裏切り者として死んで転生したら、私を憎んでいるはずの王太子殿下がなぜか優しくしてくるので、勘違いしないよう気を付けます

みゅー

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 するとカーレルは少し体を離し、手に持っていたペンダントを翡翠に見せる。

「これだ」

「そのペンダント……」

「ジェイドが行方不明になってからしばらくして、ミリナがこのペンダントを着けて現れたときは血の気が引いた」

 そう言って一度言葉を切り、ミリナが去った方向を睨むと言った。

「ミリナはそんな私の反応すら見て楽しんでいたのだな」

 翡翠はミリナの闇深さにあらためてぞっとした。

 そして、あることに気づいてカーレルの顔を見上げる。

「もしかして、殿下はこのペンダントがジェイドのものだと気づいていたのですか?」

「もちろんだ」

 そう答えると、翡翠の首にそのペンダントをかけた。

「これで、あるべきところへやっと戻ることができた」

 そのとき、オオハラが大きく咳払いをする。

「お二人とも、積もる話はあるかもしれませんが、翡翠にはやりとげないといけないことが。それに、仲がよろしいのはいいのですが、ここには他の者もいますし……」

 そう言われ、翡翠は慌ててカーレルから離れようとした。だが、カーレルはそんな翡翠を引き寄せ抱きしめた。

「私はもう君を放さないと決めている」

 そう言うと微笑み、翡翠の手を取ると腰に手を回した。

「さぁ、今度は一緒に行こう」

 そうして二人は最後の『スタビライズ』へと向かって歩き、その前に立つと見上げた。

 カーレルは『スタビライズ』に取り込まれたジェイドを見つめ悔しそうな顔をした。

「こんなところにこんな状態で、ずっとひとりでいたなんて……」

「でも、今はこうして殿下の横にいます」

 するとカーレルは翡翠に微笑みかける。

「そうだな」

 翡翠は『スタビライズ』に向き直ると、カーレルの手を離し『スタビライズ』にそっと触れた。

 その瞬間、翡翠の触れたところから『スタビライズ』の表面が波打ち、光の輪が波紋のように広がる。

 そして、そのまま翡翠は『スタビライズ』へと取り込まれた。

 暖かい懐かしい温もりに包まれると、なんとも言えない充足感に包まれ、やっと本来の自分に戻れたような気がした。

 次の瞬間、目の前が真っ白になり気づくと停止した『スタビライズ』の前に立っていた。

「翡翠、大丈夫か?」

「はい」

 そう返してカーレルを見つめると、カーレルはとても驚いた顔をしていた。

「どうしたのですか?」

「左の瞳の色がジェイドと同じ色になっている」

「左の目ですか?」

 そう答えた瞬間、その左目から涙がポロリとこぼれた。翡翠が慌ててそれを拭おうとすると、カーレルがそれを止め自分のハンカチで優しく拭う。

「君とジェイドはひとつになったのだな」

 翡翠はその問いにうなずいた。『スタビライズ』の中でジェイドとひとつになったような充足感を味わっていたからだ。

 やっと私は使命を果たすことができた。

 そう思いながらカーレルを見あげると、カーレルも翡翠を見つめ返しうなずいた。

 そこで不意に疑問に思ったことを口にする。

「あの、殿下。ミリナ様はこれからどうなるのでしょうか」

 その質問にカーレルは厳しい顔をして答える。

「彼女は、ジェイドがなにを成そうとしているのか知ったうえでジェイドを亡き者にした。しかも、自分が聖女であると偽った。まぁ、私もそれを利用し監視したのだが。それに今回のことといい、罪は重い」

「ですが、ミリナ様は貴族令嬢です。彼女を強く罰するのは、他の貴族たちから反発があるのではないですか?」

 翡翠は、自分のいた世界で大罪を犯したエリザベート・バートリーの最期を思い出していた。

 彼女は貴族だからという理由で、生かさず殺さず窓ひとつない部屋に閉じ込められ、食事を差し入れる小さな穴以外、塗り込められた部屋から死ぬまで一歩も出ることはなかった。

 するとカーレルは苦笑する。

「だろうな、だからまずは爵位のはく奪をする必要がある。その上で裁判を開いてすべての罪を公の場で糾弾し、そのあと大衆の晒し者にされ……。これ以上は聞かない方がいい」

 翡翠にもその後のことは容易に想像できた。だが、ミリナがどうなろうとそれは本人の自己責任である。翡翠は同情しないと決めた。

 そこでオオハラが翡翠に質問する。

「翡翠さん、もちろん今後はこの世界にとどまるのですよね」

 すると横にいたカーレルが驚いて、翡翠の顔を覗き込むと言った。

「翡翠、私は君にここに、私のとなりにずっといてほしい。行かせたくない、行かないでくれ」

 翡翠はそんなカーレルに恐る恐る質問する。

「本当に、本当に私はこの世界にとどまってもいいんでしょうか。役目を果たして、それでも私は必要とされているんでしょうか」

 するとオオハラな真剣な顔で翡翠を見つめる。

「まさか、翡翠さん。あなたはもとの世界に戻って自分の運命を受け入れると?」

 オオハラのそのただならぬ様子に、カーレルは不安そうに翡翠に尋ねる。

「翡翠、どういうことだ?」

「いえ、あの、私の力は絶大です。私がこの世界にいることで、争いの種にもなりかねないのではないかと思うのです」

 そこでオオハラが口を挟む。

「翡翠、なぜです? いけません。あなたはもとの世界に帰ったら、死んでしまうのですよ?」

 オオハラがそう言うと、カーレルは翡翠を引き寄せ強く抱きしめた。

「絶対に行かせない! もう二度と君を失いたくない! それにもしも君がまたいなくなってしまっても、私はどんな手段を使ってでも君を探して見つけ出す。この命がつきるまで、私は君を諦めたりしない!!」

 その言葉に、翡翠は涙が溢れた。

「本当に、私はここにいてもいいんですか? 殿下は私を必要としてくれますか? いつかまた、私の力が必要になって、今度こそ殿下を裏切ることになるかも知れなくても?」

 するとカーレルは翡翠のほほをなで、翡翠の涙を拭った。

「世界を敵に回そうと、私は、私だけは翡翠を信じる。君のそばにいて、君を支えたい」

 翡翠はその言葉に心を搔き乱された。今までカーレルが、こんなにも激しく自分の気持ちを吐露したのを見たことがなかったからだ。

 「殿下、本当に?」

 「もちろんだ」

 しばらく見つめ合ったあと、翡翠は答える。

「私も、殿下のそばにいたいです」

「翡翠、ありがとう」

 そう囁くと、カーレルは翡翠に口づけた。
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