悪役令嬢は自称親友の令嬢に婚約者を取られ、予定どおり無事に婚約破棄されることに成功しましたが、そのあとのことは考えてませんでした

みゅー

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 言ってしまったあと、はしたなくおねだりしてしまったことに気づいて、その気持ちを抑えながら続ける。

「申し訳ありません! ドレスが欲しいわけではなくて、殿下とドレスを見ながら色々話したりする時間が楽しくて、だからドレスは買ってくださらなくても大丈夫です!」

 すると、グランツは目を閉じ眉間を揉みなからなにかにえているような顔をして呟く。

えろ、グランツ……。今連れて帰るわけにはいかない」

 オルヘルスは慌ててグランツの顔を覗き込み、そっと手を伸ばす。

「殿下、もしかして体調が優れませんの?! 申し訳ありません。こんな時間まで付き合わせて……」
  
 すると、グランツは伸ばされた手を掴んでオルヘルスを見つめると言った。

「違う、その逆で私の体調はすこぶるいい。これは私の問題なんだ」

「そう、なんですの?」

「そうだよ」

 そう言って優しく微笑む。

「では、明朝また会おう。明日は庭園を散歩して王宮の庭でランチを取ろう。早めに迎えに来る」

「え? あ、はい。お待ちしております……」

 そう返すと、グランツはオルヘルスの額にキスししばらく握っている手をじっと見つめ名残惜しそうに去っていった。

 グランツが去ったあとも、オルヘルスは唖然としてしばらくその場に立ち尽くす。

 明日も? 殿下はどうしてしまったのかしら?

 そう思った瞬間、そもそも今日は突然のお誘いだったにも拘わらず、ファニーが以前から準備をして待っていた様子だったのも気になった。

 だが、グランツは王太子殿下である。こういうことを予想して待機しているのだろう。それに、彼がそうしろと言えば無理なことも可能にするのかもしれないと考えた。

「オリ、どうした?」

 その声に振り向くと父親のステファンが立っていた。

「お父様! いえ、少し疲れてぼんやりしていただけですわ」

「そうか、最近色々あったからな。もう夕食の準備はできてるそうだ。すぐに着替えて食堂に来なさい」

 そう言われたオルヘルスは、着替えるとすぐに食堂へ向かった。

 すでにエファとステファンは席に着いており、オルヘルスが来ると笑顔で向かえる。

「オリ、今日は楽しかったか?」

「はい、お父様。殿下には大変良くしていただいております」

「そうか。色々と問題が起きる前にすべて丸く収まってよかった。私も頭を悩ませていたからな。それにホルト公爵家とコーニング伯爵家からは正式な謝罪をもらった」

「そうなんですの」

 そう答えて、オルヘルスはなにか引っ掛かるものを感じた。

 問題が起きる前? 

 そう思うと咄嗟に答える。

「いいえ、お父様。わたくし舞踏会で少々騒ぎを起こしてしまいましたわ」

「いや、それは些細なことだから気にするな。それにしても、私が余計なことをしたせいでお前にもつらい思いをさせてしまった」

 余計なこととは、エーリクとの婚約のことだろう。

「そんな、あれは仕方のないことだと思いますの」

 すると、ステファンはフッと笑った。

「そうか、まぁいい。とにかくお前はその場をちゃんと納めた。それも冷静に。私はそれを評価する」

「ありがとうございます」

 普通ならばエーリクを繋ぎ止めておかなかったお前が悪いと責められるところだろうが、ステファンが自分の味方をしてくれることが嬉しかった。

 そこでエファがオルヘルスに訊いた。

「オリ、明日も殿下とお出かけするの?」

「はい、そうお約束しています」

 すると、ステファンは嬉しそうな顔をした。

「そうかそうか。殿下の希望どおりになっているようで私も安心した。殿下ならばお前を大切にするだろうな」

 そう言って大きくうなずいた。




 翌朝、オルヘルスはいつもより早く起きて準備をし、グランツを待った。だがそのとき、オルガが予期せぬ来客の知らせを告げた。

「お嬢様、どうしましょう。アリネア様がいらしてます」

 オルヘルスは思わずため息を吐いた。

「追い返したくとも、簡単には帰りそうにないわね」

「はい、そうなのです。お嬢様にはこれから大切なご予定があるとお伝えしたのですけれど」

 相手が伯爵令嬢なので、オルガたちも強くは出れないのだろう。オルヘルスは自分が対応することにして、エントランスへ降りていった。

 すると、先にステファンが降りてアリネアに対応してくれていた。

「娘のことを気遣っているつもりになっているのだろうが、それは余計なお世話だといっている」

「あら、そんな気遣いりませんわ。オリのことは任せてくれればいいのですから」

 そんな会話を聞きながら、オルヘルスは内心ステファンに突っ込みを入れる。

 お父様、アリネアに常識は通用しません。

 そのとき、エントランスに姿を現したオルヘルスに気づいたアリネアは、オルヘルスに近づいてきて言った。

「待っていたのよ? 昨日は大丈夫だったか心配したわ。さぁ、昨日グランツ様となにをして、どんな会話をしたのかすべてわたくしに報告してちょうだい」

 その台詞にステファンが呆気にとられていることに気付き、オルヘルスは苦笑して返すとアリネアに向き直る。

「アリネア様、昨日のことは殿下にも関わることですもの。そんなにおいそれと口外するわけにはいきませんわ」

「あらやだ、オリってば。そんな心配はする必要ないのよ? わたくしはグランツ様から信頼を得ているのだから」

 オルヘルスは驚いて答える。

「えっ? 殿下からはそのように聞いていませんわ?」
  
「あら、グランツ様はわたくしから話すと思って、なにも言わなかったのかもしれないわね」

 そこでステファンが口を挟む。

「殿下がそのようなことを言うとは思えん。それにもし、それが本当だとしてもそんなことは私が許さない。殿下にも一言申し上げなければならないな」

 すると、アリネアはステファンを憐憫の眼差しで見つめた。

「ステフ、あなたは自分の娘のことだからそんなふうに考えてしまうのかもしれませんわね」

 そのとき、グランツがエントランスに入ってきた。それに気づいたアリネアは、グランツに駆け寄る。

「グランツ様、オリとステフがわたくしの言うことを信用してくれませんの」

 グランツはそんなアリネアを一瞥して言った。

「なぜお前はここにいる。邪魔だ、出ていけ」

 すると、アリネアはグランツを上目遣いで見上げて瞳を潤ませた。

「そんな……。グランツ様まで一体どうされてしまいましたの?」

 アリネアはそう言うと、驚いたことに突然気絶しグランツの方向へ倒れた。

 グランツがそれをすっと避けると、それを予測していたのか、アリネアの連れてきた使用人がアリネアを抱き抱える。

 それを見てグランツは吐き捨てるように言った。

「主人がそんなでは、お前も苦労するだろうな」

 使用人はグランツに無言で苦笑して返した。

 グランツは気を取り直したようにオルヘルスに向き直り微笑む。

「今日は準備して待っていてくれたのだな」
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