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第六十三話
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「アズ! お願いだ、目を開けてくれ!」
カルが呼ぶ声で目を開けると、カルがアザレアを抱き抱え、心配そうな顔で覗きこんでいた。
アザレアはそっと手を伸ばし、カルの頬を愛おしそうになでて言った。
「カル、私あなたのもとに帰ってきましたわ」
カルは頬をなでるアザレアの手をつかむと、そのまま自身の頬に更に押し付けて頷く。
「あぁ、そうだね、ありがとう」
カルは目に涙を溜めて微笑んだ。アザレアはそんなカルを見つめ、指先でカルの顔をゆっくりなぞった。
「カル、私あなたに伝えたい気持ちがありますの」
すると、カルはアザレアの唇に指をあてた。
「待ってくれ、その先は私から先に言わせて欲しい」
アザレアが頷くと、カルはアザレアの唇から指を離す。
「初めて私の前にアンモビウムの花を持って現れたあの瞬間に君に恋に落ち、会うたびにその気持ちは募った。一度君が私から離れたあの日から、君を知りもっと君を深く愛するようになった。私は君以外いらない。王位もこの国も、それよりなにより君が欲しい。君を心から愛している」
アザレアは大粒の涙をこぼしながら答える。
「私も、心からあなたを愛しております」
そう言った瞬間、二人は強く抱き合い、お互いの存在をしばらく確かめ合った。カルはアザレアの首筋に顔を埋めると言った。
「君がいないと、私は生きてはいけない。ずっとそばにいて共に歩んでくれるね?」
アザレアは頷く。
「もちろんですわ、私だって、もうカルがいなければ生きていけません。あなたがいたから私はここまでこれたし、ここに戻ってくることもできたのです」
カルはアザレアの顔を両手で優しく包み、アザレアの瞳を覗きこむと言った。
「君の全てが欲しい、身も心もその全てを」
アザレアもカルの瞳を見つめ返す。
「はい、私の全てはカルのものです」
そう言うと、カルはアザレアと唇を重ねた。そして、何度も角度を変え、深く求めた。
「アザレア、嬉しいよ。私はやっと君を手に入れた」
アザレアはいたずらっぽく笑うと言い返す。
「カルの全ても私のものですわ」
するとカルは微笑む。
「もちろん。私は疾の昔に君のものだよ」
そう言ってまた深くキスをした。
しばらくそんな時間を過ごしたのち、アザレアは周囲を見まわし以前カルと一緒に訪れた湖畔だと気づいた。
「みんなはどうしましたの?」
カルは適当な倒木のところまでアザレアを連れていきそこに座ると、アザレアを抱き締めながら話し始めた。
「実は君が奈落を閉じる瞬間に、私たちはどこかの空間へ吹き飛ばされたんだ。私はその空間ではぐれそうになった君を腕輪で探し、必死でつかまえた。そして魔石でここまで移動してきたんだ。心配しなくとも、フランツのことは移動魔石を持ったコリウスに任せたから大丈夫だろう」
アザレアはカルに訊いた。
「でも、なぜ私たちはこの場所へ?」
カルは少し照れたように笑った。
「君を助け移動しようとした瞬間。君とのことが色々思い出されてね。気がついたらここに移動していた。あの晩の二人の思い出は、それほど私にとって大切なものだったからね」
そう言って、アザレアに優しく微笑む。もちろんアザレアにとってもあの晩のことは大切な思い出だった。
「ここへまた二人で来ることができて、私も嬉しいですわ」
そう言って微笑み返すと、カルがまたアザレアに軽くキスをして言った。
「そうか、ありがとう」
アザレアは不意に万次郎のことを思い出し、話しておかなければならないと思った。
「そう言えば、私カルに話しておかなければいけないことがありますの」
カルはその言葉に真剣な顔になる。
「いい話だとよいのだが」
アザレアは苦笑しながら答える。
「今回はそんなに悪い話ではありませんわ。だから安心して聞いてくださいませ。実は私、光属性も使えるようになりましたの」
カルは一瞬動きを止めたが、頷くと言った。
「うん、なんか、君らしいね」
アザレアは笑った。
「ありがとうございます」
満面の笑みでお礼を言う。そして万次郎に会ったときの話を掻い摘んで話した。流石に世界はプログラムされたものだとか、アザレアが万次郎と同じ存在になるかもとか、そう言った内容は話せなかった。
ただ、アザレアがいずれ全ての属性魔法を使えるようになるかもしれないこと、あとミツカッチャ神はミツカッチャ神ではなく、万次郎という名前なのだということだけはしっかり伝えた。
「まんじろう神? 変わった名だが、神ご自身がそうおっしゃるなら、そうなのだろう」
アザレアは、まさかアザレアが前世で飼っていた犬の名前なのだとは口が裂けても言えなかった。そして、カルに取られてしまったフラワーホルダーを指差した。
「あとそのお花、品種改良して変異したもので種を残すか迷っていたのですが、万次郎さんから増やしても大丈夫とお墨付きをいただいたので、お花だけでも返していただけると嬉しいですわ」
そう言うと、カルは頷いて言った。
「そう言う事ならこちらにまかせて欲しい」
アザレアは素直にお願いすることにした。
「はい、ではおまかせします」
カルは少し考えてアザレアに言った。
「ところでアズが全ての属性を使えるとなると、今後君に王位継承の話も出てくるかも知れないね」
そう言ってアザレアを見つめた。アザレアは顔の前で手を降る。
「絶対にだめです、無理ですわ!!」
カルは声を出して笑った。
「私は一向に構わない。君が王でも私が王でも共に歩むことに変わりはないからね」
アザレアは少し恥ずかしくなり、小声で答えた。
「その通りです。確かにどちらでも変わりありませんわね……私たち、ずっと、その、一緒ですもの……」
カルはアザレアをぎゅっと抱き締めた。
「君は本当に愛らしい」
そう言うと、またアザレアに口づけ、口内を貪った。そして、ゆっくり唇を離しアザレアを熱をもった瞳でしばらく見つめる。
「愛してる。もう少し君の存在を感じたい」
そう言ってしばらく抱き締めた。そうしてから体を離すとアザレアを見つめ、アザレアの額に自身の額をこつんとつけると言った。
「さて、いつまででもこうしていたいが、もうそろそろ戻らなければ皆が心配するだろう」
そう言って、アザレアを横抱きにして立ち上がった。
「さぁ、大聖女様の凱旋だ」
そう言って、王宮まで移動した。
王宮に戻ると、上を下への大騒ぎとなっていた。
「アジャレ~!」
リアトリスが、アザレアに飛びつく。アザレアは今回だけはそれを甘んじて受け入れた。
その後アザレアは国王陛下より直々に救国のお礼の言葉を賜った。陛下はカルに向かって言った。
「一時期どうしたものかとお前を心配したが、大義を成し遂げ、守るべきものを守り、いつの間にか立派に王の資質を備えていた。私は安心した。それもこれもアザレア」
そう言うと、アザレアの方を向いて微笑む。
「そなたのお陰だと思っている。よくぞ私のバカ息子をここまで支えてくれた。そして奈落を塞いだことは、誠に大義であった。改めて礼を言う。アザレア、ありがとう」
その後は晩餐会が開かれ、その中で今後正式に、聖女お披露目を兼ねた凱旋パレードを行うという話が上がった。大変なことになったと思いながらも、平和な日常を噛み締めていた。
結界の外は奈落が塞がれたとはいえ、まだまだ飛散粒子の影響が強いため、急ピッチでアザレアの作った粒子無効魔石を散布する作業が行われた。今後は国交が自由にできるようになるため、もっと国が発展し、より豊かになるだろう。
アザレアがいずれ重力属性を操ることができるようになれば、人口ダイヤの製造も可能になるかもしれない。
アザレアは、これからもやらなければならないことが山積みだった。だが、どれもやりがいのあることばかりで、アザレアはやる気にあふれ、希望にみちていた。
万次郎には感謝しかない。あの時、あの瞬間に記憶を思い出さなければ、こんなに素晴らしい日常は過ごせなかっただろう。そしてカルやフランツ、コリン、リアトリスやノクサ、言い出せばきりがないぐらいの、たくさんの人々に助けてもらえた。彼らの影のサポート無しで奈落を塞ぐことは不可能であったと思う。
彼らに感謝しつつ、今日もアザレアは精一杯生きるのだった。
後日……、カルが珍しく外へ行こうと誘ってきた。最近は忙しくしていて、どこへも出掛けていなかったので、外へ出られるのは正直嬉しいことだった。
カルに抱えられ、馬で森の中を進む。
「何処へ行きますの?」
アザレアが質問すると、カルは微笑む。
「前に一緒にピクニックに行った丘だよ」
と言った。今日は快晴でピクニックにはうってつけだった。しばらく馬を走らせていると、ブルーの草原が見えた。近づいてゆくに連れそれがスターチスの群生だとわかった。
「カル、もしかしてあれは……」
と言うと、カルは頷く。
「ことのほか、増やすのに時間がかかってしまってね。やっと君に見せることができる」
と微笑んだ。森から抜けるとそこは丘一面にスターチスの花が広がっていた。遠くに続く丘のすべてが紫とブルーのグラデーションスターチスで染まっている。アザレアは思わず感嘆の声を漏らした。
丘の上まで来るとカルは、アザレアを馬から降ろし、アザレアの頬に触れるとアザレアの前に跪いた。
「アザレア公爵令嬢、私とこの先一生人生を共に歩んでいただけますか?」
そう言うと、内ポケットからリングケースを取り出し、中に入っているダイヤの指輪をアザレアに見せた。そして言った。
「私と結婚してください」
アザレアは震える手でそのリングケースを受け取る。
「はい、こちらこそ宜しくお願いいたします」
そう答えると、カルは立ち上がりアザレアを抱き締め
「ありがとう、愛してる」
と言って深くキスをした。
「婚約辞退を言われたあの日、今日こんな日がくるなんて、想像もできなかった。どこまでも駄目な僕をそれでも見捨てなかった君が、本当に愛おしくて、初めて自分を犠牲にしてでも守りたいと思えた。君が僕を成長させてくれた。君以外は誰もいらない。君しかいない」
と、強くアザレアを抱き締める。
「何度でも言おう、愛してる」
カルが呼ぶ声で目を開けると、カルがアザレアを抱き抱え、心配そうな顔で覗きこんでいた。
アザレアはそっと手を伸ばし、カルの頬を愛おしそうになでて言った。
「カル、私あなたのもとに帰ってきましたわ」
カルは頬をなでるアザレアの手をつかむと、そのまま自身の頬に更に押し付けて頷く。
「あぁ、そうだね、ありがとう」
カルは目に涙を溜めて微笑んだ。アザレアはそんなカルを見つめ、指先でカルの顔をゆっくりなぞった。
「カル、私あなたに伝えたい気持ちがありますの」
すると、カルはアザレアの唇に指をあてた。
「待ってくれ、その先は私から先に言わせて欲しい」
アザレアが頷くと、カルはアザレアの唇から指を離す。
「初めて私の前にアンモビウムの花を持って現れたあの瞬間に君に恋に落ち、会うたびにその気持ちは募った。一度君が私から離れたあの日から、君を知りもっと君を深く愛するようになった。私は君以外いらない。王位もこの国も、それよりなにより君が欲しい。君を心から愛している」
アザレアは大粒の涙をこぼしながら答える。
「私も、心からあなたを愛しております」
そう言った瞬間、二人は強く抱き合い、お互いの存在をしばらく確かめ合った。カルはアザレアの首筋に顔を埋めると言った。
「君がいないと、私は生きてはいけない。ずっとそばにいて共に歩んでくれるね?」
アザレアは頷く。
「もちろんですわ、私だって、もうカルがいなければ生きていけません。あなたがいたから私はここまでこれたし、ここに戻ってくることもできたのです」
カルはアザレアの顔を両手で優しく包み、アザレアの瞳を覗きこむと言った。
「君の全てが欲しい、身も心もその全てを」
アザレアもカルの瞳を見つめ返す。
「はい、私の全てはカルのものです」
そう言うと、カルはアザレアと唇を重ねた。そして、何度も角度を変え、深く求めた。
「アザレア、嬉しいよ。私はやっと君を手に入れた」
アザレアはいたずらっぽく笑うと言い返す。
「カルの全ても私のものですわ」
するとカルは微笑む。
「もちろん。私は疾の昔に君のものだよ」
そう言ってまた深くキスをした。
しばらくそんな時間を過ごしたのち、アザレアは周囲を見まわし以前カルと一緒に訪れた湖畔だと気づいた。
「みんなはどうしましたの?」
カルは適当な倒木のところまでアザレアを連れていきそこに座ると、アザレアを抱き締めながら話し始めた。
「実は君が奈落を閉じる瞬間に、私たちはどこかの空間へ吹き飛ばされたんだ。私はその空間ではぐれそうになった君を腕輪で探し、必死でつかまえた。そして魔石でここまで移動してきたんだ。心配しなくとも、フランツのことは移動魔石を持ったコリウスに任せたから大丈夫だろう」
アザレアはカルに訊いた。
「でも、なぜ私たちはこの場所へ?」
カルは少し照れたように笑った。
「君を助け移動しようとした瞬間。君とのことが色々思い出されてね。気がついたらここに移動していた。あの晩の二人の思い出は、それほど私にとって大切なものだったからね」
そう言って、アザレアに優しく微笑む。もちろんアザレアにとってもあの晩のことは大切な思い出だった。
「ここへまた二人で来ることができて、私も嬉しいですわ」
そう言って微笑み返すと、カルがまたアザレアに軽くキスをして言った。
「そうか、ありがとう」
アザレアは不意に万次郎のことを思い出し、話しておかなければならないと思った。
「そう言えば、私カルに話しておかなければいけないことがありますの」
カルはその言葉に真剣な顔になる。
「いい話だとよいのだが」
アザレアは苦笑しながら答える。
「今回はそんなに悪い話ではありませんわ。だから安心して聞いてくださいませ。実は私、光属性も使えるようになりましたの」
カルは一瞬動きを止めたが、頷くと言った。
「うん、なんか、君らしいね」
アザレアは笑った。
「ありがとうございます」
満面の笑みでお礼を言う。そして万次郎に会ったときの話を掻い摘んで話した。流石に世界はプログラムされたものだとか、アザレアが万次郎と同じ存在になるかもとか、そう言った内容は話せなかった。
ただ、アザレアがいずれ全ての属性魔法を使えるようになるかもしれないこと、あとミツカッチャ神はミツカッチャ神ではなく、万次郎という名前なのだということだけはしっかり伝えた。
「まんじろう神? 変わった名だが、神ご自身がそうおっしゃるなら、そうなのだろう」
アザレアは、まさかアザレアが前世で飼っていた犬の名前なのだとは口が裂けても言えなかった。そして、カルに取られてしまったフラワーホルダーを指差した。
「あとそのお花、品種改良して変異したもので種を残すか迷っていたのですが、万次郎さんから増やしても大丈夫とお墨付きをいただいたので、お花だけでも返していただけると嬉しいですわ」
そう言うと、カルは頷いて言った。
「そう言う事ならこちらにまかせて欲しい」
アザレアは素直にお願いすることにした。
「はい、ではおまかせします」
カルは少し考えてアザレアに言った。
「ところでアズが全ての属性を使えるとなると、今後君に王位継承の話も出てくるかも知れないね」
そう言ってアザレアを見つめた。アザレアは顔の前で手を降る。
「絶対にだめです、無理ですわ!!」
カルは声を出して笑った。
「私は一向に構わない。君が王でも私が王でも共に歩むことに変わりはないからね」
アザレアは少し恥ずかしくなり、小声で答えた。
「その通りです。確かにどちらでも変わりありませんわね……私たち、ずっと、その、一緒ですもの……」
カルはアザレアをぎゅっと抱き締めた。
「君は本当に愛らしい」
そう言うと、またアザレアに口づけ、口内を貪った。そして、ゆっくり唇を離しアザレアを熱をもった瞳でしばらく見つめる。
「愛してる。もう少し君の存在を感じたい」
そう言ってしばらく抱き締めた。そうしてから体を離すとアザレアを見つめ、アザレアの額に自身の額をこつんとつけると言った。
「さて、いつまででもこうしていたいが、もうそろそろ戻らなければ皆が心配するだろう」
そう言って、アザレアを横抱きにして立ち上がった。
「さぁ、大聖女様の凱旋だ」
そう言って、王宮まで移動した。
王宮に戻ると、上を下への大騒ぎとなっていた。
「アジャレ~!」
リアトリスが、アザレアに飛びつく。アザレアは今回だけはそれを甘んじて受け入れた。
その後アザレアは国王陛下より直々に救国のお礼の言葉を賜った。陛下はカルに向かって言った。
「一時期どうしたものかとお前を心配したが、大義を成し遂げ、守るべきものを守り、いつの間にか立派に王の資質を備えていた。私は安心した。それもこれもアザレア」
そう言うと、アザレアの方を向いて微笑む。
「そなたのお陰だと思っている。よくぞ私のバカ息子をここまで支えてくれた。そして奈落を塞いだことは、誠に大義であった。改めて礼を言う。アザレア、ありがとう」
その後は晩餐会が開かれ、その中で今後正式に、聖女お披露目を兼ねた凱旋パレードを行うという話が上がった。大変なことになったと思いながらも、平和な日常を噛み締めていた。
結界の外は奈落が塞がれたとはいえ、まだまだ飛散粒子の影響が強いため、急ピッチでアザレアの作った粒子無効魔石を散布する作業が行われた。今後は国交が自由にできるようになるため、もっと国が発展し、より豊かになるだろう。
アザレアがいずれ重力属性を操ることができるようになれば、人口ダイヤの製造も可能になるかもしれない。
アザレアは、これからもやらなければならないことが山積みだった。だが、どれもやりがいのあることばかりで、アザレアはやる気にあふれ、希望にみちていた。
万次郎には感謝しかない。あの時、あの瞬間に記憶を思い出さなければ、こんなに素晴らしい日常は過ごせなかっただろう。そしてカルやフランツ、コリン、リアトリスやノクサ、言い出せばきりがないぐらいの、たくさんの人々に助けてもらえた。彼らの影のサポート無しで奈落を塞ぐことは不可能であったと思う。
彼らに感謝しつつ、今日もアザレアは精一杯生きるのだった。
後日……、カルが珍しく外へ行こうと誘ってきた。最近は忙しくしていて、どこへも出掛けていなかったので、外へ出られるのは正直嬉しいことだった。
カルに抱えられ、馬で森の中を進む。
「何処へ行きますの?」
アザレアが質問すると、カルは微笑む。
「前に一緒にピクニックに行った丘だよ」
と言った。今日は快晴でピクニックにはうってつけだった。しばらく馬を走らせていると、ブルーの草原が見えた。近づいてゆくに連れそれがスターチスの群生だとわかった。
「カル、もしかしてあれは……」
と言うと、カルは頷く。
「ことのほか、増やすのに時間がかかってしまってね。やっと君に見せることができる」
と微笑んだ。森から抜けるとそこは丘一面にスターチスの花が広がっていた。遠くに続く丘のすべてが紫とブルーのグラデーションスターチスで染まっている。アザレアは思わず感嘆の声を漏らした。
丘の上まで来るとカルは、アザレアを馬から降ろし、アザレアの頬に触れるとアザレアの前に跪いた。
「アザレア公爵令嬢、私とこの先一生人生を共に歩んでいただけますか?」
そう言うと、内ポケットからリングケースを取り出し、中に入っているダイヤの指輪をアザレアに見せた。そして言った。
「私と結婚してください」
アザレアは震える手でそのリングケースを受け取る。
「はい、こちらこそ宜しくお願いいたします」
そう答えると、カルは立ち上がりアザレアを抱き締め
「ありがとう、愛してる」
と言って深くキスをした。
「婚約辞退を言われたあの日、今日こんな日がくるなんて、想像もできなかった。どこまでも駄目な僕をそれでも見捨てなかった君が、本当に愛おしくて、初めて自分を犠牲にしてでも守りたいと思えた。君が僕を成長させてくれた。君以外は誰もいらない。君しかいない」
と、強くアザレアを抱き締める。
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