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これ以上ファニーに世話になると、体を動かすことができなくなり迷惑をかけることになると思ったアメリは、保護施設のある近くの町に寄ってもらうことにした。
「ねぇ、気持ちは変わらない? 僕と来ない?」
「すみません。これ以上お世話になるわけにはいきませんから」
そう言ってアメリは丁寧にお礼を述べると、オビュラという小さな町で馬車を降りた。
町の人間に保護施設はどこにあるのか尋ねると、アメリの姿を見て訳ありだと思ったのか、なにも聞かずに丁寧に場所を教えてくれた。
オビュラの保護施設は使用人が三人しかいないような小さなものだったが、アメリが訪ねると快く迎え入れてくれた。
施設の人間に自分が『地枯れ』なことを説明し、雑用を引き受ける変わりに最期を看取ってほしいとお願いすると、一番高齢のミリーはなにも言わずにアメリを抱きしめてくれた。
そうして保護施設で軽く手伝いをしながら過ごし、あっという間に二週間が経った。その頃には施設での生活に慣れてきていた。
頼まれていた倉庫の整理をしていると、ミリーに声をかけられる。
「貴女にお客様がいらしてるの。そのお客様はとても身なりの良い紳士よ。どこかの貴族の方かもしれないわね」
アメリは手を止めると質問した。
「その方のお名前は?」
「お名前を訊いたけれど、貴女の知り合いとしか仰らないの。客間でお待ちよ」
「わかりました、ありがとうございます」
軽く頭を下げるとアメリは、もしかしたらシメオンが迎えにきてくれたのかもしれない。と、淡い期待を抱いた。
だが、回廊を抜け客間へ向かうとそこに居たのはテランスだった。
「やぁ、アメリ」
「ボドワンさん? 何故こちらに?」
「アメリ、君を迎えに来た」
アメリは驚きのあまり言葉も発せず、テランスの顔を黙って見つめた。そんなにアメリに優しく微笑むとテランスは言った。
「この前会った時、君に言わなかったことがある。君は、私の娘であり伯爵令嬢なのだよ」
アメリは首を振る。
「いいえ、私の父は亡くなったと母が。それに、貴族だなんて……」
「ステラはそう言ったかも知れないが、それは違うんだよ」
そう言うとアメリの手を取った。
「それに、君は魔法を使えるね。だから、自分が貴族の血を引いていることに気づいているんじゃないか? 違うかな?」
なぜばれてしまったのだろう?
アメリは俯き、以前テランスと会ったときの会話の内容を必死に思い出していた。だが、何が悪かったのか全く検討もつかなかった。
「アメリ、とにかく座って」
促がされるまま、客間の長椅子に座るとテランスは向かいに腰掛けアメリの顔を覗き込む。
「顔色が悪い。具合が悪いのだろう? 君が『地枯れ』であることは、エステルから聞いて知っている」
「奥様が?」
更に驚いてテランスを見つめ戸惑うアメリを落ち着かせるように、テランスは話し始めた。
「君は以前、シメオンを庇って命を脅かされるような大怪我をしたことがあったね。その時のことをどう聞いている?」
「あの時は、バロー家お抱えの治癒魔法の使い手に治療してもらったと。違うのですか?」
「君が動揺しないよう、バロー家の者は全員黙っていたのだが、あの時君は自己治療をしたのだよ。それで、君が治療魔法の使い手であることを知ったエステルは、君が親友である私の娘なのだろうと確信した」
「でも、ですが、貴族でなくても魔法を使えるものは稀にいると聞きます。なぜ私が貴族のボドワンさんの娘だと?」
「昔ね、ステラと私は付き合っていた。だが、本格的にステラとの結婚を考え始めたころ、急にステラは『遊びなのに、本気にするな』と一方的に私に別れを告げた。ショックだったよ」
アメリはステラの気持ちがよくわかった。自分が『地枯れ』であったことから身を引いたのだろう。
「すみません」
思わずアメリは謝った。テランスは首をゆっくり振ると、悲しげに微笑んだ。
「君が謝る必要はない。それに彼女の気持ちを見抜けなかった私が悪かったんだ。彼女を信じきれなかったのだから」
「それは、母も一緒です」
アメリが咄嗟にそう答えると、テランスは頷いた。
「君は優しいね、ありがとう」
そう言ってアメリのあたまを撫で、話を続ける。
「エステルは、私とステラが付き合っていたことを知っていたから君が生まれた時にもしかして君が私の娘なのではないか? と、ずっと疑っていたそうだ。それに私の母方の血筋で、何人か偉大な治癒魔法の使い手を輩出しているのは有名な話だから、君が治癒魔法を使えたことでその疑いは確信に変わったそうだ」
「そうなんですか……」
「アメリ、急に言われて動揺しているかもしれないが、私は君が自分の娘だと確信している。君はあまりにも母に似ているから」
そこでアメリは、先日テランスに会ったのは偶然ではなかったのだと気づく。
「では、バッカーイでお会いした時は、私が娘だと知っていたのですか?」
「そうだ。シメオンとエステルが突然父親が現れて君が動揺しないようにと、お膳立てしてくれた。本当はもう少し仲良くなってから、私が父親であると打ち明けるつもりでいたんだが」
「そう、なんです……ね……」
そこでアメリは突然眩暈に襲われると、一瞬で目の前が真っ暗になり気を失った。
とても冷たい真っ暗やみの中、冷たい床に横たわり体は重く指一本も動かせずにいる。
そんな感覚があり、アメリはついに自分が死ぬのだと思い目を閉じる。
突然明かりが差し込みアメリを照らした。そして、暖かなものに包まれそれが体の中に入り込む。
そんな夢を見た。
気がつくとアメリはどこかのお屋敷のベッドに寝ていた。驚いて横を見ると、椅子に座ったテランスがうたた寝をしているのが視界に入る。
もしかしたら、ずっとそばについていてくれたのかもしれない。
そう思いながら上半身を起こすとそっと声をかけた。
「ボドワンさん?」
テランスはパッと目を見開くと、アメリを見つめ微笑んだ。
「アメリ?! 良かった! 目が覚めたんだね? 君は一週間も目覚めなかったんだよ?」
「そうなのですか? ご迷惑をおかけしました」
そう言ったあと、自分が以前よりずっと体調が良いことに気づいた。
「あの、もしかしてここはバロー領なのですか?」
「そうだよ。それに、あれ以上あそこにいては君は助からなかっただろう」
「ですが、私はバロー領を出るように言われている身です。直ぐに出ていかなくては、ここにいることを許されるはずがありません」
そう言ってベッドから出ようとするアメリをテランスは押し止めた。
「大丈夫、心配いらない。エステルに許可を貰っている」
「奥様が? でも、奥様はシメオン様に近づく私に気を揉んでいらしたはずですよ? 私はシメオン様が侯爵令嬢と婚約するのに邪魔な存在でしたから」
「そんなはずはない。君を心配して私に連絡をしてきたのはエステルの方だ」
「でも、それは私の最期を本当の父親であるボドワンさんに看取っていただくためではないのですか? それに領地に戻ったとシメオン様が知れば、きっと気分を害されてしまいます」
テランスは首を振った。
「なぜそう思ったんだ?」
「私はシメオン様に嫌われています。本当はグランデ侯爵令嬢を愛してらっしゃるのに、シメオン様は私を守るため最善を尽くしてくれました。なのに、私はそれを拒否し続けたのです。愛想もつきたのでしょう」
泣いてしまいそうになるのをこらえながら、そう言ってアメリはテランスを見つめた。
「ねぇ、気持ちは変わらない? 僕と来ない?」
「すみません。これ以上お世話になるわけにはいきませんから」
そう言ってアメリは丁寧にお礼を述べると、オビュラという小さな町で馬車を降りた。
町の人間に保護施設はどこにあるのか尋ねると、アメリの姿を見て訳ありだと思ったのか、なにも聞かずに丁寧に場所を教えてくれた。
オビュラの保護施設は使用人が三人しかいないような小さなものだったが、アメリが訪ねると快く迎え入れてくれた。
施設の人間に自分が『地枯れ』なことを説明し、雑用を引き受ける変わりに最期を看取ってほしいとお願いすると、一番高齢のミリーはなにも言わずにアメリを抱きしめてくれた。
そうして保護施設で軽く手伝いをしながら過ごし、あっという間に二週間が経った。その頃には施設での生活に慣れてきていた。
頼まれていた倉庫の整理をしていると、ミリーに声をかけられる。
「貴女にお客様がいらしてるの。そのお客様はとても身なりの良い紳士よ。どこかの貴族の方かもしれないわね」
アメリは手を止めると質問した。
「その方のお名前は?」
「お名前を訊いたけれど、貴女の知り合いとしか仰らないの。客間でお待ちよ」
「わかりました、ありがとうございます」
軽く頭を下げるとアメリは、もしかしたらシメオンが迎えにきてくれたのかもしれない。と、淡い期待を抱いた。
だが、回廊を抜け客間へ向かうとそこに居たのはテランスだった。
「やぁ、アメリ」
「ボドワンさん? 何故こちらに?」
「アメリ、君を迎えに来た」
アメリは驚きのあまり言葉も発せず、テランスの顔を黙って見つめた。そんなにアメリに優しく微笑むとテランスは言った。
「この前会った時、君に言わなかったことがある。君は、私の娘であり伯爵令嬢なのだよ」
アメリは首を振る。
「いいえ、私の父は亡くなったと母が。それに、貴族だなんて……」
「ステラはそう言ったかも知れないが、それは違うんだよ」
そう言うとアメリの手を取った。
「それに、君は魔法を使えるね。だから、自分が貴族の血を引いていることに気づいているんじゃないか? 違うかな?」
なぜばれてしまったのだろう?
アメリは俯き、以前テランスと会ったときの会話の内容を必死に思い出していた。だが、何が悪かったのか全く検討もつかなかった。
「アメリ、とにかく座って」
促がされるまま、客間の長椅子に座るとテランスは向かいに腰掛けアメリの顔を覗き込む。
「顔色が悪い。具合が悪いのだろう? 君が『地枯れ』であることは、エステルから聞いて知っている」
「奥様が?」
更に驚いてテランスを見つめ戸惑うアメリを落ち着かせるように、テランスは話し始めた。
「君は以前、シメオンを庇って命を脅かされるような大怪我をしたことがあったね。その時のことをどう聞いている?」
「あの時は、バロー家お抱えの治癒魔法の使い手に治療してもらったと。違うのですか?」
「君が動揺しないよう、バロー家の者は全員黙っていたのだが、あの時君は自己治療をしたのだよ。それで、君が治療魔法の使い手であることを知ったエステルは、君が親友である私の娘なのだろうと確信した」
「でも、ですが、貴族でなくても魔法を使えるものは稀にいると聞きます。なぜ私が貴族のボドワンさんの娘だと?」
「昔ね、ステラと私は付き合っていた。だが、本格的にステラとの結婚を考え始めたころ、急にステラは『遊びなのに、本気にするな』と一方的に私に別れを告げた。ショックだったよ」
アメリはステラの気持ちがよくわかった。自分が『地枯れ』であったことから身を引いたのだろう。
「すみません」
思わずアメリは謝った。テランスは首をゆっくり振ると、悲しげに微笑んだ。
「君が謝る必要はない。それに彼女の気持ちを見抜けなかった私が悪かったんだ。彼女を信じきれなかったのだから」
「それは、母も一緒です」
アメリが咄嗟にそう答えると、テランスは頷いた。
「君は優しいね、ありがとう」
そう言ってアメリのあたまを撫で、話を続ける。
「エステルは、私とステラが付き合っていたことを知っていたから君が生まれた時にもしかして君が私の娘なのではないか? と、ずっと疑っていたそうだ。それに私の母方の血筋で、何人か偉大な治癒魔法の使い手を輩出しているのは有名な話だから、君が治癒魔法を使えたことでその疑いは確信に変わったそうだ」
「そうなんですか……」
「アメリ、急に言われて動揺しているかもしれないが、私は君が自分の娘だと確信している。君はあまりにも母に似ているから」
そこでアメリは、先日テランスに会ったのは偶然ではなかったのだと気づく。
「では、バッカーイでお会いした時は、私が娘だと知っていたのですか?」
「そうだ。シメオンとエステルが突然父親が現れて君が動揺しないようにと、お膳立てしてくれた。本当はもう少し仲良くなってから、私が父親であると打ち明けるつもりでいたんだが」
「そう、なんです……ね……」
そこでアメリは突然眩暈に襲われると、一瞬で目の前が真っ暗になり気を失った。
とても冷たい真っ暗やみの中、冷たい床に横たわり体は重く指一本も動かせずにいる。
そんな感覚があり、アメリはついに自分が死ぬのだと思い目を閉じる。
突然明かりが差し込みアメリを照らした。そして、暖かなものに包まれそれが体の中に入り込む。
そんな夢を見た。
気がつくとアメリはどこかのお屋敷のベッドに寝ていた。驚いて横を見ると、椅子に座ったテランスがうたた寝をしているのが視界に入る。
もしかしたら、ずっとそばについていてくれたのかもしれない。
そう思いながら上半身を起こすとそっと声をかけた。
「ボドワンさん?」
テランスはパッと目を見開くと、アメリを見つめ微笑んだ。
「アメリ?! 良かった! 目が覚めたんだね? 君は一週間も目覚めなかったんだよ?」
「そうなのですか? ご迷惑をおかけしました」
そう言ったあと、自分が以前よりずっと体調が良いことに気づいた。
「あの、もしかしてここはバロー領なのですか?」
「そうだよ。それに、あれ以上あそこにいては君は助からなかっただろう」
「ですが、私はバロー領を出るように言われている身です。直ぐに出ていかなくては、ここにいることを許されるはずがありません」
そう言ってベッドから出ようとするアメリをテランスは押し止めた。
「大丈夫、心配いらない。エステルに許可を貰っている」
「奥様が? でも、奥様はシメオン様に近づく私に気を揉んでいらしたはずですよ? 私はシメオン様が侯爵令嬢と婚約するのに邪魔な存在でしたから」
「そんなはずはない。君を心配して私に連絡をしてきたのはエステルの方だ」
「でも、それは私の最期を本当の父親であるボドワンさんに看取っていただくためではないのですか? それに領地に戻ったとシメオン様が知れば、きっと気分を害されてしまいます」
テランスは首を振った。
「なぜそう思ったんだ?」
「私はシメオン様に嫌われています。本当はグランデ侯爵令嬢を愛してらっしゃるのに、シメオン様は私を守るため最善を尽くしてくれました。なのに、私はそれを拒否し続けたのです。愛想もつきたのでしょう」
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