裏切り者として死んで転生したら、私を憎んでいるはずの王太子殿下がなぜか優しくしてくるので、勘違いしないよう気を付けます

みゅー

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「いや、もうどうせ婚約したんだ。黙っている必要はないだろ。翡翠、その紋様の意味はな『王国の花嫁』だ。それを着て王太子殿下と一緒にいるってことは……」

「なっ! えっ? 殿下?!」

 翡翠が真意を問うようにカーレルを見つめると、カーレルは恥ずかしそうに言った。

「君をすぐにでも私のものにしたかった」

 そこでオオハラが口を挟む。

「それにしても少し強引でしたね。ですがこの紋様の意味を知っているのは一部の者たちだけですから、大丈夫でしょう」

 そのうしろでファニーが叫ぶ。

「うわぁ、根暗王子ってばまだ翡翠にいってなかったのぉ?! マジで信じらんなぁ~い!」

 その横でニクラスが鼻で笑った。

「確かに、あり得んな。だが、そんなものただの外套でしかない。意味などないものだ」

 周囲がそう思い思いのことを口々ににしている中、翡翠は恥ずかしいやらなにやらで言葉もなくうつむいた。

 そんな翡翠にカーレルが声をかける。

「翡翠、だから言っただろう『君が思うよりずっと君を愛している』と。私の愛は重すぎるか?」

 翡翠は無言で首を横に振った。すると、カーレルは嬉しそうに微笑む。

「そうか、よかった」

 そう言うと人目もはばからず翡翠に軽く口づけた。

「殿下?!」

 驚いてカーレルの顔を見つめていると、カーレルは悲しそうに言った。

「翡翠、もうそろそろ私のことを名で呼んでくれないか?」

「名前でですか? 殿下を?!」

「私たちは結婚するのだから当然だろう?」

 この急展開に翡翠はついて行けずに戸惑いながらなんとか答える。

「えっと、それは、あの、もう少々お待ちください」

 すると、カーレルは残念そうに答える。

「そうか、わかった」

 その様子の一部始終を見ていたラファエロが叫ぶ。

「ったく、やってられん」

 そこでファニーが声を出して笑った。

「いいよぉ~。だって、ラブラブアベックだもんねぇ」

「アベック……」

 翡翠はそう呟くと、その単語に懐古的なものを感じながら苦笑した。

 こうしてフルスシュタットを出発すると、馬車の中でカーレルは膝に翡翠を座らせて、信じられないことを言った。

「翡翠、すまない。言わなければならないことがある」

「なんでしょうか」

 不安そうにしているカーレルの顔を見て、翡翠も不安になりながらカーレルが話すのを待つ。

「キッカにある、スペランツァ教の聖堂で私たちの結婚式が執り行われる予定になっている」

 それを訊いた瞬間、翡翠の頭の中は真っ白になった。混乱する頭でなんとか今言われた意味をよくよく考え直して答える。

「えっと、誰のですか?」

「だから、私たちのだ」

 もちろん、カーレルと一分一秒でも早く結婚したい気持ちはあったが、心の準備ができていなかった。

 なにしろ相手は王太子殿下である。結婚式といったら、とんでもないことになるに違いなかった。

「私はちゃんとした礼儀もなっていませんし、このままでは殿下が恥ずかしい思いをするかもしれません」

「大丈夫、君は存在そのものが尊いと言われているし、サポートはしっかりするつもりだ。言っただろう? 君を守ると」

「ですが……」

「私のことが信用できない?」

 そう言ってカーレルは悲しそうな顔で翡翠をじっと見つめる。

 翡翠はその眼差しに耐えられなくなり、決意を固めた。

「はい、わかりました。殿下がそう仰ってくれるなら」

 するとカーレルは満面の笑みを返した。

「そうか、ありがとう。私はもう、色々と待つことができなかった」

「殿下、それは一体どういう……」

 意味ですか? と質問しかけてその意味に気づいた翡翠は恥ずかしくてカーレルから視線を逸らす。

 カーレルは嬉しそうに微笑んだまま答える。

「そのままの意味だが?」

「は、はい。理解しました」

 そう答える翡翠をカーレルは抱きしめると、申し訳なさそうに言った。

「ただ、君になにも相談せずに勝手に決めてしまって、本当に申し訳なかった。その、一秒でも早く君と結ばれたくて」

「は、はい。わかりましたから!」
  
 これ以上言われたら、恥ずかしさの限界を超えて、翡翠はどうにかなってしまいそうだった。

 馬車の中ではひたすらこうして甘い時間が続いた。




 途中、休憩で寄った村で一瞬オオハラと二人きりになった翡翠は、オオハラに尋ねた。

「オオハラさんはこれからどうされるんですか?」

「僕はなにも変わりません。これからも『ジェイド』を監視し続けます。それは『ジェイド』が存在している限り続くと思っています」

「私もそう考えていたほうがよいのでしょうか」

 翡翠がそう質問すると、オオハラは悲しそうな顔で答える。

「僕は翡翠さんのことを娘のように思っています。そんなあなたには自由にしてもらいたいのが本音ですが、もしかするとなにかあればまたあなたが対処しなければならないかもしれません」

「わかりました。それは構いません。この世界には守りたい人たちがいます。それを守れるなら、私は何度でも同じことをすると思います」

 するとオオハラはにっこりと微笑んだ。

「あなたらしい答えですね。ところで今のところ、あなたは自由だ。これからなにをしたいですか?」

「そうですね、実は私は元の世界で小説を書くのが好きだったんです。だから殿下と結婚して少し落ち着いたら、また小説を書きたいなって思ってます」

「そうですか。ですが、一つ言って起きます」

 そこで言葉を切ると、オオハラはいつにもなく真剣な顔で翡翠を見つめ、続けて言った。

「あなたは『ジェイド』のシステムの一部です。それは変えられません。『ジェイド』はこの宇宙を創造し、コントロールしている機関です。そのシステムであるあなたが小説をかけば、この宇宙のどこかにその小説の世界が生まれるかもしれません」

 翡翠は驚くとともに、自分にそんな力があることに少し恐怖を覚えた。だが、力はその使い方を間違えなければ問題ないはずである。

「わかりました。だったら私は争いごとは書かずに幸せな話だけ書きます。もともとそういったものしか書けませんしね」

「あなたのことだから変な力の使い方をしないだろうとは思っていましたが、それを聞いて安心しました」

「まだ本当に書くとは限りませんけど」

 そう言って翡翠がクスクスとわらうと、オオハラは翡翠の頭をなでて言った。

「もしも書いたら、僕にも読ませてくれますか?」

「はい、もちろんです」

 そこへカーレルがもどってくると、オオハラの顔を見て怪訝な顔をした。

「オオハラ、私の翡翠の頭をなでる許可を出した覚えはないが? それに貴様も翡翠を狙っているのか?」

 翡翠は慌ててそれを否定する。

「いいえ殿下、これは違うのです。うまく説明できませんが、オオハラさんは私の父親のようなもので、どう逆立ちしても恋愛感情を抱くことはできない相手なのです」

 それを受けてオオハラは何度もうなずいて言った。

「そのとおりで、僕も翡翠さんをそういった対象で見ることはできません」

 するとカーレルはオオハラを不審人物を見るような目で見つめた。

「翡翠をそういった対象として見れないやんて、変なやつだ。まぁいい」

 そう言うと翡翠の両脇に手を差し込み、抱き上げる。

「君のそばから離れてすまなかった。もう出発の時間だ。馬車に戻ろう」

 そうして翡翠を抱き抱えたまま歩き始めた。



 キッカの街に着くと、今度はオープンタイプの馬車に乗り換えた。

 カーレルは馬車の中でもずっと翡翠の手を握り続けた。

「あの、手を少し離しませんか? 大通りに出ればみなさんに見られてしまいますし、恥ずかしいんですが」

 翡翠がカーレルにそう言うと、カーレルは驚いた顔で翡翠を見つめ返す。

「お互いに気持ちが通じ合っていて、私は一時も君から離れたくない。そんな状況で人目を気にして行動を制限するのは馬鹿馬鹿しいことだ。それに私たちは婚約しているのだから、手を繋ぐぐらいなんの問題もない」

 そう言うと御者に馬車を出すよう指示した。馬車のうしろには楽団が続いて歩いており市街地に入ると、楽団が音楽を奏で始める。

 沿道には民衆が集まり、楽団の音楽がかき消されるほど大きな歓声が上がり翡翠たちを暖かく出迎えた。

 その声の中には、カーレルに対する声援も混じっている。それを受けてカーレルは真面目な顔で手を振り返していた。

 翡翠はカーレルの耳元で囁く。

「殿下、笑顔を作ってください。民衆からの心象が悪くなってしまいます」

「君以外にあまり笑顔を向けたくないが、君がそういうなら仕方がない」

 そう答え、カーレルは作り笑顔を顔に貼り付けた。すると沿道から黄色い歓声があがる。

 確かに、今まであまり笑顔を見せたことがないカーレルが、笑顔を向ければどんな女性でもそうなって当然だろう。

 そう思いながら、翡翠は沿道に笑顔で必死に手を振り続けた。

 中には翡翠に向かって手を合わせている者もいて、翡翠はいままで頑張ってよかったと心から思った。

 翡翠たちを乗せた馬車はそのまま聖堂へ向かい、その前で止まった。

 そこでスペランツァ教の幹部たちが出迎える。
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