逆行転生、一度目の人生で婚姻を誓い合った王子は私を陥れた双子の妹を選んだので、二度目は最初から妹へ王子を譲りたいと思います。

みゅー

文字の大きさ
24 / 41

24

しおりを挟む
 アンナやメイドたちが慌ただしく荷物をまとめ、帰る当日となり、別荘の前に立つとアリエルはここを去るのが名残惜しい気持ちになった。

 建物を見上げオパールに向き直ると言った。

「オパール、招待してくださってありがとう。とても楽しく過ごせましたわ」

わたくしもとても楽しかったですわ!」

 そう答えるとオパールはいいことを思い付いたとばかりに言った。

「毎年この時期に一緒に別荘に来ましょうよ! ねぇ、いいでしょう?」

 腕にしがみついておねだりするオパールの頭を撫でるとアリエルは微笑んだ。

「もちろん、そのお誘い喜んでお受けいたしますわ」

「本当ですの? 約束ですわよ?」

 まるで子供のようにオパールははしゃいでいだ。
 目を細めてそれを眺めると、アリエルはもう一度別荘へ視線を戻し、しばらく別荘をながめた。

「さぁ、お姉様! 帰りましょう」

 そう言ってオパールが腕を引っ張ったので、アリエルは馬車へ向かった。






 屋敷へ戻るとエントランスホールで待っていたアラベルが笑顔で出迎える。

「アリエルお姉様、お帰りなさいませ。あのあと楽しく過ごせました?」

 アリエルは帽子とコートを脱ぐのをアンナに手伝ってもらいながら微笑んで返す。

「とっても楽しかったですわ。貴女が途中で帰ってしまったのは残念でしたけれど」

 心にもないことを言うと、アラベルは悲しげに微笑んだ。

わたくしがちゃんとお父様に伝えずに出てきてしまったのがいけなかったんですわ。それに、屋敷内で物が無くなることに関してオパール様が色々心配してくださったから、その件を早くなんとかしなければと思いましたの」

 アリエルはそれを聞いて別荘でのことを思い出すと頭に血が上るのを感じた。早くアラベルから離れようと自室へ向かいながら振り向きもせずに言った。

「そう。悪いけど今日はわたくし疲れてしまっているの。話は明日にしてくれるかしら?」

「そうですの? わたくし証拠を見つけましたのよ? それをお父様に渡しましたわ。後でお父様からアリエルお姉様にお話があるかもしれませんわね」

 それを聞いてアリエルは立ち止まった。

「どういうことですの?」

 そう言って振り向くと、アラベルがアリエルに憐憫れんびんの眼差しを向けて言った。

「それはアリエルお姉様の方がよくわかってらっしゃるのではないのですか? きっとオパール様もエルヴェも、ヴィルヘルム様もこの事を知ったら悲しみますわ」

 アリエルは憎しみに囚われそうになるが、それをこらえる。

「なんのことだかよくわかりませんわ」

 なんとかそう答えてそのまま自室へ戻ると、室内用のドレスに着替え椅子に座り頬杖をつくとしばらくぼんやりした。

 ここ数日別荘での毎日が楽しすぎてすっかり気を抜いていたが、アラベルが他にも偽の証拠を仕掛けているかも知れず、だとすれば対応が遅れたかもしれない。

 そんなことを考えているうちに大きなため息が漏れた。

 ノックの音にハッとして顔をあげるとドアに向かって返事をした。するとドアの向こうからフィリップの声がしたため、慌てて迎え入れる。

 アリエルはフィリップになにを言われるのかと身構えた。

「アリエル、無事でよかった」

 部屋に入ってきたフィリップは、アリエルの姿を見るなり強く抱き締めた。

「お父様?!」

「王太子殿下から話を聞いている。お前は馬に蹴られて死にそうになったそうじゃないか」

 アリエルはフィリップから体を少し離すと顔を見上げた。

「でも、殿下が助けてくださったので大丈夫ですわ。それよりも大切な話があるのではないのですか?」

 フィリップは首をかしげた。

「お前の命より大切な話があるものか。本当に助かってよかった。殿下にはお礼をせねばなるまいな。まぁ、お前が殿下と婚姻するのが一番のお礼になりそうだが」

「お、お父様?!」

 フィリップは動揺するアリエルを見て朗らかに笑った。アリエルは大きく咳払いをすると、フィリップから体を離して言った。

「そうではありません。アラベルの持ち物がわたくしの部屋から見つかった件でお話があるのではないのですか?」

「あぁ、その件についてか。そんな些末さまつなことお前は気にする必要はない。なんと言っても将来の王妃なのだから、お前は王太子殿下と国のことだけを考えていなさい。いいね?」

 そう言うとアリエルの頭をわしゃわしゃと撫でた。

「もう! お父様ってば髪が乱れてしまいますわ!」

「すまん、すまん。久しぶりにお前の顔を見たら嬉しくてな」

 フィリップは膨れっ面で髪をいじっているアリエルの顔をじっと見つめた。

「そうしていればまだまだ子どもなのにな。もう婚姻の話が出る年頃なのか……嬉しいことだが、やはり寂しいものだ」

 しんみりとそう言うと、はっとした。

「そうだ、お前に渡しておかなければならないものがあった。これなんだが」

 懐から封筒を取り出しアリエルに差し出した。

「王妃殿下から直々にお前にお茶会の招待状だ」

 それを両手で受け取るとひとつ質問をした。

「これにアラベルは来ますの?」

「まぁ、そうだな。なんだ? 浮かない顔をして。そう言えば先日来た商人がお前が注文した品物を明日持ってくるそうだ。気が乗らないならついでにその商人から買い物でもして気晴らしをしたらどうだ?」

「そうなんですのね、お父様ありがとうございます。そうさせていただきますわ」

 無理に笑顔でそう答えたが、アリエルはお茶会のことを考えただけで憂鬱ゆううつな気分になった。

 前回このお茶会でエルヴェには『なぜ来たのか?』と言われ、そんな姉を同情するアラベルはその場にいた貴族たちを味方につけた。

 その結果“王太子殿下に嫌われているにも関わらずお茶会へ出席する恥知らずな姉のアリエル”と“それを同情する心優しい妹のアラベル”と周知されることとなったのだ。その時の惨めな記憶が思い出されていたたまれなくなった。





 翌朝、約束どおりの時間に行商人が来た。

「アリエルお嬢様、お嬢様の仰るとおりにサファイアを私も購入したのですが……」

「値段が高騰し始めましたでしょう?」

「はい、お陰さまでわたくしも大変潤いました。そこでお礼と言ってはなんですがわたくし知り合いに王宮直属のデザイナーがおりまして、そのデザイナーを紹介させていただこうと思っております」

 そう言われアリエルはどう反応してよいか戸惑った。他の令嬢ならば喜んだだろうがアリエルはそういったことにまったく興味がなかったからだ。

「そうなの、でもわたくしあまりそういったものに興味がなくて……」

 そう返事をすると、行商人は焦ったのか早口で話し始める。

「このデザイナーは紹介で、なおかつ相手を気に入らないとデザインを引き受けないという、少々変わり者な奴なのですが、彼のデザインのドレスを身にまとえばあっという間に社交界での主役になれること間違いなしです」

 アリエルは慌てる商人の様子がおかしくて失笑すると言った。

「わかったわ、そのデザイナーを紹介してもらえる? でも、そのデザイナーがわたくしを気に入るとは限らないわよ?」

 そう釘を刺した。すると商人は嬉しそうに手を揉むと後ろにいるメイドに視線を送った。
 と、勢いよく扉が開かれ、ピンクの塊が部屋に飛び込んできた。アリエルが驚いてそれを凝視すると、それは大きな羽のついたピンクのシルクハットに、ピンクの燕尾服を着た金髪碧眼の男性だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】堅物な婚約者には子どもがいました……人は見かけによらないらしいです。

大森 樹
恋愛
【短編】 公爵家の一人娘、アメリアはある日誘拐された。 「アメリア様、ご無事ですか!」 真面目で堅物な騎士フィンに助けられ、アメリアは彼に恋をした。 助けたお礼として『結婚』することになった二人。フィンにとっては公爵家の爵位目当ての愛のない結婚だったはずだが……真面目で誠実な彼は、アメリアと不器用ながらも徐々に距離を縮めていく。 穏やかで幸せな結婚ができると思っていたのに、フィンの前の彼女が現れて『あの人の子どもがいます』と言ってきた。嘘だと思いきや、その子は本当に彼そっくりで…… あの堅物婚約者に、まさか子どもがいるなんて。人は見かけによらないらしい。 ★アメリアとフィンは結婚するのか、しないのか……二人の恋の行方をお楽しみください。

聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)

蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。 聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。 愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。 いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。 ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。 それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。 心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。

私の願いは貴方の幸せです

mahiro
恋愛
「君、すごくいいね」 滅多に私のことを褒めることがないその人が初めて会った女の子を褒めている姿に、彼の興味が私から彼女に移ったのだと感じた。 私は2人の邪魔にならないよう出来るだけ早く去ることにしたのだが。

殺された伯爵夫人の六年と七時間のやりなおし

さき
恋愛
愛のない結婚と冷遇生活の末、六年目の結婚記念日に夫に殺されたプリシラ。 だが目を覚ました彼女は結婚した日の夜に戻っていた。 魔女が行った『六年間の時戻し』、それに巻き込まれたプリシラは、同じ人生は歩まないと決めて再び六年間に挑む。 変わらず横暴な夫、今度の人生では慕ってくれる継子。前回の人生では得られなかった味方。 二度目の人生を少しずつ変えていく中、プリシラは前回の人生では現れなかった青年オリバーと出会い……。

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

【完結】白い結婚なのでさっさとこの家から出ていきます~私の人生本番は離婚から。しっかり稼ぎたいと思います~

Na20
恋愛
ヴァイオレットは十歳の時に両親を事故で亡くしたショックで前世を思い出した。次期マクスター伯爵であったヴァイオレットだが、まだ十歳ということで父の弟である叔父がヴァイオレットが十八歳になるまでの代理として爵位を継ぐことになる。しかし叔父はヴァイオレットが十七歳の時に縁談を取り付け家から追い出してしまう。その縁談の相手は平民の恋人がいる侯爵家の嫡男だった。 「俺はお前を愛することはない!」 初夜にそう宣言した旦那様にヴァイオレットは思った。 (この家も長くはもたないわね) 貴族同士の結婚は簡単には離婚することができない。だけど離婚できる方法はもちろんある。それが三年の白い結婚だ。 ヴァイオレットは結婚初日に白い結婚でさっさと離婚し、この家から出ていくと決めたのだった。 6話と7話の間が抜けてしまいました… 7*として投稿しましたのでよろしければご覧ください!

王女殿下のモラトリアム

あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」 突然、怒鳴られたの。 見知らぬ男子生徒から。 それが余りにも突然で反応できなかったの。 この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの? わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。 先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。 お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって! 婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪ お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。 え? 違うの? ライバルって縦ロールなの? 世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。 わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら? この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。 ※設定はゆるんゆるん ※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。 ※明るいラブコメが書きたくて。 ※シャティエル王国シリーズ3作目! ※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。 上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。 ※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅! ※小説家になろうにも投稿しました。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

処理中です...