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 テランスは優しく微笑むと、アメリの手を取った。

「拒否し続けたのは、君が『地枯れ』だったからだろう?」

 アメリが黙って頷くと、テランスは微笑む。

「本当に君たち親子は本当によく似ているな。では、なぜ『地枯れ』だからと拒否し続けた? なぜ、シメオンのそばにいることを拒む? それは愛情の裏返しなのだろう? 君は本当にシメオンが嫌なのか?」

 その質問にアメリは耐えきれなくなり、大粒の涙をこぼしながら言った。

「そんなわけありません! 愛しているに決まっています! 私は、私はシメオン様を心から愛しております。それは今も変わりありません。だから……」

 と、その時背後で大きなおとをたてて、思い切りドアが開かれた。

 振り向くとそこにはシメオンが立っていた。そして、アメリに駆け寄ると、驚くアメリを思い切り抱きしめた。

「アメリ! 私も君を心から愛してる!」

 アメリは驚いて、シメオンから慌てて体を離す。

「シメオン様、なぜここに?!」

 そう言うとはっとして頭を下げた。

「勝手に領地へ戻ってしまい本当に申し訳ありませんでした」

「謝らないでくれ。すまない、私は君が『地枯れ』だと知らなかったんだ。君が気にしているのは自分の地位のことだと思っていたんだ」

 そこでアメリは咄嗟に答える。

「そうです。シメオン様が私を愛して下さっていても、やはり私ではだめです。私は『地枯れ』なのですから」

 そして、腕をつかむシメオンの手を振り払った。シメオンは改めてアメリに向き合うと、言い聞かせるように言った。

「最初から『地枯れ』だと言ってくれれば、すぐに問題は解決したはずだ。良いかい? アメリ。これは貴族の間でしか知られていないことなのだが『地枯れ』は領主が婚姻契約の魔法を使うと、打ち消されるんだ」

 アメリは驚いてシメオンの顔を見つめた。シメオンはアメリの涙を指で拭い話を続ける。

「母は君たち親子が『地枯れ』なのではないかと疑っていた。だから、昔から君と私を婚姻させるつもりだったんだ。特に私が君にとても執着していることを母は知っていたからね。引き離すことはできないと理解していたようだ」

「えっ? 奥様が?」

 戸惑い困惑しながらアメリはシメオンに訊く。

「ですが、シメオン様は私に領地を出ろと……」

「それは、私の配慮が足りなかった。言い訳になってしまうが、君の命を狙っていた者の尻尾をつかむ前に、君を隠している場所がばれてしまったんだ」

「本当に私は命を狙われていたのですか?! では、もしかしてその犯人は屋敷内に?」

「そうだ。それに、君が『どうしても屋敷を出たい』と言うなら、意見を尊重して手放すことが最善なのではないかと思ったんだ」

「そうなのですか? てっきりシメオン様は私に愛想を尽かしたのだとばかり……」

「違う! それは断じて違うよアメリ。私が君に愛想を尽かすなんてことがあるわけがない。現に今までずっと一緒に過ごしてきた君と離れている間は、君のことを忘れられなくて、まるで地獄のような日々だったのだから」

 そう言われ、アメリは顔が赤くなるのを感じた。シメオンはそんなアメリの頬を撫でると、愛おしそうにアメリを見つめる。

「私は君と離れている間、君が私にとってどれだけ必要な存在なのか再確認しただけだった。だが、その間君は命を削りもっとつらい思いをしていたのだから、私がつらいなんて言えた義理ではないね」

「いえ、そんなことは……」

 そう答えるとアメリは恥ずかしくてシメオンから視線を逸らしたが、不意に疑問に思ったことがあり、シメオンを見つめると質問した。

「私が『地枯れ」なのはいつ知ったのですか?」

「君が屋敷を去り、母に君が領地を出たと報告したら母がとても慌ててね。その時に母に聞いたんだ。それを知った私は、君を失うのではないかと心の底から恐怖した。あの時感じた恐怖は今も忘れられない」

「そ、そうだったのですか……。私はてっきりとっくに奥様がシメオン様に話したのだと思っていました」

 そう言うアメリを、シメオンはずっと愛おしそうに見つめる。アメリは恥ずかしくてシメオンからまた目を逸らすと俯いた。シメオンはアメリの手を握った。

「母はね、君から私に話すまでは誰にも言うつもりはなかったそうだ」

 アメリは驚いてシメオンを見つめる。

「でも、ブランデ侯爵令嬢がシメオン様も屋敷の人間も、私が『地枯れ』であることを知っていると……」

 それを聞いてシメオンは不愉快そうな顔をした。

「あの令嬢がそんなことを?! 本当に彼女は余計なことばかり。良いかいアメリ、彼女の言うことは信じてはいけない」

「そうなのですか?」

「そうだ。それに、彼女はとても危険な人物なんだ。今後絶対に近づかないように。いや、私が君に彼女を絶対近づけない、必ず守る」

 一体シメオンとリディの間で何があったのだろう?そう思いながらアメリは頷いた。それを見てシメオンは微笑むと言った。

「それと、本当は私が君を迎えに行きたかったんだが、テランスに連絡を取って彼に追いかけてもらうことにした。私は君を狙っている者の正体を暴くため、証拠を集めなければならなかったからね」

「では、ボドワンさんはどうやって私を探しあてたのですか?」

 アメリがそう言ってテランスを見つめると、テランスは苦笑した。

「ファニーというデザイナーから君が何処にいるか連絡はもらっていた。だが、まさかオビュラまで行っているとはね。あそこまで行くのに時間がかかってしまって、かなり焦った」

 継いでシメオンは言った。

「それと、今日は君の本音を知りたくてテランスに協力してもらった。君の本心を知ることができて私は嬉しいよ」

 それを聞いてアメリは先ほど自分がシメオンのことを『愛している』と叫んだことを思いだし、頬が熱くなるのを感じて両手で押さえた。

「は、あ、いえ、シメオン様は、あれを聞いていたのですか?」

「もちろんだ」

 そう答えてシメオンは満面の笑みを浮かべた。アメリはいたたまれなくなり、素早くベッドにもう一度もぐり込むと叫ぶ。

「忘れてください!!」

「いいや、絶対に忘れたりはしないよ。長年片想いだと思っていた相手からの告白を忘れられるわけがないだろう?」

「もう、本当に恥ずかしいからやめて下さい!」

 ベッドの中でそう叫ぶアメリを見て、テランスとシメオンは声を出して笑った。





 アメリは数日食事を取っていなかったので、その後シメオンの膝の上で介助されながらゆっくり食事を取った。

 アメリは恥ずかしくてしょうがなかったが、シメオンはアメリを絶対に放してくれなかったので、諦めておとなしくされるがままとなった。

 食事がある程度済み落ち着いたところで、シメオンからアメリを狙っている犯人が誰なのかを聞かされた。

「ブランデ侯爵令嬢が黒幕だ。証拠はつかんだのだが、まだ問い詰めてはいない。その前に君を迎えに来たかったし、彼女の嘘を暴くためにも君の力を借りる必要もあるからね」

「私の力を、ですか?」

「そうだよ。だから君の体調が回復するまでここでゆっくり過ごしてから、一緒に屋敷へ戻ろう」

 そう言うと、シメオンはアメリに軽く口づけてからフォークに刺した桃をアメリの口へ入れた。  

 その様子を向かいで座って見ていたテランスは、気まずそうに言った。

「私は若い二人の邪魔になりそうだ。アメリ、後でゆっくり話をしよう」

 そう言い残して部屋を去っていった。それを見送ると、シメオンはアメリを抱きしめて言った。

「そういえば君はなぜ私がブランデ侯爵令嬢なんかと婚約すると思ったんだ?」

「あの旅で、シメオン様は出会いがあったと仰っていましたし、屋敷内でシメオン様がどこかの令嬢と婚約されるとの噂を聞いたので……」
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