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オパールは鼻白んで答える。
「そう。貴女がそう思うならそうなんでしょうね」
そこでアリエルは言った。
「アラベル、みんなを信じたい気持ちはわかりますけれど、もう少し調べないとなんとも言えませんわ」
すると、アラベルはエルヴェに向き直った。
「殿下はどう思われますか?」
エルヴェは不機嫌そうに答える。
「なんにせよ、出入りしても目立たないものによる犯行なのだろう」
その返答にアラベルは嬉しそうに目を見開いた。自分の意図していた返答を得られたのだろう。
「殿下もそうお考えになりますか? 私もそう思います。それにそんなことを続けていればいずれ大事になってしまいますもの。本人に名乗り出てほしいものですわ」
そう言ってアラベルはアリエルに微笑みかけた。アリエルも微笑み返すと言った。
「そうですわね、私もそう思いますわ」
表面上にこやかにそう返したがこの時アリエルは、腸の煮えくり返るような思いだった。
このアラベルの相談と言う名のアリエルへの追及でその場がしらけてしまい、そのあとは会話が弾むこともなく食事を終わらせると各々が直ぐに部屋へ戻っていった。
アリエルは部屋へ戻ると早々にベッドへ潜ったが、アラベルの言ったことを思い出してしまい苛立ちを覚え寝付けずにいた。なので、少し庭に出て風に当たり頭を冷やすことにした。
だが部屋から出ると廊下の向こうからオパールとアラベルがひそひそと話す声が聞こえたので、アリエルは立ち止まり耳をそばだてた。
「恐らくアリエルお姉様はハイライン公爵令嬢が思っているような人物ではありません。殿下もそれが心配で急遽こちらにいらっしゃったのですわ」
「どういうことですの? お姉様が信頼できない人物だとでも? だとしたらその根拠はなんですの?」
「はい。アリエルお姉様はとても狡猾です。今日の湖でもそうでした。私はアリエルお姉様とボートに乗りたくてお誘いしたのです。けれどそれに対してアリエルお姉様は周囲に聞かれないように酷く私を罵ったのです。それで私カッとなってしまって……」
「突き飛ばしたんですのね?」
「はい。とても浅はかな行為でした」
その後しばらくの沈黙のあと、アラベルのすすり泣く声が聞こえた。そして嗚咽混じりに続ける。
「ハイライン公爵令嬢はご存知でしょうか、殿下と婚約するのはアリエルお姉様と決まっていました」
「えぇ。候補にあがっていることは知ってましたわ」
「それが、どうしたことか殿下はアリエルお姉様ではなく私とご一緒することが多くて。これについてアリエルお姉様は内心よく思っていないようなのです」
「では、お姉様が貴女に嫉妬していると?」
「はい。晩餐の時に相談しました件ですが、それが始まったのは私が殿下にエスコートされてからなのです」
「じゃあ貴女は最初からお姉様が犯人だと仰りたいの?」
「はい。あえてみなさんの前で話したのはあのように、もう誰が犯人なのか私には分かっているとアリエルお姉様に遠回しに言うことによって、私に罪を告白するかこっそりとでも盗った物を返してくれないかと期待したのです」
少し間を空けてオパールが言った。
「そんな話、信じられませんわね」
「はい、そうかもしれません。ですけれど私の話は整合性がとれていると思います。少しだけでも考えていただければと思ってお話しさせていただきました。いずれちゃんとした証拠が出せれば信じてもらえるでしょうか?」
「本当にそんなものがあれば考えますわ。やっていないのだから、そんなものはないと思いますけれど」
「わかりました。あとわかってほしいのですが、アリエルお姉様を追い詰めるためにこんなことをしている訳ではありません。ただ、姉妹として家族として正しくあってほしいだけなのです。それに……」
「まだなにかありますの?」
「はい。実はアリエルお姉様が『公爵令嬢にわざとぶつかった。今のうちに取り入っておけば自分の地位は安泰だ』って侍女のアンナに言っているのを聞いてしまいましたの」
「ふーん。それが本当ならみんなの前で本人に問い詰めたらどうですの?」
「そ、そうですわよね。ハイライン公爵令嬢、勇気が出ました。ありがとうございます!!」
そこまで話を聞いてアリエルは、以前も裏でこんなやり取りをしていたのかと思うと怒りに震えた。
すぐにでもその場に飛び出て文句を言ってしまいたかったが、それを堪え踵を返した。
怒りを抑えるために深呼吸すると、気を取り直して一階の廊下から庭に出ることにした。
今回はアラベルの言う『証拠』は出てこない。だとしてもそれまでのあいだにオパールがアラベルに懐柔されてしまったらきっとつらい思いをすることになるだろう。アリエルは月を見上げながらそう思った。
「眠れないのか?」
その声に驚き振り返ると、エルヴェが立っていた。今は会いたくない人物だ。
アリエルは軽く会釈をしてその場を立ち去ろうとしたが、腕をつかまれ引き止められた。
「お願いだ、少しだけでもいい、話をしたい」
そう懇願され、仕方なしに立ち止まるとエルヴェの横に立った。
「アラベルを連れてきてしまってすまない。君が彼女を避けているのは知っているのに。私は君を傷つけてばかりだな、不甲斐ないよ」
アリエルはエルヴェがなぜそんなことを言うのかわからず、驚いて顔を見上げると、エルヴェは月を見上げたまま言った。
「ここ数日君と会いたくて、話がしたくて仕方がなかった。だから、君が会ってくれなくとも何度も屋敷へ行っていた。そんなある日君がオパールとルーモイの別荘に行ったと聞いて、私は君が別荘にいるなら行けば絶対に会ってくれるだろうと思った」
そこでエルヴェは言葉を切ってアリエルを見つめる。
「だが、ルーモイのどの別荘なのか警備上誰も行き先を聞いていない」
そこまで聞いて、アリエルはなぜエルヴェがわざわざアラベルと一緒に来たのか気づいた。アラベルはアリエルがオパールからの手紙を渡した時に、アンナが湖を見るのを楽しみにしていたのを聞いていたはずだ。
「アラベルが行き先を知っていたから一緒に来られたのですか?」
エルヴェは頷く。
「そうだ、君の両親もルーモイのどの別荘かはわからなかったからね。仕方なしにアラベルに聞いたら教えるのと引き換えに自分も連れて行けと。姉が心配だからとかもっともらしい言い訳をしていたよ」
「そうですか」
アリエルはとりあえず納得したが、なぜエルヴェが自分にこうまで執着するのかわからなかった。恐らく先ほどアラベルがオパールに話していた内容をまだ聞いていないからではないかと思った。
前回エルヴェはアリエルの話も聞かずに、アラベルの言うことだけを信じていた。今回もきっとそうなるはずである。そう思うと、アリエルはエルヴェになにも話す気になれずそのまま押し黙った。
エルヴェは思い出したようにアリエルに訊いた。
「ところでアリエル。君はフィリップからベルと呼ばれていたのか?」
突然なぜそんな質問を? と思いつつも答える。
「いいえ、幼少のころは“エル”と呼ばれていました。アラベルは“ベル”と」
「たまに呼び間違えられたことは?」
不思議な質問をするものだと思い、その意図を探るようにエルヴェを見つめた。エルヴェは真剣な眼差しでアリエルを見つめ返して言った。
「お願いだ、大切なことだから答えてほしい」
その真剣な眼差しに気圧されるようにアリエルは答える。
「はい、よく間違えて呼ばれることがありました。でもあまりにもよく間違えられるので、どちらで呼ばれても返事をしていましたけれど」
「そう。貴女がそう思うならそうなんでしょうね」
そこでアリエルは言った。
「アラベル、みんなを信じたい気持ちはわかりますけれど、もう少し調べないとなんとも言えませんわ」
すると、アラベルはエルヴェに向き直った。
「殿下はどう思われますか?」
エルヴェは不機嫌そうに答える。
「なんにせよ、出入りしても目立たないものによる犯行なのだろう」
その返答にアラベルは嬉しそうに目を見開いた。自分の意図していた返答を得られたのだろう。
「殿下もそうお考えになりますか? 私もそう思います。それにそんなことを続けていればいずれ大事になってしまいますもの。本人に名乗り出てほしいものですわ」
そう言ってアラベルはアリエルに微笑みかけた。アリエルも微笑み返すと言った。
「そうですわね、私もそう思いますわ」
表面上にこやかにそう返したがこの時アリエルは、腸の煮えくり返るような思いだった。
このアラベルの相談と言う名のアリエルへの追及でその場がしらけてしまい、そのあとは会話が弾むこともなく食事を終わらせると各々が直ぐに部屋へ戻っていった。
アリエルは部屋へ戻ると早々にベッドへ潜ったが、アラベルの言ったことを思い出してしまい苛立ちを覚え寝付けずにいた。なので、少し庭に出て風に当たり頭を冷やすことにした。
だが部屋から出ると廊下の向こうからオパールとアラベルがひそひそと話す声が聞こえたので、アリエルは立ち止まり耳をそばだてた。
「恐らくアリエルお姉様はハイライン公爵令嬢が思っているような人物ではありません。殿下もそれが心配で急遽こちらにいらっしゃったのですわ」
「どういうことですの? お姉様が信頼できない人物だとでも? だとしたらその根拠はなんですの?」
「はい。アリエルお姉様はとても狡猾です。今日の湖でもそうでした。私はアリエルお姉様とボートに乗りたくてお誘いしたのです。けれどそれに対してアリエルお姉様は周囲に聞かれないように酷く私を罵ったのです。それで私カッとなってしまって……」
「突き飛ばしたんですのね?」
「はい。とても浅はかな行為でした」
その後しばらくの沈黙のあと、アラベルのすすり泣く声が聞こえた。そして嗚咽混じりに続ける。
「ハイライン公爵令嬢はご存知でしょうか、殿下と婚約するのはアリエルお姉様と決まっていました」
「えぇ。候補にあがっていることは知ってましたわ」
「それが、どうしたことか殿下はアリエルお姉様ではなく私とご一緒することが多くて。これについてアリエルお姉様は内心よく思っていないようなのです」
「では、お姉様が貴女に嫉妬していると?」
「はい。晩餐の時に相談しました件ですが、それが始まったのは私が殿下にエスコートされてからなのです」
「じゃあ貴女は最初からお姉様が犯人だと仰りたいの?」
「はい。あえてみなさんの前で話したのはあのように、もう誰が犯人なのか私には分かっているとアリエルお姉様に遠回しに言うことによって、私に罪を告白するかこっそりとでも盗った物を返してくれないかと期待したのです」
少し間を空けてオパールが言った。
「そんな話、信じられませんわね」
「はい、そうかもしれません。ですけれど私の話は整合性がとれていると思います。少しだけでも考えていただければと思ってお話しさせていただきました。いずれちゃんとした証拠が出せれば信じてもらえるでしょうか?」
「本当にそんなものがあれば考えますわ。やっていないのだから、そんなものはないと思いますけれど」
「わかりました。あとわかってほしいのですが、アリエルお姉様を追い詰めるためにこんなことをしている訳ではありません。ただ、姉妹として家族として正しくあってほしいだけなのです。それに……」
「まだなにかありますの?」
「はい。実はアリエルお姉様が『公爵令嬢にわざとぶつかった。今のうちに取り入っておけば自分の地位は安泰だ』って侍女のアンナに言っているのを聞いてしまいましたの」
「ふーん。それが本当ならみんなの前で本人に問い詰めたらどうですの?」
「そ、そうですわよね。ハイライン公爵令嬢、勇気が出ました。ありがとうございます!!」
そこまで話を聞いてアリエルは、以前も裏でこんなやり取りをしていたのかと思うと怒りに震えた。
すぐにでもその場に飛び出て文句を言ってしまいたかったが、それを堪え踵を返した。
怒りを抑えるために深呼吸すると、気を取り直して一階の廊下から庭に出ることにした。
今回はアラベルの言う『証拠』は出てこない。だとしてもそれまでのあいだにオパールがアラベルに懐柔されてしまったらきっとつらい思いをすることになるだろう。アリエルは月を見上げながらそう思った。
「眠れないのか?」
その声に驚き振り返ると、エルヴェが立っていた。今は会いたくない人物だ。
アリエルは軽く会釈をしてその場を立ち去ろうとしたが、腕をつかまれ引き止められた。
「お願いだ、少しだけでもいい、話をしたい」
そう懇願され、仕方なしに立ち止まるとエルヴェの横に立った。
「アラベルを連れてきてしまってすまない。君が彼女を避けているのは知っているのに。私は君を傷つけてばかりだな、不甲斐ないよ」
アリエルはエルヴェがなぜそんなことを言うのかわからず、驚いて顔を見上げると、エルヴェは月を見上げたまま言った。
「ここ数日君と会いたくて、話がしたくて仕方がなかった。だから、君が会ってくれなくとも何度も屋敷へ行っていた。そんなある日君がオパールとルーモイの別荘に行ったと聞いて、私は君が別荘にいるなら行けば絶対に会ってくれるだろうと思った」
そこでエルヴェは言葉を切ってアリエルを見つめる。
「だが、ルーモイのどの別荘なのか警備上誰も行き先を聞いていない」
そこまで聞いて、アリエルはなぜエルヴェがわざわざアラベルと一緒に来たのか気づいた。アラベルはアリエルがオパールからの手紙を渡した時に、アンナが湖を見るのを楽しみにしていたのを聞いていたはずだ。
「アラベルが行き先を知っていたから一緒に来られたのですか?」
エルヴェは頷く。
「そうだ、君の両親もルーモイのどの別荘かはわからなかったからね。仕方なしにアラベルに聞いたら教えるのと引き換えに自分も連れて行けと。姉が心配だからとかもっともらしい言い訳をしていたよ」
「そうですか」
アリエルはとりあえず納得したが、なぜエルヴェが自分にこうまで執着するのかわからなかった。恐らく先ほどアラベルがオパールに話していた内容をまだ聞いていないからではないかと思った。
前回エルヴェはアリエルの話も聞かずに、アラベルの言うことだけを信じていた。今回もきっとそうなるはずである。そう思うと、アリエルはエルヴェになにも話す気になれずそのまま押し黙った。
エルヴェは思い出したようにアリエルに訊いた。
「ところでアリエル。君はフィリップからベルと呼ばれていたのか?」
突然なぜそんな質問を? と思いつつも答える。
「いいえ、幼少のころは“エル”と呼ばれていました。アラベルは“ベル”と」
「たまに呼び間違えられたことは?」
不思議な質問をするものだと思い、その意図を探るようにエルヴェを見つめた。エルヴェは真剣な眼差しでアリエルを見つめ返して言った。
「お願いだ、大切なことだから答えてほしい」
その真剣な眼差しに気圧されるようにアリエルは答える。
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