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そう言うとエーリクの腕をつかみグランツの方を見た。
「息子はアリネア嬢同様、投獄し裁判を受けさせます。ホルト家も継がせません。ご安心ください」
そして、オルヘルスに向き直り寂しそうに微笑むと言った。
「リートフェルト男爵令嬢、君の家族には私の家族もとてもお世話になったことがある。そんなリートフェルト家に恩を仇で返すようなことをしてしまって本当に申し訳なかった」
「いいえ、すべてはエーリク様の責任ですわ」
「いや、私にも責任の一端はある」
そう答えると、周囲を見渡した。
「お祝いの席で私の愚息が水を差してしまって申し訳なかった。これで私は失礼させていただくので、どうか若い二人の門出を祝福してください」
そうして一礼するとエーリクを連れてホールを出ていった。
その背中を見送ると、グランツは仕切り直しとばかりに周囲に言った。
「問題は解決した。彼ら以外にオリが我が妃となることに意を唱えるものはいるか?」
そう問われ、あたりは静まり返った。
「よろしい。では先ほどの続きを話したいと思う。とはいえ、問題を解決している最中に私はみんなと祝いたい最大の秘密をポロリと言ってしまったのだが」
グランツは、おどけた様子でそう言って少し場を和ませてから続ける。
「以前私たちは精霊に加護を受け暮らしていた。それがいつからか、精霊は私たちを見捨て離れてしまった。だが、ここにそんな精霊と人間の橋渡しができるかもしれない人物がいる。それが、私の婚約者ことオルヘルス・リートフェルト男爵令嬢だ。彼女は精霊から加護どころか寵愛を受けている唯一無二の女性だ。彼女は平和の象徴であり、そしてこの国の母となり大いなる恵みを与えてくれる存在となるだろう!」
グランツがそう言った瞬間、周囲の貴族たちから歓声が上がった。
オルヘルスはグランツの大袈裟な挨拶に驚いていたが、なんとかそれを顔にださないように周囲に笑顔を振り撒いた。
グランツはオルヘルスに言った。
「オルヘルス、君は後々まで語り継がれる存在となるだろうな」
そうして周囲からの温かな祝福を受けているとき耳元で『おめでとう』と聞き覚えのある声がし、突然オルヘルスをまばゆい光の粒が包み込んだ。
それを見ていた貴族たちは、精霊の祝福だと口々にしオルヘルスを拝む者もいた。
この瞬間、オルヘルスはグランツを助けたときのことをすべて思い出していた。
そしてあらためてグランツの顔を見つめて言った。
「あのとき、グランツ様を助けてよかった。たとえ自分がどうなったとしても、私はきっと幸せでした」
「いや、君がいない世界なんて私は耐えられない。心から愛している」
そう言ってグランツがオルヘルスに口づけると、さらに歓声が上がった。
この日舞踏会が終わったあと、オルヘルスはグランツに昔の記憶がよみがえったことを話した。
「すべて思い出したというのか?」
「はい。忘れていた理由も」
そうしてオルヘルスは話し始める。
あの日、ステファンに連れられ王宮へ行ったオルヘルスは、フィリベルト国王とステファンが精霊の力のことを離しているのをこっそり聞いていた。
自分なら王太子殿下を救うことができる。
そう思ったオルヘルスは、早速グランツの部屋へ向かうとその力を使った。そうすれば自分がどうなるかわかっていたがなんの迷いもなかった。
そして気を失ない、気がつけば自分の部屋のベッドに寝かされていた。
それから数年、絶えず熱でうなされながらぼんやりと天井を見つめていると、ある日ベッドの横に長髪の男性が立っていることに気づいた。
その男性は柔らかな光を放っており、人とは思えないほど透きとおった肌をしていた。
熱のせいで幻覚を見ているのだろうか?
そう思いながらその男性を見つめていると、オルヘルスを見つめ返し悲しそうに微笑んで言った。
「私が力を与えたばかりに、お前はその人生を閉じようとしている。だが、まだダメだ。お前は幸せにならなければ」
そう言うと、オルヘルスはまばゆい光に包まれ体が楽になるのを感じた。
そして、その男性は去り際にこう言った。
「またこの力を使ってしまわないように、力のことは今は忘れなさい」
次に目覚めたとき、オルヘルスはグランツのことも力のこともその男性のこともすべてを忘れていたのだ。
「では、今日の舞踏会で精霊王に祝福を受けたときに思い出したのか?」
「はい。正確には、男性の声を聞いたその瞬間ですわ。はっきりと耳元で聞こえましたの。『おめでとう』と。それですべて思い出しましたわ」
「では、その男性は……」
「精霊王だと思いますわ。今まで私に精霊王が近づかなかったのは、その記憶を封印し私に力を使わせないためだったのだと思いますわ」
「そういうことだったのか。それにしても、あのときはやはり偶然に力を使ったのではなく、君の意思で私を救ってくれたのだな」
そう言ってオルヘルスを見つめた。オルヘルスは思わず目を逸らすと言った。
「でも、だれだって私の立場なら同じことをしたと思いますわ」
「そんなことはない。君が君だったからこそ私はここにいるのだろう」
それを聞いてオルヘルスはあることに気がついた。
前世で呼んだ本の内容と実際に今いる世界でのオルヘルスの運命がことなっていたのは、そういうことだったのだ。
当たり前と言えば当たり前かもしれないが、本の中のオルヘルスはグランツを見殺しにし、この世界のオルヘルスはグランツを助けた。
あのときから運命は違う方向へ向かいだしたのだ。
オルヘルスは黙ってグランツを見つめた。
「オリ、どうした?」
「グランツ様、私はグランツ様を愛しています。ずっとそばにいてください」
「もちろんだ。この命尽きるまで」
そう言ってグランツはオルヘルスに深く口づけた。
「息子はアリネア嬢同様、投獄し裁判を受けさせます。ホルト家も継がせません。ご安心ください」
そして、オルヘルスに向き直り寂しそうに微笑むと言った。
「リートフェルト男爵令嬢、君の家族には私の家族もとてもお世話になったことがある。そんなリートフェルト家に恩を仇で返すようなことをしてしまって本当に申し訳なかった」
「いいえ、すべてはエーリク様の責任ですわ」
「いや、私にも責任の一端はある」
そう答えると、周囲を見渡した。
「お祝いの席で私の愚息が水を差してしまって申し訳なかった。これで私は失礼させていただくので、どうか若い二人の門出を祝福してください」
そうして一礼するとエーリクを連れてホールを出ていった。
その背中を見送ると、グランツは仕切り直しとばかりに周囲に言った。
「問題は解決した。彼ら以外にオリが我が妃となることに意を唱えるものはいるか?」
そう問われ、あたりは静まり返った。
「よろしい。では先ほどの続きを話したいと思う。とはいえ、問題を解決している最中に私はみんなと祝いたい最大の秘密をポロリと言ってしまったのだが」
グランツは、おどけた様子でそう言って少し場を和ませてから続ける。
「以前私たちは精霊に加護を受け暮らしていた。それがいつからか、精霊は私たちを見捨て離れてしまった。だが、ここにそんな精霊と人間の橋渡しができるかもしれない人物がいる。それが、私の婚約者ことオルヘルス・リートフェルト男爵令嬢だ。彼女は精霊から加護どころか寵愛を受けている唯一無二の女性だ。彼女は平和の象徴であり、そしてこの国の母となり大いなる恵みを与えてくれる存在となるだろう!」
グランツがそう言った瞬間、周囲の貴族たちから歓声が上がった。
オルヘルスはグランツの大袈裟な挨拶に驚いていたが、なんとかそれを顔にださないように周囲に笑顔を振り撒いた。
グランツはオルヘルスに言った。
「オルヘルス、君は後々まで語り継がれる存在となるだろうな」
そうして周囲からの温かな祝福を受けているとき耳元で『おめでとう』と聞き覚えのある声がし、突然オルヘルスをまばゆい光の粒が包み込んだ。
それを見ていた貴族たちは、精霊の祝福だと口々にしオルヘルスを拝む者もいた。
この瞬間、オルヘルスはグランツを助けたときのことをすべて思い出していた。
そしてあらためてグランツの顔を見つめて言った。
「あのとき、グランツ様を助けてよかった。たとえ自分がどうなったとしても、私はきっと幸せでした」
「いや、君がいない世界なんて私は耐えられない。心から愛している」
そう言ってグランツがオルヘルスに口づけると、さらに歓声が上がった。
この日舞踏会が終わったあと、オルヘルスはグランツに昔の記憶がよみがえったことを話した。
「すべて思い出したというのか?」
「はい。忘れていた理由も」
そうしてオルヘルスは話し始める。
あの日、ステファンに連れられ王宮へ行ったオルヘルスは、フィリベルト国王とステファンが精霊の力のことを離しているのをこっそり聞いていた。
自分なら王太子殿下を救うことができる。
そう思ったオルヘルスは、早速グランツの部屋へ向かうとその力を使った。そうすれば自分がどうなるかわかっていたがなんの迷いもなかった。
そして気を失ない、気がつけば自分の部屋のベッドに寝かされていた。
それから数年、絶えず熱でうなされながらぼんやりと天井を見つめていると、ある日ベッドの横に長髪の男性が立っていることに気づいた。
その男性は柔らかな光を放っており、人とは思えないほど透きとおった肌をしていた。
熱のせいで幻覚を見ているのだろうか?
そう思いながらその男性を見つめていると、オルヘルスを見つめ返し悲しそうに微笑んで言った。
「私が力を与えたばかりに、お前はその人生を閉じようとしている。だが、まだダメだ。お前は幸せにならなければ」
そう言うと、オルヘルスはまばゆい光に包まれ体が楽になるのを感じた。
そして、その男性は去り際にこう言った。
「またこの力を使ってしまわないように、力のことは今は忘れなさい」
次に目覚めたとき、オルヘルスはグランツのことも力のこともその男性のこともすべてを忘れていたのだ。
「では、今日の舞踏会で精霊王に祝福を受けたときに思い出したのか?」
「はい。正確には、男性の声を聞いたその瞬間ですわ。はっきりと耳元で聞こえましたの。『おめでとう』と。それですべて思い出しましたわ」
「では、その男性は……」
「精霊王だと思いますわ。今まで私に精霊王が近づかなかったのは、その記憶を封印し私に力を使わせないためだったのだと思いますわ」
「そういうことだったのか。それにしても、あのときはやはり偶然に力を使ったのではなく、君の意思で私を救ってくれたのだな」
そう言ってオルヘルスを見つめた。オルヘルスは思わず目を逸らすと言った。
「でも、だれだって私の立場なら同じことをしたと思いますわ」
「そんなことはない。君が君だったからこそ私はここにいるのだろう」
それを聞いてオルヘルスはあることに気がついた。
前世で呼んだ本の内容と実際に今いる世界でのオルヘルスの運命がことなっていたのは、そういうことだったのだ。
当たり前と言えば当たり前かもしれないが、本の中のオルヘルスはグランツを見殺しにし、この世界のオルヘルスはグランツを助けた。
あのときから運命は違う方向へ向かいだしたのだ。
オルヘルスは黙ってグランツを見つめた。
「オリ、どうした?」
「グランツ様、私はグランツ様を愛しています。ずっとそばにいてください」
「もちろんだ。この命尽きるまで」
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