その距離は、恋に遠くて

碧月あめり

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Three

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 車で一時間以上かけて連れてきてもらった夜の海は、思っていたよりも寒かった。
 車から降りた瞬間、ぶるっと身震いしたわたしを見て、那央くんがふっと笑う。

「あー、寒いよな。これ着ていいよ」

 そう言いながら、那央くんが着ていたジャケットを脱いでわたしの肩にかけてくれる。彼の体温で温まったジャケットが身体を包むと、周囲の気温が一℃上がったみたいに感じられた。

「那央くんは寒くない?」

 薄手のTシャツ一枚になってしまった那央くんを心配していると、彼が後部座席からパーカーを引っ張り出してくる。

「平気。今の時期の海は寒いだろうから、予備に持ってきた」

 被ったパーカーから頭を出した那央くんが、得意げに笑う。整った顔立ちをした彼は、言うまでもなくモテるだろうし。こんなふうに、女の子と一緒に夜の海にデートに来たことだってあるのだろう。

 でもわたしは、今夜ここに連れてきてもらうまで、春の海が想像以上に寒いことも、真っ暗な海から聞こえてくる波の音が昼間よりもずっとうるさいことも知らなかった。


「ちょっと浜辺でも歩く?」

 海に行きたいと言ったのはわたしのはずなのに、先に砂浜のほうへと歩き出そうとする那央くんのほうが、なんだか楽しそうだ。

 一歩踏み出すごとに砂に足をとられているわたしを置いて、波打ち際までどんどんと進んで行く。

「ちょっと、速い。実は那央くん、海に来たかったんでしょ」

 何とか追いついて隣に並ぶと、那央くんがわたしを振り向いて笑った。

「そういうわけじゃないけど、ひさしぶりに来るとちょっとテンション上がった。夜の海って、静かでいいよな」
「そうかな。わたしは、昼間よりもずっと波の音がうるさいって思った。周りが静かすぎるから」
「あぁ、たしかに。そう言われたら、そうかもな」

 那央くんが真っ黒な水平線を見つめながら、目を細める。鼻筋の高い綺麗な横顔をぼんやりと見ていると、不意に大きめの波が押し寄せてきて、サンダルと一緒に足が濡れた。

 夜の海の水は足先を凍らせるほどに冷たくて、那央くんと一緒に思わず悲鳴をあげてしまう。ふたりで顔を見合わせて、笑いながら波打ち際から逃げたら、わたしだけが砂に足をとられて躓いた。


「あー、ワンピース汚れちゃう」
「どんくさ」

 砂浜に両手と膝をついているわたしを見下ろして、那央くんが揶揄うように笑う。

「うるさいなー」

 不貞腐れた声でつぶやくと、お尻をついて座って砂浜に足を投げ出す。

 今夜のために買った、ちょっと高めのワンピース。そのスカートに濡れた砂が付いたけど、もうどうでもよかった。腰の後ろで手をついて、ため息を吐く。

 首を反らして星の少ない夜空を見上げていると、那央くんが歩み寄ってきてわたしの隣にしゃがんだ。

「何があったかは知らないけど、少しは気が晴れた?」

 三角に立てた膝の上に腕をのせた那央くんが、横から顔を覗き込んでくる。優しい瞳をして見つめられて、気が晴れたというよりは、つい気が緩んだ。


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