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第四部:料理の頂点へ
第16章:海洋都市アクアポリス
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朝日が水平線から昇り、アクアポリスの白亜の建物群を黄金色に染め上げた。栄作たちは海岸沿いの道を歩きながら、街の最後の景色を目に焼き付けていた。
「本当に美しい街だ」栄作はつぶやいた。
彼の横には水の精霊アクアが浮かんでいた。透明な水滴のような姿をした小さな精霊は、朝の光を受けて虹色に輝いていた。栄作が手を伸ばすと、アクアは喜んで指先に触れ、冷たく爽やかな感触が指先に広がった。
「料理精霊の力は本当に不思議ですね」ルークが感嘆の声を上げた。「栄作さんの料理がさらに凄くなるんですよね?」
栄作は笑いながら頷いた。「まだ使いこなせていないけど、水の流れを自在に操れるようになったみたい。これから砂漠地帯に向かうけど、アクアの力は絶対に役立つはずだよ」
シルヴァンは地図を広げ、次の目的地を確認していた。「砂の海帝国まで、陸路で約二週間。風の果実は砂漠の中心、伝説の『天空塔』にあるとされているが...」
「でも、その前に港町でちょっと立ち寄りたい場所があるんだ」栄作が言った。「オーシャン・セイジから聞いた特殊な市場があるらしい。砂漠で生き延びるための食材を調達しておきたい」
彼らはアクアポリスの城壁を出て、東へと続く街道を進んだ。道の両側には青い花が咲き誇り、心地よい潮風が頬を撫でていく。栄作の肩にはアクアが小さくなって止まり、時折周囲の水気を集めては小さな水の輪を作って遊んでいた。
三日後、彼らは港町サリーナに到着した。アクアポリスほど豪華ではないが、活気あふれる貿易港だった。栄作が目指していたのは、町の東側にある「辺境市場」と呼ばれる特殊な市場だった。
市場は通常の商店とは離れた場所にあり、大きなテント群が立ち並んでいた。奇妙な形の果物や、見たこともない生き物の干物、色とりどりの粉が袋に詰められて売られていた。
「これは...」栄作は一つのテントの前で足を止めた。テントの中には砂漠の植物が並べられていた。サボテンの一種や、赤い花を咲かせる低木、そして水分をたっぷり含んだように見える透明な球体の植物。
「砂漠の宝石、と呼ばれる植物たちですよ」テントの主人が声をかけてきた。「特に、この水球草は砂漠の旅には欠かせません。切れば中から冷たい水が出てきますし、一週間は鮮度が保てる」
栄作は興味深げに水球草を手に取った。「味覚分析」の能力で調べると、確かに純度の高い水分と、微量の栄養素、そして弱い魔力が感じられた。
「これをいくつか買おう」栄作は決めた。「それと、このサボテンも。中が赤いのは面白いな」
テントの主人は笑みを浮かべた。「目が高いですね。赤砂竜のサボテンは、食べると体温調節の機能が一時的に強化されます。砂漠の日中の暑さと、夜の寒さの両方に対抗できるんですよ」
買い物を続けながら、栄作は砂漠地帯の特産品を次々と買い集めていった。乾燥させた砂漠ヤモリ、塩の結晶に閉じ込められた砂漠のハーブ、そして赤い砂の瓶。
「この赤い砂は何に使うんだ?」シルヴァンが不思議そうに聞いた。
「香辛料だよ」栄作は説明した。「砂漠の民はこれを料理に少量加えると、体が砂漠の環境に適応しやすくなるって言うんだ。興味深いから試してみたい」
市場の奥にある小さなテントに、栄作は特に興味を示した。そこには「砂漠の幻影水」と書かれた小さな水筒が並んでいた。
「これは...」栄作は店主に尋ねた。
「砂漠の奇跡です」老人は神秘的な笑みを浮かべて答えた。「砂漠の中心にある天空塔の周りに時々現れる泉の水。一滴で通常の水の十倍の効果があり、どんな砂嵐の中でも道を見失わない効果があると言われています」
栄作はその水筒を手に取った。値段は高かったが、アクアの反応が激しかった。水の精霊は水筒の周りを興奮して回り、光を放っている。
「これは本物だな」栄作は微笑んで言った。「買おう」
買い物を終え、栄作たちは宿に戻って夕食の準備を始めた。ルークは興味津々で栄作の料理を見ていた。
「今日は砂漠料理の練習をしてみるよ」栄作は説明した。「これからの旅に備えて、水を効率的に使い、栄養価の高い料理を作らないといけない」
栄作が調理を始めると、アクアは自ら進んで手伝いを始めた。まるで栄作の意図を読んだかのように、水の量を完璧に調整し、素材から最大限の水分を引き出すのを助けた。
「すごい...」ルークは目を丸くした。「アクアがいると、水の扱いが全然違いますね」
栄作は頷いた。「アクアのおかげで、通常の三分の一の水で料理ができるようになった。これは砂漠では命綱になるよ」
彼が作ったのは「砂漠の生存スープ」だった。最小限の水で最大限の栄養を引き出し、砂漠の気候に適応するための特殊な成分を含んだ一品。スープは深い赤色で、香りは強烈だが、一口飲むと体の芯から暖かくなり、同時に不思議な清涼感が広がった。
「これは...」シルヴァンは驚いて言った。「体が軽くなる感じがする」
「赤砂竜のサボテンと砂の香辛料のおかげだね」栄作は説明した。「飲んだ後少なくとも一日は、砂漠の過酷な環境に適応できるはずだよ」
夕食の後、彼らは砂漠への旅の準備を詳しく話し合った。シルヴァンは地図を広げ、ルートを説明した。
「ここから砂の海帝国の首都ザンダルまでは十日ほど。その後、砂漠のガイドを雇って天空塔を目指す。塔の場所は不確かで、現れたり消えたりすると言われているから難しいかもしれない」
栄作は思案顔で言った。「その『砂漠の幻影水』が手がかりになるかもしれない。アクアの反応を見ると、かなり特殊な水のようだ」
その夜、栄作は一人で考え事をしていた。アクアは彼の周りを静かに浮遊しながら、時々栄作の思考に共鳴するように光を放った。
「アクア...」栄作は小さな精霊に語りかけた。「これから砂漠という、おまえにとっては過酷な場所に行くけど、大丈夫かな?」
アクアは心配する必要はないと言うように、栄作の指先に触れた。彼はその冷たい感触に安心感を覚えた。
「そうだね。僕たちなら大丈夫だ。次は風の果実...そして風の精霊が目覚めるのかな」
翌朝、彼らは早くに出発した。栄作の料理の効果もあって、旅は順調に進んだ。道中、彼は新たに習得した水の精霊の力を活かした料理を作り続けた。アクアの助けで、彼の料理はさらに洗練され、効果も強くなった。
一週間後、彼らは砂の海帝国の国境に到達した。そこからの景色は一変した。緑豊かな森と丘陵地帯から、突如として広大な砂漠が広がっていた。地平線まで続く金色の砂の海は、まるで別の惑星に来たかのような異質な美しさを持っていた。
「ここからが本当の挑戦だ」シルヴァンは言った。「水の確保と日差しからの保護が最優先事項だ」
栄作はアクアを見た。水の精霊は少し小さくなったように見えたが、それでも栄作の肩の上で健気に光を放っていた。
「アクア、力を貸してくれるか」栄作が言うと、精霊は元気よく応えた。
彼らは砂漠の入り口にある小さな町、サンドゲートに入った。赤茶色の石で作られた建物が並び、町全体が砂に溶け込むように建っていた。住民たちは頭からつま先まで布で覆い、砂と太陽から身を守っていた。
「まずは私たちも適切な装備を調達しないと」シルヴァンが提案した。
彼らは町の商店で砂漠用の衣服や装備を購入した。長い布で顔を覆うスカーフ、特殊な砂用のブーツ、そして水筒と保冷バッグ。
「ザンダルまではあと三日ほどだ」シルヴァンは地図を確認しながら言った。「キャラバンに合流できればいいのだが...」
町の中心にある「旅人の館」と呼ばれる宿で、彼らは運良くザンダル行きのキャラバンがあと二日で出発することを知った。
「それまでの間に、砂漠料理をもっと研究しておこう」栄作は提案した。
彼は町の市場に出かけ、現地の料理人たちと交流を始めた。栄作の名声は既にこの辺境の地にも届いており、「アクアポリスの料理魔法師」として知られていた。料理人たちは喜んで砂漠の調理法や食材について教えてくれた。
特に興味深かったのは「砂漠の蒸し調理」だった。昼間の砂の熱を利用して、特殊な容器で食材をゆっくり蒸し上げる方法。水をほとんど使わずに、素材の旨味を最大限に引き出せる技術だった。
「これは素晴らしい」栄作は感激した。「自然と共生する料理の極意だ」
その晩、栄作は宿の台所を借りて、砂漠料理の技術を取り入れた特別な夕食を作った。砂漠のハーブと赤砂竜のサボテンを使った「砂漠の生存スープ」、乾燥ヤモリと水球草のエキスで味付けした「砂漠の活力ご飯」、そして現地で手に入れた砂漠ラクダの肉を使った「砂漠の持久力ステーキ」。
「この料理を食べれば、砂漠でも一日中歩けるだろう」栄作は胸を張った。
宿の主人もその料理の香りに誘われてやってきた。「素晴らしい香りだ。もしよければ、私たちの料理人にも教えてはくれないか?」
栄作は喜んで承諾し、夜遅くまで現地の料理人たちに技術を伝授した。その間、ルークは興味津々で見学し、シルヴァンはザンダルについての情報を宿の客たちから集めていた。
二日後、彼らはキャラバンに合流した。二十頭ほどのラクダと、十台の荷車からなる商人の一団だった。隊長はハリッドという髭の濃い男で、栄作の料理の評判を聞くと、すぐに彼らを歓迎した。
「料理魔法師とは、旅の幸運だ!」ハリッドは豪快に笑った。「我々のキャラバンの料理人が病気でね。代わりに料理を担当してくれれば、無料で護衛する」
こうして栄作たちは砂漠の旅を本格的に始めた。初めて見る砂漠の風景に、栄作は圧倒された。果てしなく続く砂の海、刺すような太陽の光、そして夜になると信じられないほど美しい星空。日中の灼熱と夜の凍えるような寒さのコントラストも、彼にとっては新鮮な体験だった。
「この環境で生きるのは、想像以上に大変だな」栄作はラクダに揺られながらつぶやいた。
アクアは日中、栄作の水筒の中に入り、水分を保持していた。夜になると出てきて、栄作の料理を手伝った。
キャラバンの人々は栄作の料理に大喜びだった。特に「砂漠の持久力ステーキ」は、長時間の移動でも疲れを感じにくくなる効果があり、隊商の進行速度が上がったほどだった。
「あなたの料理には魔法がある」ハリッドは感嘆した。「砂漠を旅して二十年になるが、こんなに元気に歩けたことはない」
三日目の夕方、彼らは砂丘の頂から壮大な光景を目にした。巨大なオアシスの周りに広がる都市ザンダル。白と金の建物が砂の中から生え出たように立ち並び、中央には巨大な宮殿らしき建物が太陽に照らされて輝いていた。
「砂の海帝国の首都ザンダル」ハリッドが誇らしげに言った。「砂漠の真珠とも呼ばれる美しい都だ」
「ついに着いたか」シルヴァンはほっとした様子で言った。「ここで天空塔についての情報を集めよう」
栄作はアクアを見た。精霊はオアシスを見て興奮しているようだった。
「そうだね、アクア。まずはたっぷり水を補給しないとね」
ザンダルに入ると、彼らはキャラバンと別れ、ハリッドお勧めの宿「砂漠の休息」に向かった。宿は意外に豪華で、中庭には小さな噴水まであった。アクアは喜んで噴水の中に飛び込み、久しぶりの豊富な水に歓喜した。
「まずは休息だ」シルヴァンは言った。「明日から天空塔についての情報集めだ」
栄作はうなずいた。「僕も現地の料理についてもっと調べたい。風の果実を探す手がかりになるかもしれない」
彼らは砂漠の都ザンダルで、次なる冒険の準備を始めた。栄作の心の中では、すでに風の精霊の存在が予感のように感じられていた。
「本当に美しい街だ」栄作はつぶやいた。
彼の横には水の精霊アクアが浮かんでいた。透明な水滴のような姿をした小さな精霊は、朝の光を受けて虹色に輝いていた。栄作が手を伸ばすと、アクアは喜んで指先に触れ、冷たく爽やかな感触が指先に広がった。
「料理精霊の力は本当に不思議ですね」ルークが感嘆の声を上げた。「栄作さんの料理がさらに凄くなるんですよね?」
栄作は笑いながら頷いた。「まだ使いこなせていないけど、水の流れを自在に操れるようになったみたい。これから砂漠地帯に向かうけど、アクアの力は絶対に役立つはずだよ」
シルヴァンは地図を広げ、次の目的地を確認していた。「砂の海帝国まで、陸路で約二週間。風の果実は砂漠の中心、伝説の『天空塔』にあるとされているが...」
「でも、その前に港町でちょっと立ち寄りたい場所があるんだ」栄作が言った。「オーシャン・セイジから聞いた特殊な市場があるらしい。砂漠で生き延びるための食材を調達しておきたい」
彼らはアクアポリスの城壁を出て、東へと続く街道を進んだ。道の両側には青い花が咲き誇り、心地よい潮風が頬を撫でていく。栄作の肩にはアクアが小さくなって止まり、時折周囲の水気を集めては小さな水の輪を作って遊んでいた。
三日後、彼らは港町サリーナに到着した。アクアポリスほど豪華ではないが、活気あふれる貿易港だった。栄作が目指していたのは、町の東側にある「辺境市場」と呼ばれる特殊な市場だった。
市場は通常の商店とは離れた場所にあり、大きなテント群が立ち並んでいた。奇妙な形の果物や、見たこともない生き物の干物、色とりどりの粉が袋に詰められて売られていた。
「これは...」栄作は一つのテントの前で足を止めた。テントの中には砂漠の植物が並べられていた。サボテンの一種や、赤い花を咲かせる低木、そして水分をたっぷり含んだように見える透明な球体の植物。
「砂漠の宝石、と呼ばれる植物たちですよ」テントの主人が声をかけてきた。「特に、この水球草は砂漠の旅には欠かせません。切れば中から冷たい水が出てきますし、一週間は鮮度が保てる」
栄作は興味深げに水球草を手に取った。「味覚分析」の能力で調べると、確かに純度の高い水分と、微量の栄養素、そして弱い魔力が感じられた。
「これをいくつか買おう」栄作は決めた。「それと、このサボテンも。中が赤いのは面白いな」
テントの主人は笑みを浮かべた。「目が高いですね。赤砂竜のサボテンは、食べると体温調節の機能が一時的に強化されます。砂漠の日中の暑さと、夜の寒さの両方に対抗できるんですよ」
買い物を続けながら、栄作は砂漠地帯の特産品を次々と買い集めていった。乾燥させた砂漠ヤモリ、塩の結晶に閉じ込められた砂漠のハーブ、そして赤い砂の瓶。
「この赤い砂は何に使うんだ?」シルヴァンが不思議そうに聞いた。
「香辛料だよ」栄作は説明した。「砂漠の民はこれを料理に少量加えると、体が砂漠の環境に適応しやすくなるって言うんだ。興味深いから試してみたい」
市場の奥にある小さなテントに、栄作は特に興味を示した。そこには「砂漠の幻影水」と書かれた小さな水筒が並んでいた。
「これは...」栄作は店主に尋ねた。
「砂漠の奇跡です」老人は神秘的な笑みを浮かべて答えた。「砂漠の中心にある天空塔の周りに時々現れる泉の水。一滴で通常の水の十倍の効果があり、どんな砂嵐の中でも道を見失わない効果があると言われています」
栄作はその水筒を手に取った。値段は高かったが、アクアの反応が激しかった。水の精霊は水筒の周りを興奮して回り、光を放っている。
「これは本物だな」栄作は微笑んで言った。「買おう」
買い物を終え、栄作たちは宿に戻って夕食の準備を始めた。ルークは興味津々で栄作の料理を見ていた。
「今日は砂漠料理の練習をしてみるよ」栄作は説明した。「これからの旅に備えて、水を効率的に使い、栄養価の高い料理を作らないといけない」
栄作が調理を始めると、アクアは自ら進んで手伝いを始めた。まるで栄作の意図を読んだかのように、水の量を完璧に調整し、素材から最大限の水分を引き出すのを助けた。
「すごい...」ルークは目を丸くした。「アクアがいると、水の扱いが全然違いますね」
栄作は頷いた。「アクアのおかげで、通常の三分の一の水で料理ができるようになった。これは砂漠では命綱になるよ」
彼が作ったのは「砂漠の生存スープ」だった。最小限の水で最大限の栄養を引き出し、砂漠の気候に適応するための特殊な成分を含んだ一品。スープは深い赤色で、香りは強烈だが、一口飲むと体の芯から暖かくなり、同時に不思議な清涼感が広がった。
「これは...」シルヴァンは驚いて言った。「体が軽くなる感じがする」
「赤砂竜のサボテンと砂の香辛料のおかげだね」栄作は説明した。「飲んだ後少なくとも一日は、砂漠の過酷な環境に適応できるはずだよ」
夕食の後、彼らは砂漠への旅の準備を詳しく話し合った。シルヴァンは地図を広げ、ルートを説明した。
「ここから砂の海帝国の首都ザンダルまでは十日ほど。その後、砂漠のガイドを雇って天空塔を目指す。塔の場所は不確かで、現れたり消えたりすると言われているから難しいかもしれない」
栄作は思案顔で言った。「その『砂漠の幻影水』が手がかりになるかもしれない。アクアの反応を見ると、かなり特殊な水のようだ」
その夜、栄作は一人で考え事をしていた。アクアは彼の周りを静かに浮遊しながら、時々栄作の思考に共鳴するように光を放った。
「アクア...」栄作は小さな精霊に語りかけた。「これから砂漠という、おまえにとっては過酷な場所に行くけど、大丈夫かな?」
アクアは心配する必要はないと言うように、栄作の指先に触れた。彼はその冷たい感触に安心感を覚えた。
「そうだね。僕たちなら大丈夫だ。次は風の果実...そして風の精霊が目覚めるのかな」
翌朝、彼らは早くに出発した。栄作の料理の効果もあって、旅は順調に進んだ。道中、彼は新たに習得した水の精霊の力を活かした料理を作り続けた。アクアの助けで、彼の料理はさらに洗練され、効果も強くなった。
一週間後、彼らは砂の海帝国の国境に到達した。そこからの景色は一変した。緑豊かな森と丘陵地帯から、突如として広大な砂漠が広がっていた。地平線まで続く金色の砂の海は、まるで別の惑星に来たかのような異質な美しさを持っていた。
「ここからが本当の挑戦だ」シルヴァンは言った。「水の確保と日差しからの保護が最優先事項だ」
栄作はアクアを見た。水の精霊は少し小さくなったように見えたが、それでも栄作の肩の上で健気に光を放っていた。
「アクア、力を貸してくれるか」栄作が言うと、精霊は元気よく応えた。
彼らは砂漠の入り口にある小さな町、サンドゲートに入った。赤茶色の石で作られた建物が並び、町全体が砂に溶け込むように建っていた。住民たちは頭からつま先まで布で覆い、砂と太陽から身を守っていた。
「まずは私たちも適切な装備を調達しないと」シルヴァンが提案した。
彼らは町の商店で砂漠用の衣服や装備を購入した。長い布で顔を覆うスカーフ、特殊な砂用のブーツ、そして水筒と保冷バッグ。
「ザンダルまではあと三日ほどだ」シルヴァンは地図を確認しながら言った。「キャラバンに合流できればいいのだが...」
町の中心にある「旅人の館」と呼ばれる宿で、彼らは運良くザンダル行きのキャラバンがあと二日で出発することを知った。
「それまでの間に、砂漠料理をもっと研究しておこう」栄作は提案した。
彼は町の市場に出かけ、現地の料理人たちと交流を始めた。栄作の名声は既にこの辺境の地にも届いており、「アクアポリスの料理魔法師」として知られていた。料理人たちは喜んで砂漠の調理法や食材について教えてくれた。
特に興味深かったのは「砂漠の蒸し調理」だった。昼間の砂の熱を利用して、特殊な容器で食材をゆっくり蒸し上げる方法。水をほとんど使わずに、素材の旨味を最大限に引き出せる技術だった。
「これは素晴らしい」栄作は感激した。「自然と共生する料理の極意だ」
その晩、栄作は宿の台所を借りて、砂漠料理の技術を取り入れた特別な夕食を作った。砂漠のハーブと赤砂竜のサボテンを使った「砂漠の生存スープ」、乾燥ヤモリと水球草のエキスで味付けした「砂漠の活力ご飯」、そして現地で手に入れた砂漠ラクダの肉を使った「砂漠の持久力ステーキ」。
「この料理を食べれば、砂漠でも一日中歩けるだろう」栄作は胸を張った。
宿の主人もその料理の香りに誘われてやってきた。「素晴らしい香りだ。もしよければ、私たちの料理人にも教えてはくれないか?」
栄作は喜んで承諾し、夜遅くまで現地の料理人たちに技術を伝授した。その間、ルークは興味津々で見学し、シルヴァンはザンダルについての情報を宿の客たちから集めていた。
二日後、彼らはキャラバンに合流した。二十頭ほどのラクダと、十台の荷車からなる商人の一団だった。隊長はハリッドという髭の濃い男で、栄作の料理の評判を聞くと、すぐに彼らを歓迎した。
「料理魔法師とは、旅の幸運だ!」ハリッドは豪快に笑った。「我々のキャラバンの料理人が病気でね。代わりに料理を担当してくれれば、無料で護衛する」
こうして栄作たちは砂漠の旅を本格的に始めた。初めて見る砂漠の風景に、栄作は圧倒された。果てしなく続く砂の海、刺すような太陽の光、そして夜になると信じられないほど美しい星空。日中の灼熱と夜の凍えるような寒さのコントラストも、彼にとっては新鮮な体験だった。
「この環境で生きるのは、想像以上に大変だな」栄作はラクダに揺られながらつぶやいた。
アクアは日中、栄作の水筒の中に入り、水分を保持していた。夜になると出てきて、栄作の料理を手伝った。
キャラバンの人々は栄作の料理に大喜びだった。特に「砂漠の持久力ステーキ」は、長時間の移動でも疲れを感じにくくなる効果があり、隊商の進行速度が上がったほどだった。
「あなたの料理には魔法がある」ハリッドは感嘆した。「砂漠を旅して二十年になるが、こんなに元気に歩けたことはない」
三日目の夕方、彼らは砂丘の頂から壮大な光景を目にした。巨大なオアシスの周りに広がる都市ザンダル。白と金の建物が砂の中から生え出たように立ち並び、中央には巨大な宮殿らしき建物が太陽に照らされて輝いていた。
「砂の海帝国の首都ザンダル」ハリッドが誇らしげに言った。「砂漠の真珠とも呼ばれる美しい都だ」
「ついに着いたか」シルヴァンはほっとした様子で言った。「ここで天空塔についての情報を集めよう」
栄作はアクアを見た。精霊はオアシスを見て興奮しているようだった。
「そうだね、アクア。まずはたっぷり水を補給しないとね」
ザンダルに入ると、彼らはキャラバンと別れ、ハリッドお勧めの宿「砂漠の休息」に向かった。宿は意外に豪華で、中庭には小さな噴水まであった。アクアは喜んで噴水の中に飛び込み、久しぶりの豊富な水に歓喜した。
「まずは休息だ」シルヴァンは言った。「明日から天空塔についての情報集めだ」
栄作はうなずいた。「僕も現地の料理についてもっと調べたい。風の果実を探す手がかりになるかもしれない」
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