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第四部:料理の頂点へ
第17章:砂漠の天空塔
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ザンダルの朝は静かに始まった。栄作は早起きして宿の屋上に上り、砂漠の都の朝焼けを眺めていた。オアシスの周りに広がる白い建物群が朝日に照らされて黄金色に輝き、街全体が宝石をちりばめたように美しく光っていた。
「綺麗だな...」栄作はつぶやいた。
彼の肩には水の精霊アクアが止まっていた。オアシスの豊富な水のおかげで、アクアは元気を取り戻していた。精霊は周囲の湿気を集めて小さな水の輪を作り、朝日を通して虹色の光を放った。
「おはようございます、栄作さん」
振り返ると、ルークが寝ぼけ眼で階段を上がってきた。
「朝から何をしているんですか?」
「朝の空気を感じてたんだ」栄作は笑顔で答えた。「料理人にとって、一日の始まりの空気は大切なんだよ。特に新しい土地では」
彼らが話しているうちに、シルヴァンも合流した。
「今日の計画だが」シルヴァンは言った。「私は王宮近くの図書館で天空塔についての情報を集める。ルークは魔法ギルドに行って、砂漠の魔法について調べてくる」
「僕は市場に行って」栄作が続けた。「現地の料理人たちから話を聞いてみるよ。それに、砂漠の特産品ももっと見てみたい」
彼らは朝食後に別れ、それぞれの目的地へと向かった。
栄作は賑わう市場の中を歩きながら、色とりどりの香辛料や見たこともない野菜、砂漠の動物の干し肉など、様々な食材に目を輝かせていた。アクアは小さくなって彼のポケットに隠れていたが、時折顔を出しては珍しい食材に興味を示した。
「これはなんですか?」栄作は黄金色に輝く粉が入った袋を指さして尋ねた。
「砂嵐の黄金粉だよ」商人が誇らしげに答えた。「砂嵐の中でも生き残る特殊な植物の花粉を集めたものさ。料理に使うと、体が砂漠の過酷な環境に適応するのを助けてくれる」
栄作は少量を購入し、次の店に向かった。そこには透明な瓶に入った赤い液体が並んでいた。
「これは『砂漠の血』」別の商人が説明した。「特殊なサボテンから採れる液体で、少量飲むだけで一日中水を必要としなくなる。ただし、効果が強すぎるので使い方には注意が必要だ」
市場の奥に進むと、「幻想師の店」という看板のある小さな店があった。興味を引かれた栄作は中に入った。
店内は薄暗く、様々な砂漠の工芸品や見慣れない道具が並んでいた。奥からゆっくりと歩いてきたのは、白髪の老人だった。
「いらっしゃい、旅人よ」老人は栄作を見つめた。「あなたは異国から来た料理人だな?」
栄作は驚いた。「どうして分かったのですか?」
老人は微笑んだ。「あなたの周りに水の精霊が見えるよ」
アクアがポケットから飛び出し、老人の周りを回った。老人はそれを見て満足そうに頷いた。
「やはり料理精霊を従えた料理魔法師か。珍しい」
「あなたは精霊が見えるんですね」栄作は感嘆した。「実は、天空塔について情報を集めているんです。風の果実を探しているんです」
老人の目が輝いた。「ああ、五大食材の一つか。理解した」
彼は店の奥へと栄作を導いた。壁には砂漠の地図が広がり、中央には不思議な塔の絵が描かれていた。
「天空塔は砂漠の中心にある...とされているが、実際には定まった場所はない」老人は説明した。「砂漠の風に乗って移動し、現れては消える。見つけるには『風の道』を読む必要がある」
「風の道?」栄作は尋ねた。
「砂丘のパターン、風の流れ、砂漠の気配...これらを読み解くことだ」老人は手を広げた。「それができる『風読み』と呼ばれる導師が必要だ」
「その風読みはどこで見つけられますか?」
「私の息子がそうだ」老人は微笑んだ。「ザフィールと言って、王宮で天文学者をしている。彼なら天空塔の場所を見つけられるだろう」
栄作は感謝を述べ、ザフィールに会う方法を聞いた。老人は彼に小さな砂時計を渡した。
「これを見せれば、息子は会ってくれるだろう」
栄作が店を出ると、昼過ぎになっていた。彼は宿に戻り、シルヴァンとルークと合流した。
「図書館では天空塔についての古文書を見つけた」シルヴァンが報告した。「二百年前に最後に現れたとされているが、その後の記録はない」
「魔法ギルドでは」ルークが続けた。「砂漠の風の魔法について学びました。風の果実には『風の呼吸』という特殊な魔法が必要かもしれないとのことです」
栄作は自分が得た情報を二人に伝えた。
「風読みのザフィール...」シルヴァンは考え込んだ。「王宮に行くのは簡単ではないが、試してみる価値はある」
彼らは次の日に王宮を訪れることにした。
翌朝、彼らは正装して王宮に向かった。壮麗な白大理石の建物は、オアシスの中心に建っており、金と青の装飾が太陽に照らされて眩しいほどだった。
門番に老人の砂時計を見せると、彼らは驚くほど簡単に中に通された。
「ザフィール様は天文塔におられます」従者が彼らを案内した。
天文塔は王宮の一番高い塔で、頂上からは砂漠全体を見渡せるほどだった。そこで彼らは若い男性に会った。青い衣装を身につけた痩せた男性は、無数の地図や天文図の間で作業をしていた。
「父からの使者か」ザフィールは砂時計を見て言った。「何の用だ?」
栄作が風の果実と天空塔について説明すると、ザフィールは興味深そうに聞いていた。
「天空塔か...」彼は窓の外を見た。「実は、ここ数日、砂漠の風のパターンに異変を感じていた。塔が再び現れようとしている兆候かもしれない」
彼は大きな地図を広げ、指で砂漠の一点を示した。
「ここだ。三つの大砂丘が交わる場所。そこに三日後、月が満ちる夜に天空塔が現れるだろう」
「本当ですか?」栄作は目を輝かせた。
「ただし、簡単には辿り着けない」ザフィールは警告した。「砂嵐の中を進み、砂漠の幻影に惑わされることなく進まねばならない」
「案内人になってもらえないでしょうか?」シルヴァンが尋ねた。
ザフィールは考え込み、やがて決断したようだった。
「父が認めた者なら...いいだろう。明日、準備を整えて出発する」
栄作たちは喜んで宿に戻り、砂漠深部への旅の準備を始めた。栄作は特別な砂漠用の保存食を作った。「砂漠の生存ジャーキー」、「風力回復ビスケット」、「砂漠の血のスープ」など、過酷な環境での冒険に耐えうる特殊料理だ。
アクアも自らの力を注いで、限られた水で最大限の効果を発揮する料理の完成に貢献した。
翌朝、彼らはザフィールと合流し、砂漠へと出発した。ラクダに揺られながら、オアシスを離れると、すぐに過酷な砂漠の風景が彼らを包み込んだ。
「ここからが本当の砂の海だ」ザフィールは言った。「方向感覚を失わないよう、私のすぐ後ろについてきてくれ」
一日目は比較的穏やかな旅だった。砂漠の暑さは容赦なかったが、栄作の料理の効果で彼らは元気を保っていた。特に「砂漠の血のスープ」は水分をほとんど必要としない体質に一時的に変えてくれた。
夜、彼らは砂丘の陰に宿営した。満天の星空の下、栄作は簡素だが栄養価の高い夕食を作った。
「なかなかの腕前だ」ザフィールは栄作の料理を口にして言った。「料理魔法師の真価を見た気がする」
「ありがとうございます」栄作は微笑んだ。「ところで、天空塔についてもっと教えてもらえませんか?」
ザフィールは頷き、砂に図を描き始めた。
「天空塔は砂漠の魔力と風の力が結びついた不思議な建造物だ。風の道が交わるところに現れ、風が止むと消える。中には三つの試練があるとされる」
「試練?」
「そう、三つの試練だ」ザフィールは砂の上に三つの円を描いた。「最初は『風の迷路』—方向感覚を失わせる風の通路。次に『砂の幻影』—砂漠の幻を見せて心を惑わす部屋。そして最後に『大風の間』—風の力を支配する守護者との対決だ」
「その試練を乗り越えれば、風の果実が手に入るのですか?」ルークが聞いた。
「伝説ではそうなっている」ザフィールは頷いた。「しかし、二百年以上誰も成功していない」
栄作は思案顔でアクアを見た。水の精霊は静かに浮かびながら、まるで風の精霊を思い浮かべているかのように遠くを見ていた。
「どうにかして成功させなければ」栄作は決意を固めた。
二日目、彼らは砂漠の奥深くへと進んだ。風が強くなり、周囲の風景は一変した。巨大な砂丘が立ち並び、風で作られた奇妙な砂の彫刻のようなものが点在していた。
「風の彫刻だ」ザフィールが説明した。「風の力が強まっている証拠」
午後になると、突然風向きが変わり、砂嵐の前触れが感じられた。
「急いで砂丘の陰に隠れるぞ!」ザフィールが叫んだ。
彼らは急いでラクダを誘導し、大きな砂丘の陰に避難した。間もなく、轟音と共に砂嵐が襲いかかった。空が黄褐色に染まり、視界が数メートル先まで落ちた。
「これは...普通の砂嵐ではない」ザフィールは困惑した表情で言った。「何かが風を操っている」
栄作はポケットから「砂漠の幻影水」を取り出した。アクアが反応して水筒の周りを回り始めた。
「この水を使ってみよう」栄作は言った。
彼は水の一滴を取り、アクアに手渡した。精霊はその一滴を取り込み、突然強く輝き始めた。アクアの光が砂嵐を貫き、青い筋が空に現れた。
「見えた!」ザフィールは驚きの声を上げた。「風の道だ!」
青い筋は砂嵐の中に道を示すように伸びていた。彼らはラクダに乗り、その道に沿って進み始めた。恐ろしい砂嵐の中でも、アクアの光が彼らを導いてくれた。
数時間の過酷な旅の後、砂嵐は突然収まった。そして彼らの目の前に、息を呑むような光景が広がった。
三つの巨大な砂丘が交わる地点に、空中に浮かぶ巨大な塔があった。天空塔だ。白い石と青い結晶で作られたその塔は、風に乗って静かに回転していた。塔の周りには風の渦が見え、砂が螺旋状に舞い上がっていた。
「天空塔...」ザフィールは畏敬の念を込めて言った。「伝説は本当だった」
彼らはラクダを安全な場所に残し、塔の下まで歩いていった。風が強く吹き付け、立っているのも困難なほどだった。
「入口はどこだ?」シルヴァンが叫んだ。
風の渦を見つめていたザフィールが指を差した。「あそこだ!渦の中心に門がある!」
栄作はアクアを見た。「力を貸してくれ」
水の精霊は頷き、栄作の周りを回り始めた。アクアの水の力が風から彼らを守るバリアを形成した。彼らは渦の中心へと進み、そこに浮かぶ青い扉を見つけた。
扉には古代文字が刻まれていた。ザフィールが解読する。
「"風の道を知る者のみ入ることを許す"」
「どうすれば...」ルークが言いかけたとき、栄作が「砂漠の幻影水」を取り出した。
「これだ」彼は水を扉に向かって一滴垂らした。
扉が青く光り、静かに開いた。風の音が彼らを招き入れるように変わった。
「行こう」栄作が言い、一行は塔の中へと足を踏み入れた。
内部は予想外に静かだった。外の風の音は遮断され、代わりに柔らかな風の囁きのような音が響いていた。白い大理石の床と壁があり、青い結晶が光源として埋め込まれていた。
「第一の試練、風の迷路だ」ザフィールが説明した。
彼らの前には複数の廊下が伸びていた。どの廊下からも同じような風の音が聞こえてくる。
「どれが正しい道だ?」シルヴァンが疑問を呈した。
栄作は考え込んだ。彼は自分のポケットから「砂漠の黄金粉」を取り出し、少量を掌に乗せた。
「風の流れを見てみよう」
彼が黄金粉を吹き飛ばすと、粉は風に乗って浮遊し、一つの廊下へと流れていった。
「あの廊下だ」
彼らはその道を進んだ。迷路は複雑で、何度も分岐点に遭遇した。しかし、栄作の黄金粉と、ザフィールの風読みの能力で正しい道を選び続けた。時折、間違った廊下に進もうとすると、突然強風が吹き、彼らを押し戻した。
長い迷路の末、彼らは円形の広間に到達した。そこで風は止み、完全な静寂が広がった。
「第二の試練、砂の幻影の間だ」ザフィールがつぶやいた。
広間の床には細かい砂が敷き詰められ、壁には砂漠の風景が描かれていた。室内に入ると、突然砂が舞い上がり、彼らの周りで踊り始めた。
砂は次第に形を取り、それぞれの目の前に幻影を作り出した。
栄作の前には、東京の高級レストラン「メゾン・デトワール」の厨房が現れた。そこには彼が過労死する前の姿があり、完璧な料理を追求する孤独な姿が映し出されていた。
「これは...」栄作は動揺した。
他の仲間も同様に、それぞれの過去や恐れと向き合っていた。幻影は彼らの心を惑わせ、弱点を突いてきた。
「幻影に囚われるな!」ザフィールが警告した。「これは心を試す仕掛けだ!」
栄作は震える手で真珠貝を握りしめた。適応と変化の力を持つ真珠貝が、彼の心を落ち着かせた。
「過去は過去」栄作は決意を固めた。「今の私には仲間がいる。孤独ではない」
彼はアクアに呼びかけた。水の精霊は答えるように光り、幻影を貫いた。栄作の頭が清明になり、幻影が薄れていった。
彼は仲間たちにも声をかけた。「幻影はただの幻だ!真実を見るんだ!」
シルヴァンとルーク、ザフィールも徐々に幻影から解放されていった。全員が幻影から解放されると、砂は床に戻り、向こうに新たな扉が現れた。
「最後の試練だ」ザフィールが言った。
最後の扉を開けると、そこは塔の頂上だった。広い円形の部屋で、天井はなく、直接空に開かれていた。室内には強い風が渦巻き、中央には巨大な風の渦が立っていた。
渦の中から、風で形作られた人型の存在が姿を現した。風の守護者だ。
「風の果実を求めて来たのか、人間よ」風の声が響いた。
「はい」栄作は一歩前に出た。「五大食材の一つ、風の果実を探しています」
「二百年もの間、誰も私の試練を通過できなかった」風の守護者が言った。「汝の資格を証明せよ」
突然、守護者が風の刃を放ってきた。シルヴァンとルークは防御態勢を取ったが、栄作は違う行動を取った。
彼は炎竜の心臓、月光の果実、深海の真珠貝という、既に手に入れた三つの食材を取り出し、その場で調理台を展開した。
「料理で答えを示します」栄作は言った。
栄作は三つの食材のエッセンスを使い、「調和の一皿」を作り始めた。アクアも彼を助け、水の流れを完璧に制御した。炎竜の心臓の熱、月光の果実の浄化力、真珠貝の適応力が一つになり、皿の上で輝き始めた。
「これが私の答えです」栄作は完成した皿を掲げた。「料理は全てを結びつけ、調和をもたらします。風もまた、世界を循環させる調和の力です」
風の守護者は静かに見守っていた。その目には好奇心と試すような光があった。
「汝の言葉を証明せよ」守護者は言った。
栄作は自信を持って「調和の一皿」を守護者に差し出した。
「食べていただけますか?」
守護者は驚いたように見えたが、風の手を伸ばして一皿を受け取った。風が料理を包み込み、守護者はそれを自らの風の体に取り込んだ。
一瞬の静寂の後、守護者の体が明るく輝き始めた。風の渦が穏やかになり、部屋全体が柔らかな光に満たされた。
「二百年...待っていた」守護者の声が変わった。「真の理解者を」
風の渦が収まり、守護者の姿が変化した。より人間に近い姿になり、透明な青緑色の体が形作られた。その手には黄金色に輝く果実があった。風の果実だ。
「汝は料理の真髄を理解している」守護者は言った。「調和と循環、そして自由。これこそ風の果実が象徴するものだ」
守護者は栄作に風の果実を差し出した。
「これを受け取れ、料理魔法師よ」
栄作が果実に手を伸ばした瞬間、驚くべきことが起きた。彼の体から何かが分離し始め、風のような形を取り始めた。新たな料理精霊の誕生だった。
「風の精霊...ゼファー」栄作は本能的にその名を知った。
小さな風の精霊ゼファーは、栄作の周りを回り、アクアと挨拶を交わした。二つの精霊は喜びに満ちた踊りを始めた。
「四つ目の精霊の目覚め、おめでとう」風の守護者は穏やかに言った。「今や汝は炎と月光と海と風を操る力を持った」
栄作は感謝の意を示し、風の果実を大切に受け取った。黄金色の果実は手に触れると不思議なエネルギーを放ち、彼の体に風のような軽やかさをもたらした。
「風の果実は自由と移動の象徴」守護者は最後に言った。「賢く使いなさい」
言い終わると、守護者の姿は風に溶け、天空塔全体が輝き始めた。
「急いで出るぞ!」ザフィールが叫んだ。「塔が消えようとしている!」
彼らは急いで来た道を戻り、塔の入口にたどり着いた。外に出ると、塔はますます輝きを増し、風の渦に包まれていった。彼らがラクダのところまで戻ったとき、振り返ると天空塔は風と光に変わり、砂漠の空へと消えていった。
「信じられない体験だった...」ルークは興奮した様子で言った。
栄作は風の果実を見つめながら微笑んだ。彼の周りではアクアとゼファーが踊り、水と風の力が混ざり合い、美しい光の渦を作っていた。
「あと一つ」栄作はつぶやいた。「あと一つで五大食材が揃う」
彼らはザンダルへの帰路についた。砂漠を横断する旅は、ゼファーの加わったことで驚くほど容易になっていた。風の精霊は砂嵐を遠ざけ、進むべき最適な道を示してくれた。
ザンダルに戻ると、彼らは幻想師の老人に報告するために店を訪れた。老人は彼らの成功を聞いて大喜びした。
「二百年ぶりの快挙だ!」老人は手を叩いた。「そして風の精霊まで目覚めさせるとは!」
彼は栄作に一枚の古い羊皮紙を渡した。
「これは最後の食材、『神々の涙』についての古文書だ。私の家族が代々守ってきたものだ」
羊皮紙には神殿の絵と地図が描かれていた。
「『始まりの神殿』...」老人は説明した。「五大食材の中で最も神聖な場所に眠るという」
栄作は感謝を示し、羊皮紙を大切に受け取った。
「今晩は祝いの料理を作らせてください」栄作は提案した。「風の果実の力を初めて料理に使ってみたいんです」
その夜、栄作は老人の店で特別な晩餐会を開いた。ザフィールも招待され、彼らは冒険の成功を祝った。
栄作は風の果実のほんの少量を使い、「風の解放料理」を作った。ゼファーとアクアが協力して、料理に風と水の完璧な調和をもたらした。できあがった料理は信じられないほど軽やかで、風のように口の中で溶け、食べた者に自由と高揚感を与えた。
「素晴らしい...」老人は目を閉じ、料理の風味に身を委ねた。「まるで風に乗って空を飛んでいるようだ」
栄作はゼファーとアクアを見つめながら微笑んだ。風と水の精霊は彼の肩の上で仲良く寄り添い、彼の料理の力を次の段階へと導いていた。
「あと一つ」栄作は胸に手を当てた。「最後の神殿へ」
彼らはザンダルで数日休息を取り、最後の冒険への準備を始めた。遠くで、死食のカルトの影が彼らを追っていることに気づかぬまま。
「綺麗だな...」栄作はつぶやいた。
彼の肩には水の精霊アクアが止まっていた。オアシスの豊富な水のおかげで、アクアは元気を取り戻していた。精霊は周囲の湿気を集めて小さな水の輪を作り、朝日を通して虹色の光を放った。
「おはようございます、栄作さん」
振り返ると、ルークが寝ぼけ眼で階段を上がってきた。
「朝から何をしているんですか?」
「朝の空気を感じてたんだ」栄作は笑顔で答えた。「料理人にとって、一日の始まりの空気は大切なんだよ。特に新しい土地では」
彼らが話しているうちに、シルヴァンも合流した。
「今日の計画だが」シルヴァンは言った。「私は王宮近くの図書館で天空塔についての情報を集める。ルークは魔法ギルドに行って、砂漠の魔法について調べてくる」
「僕は市場に行って」栄作が続けた。「現地の料理人たちから話を聞いてみるよ。それに、砂漠の特産品ももっと見てみたい」
彼らは朝食後に別れ、それぞれの目的地へと向かった。
栄作は賑わう市場の中を歩きながら、色とりどりの香辛料や見たこともない野菜、砂漠の動物の干し肉など、様々な食材に目を輝かせていた。アクアは小さくなって彼のポケットに隠れていたが、時折顔を出しては珍しい食材に興味を示した。
「これはなんですか?」栄作は黄金色に輝く粉が入った袋を指さして尋ねた。
「砂嵐の黄金粉だよ」商人が誇らしげに答えた。「砂嵐の中でも生き残る特殊な植物の花粉を集めたものさ。料理に使うと、体が砂漠の過酷な環境に適応するのを助けてくれる」
栄作は少量を購入し、次の店に向かった。そこには透明な瓶に入った赤い液体が並んでいた。
「これは『砂漠の血』」別の商人が説明した。「特殊なサボテンから採れる液体で、少量飲むだけで一日中水を必要としなくなる。ただし、効果が強すぎるので使い方には注意が必要だ」
市場の奥に進むと、「幻想師の店」という看板のある小さな店があった。興味を引かれた栄作は中に入った。
店内は薄暗く、様々な砂漠の工芸品や見慣れない道具が並んでいた。奥からゆっくりと歩いてきたのは、白髪の老人だった。
「いらっしゃい、旅人よ」老人は栄作を見つめた。「あなたは異国から来た料理人だな?」
栄作は驚いた。「どうして分かったのですか?」
老人は微笑んだ。「あなたの周りに水の精霊が見えるよ」
アクアがポケットから飛び出し、老人の周りを回った。老人はそれを見て満足そうに頷いた。
「やはり料理精霊を従えた料理魔法師か。珍しい」
「あなたは精霊が見えるんですね」栄作は感嘆した。「実は、天空塔について情報を集めているんです。風の果実を探しているんです」
老人の目が輝いた。「ああ、五大食材の一つか。理解した」
彼は店の奥へと栄作を導いた。壁には砂漠の地図が広がり、中央には不思議な塔の絵が描かれていた。
「天空塔は砂漠の中心にある...とされているが、実際には定まった場所はない」老人は説明した。「砂漠の風に乗って移動し、現れては消える。見つけるには『風の道』を読む必要がある」
「風の道?」栄作は尋ねた。
「砂丘のパターン、風の流れ、砂漠の気配...これらを読み解くことだ」老人は手を広げた。「それができる『風読み』と呼ばれる導師が必要だ」
「その風読みはどこで見つけられますか?」
「私の息子がそうだ」老人は微笑んだ。「ザフィールと言って、王宮で天文学者をしている。彼なら天空塔の場所を見つけられるだろう」
栄作は感謝を述べ、ザフィールに会う方法を聞いた。老人は彼に小さな砂時計を渡した。
「これを見せれば、息子は会ってくれるだろう」
栄作が店を出ると、昼過ぎになっていた。彼は宿に戻り、シルヴァンとルークと合流した。
「図書館では天空塔についての古文書を見つけた」シルヴァンが報告した。「二百年前に最後に現れたとされているが、その後の記録はない」
「魔法ギルドでは」ルークが続けた。「砂漠の風の魔法について学びました。風の果実には『風の呼吸』という特殊な魔法が必要かもしれないとのことです」
栄作は自分が得た情報を二人に伝えた。
「風読みのザフィール...」シルヴァンは考え込んだ。「王宮に行くのは簡単ではないが、試してみる価値はある」
彼らは次の日に王宮を訪れることにした。
翌朝、彼らは正装して王宮に向かった。壮麗な白大理石の建物は、オアシスの中心に建っており、金と青の装飾が太陽に照らされて眩しいほどだった。
門番に老人の砂時計を見せると、彼らは驚くほど簡単に中に通された。
「ザフィール様は天文塔におられます」従者が彼らを案内した。
天文塔は王宮の一番高い塔で、頂上からは砂漠全体を見渡せるほどだった。そこで彼らは若い男性に会った。青い衣装を身につけた痩せた男性は、無数の地図や天文図の間で作業をしていた。
「父からの使者か」ザフィールは砂時計を見て言った。「何の用だ?」
栄作が風の果実と天空塔について説明すると、ザフィールは興味深そうに聞いていた。
「天空塔か...」彼は窓の外を見た。「実は、ここ数日、砂漠の風のパターンに異変を感じていた。塔が再び現れようとしている兆候かもしれない」
彼は大きな地図を広げ、指で砂漠の一点を示した。
「ここだ。三つの大砂丘が交わる場所。そこに三日後、月が満ちる夜に天空塔が現れるだろう」
「本当ですか?」栄作は目を輝かせた。
「ただし、簡単には辿り着けない」ザフィールは警告した。「砂嵐の中を進み、砂漠の幻影に惑わされることなく進まねばならない」
「案内人になってもらえないでしょうか?」シルヴァンが尋ねた。
ザフィールは考え込み、やがて決断したようだった。
「父が認めた者なら...いいだろう。明日、準備を整えて出発する」
栄作たちは喜んで宿に戻り、砂漠深部への旅の準備を始めた。栄作は特別な砂漠用の保存食を作った。「砂漠の生存ジャーキー」、「風力回復ビスケット」、「砂漠の血のスープ」など、過酷な環境での冒険に耐えうる特殊料理だ。
アクアも自らの力を注いで、限られた水で最大限の効果を発揮する料理の完成に貢献した。
翌朝、彼らはザフィールと合流し、砂漠へと出発した。ラクダに揺られながら、オアシスを離れると、すぐに過酷な砂漠の風景が彼らを包み込んだ。
「ここからが本当の砂の海だ」ザフィールは言った。「方向感覚を失わないよう、私のすぐ後ろについてきてくれ」
一日目は比較的穏やかな旅だった。砂漠の暑さは容赦なかったが、栄作の料理の効果で彼らは元気を保っていた。特に「砂漠の血のスープ」は水分をほとんど必要としない体質に一時的に変えてくれた。
夜、彼らは砂丘の陰に宿営した。満天の星空の下、栄作は簡素だが栄養価の高い夕食を作った。
「なかなかの腕前だ」ザフィールは栄作の料理を口にして言った。「料理魔法師の真価を見た気がする」
「ありがとうございます」栄作は微笑んだ。「ところで、天空塔についてもっと教えてもらえませんか?」
ザフィールは頷き、砂に図を描き始めた。
「天空塔は砂漠の魔力と風の力が結びついた不思議な建造物だ。風の道が交わるところに現れ、風が止むと消える。中には三つの試練があるとされる」
「試練?」
「そう、三つの試練だ」ザフィールは砂の上に三つの円を描いた。「最初は『風の迷路』—方向感覚を失わせる風の通路。次に『砂の幻影』—砂漠の幻を見せて心を惑わす部屋。そして最後に『大風の間』—風の力を支配する守護者との対決だ」
「その試練を乗り越えれば、風の果実が手に入るのですか?」ルークが聞いた。
「伝説ではそうなっている」ザフィールは頷いた。「しかし、二百年以上誰も成功していない」
栄作は思案顔でアクアを見た。水の精霊は静かに浮かびながら、まるで風の精霊を思い浮かべているかのように遠くを見ていた。
「どうにかして成功させなければ」栄作は決意を固めた。
二日目、彼らは砂漠の奥深くへと進んだ。風が強くなり、周囲の風景は一変した。巨大な砂丘が立ち並び、風で作られた奇妙な砂の彫刻のようなものが点在していた。
「風の彫刻だ」ザフィールが説明した。「風の力が強まっている証拠」
午後になると、突然風向きが変わり、砂嵐の前触れが感じられた。
「急いで砂丘の陰に隠れるぞ!」ザフィールが叫んだ。
彼らは急いでラクダを誘導し、大きな砂丘の陰に避難した。間もなく、轟音と共に砂嵐が襲いかかった。空が黄褐色に染まり、視界が数メートル先まで落ちた。
「これは...普通の砂嵐ではない」ザフィールは困惑した表情で言った。「何かが風を操っている」
栄作はポケットから「砂漠の幻影水」を取り出した。アクアが反応して水筒の周りを回り始めた。
「この水を使ってみよう」栄作は言った。
彼は水の一滴を取り、アクアに手渡した。精霊はその一滴を取り込み、突然強く輝き始めた。アクアの光が砂嵐を貫き、青い筋が空に現れた。
「見えた!」ザフィールは驚きの声を上げた。「風の道だ!」
青い筋は砂嵐の中に道を示すように伸びていた。彼らはラクダに乗り、その道に沿って進み始めた。恐ろしい砂嵐の中でも、アクアの光が彼らを導いてくれた。
数時間の過酷な旅の後、砂嵐は突然収まった。そして彼らの目の前に、息を呑むような光景が広がった。
三つの巨大な砂丘が交わる地点に、空中に浮かぶ巨大な塔があった。天空塔だ。白い石と青い結晶で作られたその塔は、風に乗って静かに回転していた。塔の周りには風の渦が見え、砂が螺旋状に舞い上がっていた。
「天空塔...」ザフィールは畏敬の念を込めて言った。「伝説は本当だった」
彼らはラクダを安全な場所に残し、塔の下まで歩いていった。風が強く吹き付け、立っているのも困難なほどだった。
「入口はどこだ?」シルヴァンが叫んだ。
風の渦を見つめていたザフィールが指を差した。「あそこだ!渦の中心に門がある!」
栄作はアクアを見た。「力を貸してくれ」
水の精霊は頷き、栄作の周りを回り始めた。アクアの水の力が風から彼らを守るバリアを形成した。彼らは渦の中心へと進み、そこに浮かぶ青い扉を見つけた。
扉には古代文字が刻まれていた。ザフィールが解読する。
「"風の道を知る者のみ入ることを許す"」
「どうすれば...」ルークが言いかけたとき、栄作が「砂漠の幻影水」を取り出した。
「これだ」彼は水を扉に向かって一滴垂らした。
扉が青く光り、静かに開いた。風の音が彼らを招き入れるように変わった。
「行こう」栄作が言い、一行は塔の中へと足を踏み入れた。
内部は予想外に静かだった。外の風の音は遮断され、代わりに柔らかな風の囁きのような音が響いていた。白い大理石の床と壁があり、青い結晶が光源として埋め込まれていた。
「第一の試練、風の迷路だ」ザフィールが説明した。
彼らの前には複数の廊下が伸びていた。どの廊下からも同じような風の音が聞こえてくる。
「どれが正しい道だ?」シルヴァンが疑問を呈した。
栄作は考え込んだ。彼は自分のポケットから「砂漠の黄金粉」を取り出し、少量を掌に乗せた。
「風の流れを見てみよう」
彼が黄金粉を吹き飛ばすと、粉は風に乗って浮遊し、一つの廊下へと流れていった。
「あの廊下だ」
彼らはその道を進んだ。迷路は複雑で、何度も分岐点に遭遇した。しかし、栄作の黄金粉と、ザフィールの風読みの能力で正しい道を選び続けた。時折、間違った廊下に進もうとすると、突然強風が吹き、彼らを押し戻した。
長い迷路の末、彼らは円形の広間に到達した。そこで風は止み、完全な静寂が広がった。
「第二の試練、砂の幻影の間だ」ザフィールがつぶやいた。
広間の床には細かい砂が敷き詰められ、壁には砂漠の風景が描かれていた。室内に入ると、突然砂が舞い上がり、彼らの周りで踊り始めた。
砂は次第に形を取り、それぞれの目の前に幻影を作り出した。
栄作の前には、東京の高級レストラン「メゾン・デトワール」の厨房が現れた。そこには彼が過労死する前の姿があり、完璧な料理を追求する孤独な姿が映し出されていた。
「これは...」栄作は動揺した。
他の仲間も同様に、それぞれの過去や恐れと向き合っていた。幻影は彼らの心を惑わせ、弱点を突いてきた。
「幻影に囚われるな!」ザフィールが警告した。「これは心を試す仕掛けだ!」
栄作は震える手で真珠貝を握りしめた。適応と変化の力を持つ真珠貝が、彼の心を落ち着かせた。
「過去は過去」栄作は決意を固めた。「今の私には仲間がいる。孤独ではない」
彼はアクアに呼びかけた。水の精霊は答えるように光り、幻影を貫いた。栄作の頭が清明になり、幻影が薄れていった。
彼は仲間たちにも声をかけた。「幻影はただの幻だ!真実を見るんだ!」
シルヴァンとルーク、ザフィールも徐々に幻影から解放されていった。全員が幻影から解放されると、砂は床に戻り、向こうに新たな扉が現れた。
「最後の試練だ」ザフィールが言った。
最後の扉を開けると、そこは塔の頂上だった。広い円形の部屋で、天井はなく、直接空に開かれていた。室内には強い風が渦巻き、中央には巨大な風の渦が立っていた。
渦の中から、風で形作られた人型の存在が姿を現した。風の守護者だ。
「風の果実を求めて来たのか、人間よ」風の声が響いた。
「はい」栄作は一歩前に出た。「五大食材の一つ、風の果実を探しています」
「二百年もの間、誰も私の試練を通過できなかった」風の守護者が言った。「汝の資格を証明せよ」
突然、守護者が風の刃を放ってきた。シルヴァンとルークは防御態勢を取ったが、栄作は違う行動を取った。
彼は炎竜の心臓、月光の果実、深海の真珠貝という、既に手に入れた三つの食材を取り出し、その場で調理台を展開した。
「料理で答えを示します」栄作は言った。
栄作は三つの食材のエッセンスを使い、「調和の一皿」を作り始めた。アクアも彼を助け、水の流れを完璧に制御した。炎竜の心臓の熱、月光の果実の浄化力、真珠貝の適応力が一つになり、皿の上で輝き始めた。
「これが私の答えです」栄作は完成した皿を掲げた。「料理は全てを結びつけ、調和をもたらします。風もまた、世界を循環させる調和の力です」
風の守護者は静かに見守っていた。その目には好奇心と試すような光があった。
「汝の言葉を証明せよ」守護者は言った。
栄作は自信を持って「調和の一皿」を守護者に差し出した。
「食べていただけますか?」
守護者は驚いたように見えたが、風の手を伸ばして一皿を受け取った。風が料理を包み込み、守護者はそれを自らの風の体に取り込んだ。
一瞬の静寂の後、守護者の体が明るく輝き始めた。風の渦が穏やかになり、部屋全体が柔らかな光に満たされた。
「二百年...待っていた」守護者の声が変わった。「真の理解者を」
風の渦が収まり、守護者の姿が変化した。より人間に近い姿になり、透明な青緑色の体が形作られた。その手には黄金色に輝く果実があった。風の果実だ。
「汝は料理の真髄を理解している」守護者は言った。「調和と循環、そして自由。これこそ風の果実が象徴するものだ」
守護者は栄作に風の果実を差し出した。
「これを受け取れ、料理魔法師よ」
栄作が果実に手を伸ばした瞬間、驚くべきことが起きた。彼の体から何かが分離し始め、風のような形を取り始めた。新たな料理精霊の誕生だった。
「風の精霊...ゼファー」栄作は本能的にその名を知った。
小さな風の精霊ゼファーは、栄作の周りを回り、アクアと挨拶を交わした。二つの精霊は喜びに満ちた踊りを始めた。
「四つ目の精霊の目覚め、おめでとう」風の守護者は穏やかに言った。「今や汝は炎と月光と海と風を操る力を持った」
栄作は感謝の意を示し、風の果実を大切に受け取った。黄金色の果実は手に触れると不思議なエネルギーを放ち、彼の体に風のような軽やかさをもたらした。
「風の果実は自由と移動の象徴」守護者は最後に言った。「賢く使いなさい」
言い終わると、守護者の姿は風に溶け、天空塔全体が輝き始めた。
「急いで出るぞ!」ザフィールが叫んだ。「塔が消えようとしている!」
彼らは急いで来た道を戻り、塔の入口にたどり着いた。外に出ると、塔はますます輝きを増し、風の渦に包まれていった。彼らがラクダのところまで戻ったとき、振り返ると天空塔は風と光に変わり、砂漠の空へと消えていった。
「信じられない体験だった...」ルークは興奮した様子で言った。
栄作は風の果実を見つめながら微笑んだ。彼の周りではアクアとゼファーが踊り、水と風の力が混ざり合い、美しい光の渦を作っていた。
「あと一つ」栄作はつぶやいた。「あと一つで五大食材が揃う」
彼らはザンダルへの帰路についた。砂漠を横断する旅は、ゼファーの加わったことで驚くほど容易になっていた。風の精霊は砂嵐を遠ざけ、進むべき最適な道を示してくれた。
ザンダルに戻ると、彼らは幻想師の老人に報告するために店を訪れた。老人は彼らの成功を聞いて大喜びした。
「二百年ぶりの快挙だ!」老人は手を叩いた。「そして風の精霊まで目覚めさせるとは!」
彼は栄作に一枚の古い羊皮紙を渡した。
「これは最後の食材、『神々の涙』についての古文書だ。私の家族が代々守ってきたものだ」
羊皮紙には神殿の絵と地図が描かれていた。
「『始まりの神殿』...」老人は説明した。「五大食材の中で最も神聖な場所に眠るという」
栄作は感謝を示し、羊皮紙を大切に受け取った。
「今晩は祝いの料理を作らせてください」栄作は提案した。「風の果実の力を初めて料理に使ってみたいんです」
その夜、栄作は老人の店で特別な晩餐会を開いた。ザフィールも招待され、彼らは冒険の成功を祝った。
栄作は風の果実のほんの少量を使い、「風の解放料理」を作った。ゼファーとアクアが協力して、料理に風と水の完璧な調和をもたらした。できあがった料理は信じられないほど軽やかで、風のように口の中で溶け、食べた者に自由と高揚感を与えた。
「素晴らしい...」老人は目を閉じ、料理の風味に身を委ねた。「まるで風に乗って空を飛んでいるようだ」
栄作はゼファーとアクアを見つめながら微笑んだ。風と水の精霊は彼の肩の上で仲良く寄り添い、彼の料理の力を次の段階へと導いていた。
「あと一つ」栄作は胸に手を当てた。「最後の神殿へ」
彼らはザンダルで数日休息を取り、最後の冒険への準備を始めた。遠くで、死食のカルトの影が彼らを追っていることに気づかぬまま。
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