悪役令嬢は自称親友の令嬢に婚約者を取られ、予定どおり無事に婚約破棄されることに成功しましたが、そのあとのことは考えてませんでした

みゅー

文字の大きさ
4 / 43

4

しおりを挟む
 そう思うくらいなら、わざわざ婚約解消したばかりよ令嬢を選ぶ必要はないですのに。

 そう思いながら、男性とはそういうものなのだろうと考えることにした。

「わかりました。どうぞよろしくお願いしますわ」

 オルヘルスがそう言うと、グランツは口許を隠してなにかを我慢した顔をすると呟く。

「私のものに……」

「はい? なんでしょうか?」

 その問いにグランツは微笑んで返す。

「いや、なんでもない。では行こう」

 そう言うと、御者に声をかけ馬車を出した。

 しばらくすると、ある屋敷の前で馬車が止まり、グランツのエスコートでその屋敷へ入った。

 今までもドレスを仕立てたことは何度かあったが、ここへ来るのは初めてだった。

「こちらはどなたのお屋敷なんですの?」

「始めてくるだろう? ここのデザイナーは変わり者でね、自分が気に入った人物でないとデザインを引き受けない。相手が王族だろうとね」

「そうですの?! わたくしは大丈夫でしょうか?」

 ここまで連れてきてもらってデザイナーに断られるようなことがあれば、グランツの顔に泥を塗ることになってしまう。

 そんな不安を取り払うようにグランツは自信ありげに微笑む。

「心配する必要はない。彼は引き受けてくれている」

 そこで思い切り部屋の扉が開かれると、ピンクのマジックハットにピンクの大きな羽、そしてピンクの燕尾服を着た金髪碧眼の男性が勢いよく部屋に飛び込んで来た。

「はぁーい! お待たせ~! 待った~?」

「遅いぞ、ずいぶん待たされた」

 グランツが答えたがそのデザイナーはその返事を無視して、オルヘルスに目を止めると、上から下まで見ながら周囲をぐるぐる回った。

「うわぁ~お! 以前見たときも思ったけどさぁ、本当に執着王子には勿体ないよねぇ~」

「やかましい。それより、彼女に合いそうなドレスを持ってきてくれ」

「あ~、なるほどぉ。やっぱ、ペッシュが着飾ってるの見たいよねぇ。僕も見たいなぁ」

「お前は見るな、オリが汚れる」

 そう言ってグランツはオルヘルスを抱き締めると、そのデザイナーから隠した。それを見てデザイナーは呆れたように言った。

「は~? 僕はデザイナーだもん。見る権利があるよね~?」

 このふたりは仲がいいのだろうか?

 オルヘルスはそう思いながら、やり取りを黙って見ていた。

 そんなオルヘルスの様子に気づいたグランツは、慌てて言った。

「すまない、君を置き去りにこちらだけで話してしまった。彼はファニー、見た目はあれだが腕は一流だ」

 すると、ファニーは明らかに不貞腐れた顔をした。

「ちょっとぉ~、見た目はあれってどういうことさ~!」

「言ったとおりだ。それより早くドレスを持ってこい」

「はいはい、人使いが荒いなぁ。それと~、ドレスならもう準備してあるよ! こっちこっち!」

 ファニーはそう言うと手招きした。

 そうして豪奢な調度品と中央に大きなソファがある客間へ通されると、促されて腰かけた。

 メイドがすぐにお茶の準備をし、それを淹れ終わらないうちにドレスラックが次から次に運ばれてきた。

 オルヘルスが驚いてそれらを見ていると、ファニーはオルヘルスに向き直って言った。

「流石にさぁ、粘着王子もこれ全部着ろとは言わないと思うよ? 安心してね~」

「もちろんだ。オリと私が気に入ったものを選んで試着してもらって、ファニーにはオリと私の好みを取り入れたドレスをデザインさせる予定だ」

 それを受けてファニーは大きくうなずく。

「そうそう、そういうこと! にしておこう。うんうん」

 ファニーの言い方に少し引っ掛かるものを感じたが、オルヘルスはとりあえず納得する。

「はい、わかりましたわ」

 オルヘルスが立ち上がってラックの方へ向かおうとすると、グランツがそれを止めた。

「オリ、君は座っていていいんだ」

 そしてファニーに向き直る。

「そちらのラックのものから順に見せろ」

「はぁ~い。どれもこれも、最近僕がデザインした最新の物だから、気に入ると思うよぉ!」

 オルヘルスはそうしてソファに腰かけたまま、一着ずつ見せられるドレスに目を奪われた。どれもこれも素敵なものばかりだったからだ。

 そうしてドレスをじっくり見比べ、デザインや色、レースについて意見を言ったり何着かデザインが気に入ったものをグランツと一緒に選んだ。

 そのあとそれらを一着ずつ試着し、グランツの前で一回転して見せるとグランツは満足そうにそれを見つめる。

「どれも君に似合っている。だが、そのドレスはからだのラインが出すぎている。よくないな」

「はい、わたくしも着てみた感じでは、先程着たドレスが色味も形も好みです」

 そんな会話をしている横で、ファニーはぶつぶつと何事か呟きながら、遠巻きに見たり、周囲をぐるぐる回ったりしていた。

 かなり手間のかかる作業だったが、思いの外楽しく時間はあっという間に過ぎ、すべてのドレスの試着が終わったときには、だいぶ日が傾いていた。

「もうこんな時間でしたのね、とても楽しくて時が経つのも忘れていましたわ」

 オルヘルスがそう言うと、グランツはとても嬉しそうな顔をして返す。

「そうか、私も同じ気持ちだ」

「今日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。ところで、殿下はなにか見なくてもよろしいのですか?」

「私か? 私はいい。今日は君のために来たんだ」

 そう言ったあと、少し考えてから呟く。

「いや、ある意味私のためか……」
  
「殿下のですの?」

 オルヘルスがそう訊き返すと、グランツは苦笑した。

「いや、なんでもない。あまり遅くなるとこのまま返したくなくなってしまう。もう屋敷まで送ろう」

「そうですわね、わたくしも戻りたくなくなってしまいますわ。もう、戻ったほうがいいですわね」

 あまりにも楽しかったので、オルヘルスはそう返すと、グランツはさっと視線を逸らし呟く。

「これは……、そういうことなのか?」

「殿下?」

 グランツは我に返ったように、笑顔を作ると言った。

「なんでもない。では、戻ろう」

 そんなふたりのうしろで、ファニーはなにか呟き自分の世界に入ってしまっているようだった。

 屋敷までオルヘルスを送ると、グランツはエントランスを見渡した。

「どうされましたの?」

「いや、朝押し掛けてきたあの無礼な令嬢がいないか確認していた。流石に帰ったのだな、安心した。まだいるようなら、君をここに残して帰ることはできないからな」

「殿下、大袈裟ですわ。でも、お気遣いありがとうございます」

「うん。では、また近いうちに一緒に買い物に出掛けよう」

 オルヘルスは嬉しくて思わず満面の笑みを浮かべた。

「また連れていってくださるのですか?!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。

パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。

悪役令息(冤罪)が婿に来た

花車莉咲
恋愛
前世の記憶を持つイヴァ・クレマー 結婚等そっちのけで仕事に明け暮れていると久しぶりに参加した王家主催のパーティーで王女が婚約破棄!? 王女が婚約破棄した相手は公爵令息? 王女と親しくしていた神の祝福を受けた平民に嫌がらせをした? あれ?もしかして恋愛ゲームの悪役令嬢じゃなくて悪役令息って事!?しかも公爵家の元嫡男って…。 その時改めて婚約破棄されたヒューゴ・ガンダー令息を見た。 彼の顔を見た瞬間強い既視感を感じて前世の記憶を掘り起こし彼の事を思い出す。 そうオタク友達が話していた恋愛小説のキャラクターだった事を。 彼が嫌がらせしたなんて事実はないという事を。 その数日後王家から正式な手紙がくる。 ヒューゴ・ガンダー令息と婚約するようにと「こうなったらヒューゴ様は私が幸せする!!」 イヴァは彼を幸せにする為に奮闘する。 「君は…どうしてそこまでしてくれるんだ?」「貴方に幸せになってほしいからですわ!」 心に傷を負い悪役令息にされた男とそんな彼を幸せにしたい元オタク令嬢によるラブコメディ! ※ざまぁ要素はあると思います。 ※何もかもファンタジーな世界観なのでふわっとしております。

婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!

山田 バルス
ファンタジー
王宮大広間は春の祝宴で黄金色に輝き、各地の貴族たちの笑い声と音楽で満ちていた。しかしその中心で、空気を切り裂くように響いたのは、第1王子アルベルトの声だった。 「ローゼ・フォン・エルンスト! おまえとの婚約は、今日をもって破棄する!」 周囲の視線が一斉にローゼに注がれ、彼女は凍りついた。「……は?」唇からもれる言葉は震え、理解できないまま広間のざわめきが広がっていく。幼い頃から王子の隣で育ち、未来の王妃として教育を受けてきたローゼ――その誇り高き公爵令嬢が、今まさに公開の場で突き放されたのだ。 アルベルトは勝ち誇る笑みを浮かべ、隣に立つ淡いピンク髪の少女ミーアを差し置き、「おれはこの天使を選ぶ」と宣言した。ミーアは目を潤ませ、か細い声で応じる。取り巻きの貴族たちも次々にローゼの罪を指摘し、アーサーやマッスルといった証人が証言を加えることで、非難の声は広間を震わせた。 ローゼは必死に抗う。「わたしは何もしていない……」だが、王子の視線と群衆の圧力の前に言葉は届かない。アルベルトは公然と彼女を罪人扱いし、地下牢への収監を命じる。近衛兵に両腕を拘束され、引きずられるローゼ。広間には王子を讃える喝采と、哀れむ視線だけが残った。 その孤立無援の絶望の中で、ローゼの胸にかすかな光がともる。それは前世の記憶――ブラック企業で心身をすり減らし、引きこもりとなった過去の記憶だった。地下牢という絶望的な空間が、彼女の心に小さな希望を芽生えさせる。 そして――スキル《引きこもり》が発動する兆しを見せた。絶望の牢獄は、ローゼにとって新たな力を得る場となる。《マイルーム》が呼び出され、誰にも侵入されない自分だけの聖域が生まれる。泣き崩れる心に、未来への決意が灯る。ここから、ローゼの再起と逆転の物語が始まるのだった。

処理中です...