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馬車で王宮に着きエントランスへ入ると、すぐにヘンリーはアリエルに言った。
「先ほど、君はアラベルにはあのように答えていたけれど、実際のところどうなんだ? 当然、殿下のエスコートの方がよかったのだろう?」
その質問にアリエルは苦笑しながら答える。
「いいえ、そんなことありませんわ。実は殿下にエスコートしてもらうだなんて、なんだか気後れしてしまっていたところですの。それにアラベルは勘違いしていたみたいですけれど、殿下のエスコートがアラベルに変更になる前からこのドレスに決めてましたのよ?」
そう言うと、少し悲しそうに微笑んで続けた。
「それにしてもこのドレス、アラベルが言うようにそんなにおかしかったかしら?」
少し不安そうにアリエルがドレスを見つめると、ヘンリーは首を振って答えた。
「とんでもない、僕は好きだよ? それに……とても似合っている。君は十分美しいから、ドレスは引き立て役にしかならないしね」
「ありがとう、ヘンリーは優しいのね。ところで貴方こそ、今日はお目当ての令嬢がいたのではなくて?」
その質問に少し照れながらヘンリーは答える。
「実はお目当てというか、父が僕の婚約相手として考えている令嬢がいてね。その令嬢にここで会えたらとは思っているのだが……」
「まぁ、そうですの。ならば今日はその令嬢を探してみましょう。私もヘンリーのお相手がどのような令嬢なのか興味ありますわ」
アリエルがそう答えたところで、背後が騒がしくなった。どうやらアラベルとエルヴェが広間に入ってきたようだった。
振り向いて、人集りの中心にいるエルヴェとアラベルを見つめた。
アリエルとアラベルが双子なので、エルヴェがエスコートする相手が違っていることに気づくものがおらず、それについて騒がれてはいないようだった。
自分の時と違ってきっとエルヴェは楽しそうにアラベルをエスコートしているに違いない。そう思いながら二人を見ると、アラベルの横に立つエルヴェは少し不機嫌そうにしていた。
アラベルってば、ブローチをしてこなかったのかしら?
そう思いアラベルのドレスの胸元を見る。そこにはちゃんとあのブローチが着けられていた。
何かあったのだろうか? と、少し不思議に思いながらも言った。
「あの二人、とても素敵ですわよね。私と同じ顔なのにどうしてこうも違うのかしら?」
ヘンリーは慌てて答える。
「そんなことはない! 確かに同じ顔かもしれないが君とアラベルはまったく違うし、決して君が劣っているということはない。僕はどちらかと言えば君の方が……」
そこまで言うと、ヘンリーは咳払いをした。
「とにかく、気にする必要はないと言うことだ」
「ありがとう、じゃあヘンリーのお目当ての令嬢を探しに行きましょうか」
そう言ってアリエルは微笑み返した。
と、突然正面から誰かがぶつかった。相手が床にグラスを落としガラスの割れる音が響く。と、同時にお腹の辺りに冷たい感触があり、アリエルが慌ててドレスを見下ろすと大きな紫色の染みが広がっていた。
「ごめんなさい、私とんでもないことをしてしまいましたわ。どうしましょう?」
声の主を見るとそこにはオパール・ルー・ハイライン公爵令嬢が立っていた。
「大丈夫ですわ」
アリエルは笑顔でそう答えながら、公爵令嬢に嫌われるようなことをしてしまったのだろうか? と考えていた。あまりにも不自然な動きだったからだ。
だが、オパールは本当に焦っているようで、ドレスを見つめて目を潤ませた。
「いいえ、本当に申し訳ないことをしてしまいましたわ。ドレスは私がなんとかしますから化粧室へ行きましょう?」
そう気を遣うオパールをアリエルは制した。
「本当に大丈夫ですわ。お気遣いなく」
アリエルはそう答え、使用人が持ってきた布巾でドレスを拭いた。そうこうしているうちに、何事かと周囲のもの達が騒ぎ始めた。
エルヴェとアラベルに気づかれる前に人混みに紛れてしまいたい。そう思いながらアリエルが二人を盗み見ると、一瞬だがエルヴェと目が合ってしまった。
別になにか悪いことをしたわけではないが、思わず顔を伏せた。すると、向こうもこちらに気づいたようで真っ直ぐにこちらに歩いてくるのが視界の端に入る。
エルヴェはアリエルに用事などないはずである。にも関わらずこちらに向かって来るということは、アラベルに何かしら吹き込まれ、アリエルに文句を言うためにこちらに向かって来ているに違いない。
そう直感したアリエルは慌ててこの場から離れることにした。こんなに大勢の前でエルヴェに罵倒されるのは耐えられないと思ったからだ。
「ヘンリー、ごめんなさい。私、帰りますわね。ヘンリーは残って楽しんで」
そう言うと今度はオパールに向き直る。
「ハイライン公爵令嬢、私はもう帰るところでしたから大丈夫ですわ。お気遣いありがとうございます」
オパールは慌ててアリエルを引き留めようとしていたが、アリエルは笑顔を向けると急いでその場を後にした。
そんなアリエルをヘンリーが追いかけてきて腕をつかんだ。
「待って、やはり君ひとり帰らせるわけにはいかないよ。君が帰るのなら僕も一緒に帰る」
そう言って横を歩き始めた。アリエルは抵抗せずに言うことを聞いていたが、馬車のところまで来ると振り返りヘンリーに向かって微笑んだ。
「ヘンリー、ここまで送ってくれれば問題ありませんわ、本当に今日はありがとう」
そう言って、慌てて馬車に乗り込んだ。馬車が動きだすと、エルヴェに追いつかれずに済んだことにほっと胸を撫で下ろした。
公爵令嬢には感謝したいほどだった。葡萄ジュースをこぼされなければあのタイミングで帰ることができずに、エルヴェに捕まり公衆の面前で文句を言われるところだったのだ。
ヘンリーには悪いことをしてしまったので、あとで謝罪の手紙を書こう。アリエルはそんなことを考えながら、馬車の窓から外をぼんやりと眺めていた。
屋敷に戻ると出迎えたアンナが悲鳴に近い声をあげた。
「お嬢様! そのドレスは一体どうされたというのですか?!」
アリエルは苦笑すると答える。
「いろいろありましたの。とにかく早く着替えたいですわ。葡萄ジュースをこぼされて気持ちが悪くて。それにヘンリーにも手紙を書かなくてはならないし」
「は、はい! 承知しました」
そうして着替えを手伝ってもらっていると、なぜかアンナが突然泣き始めた。
「せっかくの舞踏会ですのに、お嬢様がこんなことに……」
「アンナ、私、気にしてませんわ。泣かないで? 大丈夫ですわ」
そう言ってアリエルはアンナの背中を撫でた。
「先ほど、君はアラベルにはあのように答えていたけれど、実際のところどうなんだ? 当然、殿下のエスコートの方がよかったのだろう?」
その質問にアリエルは苦笑しながら答える。
「いいえ、そんなことありませんわ。実は殿下にエスコートしてもらうだなんて、なんだか気後れしてしまっていたところですの。それにアラベルは勘違いしていたみたいですけれど、殿下のエスコートがアラベルに変更になる前からこのドレスに決めてましたのよ?」
そう言うと、少し悲しそうに微笑んで続けた。
「それにしてもこのドレス、アラベルが言うようにそんなにおかしかったかしら?」
少し不安そうにアリエルがドレスを見つめると、ヘンリーは首を振って答えた。
「とんでもない、僕は好きだよ? それに……とても似合っている。君は十分美しいから、ドレスは引き立て役にしかならないしね」
「ありがとう、ヘンリーは優しいのね。ところで貴方こそ、今日はお目当ての令嬢がいたのではなくて?」
その質問に少し照れながらヘンリーは答える。
「実はお目当てというか、父が僕の婚約相手として考えている令嬢がいてね。その令嬢にここで会えたらとは思っているのだが……」
「まぁ、そうですの。ならば今日はその令嬢を探してみましょう。私もヘンリーのお相手がどのような令嬢なのか興味ありますわ」
アリエルがそう答えたところで、背後が騒がしくなった。どうやらアラベルとエルヴェが広間に入ってきたようだった。
振り向いて、人集りの中心にいるエルヴェとアラベルを見つめた。
アリエルとアラベルが双子なので、エルヴェがエスコートする相手が違っていることに気づくものがおらず、それについて騒がれてはいないようだった。
自分の時と違ってきっとエルヴェは楽しそうにアラベルをエスコートしているに違いない。そう思いながら二人を見ると、アラベルの横に立つエルヴェは少し不機嫌そうにしていた。
アラベルってば、ブローチをしてこなかったのかしら?
そう思いアラベルのドレスの胸元を見る。そこにはちゃんとあのブローチが着けられていた。
何かあったのだろうか? と、少し不思議に思いながらも言った。
「あの二人、とても素敵ですわよね。私と同じ顔なのにどうしてこうも違うのかしら?」
ヘンリーは慌てて答える。
「そんなことはない! 確かに同じ顔かもしれないが君とアラベルはまったく違うし、決して君が劣っているということはない。僕はどちらかと言えば君の方が……」
そこまで言うと、ヘンリーは咳払いをした。
「とにかく、気にする必要はないと言うことだ」
「ありがとう、じゃあヘンリーのお目当ての令嬢を探しに行きましょうか」
そう言ってアリエルは微笑み返した。
と、突然正面から誰かがぶつかった。相手が床にグラスを落としガラスの割れる音が響く。と、同時にお腹の辺りに冷たい感触があり、アリエルが慌ててドレスを見下ろすと大きな紫色の染みが広がっていた。
「ごめんなさい、私とんでもないことをしてしまいましたわ。どうしましょう?」
声の主を見るとそこにはオパール・ルー・ハイライン公爵令嬢が立っていた。
「大丈夫ですわ」
アリエルは笑顔でそう答えながら、公爵令嬢に嫌われるようなことをしてしまったのだろうか? と考えていた。あまりにも不自然な動きだったからだ。
だが、オパールは本当に焦っているようで、ドレスを見つめて目を潤ませた。
「いいえ、本当に申し訳ないことをしてしまいましたわ。ドレスは私がなんとかしますから化粧室へ行きましょう?」
そう気を遣うオパールをアリエルは制した。
「本当に大丈夫ですわ。お気遣いなく」
アリエルはそう答え、使用人が持ってきた布巾でドレスを拭いた。そうこうしているうちに、何事かと周囲のもの達が騒ぎ始めた。
エルヴェとアラベルに気づかれる前に人混みに紛れてしまいたい。そう思いながらアリエルが二人を盗み見ると、一瞬だがエルヴェと目が合ってしまった。
別になにか悪いことをしたわけではないが、思わず顔を伏せた。すると、向こうもこちらに気づいたようで真っ直ぐにこちらに歩いてくるのが視界の端に入る。
エルヴェはアリエルに用事などないはずである。にも関わらずこちらに向かって来るということは、アラベルに何かしら吹き込まれ、アリエルに文句を言うためにこちらに向かって来ているに違いない。
そう直感したアリエルは慌ててこの場から離れることにした。こんなに大勢の前でエルヴェに罵倒されるのは耐えられないと思ったからだ。
「ヘンリー、ごめんなさい。私、帰りますわね。ヘンリーは残って楽しんで」
そう言うと今度はオパールに向き直る。
「ハイライン公爵令嬢、私はもう帰るところでしたから大丈夫ですわ。お気遣いありがとうございます」
オパールは慌ててアリエルを引き留めようとしていたが、アリエルは笑顔を向けると急いでその場を後にした。
そんなアリエルをヘンリーが追いかけてきて腕をつかんだ。
「待って、やはり君ひとり帰らせるわけにはいかないよ。君が帰るのなら僕も一緒に帰る」
そう言って横を歩き始めた。アリエルは抵抗せずに言うことを聞いていたが、馬車のところまで来ると振り返りヘンリーに向かって微笑んだ。
「ヘンリー、ここまで送ってくれれば問題ありませんわ、本当に今日はありがとう」
そう言って、慌てて馬車に乗り込んだ。馬車が動きだすと、エルヴェに追いつかれずに済んだことにほっと胸を撫で下ろした。
公爵令嬢には感謝したいほどだった。葡萄ジュースをこぼされなければあのタイミングで帰ることができずに、エルヴェに捕まり公衆の面前で文句を言われるところだったのだ。
ヘンリーには悪いことをしてしまったので、あとで謝罪の手紙を書こう。アリエルはそんなことを考えながら、馬車の窓から外をぼんやりと眺めていた。
屋敷に戻ると出迎えたアンナが悲鳴に近い声をあげた。
「お嬢様! そのドレスは一体どうされたというのですか?!」
アリエルは苦笑すると答える。
「いろいろありましたの。とにかく早く着替えたいですわ。葡萄ジュースをこぼされて気持ちが悪くて。それにヘンリーにも手紙を書かなくてはならないし」
「は、はい! 承知しました」
そうして着替えを手伝ってもらっていると、なぜかアンナが突然泣き始めた。
「せっかくの舞踏会ですのに、お嬢様がこんなことに……」
「アンナ、私、気にしてませんわ。泣かないで? 大丈夫ですわ」
そう言ってアリエルはアンナの背中を撫でた。
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