片思いの練習台にされていると思っていたら、自分が本命でした

みゅー

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ハリーとオニキス

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「ベン、わざわざ買ってきてもらって悪かったな」

 使用人のベンから流行りの菓子店のお菓子を受けとりながら、オニキスは微笑んだ。

「とんでもないことでごさいます。これがわたくしどもの仕事でごさいますし、オニキス様の頼みなら何でもお受け致します。こちらご要望のマースワーズのベリーパイ三つでございます」

 ベンも笑顔を見せた。オニキスはハッとすると、袋の中身を覗く。

「妹のところに二つ届けるつもりだったのに、俺、間違えて三つ頼んじゃったんだな、俺はあんまり甘いの得意じゃないし、参ったな」

 そう呟き、ベンの顔を見ると微笑んだ。

「悪いんだけど、お前さ、一つ持って帰ってくれないか?」

 ベンは驚き

わたくしがでございますか?」

 とオニキスを見つめる。オニキスは苦笑いして言った。

「他の奴にバレるとまずいから、書斎に置いとく。後で取りに来いよ。帰りにササッと持って帰れば、皆にはバレないだろ? 他の二つは妹に届けておいてくれ」

 それを聞いて、ベンは満面の笑みになると

「ありがとうございます! 後程また会えるのですね、嬉しい限りでございます。では二つはフォルトナム公爵家に届けさせていただきます。わたくしは、仕事を終えたらパイを取りに参ります」

 そう言って去っていった。と、突然後ろからハリーに抱きすくめられた。

「ただいまオニキス」

 そう言って、ハリーがオニキスの首筋に顔をうずめると、オニキスは顔を赤くした。

「ハリー、おかえり」

 ハリーはそのままオニキスの耳元で囁く。

「確かベンのところは、妹と弟たちが五人居るのだったね。君は優しすぎるよ」

 オニキスは首を振った。

「違うって、お前は俺を買いかぶりすぎ」

 ハリーはオニキスの首にキスをしながら、更にギュッと抱き締める。

「ハリー、どうしたんだよ?」

 ハリーはしばらくしてから、口を開いた。

「君のその優しさが、他の者をどれだけ魅了しているかわかる?」

 と言うとため息をつく。それを聞いてオニキスは飽きれた顔をした。

「そんなわけないだろう? みんな俺がこんな性格だから、気を使わなくて楽なだけだろ?」

 オニキスがそう言ったのを聞いて、今度はハリーが飽きれ顔になった。

「本当にそう思ってるの? 例えば、この前君は突然、厨房で使ってた使用人を庭師の見習いにしたね?」

 オニキスは驚いた顔になり

「お前、知ってたの? あれは、ほら庭師が一人で勝手しないようにだな……」

 と、しどろもどろになった。ハリーは首を振る。

「違うよね? 僕は後から知ったけど、庭師は最近腰痛が酷いようだね。だから見習いをつけたんだろう? そして、庭師の見習いとして異動になったあの厨房の使用人は、実家が園芸農園をやっていて、もともとは庭師を希望していたって話じゃないか」

 オニキスは苦虫を噛み潰したような顔になった。

「お前、何でも知ってるんだな」

 ハリーは笑顔で答える。

「僕が訊かなくとも、使用人たちがみんな君の話をするんだよ。ちゃんと一人一人をよく見ていてくださるって。気さくだし話しやすいともね。それで、ベンみたいにみんなが君の頼み事を受けたがる。僕も君のその人懐こい素直な性格に惹かれた一人だけど、できれば僕一人がその事実を知っていたかったよ」

 オニキスは耳まで赤くなったが、急に慌ててハリーの胸から逃れると

「そんなことより、話したいことがあったんだ」

 と、ハリーの手を引いて書斎まで来ると、パイを横に置き、テーブルに置いてある書類を手に取り、ハリーに手渡し真面目な顔つきになった。

「オッタモ港の貿易関係の書類を見ていて、グリーン貿易の積み荷の件について、少しひっかかるところがあったんだ」

 その書類を受けとると、ハリーは訝しげな顔をした。

「確かにオッタモはミラー家の領地だが、以前大火を出して規模が縮小してね、人任せになってしまっているんだけど、そこまで問題になるような、大きな取引は行われていないはずだよ?」

 そう言って書類をめくる。

「君はよく気がつくから、言うことに間違いはないと思うが」

 そうして書類を数ページ読み進めたところで、ハッとして顔を上げて微笑んだ。

「危ない、危うく君のペースに乗せられるところだった。今の時間は二人でゆっくり過ごすための時間だって言ったよね? 仕事の話も大事だが、今日はもう終いにして、これは明日しっかり読むことにするよ」

 ハリーは引き出しにその書類を入れると、鍵をかけた。オニキスは顔を赤くしながら言った。

「なぁ、その二人の時間とか、その、なんか恥ずかしいし、必要ないんじゃないのか?」

 ハリーは、そんなオニキスに一歩一歩、追い詰めるようにゆっくり近づきながら言う。

「君を雇うときに二人で決めたよね? 公私共に過ごすのだから、仕事とプライベートは分けようって。放って置いたら君は、そうやって恥ずかしがって、こういう時間を作りたがらないんじゃないかな?」

 そうして、ついにオニキスの背中が壁にぶつかった。オニキスは横に逃げようとしたが、ハリーは逃げられないように壁に手をつくと、オニキスの顔を覗き込んだ。

「ちょ、ハリー。わかった、わかったから降参」

 オニキスは恥ずかしさに顔を背ける。
 そこでドアをノックする音がした。オニキスが返事をすると、ベンが先ほどのパイを取りにきたようだった。

「入ってかまわない」

 ハリーがそう返事をすると、ベンは申し訳なさそうに書斎に入り頭を下げた。

「失礼致します。旦那様もいらっしゃったのですね」

 そう言って笑顔で顔を上げたが、ハリーとオニキスの状況を見ると慌てた。

「も、申し訳ございませんでした。失礼致します!」

 そう言って立ち去ろうとする。

「待って、僕らはかまわないよ。見られて困ることはなにもないからね。パイは机の上にあるから持っていくといい」

 ハリーはそう言って微笑むと、オニキスに向き合い口づけた。オニキスはハリーの胸を叩き抵抗したが、抵抗むなしく散々口のなかを弄ばれる。
 ベンはパイの袋をつかむと、ドアに向かい

「た、大変失礼致しました」

 と慌てて去っていった。オニキスは、その後もしばらくハリーに好き放題弄ばれたのち解放されると、涙目になりながら

「ベンが見てるのに、恥ずかしいだろ? なにしてんだよ!」

 と、ハリーに訴えた。ハリーはそんなオニキスを見て微笑んだ。

「傷つくなら、浅いうちがいいに決まってるからね。僕の優しさだよ。彼も現実を見たら諦めるだろう?」

 オニキスは首を振った。

「お前が勘違いしてるのはこの際置いといて、そうだとしてもあんな……こと、普通、ありえねぇし……」

 と、また顔を赤くして、腕で顔を隠した。ハリーはそのままオニキスを抱き寄せた。

「君がいつまでも、そんな反応するのがいけないよ。たまらなくなるね。今日も君を寝かせられないかもしれない」

 するとオニキスは慌ててハリーから少し体を離した。

「俺、もう限界だぞ! 昨日みたいの無理だかんな! 壊れるかと思った。記憶は所々飛んでるし」

 ハリーは微笑んだ。

「そう言えば、途中から君は感じすぎて訳がわからなくなってたからね。あんな反応されて我慢できるほど、僕はできた人間じゃないよ。本当に昨日は最高の夜だったね」

 オニキスは更に真っ赤になった。

「だから、そう言うことを言うなってば!」

 そう言って、ハリーの胸に顔をうずめた。ハリーは満足そうに頷くと、オニキスの頭を撫でた。

「本当に君って人は、僕を煽るのが上手だね。ここでするのと、寝室のどちらが良い?」 

 オニキスは顔を上げると首をかしげた。

「ここでするって、なに言ってんだ? ご飯か?」

 ハリーはオニキスに軽くキスをすると

「本気で言っているの? わかった、ここでするって意味を教えてあげる」

 そう言うと、オニキスを抱き上げて机の上に寝かせた。オニキスは驚いて

「意味、わかった! もういいから、寝室、寝室が良い!」

 と叫ぶも、ハリーはそのままオニキスを押さえ込み

「どうせ、自分がどこに居るかもわからなくなるから、大丈夫」

 と微笑んだ。結局ハリーの言った通りになり、オニキスは自分がいつ寝室に運ばれたのかもわからなかった。
 こうして、仲睦まじい二人の生活はずっと続くのだった。
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