて、周囲を見る余裕もなかったはずだ。知らなくて当然だよ。一番の問題は、私が君との時間を作ってちゃんと話し合いをしてこなかったことだね。君の望みに耳を傾けなかったのが一番よくなかったと、今は思う。これでもだいぶ反省したんだよ」

 そこで一旦一呼吸して続ける。

「さて、せっかく外に出てきたんだ、この景色を楽しもう」

 カルは歯を見せて笑った。
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