逆行転生、一度目の人生で婚姻を誓い合った王子は私を陥れた双子の妹を選んだので、二度目は最初から妹へ王子を譲りたいと思います。

みゅー

文字の大きさ
21 / 41

21

しおりを挟む
 そんなアリエルに構わずエルヴェは楽しそうに話を続ける。

「この湖には島があってね、今日はそこへ行こうと思っているんだ。ボートは一艘しかない。そこなら確実に君と二人きりになれる」

 アリエルは返事もせずに湖面を眺めた。

「美しいな」

 そう言われ景色を眺めると思わず返事を返す。

「本当に、美しい景色ですわ」

「違う。私の言っている美しいものとは君のことだ。いくら外見が一緒だとしても、内から輝くものが違うとこんなにも変わるものだというのに、それに気づかなかった私は本当に愚かだった」

 なぜそんなことを言うのかわからず、アリエルはエルヴェを見つめた。

 エルヴェは後ろを向くと笑顔で言った。

「ここだ。この湖に君と訪れることがあればこの島に君を連れてきたかった」

 ボートを島の桟橋に接岸させると杭に紐をかけた。

「この島はそんなに大きな島ではないが、少し休憩できる場所がある」

 そう言って桟橋に立つとアリエルに手を差し出した。アリエルがその手をつかむと、エルヴェは自身の方へ思い切り引き寄せアリエルを抱き締め桟橋の上に立たせた。そうしておいて体を少し離してアリエルの顔を覗き込む。

「乗り降りの時に、ボートがひっくり返ることがあるから手荒な真似をしてすまない」

 アリエルはエルヴェの顔があまりにも近くにあったので、慌てて俯くと小さな声で答える。

「はい、驚きはしましたけれど大丈夫です」

「そうか、では行こう」

 エルヴェはアリエルと手をつなぐと歩き始めた。木々のあいだを抜けるとそこにはガゼボがあったのだが、そのガゼボを見てアリエルは驚きエルヴェの顔を見た。

 なぜなら、テーブルには真新しいクロスがかけられ軽食やお茶の準備がされており、椅子にもクッションが準備され居心地のよさそうな空間となっていたからだ。
  
「今日君と来ると思っていたから朝から準備をさせていた。さぁ、座って」

 エルヴェは椅子を引いてアリエルに座るように促すと、ポットカバーを外し慣れた手つきでティーカップに紅茶を注ぐ。

 注がれた紅茶からは湯気が立っていた。

「紅茶が冷めないうちにいただこう」

 そう言うとエルヴェはアリエルの向かいに腰かけた。お互い無言でしばらく紅茶を楽しむと、エルヴェが口を開いた。

「考えて見るとフィリップは、君の父親は自分の娘たちのことをよく理解していたのだな。そして妃に相応しいのはアリエル、君だと判断していた」

 アリエルはかぶりを振って答える。

「それを選ぶのは殿下であって、お父様ではありません。それにわたくしはいずれ王都から離れた所へ行くか、嫁ごうと考えております。お気になさらず」

 そう答えながらも、アラベルが妃になればアリエルがどんなに遠くへ嫁いだとしてもありとあらゆる手段でおとしいれようとするに違いないと考えていた。
 ならばどうにかして遠方へ逃げるしかないかもしれないと思いながら遠くを見つめる。

 エルヴェがそっとアリエルの手を握った。

「アリエル、それならば私は迷うことなく君を選ぶ。もう二度と、遠くへ行かせはしない」

 どういう意味だろう? 王都から離れていたのは自分ではないか。

 そう思いながらエルヴェの顔を見ると、懇願するような眼差しでアリエルを見つめている。

 その瞳を見つめながらアリエルはふと思う。今のエルヴェは以前のエルヴェとは違うかもしれない。

 だがやはり、と考え直す。今どう思っていようと、そのうちアラベルに取り込まれるに違いないのだ。

 アリエルは無表情で答える。

「殿下の御心のままに」

「君がどう思っていたとしても、私は二度とこの手を放すことはない」

 そう言ってアリエルの手の甲にキスし、そして愛おしそうにその手を眺めた。

 そこで思い出したかのように突然言った。

「それにしてもなぜあのブローチをアラベルに渡してしまったんだ? いや、それも当然か……」

 アリエルは怪訝けげんな顔をした。

「殿下、以前も申し上げたとおりブローチのことは存じ上げません。アラベルとわたくしのことを勘違いされています」

 エルヴェは苦笑しながら答える。

「舞踏会当日、ブローチを着けたアラベルが現れて驚いた。それで私は彼女に訊いたんだ『そのブローチは?』と。そうしたら彼女はこう言った『今日のためにお父様に買っていただきましたの』とね。あれは私が母から譲り受けたものだ。だから他のブローチと間違えるはずはない」

 アリエルはそれで納得した。前回、エルヴェはアラベルに『どうして君に上げたブローチをアリエルが持っていた?』と質問していた。それに対してアラベルは『お姉様に盗られた』と答えていたのを覚えている。

 今回はエルヴェがアラベルに『私の渡したブローチを持っていてくれたのだね?』とでも言うだろうと思っていたが、そう訊かなかったのはアリエルの誤算だった。
  
 そうして早い段階でエルヴェはアリエルが昔会った令嬢だと気づいてしまったのだろう。

「ブローチのことなど忘れました。アラベルも記憶違いをしているのでしょう」

 言ったあとでアリエルはしまった! と思った。エルヴェの顔を見ると満面の笑みを浮かべている。

「今、君は『ブローチのことなど忘れました』と言ったね?」

 大きくため息をつくとアリエルは言った。

「そのように揚げ足を取るようなことを仰らないでください」

「君が意地を張るのでね。だがそれもこれも私が原因で君にそうさせてしまっているのだから、私が文句を言う筋合いはないな」

 そう言うとアリエルから視線を外し遠くを見つめた。そして一呼吸おくとアリエルに向き直る。

「君はいくらでも私を責めていい、私はそれだけのことをした。それでも、いくら君が私を嫌っていたとしても君を手放すことはできない。君に酷いことをしている自覚はあるが、君のそばにいること。これが私の今の唯一の望みなんだ」

「殿下? それはどうい……」

「お姉様!!」

 アリエルの質問は、背後からのオパールの声で遮られた。

「オパール、一体どうやって?」

 アリエルがそう尋ねるとオパールは嬉しそうに答える。

「予備のボートが一艘あったのを思い出しましたの。それで慌ててここまできましたのよ? 少し遅くなってしまいましたわ」

 エルヴェは心底残念そうな顔で言った。

「もうあのボートに気づいたのか。せっかく二人きりになれたというのに」

「お姉様をエルヴェと二人きりになどできませんわ!」

 そう叫ぶ後ろからヴィルヘルムが追いかけてきた。

「オパール、そんなに慌てる必要はないだろう。エルヴェ邪魔してすまない」

「お兄様?! 諦めてはダメですわ! 頑張って!!」

 困ったようにヴィルヘルムはエルヴェをチラリと見ると口を開く。

「そうは言ってもなぁ……」

 膨れっ面のオパールと心底困った顔をしたヴィルヘルムを見て、アリエルは思わずクスクスと笑った。
 それにつられエルヴェも笑いだし、ヴィルヘルムも笑いだした。
 オパールもしばらく膨れっ面をしていたが、我慢できない様子で一緒に笑いだした。

 ひとしきり笑うと、アリエルが改めてオパールに言った。

「ここは本当に素敵な場所ですわね」

 オパールは、嬉しそうに答える。

「そうなんですの! お姉様に言われて行き先をここへ変えて本当に良かったですわ!」

 アリエルは先ほどエルヴェが言ったことの真意を知りたいと思いながらも、そうしてしばらくゆっくり景色を眺め談笑し、軽食とお茶を楽しんだ。

 少しすると風が出てきたため、戻れなくなる前に岸へ渡ることにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

捨てられた令嬢と、選ばれなかった未来

鍛高譚
恋愛
「君とは釣り合わない。だから、僕は王女殿下を選ぶ」 婚約者アルバート・ロンズデールに冷たく告げられた瞬間、エミリア・ウィンスレットの人生は暗転した。 王都一の名門公爵令嬢として慎ましくも誠実に彼を支えてきたというのに、待っていたのは無慈悲な婚約破棄――しかも相手は王女クラリッサ。 アルバートと王女の華やかな婚約発表の裏で、エミリアは社交界から冷遇され、"捨てられた哀れな令嬢"と嘲笑される日々が始まる。 だが、彼女は決して屈しない。 「ならば、貴方たちが後悔するような未来を作るわ」 そう決意したエミリアは、ある人物から手を差し伸べられる。 ――それは、冷静沈着にして王国の正統な後継者、皇太子アレクシス・フォルベルト。 彼は告げる。「私と共に来い。……君の聡明さと誇りが、この国には必要だ」

私の願いは貴方の幸せです

mahiro
恋愛
「君、すごくいいね」 滅多に私のことを褒めることがないその人が初めて会った女の子を褒めている姿に、彼の興味が私から彼女に移ったのだと感じた。 私は2人の邪魔にならないよう出来るだけ早く去ることにしたのだが。

殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。

和泉鷹央
恋愛
 雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。  女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。  聖女の健康が、その犠牲となっていた。    そんな生活をして十年近く。  カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。  その理由はカトリーナを救うためだという。  だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。  他の投稿サイトでも投稿しています。

「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?

綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。 相手はとある貴族のご令嬢。 確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。 別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。 何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?

「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚

きぬがやあきら
恋愛
「私に愛まで望むな。褒賞に王子を求めておいて、強欲が過ぎると言っている」 新婚初夜に訪れた寝室で、レオノールはクラウディオ王子に白い結婚を宣言される。 それもそのはず。 2人の間に愛はないーーどころか、この結婚はレオノールが魔王討伐の褒美にと国王に要求したものだった。 でも、王子を望んだレオノールにもそれなりの理由がある。 美しく気高いクラウディオ王子を欲しいと願った気持ちは本物だ。 だからいくら冷遇されようが、嫌がらせを受けようが心は揺るがない。 どこまでも逞しく、軽薄そうでいて賢い。どこか憎めない魅力を持ったオノールに、やがてクラウディオの心は……。 すれ違い、拗れる2人に愛は生まれるのか?  焦ったい恋と陰謀+バトルのラブファンタジー。

【完】婚約してから十年、私に興味が無さそうなので婚約の解消を申し出たら殿下に泣かれてしまいました

さこの
恋愛
 婚約者の侯爵令嬢セリーナが好きすぎて話しかけることができなくさらに近くに寄れないジェフェリー。  そんなジェフェリーに嫌われていると思って婚約をなかった事にして、自由にしてあげたいセリーナ。  それをまた勘違いして何故か自分が選ばれると思っている平民ジュリアナ。  あくまで架空のゆる設定です。 ホットランキング入りしました。ありがとうございます!! 2021/08/29 *全三十話です。執筆済みです

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

悪役令嬢は間違えない

スノウ
恋愛
 王太子の婚約者候補として横暴に振る舞ってきた公爵令嬢のジゼット。  その行動はだんだんエスカレートしていき、ついには癒しの聖女であるリリーという少女を害したことで王太子から断罪され、公開処刑を言い渡される。  処刑までの牢獄での暮らしは劣悪なもので、ジゼットのプライドはズタズタにされ、彼女は生きる希望を失ってしまう。  処刑当日、ジゼットの従者だったダリルが助けに来てくれたものの、看守に見つかり、脱獄は叶わなかった。  しかし、ジゼットは唯一自分を助けようとしてくれたダリルの行動に涙を流し、彼への感謝を胸に断頭台に上がった。  そして、ジゼットの処刑は執行された……はずだった。  ジゼットが気がつくと、彼女が9歳だった時まで時間が巻き戻っていた。  ジゼットは決意する。  次は絶対に間違えない。  処刑なんかされずに、寿命をまっとうしてみせる。  そして、唯一自分を助けようとしてくれたダリルを大切にする、と。   ────────────    毎日20時頃に投稿します。  お気に入り登録をしてくださった方、いいねをくださった方、エールをくださった方、どうもありがとうございます。  とても励みになります。  

処理中です...