精霊機伝説

南雲遊火

文字の大きさ
4 / 110
トラファルガー噴火編

第三章 火山の麓の町で

しおりを挟む
「ひ……ひどい目におうた……」
「それは、こちらのセリフだ……」

 戦闘で命綱を切ってしまったため、モルガはそのまま、ハデスヘルの心臓コックピットに乗ることになった。

 が、例によって、合わない『加護』の影響で、乗り心地は最悪。
 ──もっとも、途中で起動不全を起こさなかっただけ、マシなのかもしれないが。

 そんなこんなで、二人してよれよれになりつつ、なんとか丸一日かけて、マルーンへ到着。

 心臓コックピットから降りたモルガが、跪いたハデスヘルを見上げると、例の女性──仮名:「ハデスさん」が見下ろし、モルガに向かって手を振っていた。

 モルガが手を振り返すと、ルクレツィアが相変わらず、不気味なモノを見るようにジト目で見つめた。

「にわかに、信じがたい話だな……」
「と、ゆーてものぉ」

 ルクレツィアに、「ハデスさん」の姿は見えないらしい。

「ものすごく献身的に、あんたに接しとったのにのぉ」

 不憫な彼女……と続けそうなモルガに、慌ててルクレツィアが叫ぶ。

「み……見えないものは、仕方ないだろう!」

 そうこうしているうちに、マルーンの入り口に到着した。


  ◆◇◆


 広大な砂漠の中、ポツンとそびえる大きな一枚岩の上、さらに蟻の巣のように地下に掘り進めた天然の要塞である帝都とは違い、マルーンは、帝都南部の山岳地帯にある、人口三千人ほどの、小さな鉱夫と職人たちの都市だ。

 いや、『都市』というよりは、規模で言うなら『町』と言った方がしっくりくるかもしれない。

 今回噴火したトラファルガー山は、大規模な鉱床を持つ鉱山でもあり、本来ならば、マルーンの人々に恩恵を与えていた。

「うわー……こりゃ、酷いのぉ」

 一面灰まみれ──空気も悪く、モルガは袖で口と鼻を押さえながら進む。

「あ、モルガ兄ちゃん!」

 見知った顏が、モルガに駆け寄ってきた。

「おう! アックス! 無事なよーじゃのぉ」

 モルガは七人兄弟の、ちょうど真ん中である。
 兄が一人、姉が二人、弟が二人、妹が一人……。

 アックスは上の弟──モルガのすぐ下だ。年齢も十六歳で、一つしか違わない。
 顔も体格もよく似ており、双子と間違われることもある。

「それがのぉ……」

 表情を曇らせるアックスに、モルガは眉をひそめる。

「スフェーン兄ちゃんが、怪我しちゃって……」
「んじゃと!」

 あと……と、続けかけたアックスの言葉を最後まで聞かず、モルガは慌てて、自宅の方へ駆け出した。
 ルクレツィアとアックスは、呆然としながら、騒々しいモルガを見送る。

「その……すまない」

 申し訳なさそうに……しかしながら力強く、ルクレツィアはアックスの肩を掴みながら、口を開いた。

「支援のため、帝都から騎士たちがやってきたはずだが……案内してもらえないだろうか?」

 自分が方向音痴であることは、さすがに言えなかった。


  ◆◇◆


「ちぃと、はよぉないかのぉ。でかい啖呵きった割にゃぁ、帰ってくるんが」

 ……心配して損した。
 自分に向けられる、スフェーンの冷たく厳しい視線に、モルガは先ほどまでの自分を、馬鹿らしく思う。

「怪我をしたゆぅて聞いとったのに、元気じゃのぉ。兄貴」
「なぁに、ちぃと、地震で倒れた機材に挟まれて、骨が折れただけじゃ」

 ガチガチに固定された足は痛々しかったが、兄はすこぶる元気そうだった。
 むしろ、動けないうっぷんを、どこかで発散したくてうずうずしている……そんな感じだ。

「もー! そんな事・・・・しとる場合じゃないじゃろ!」

 モルガのすぐ上の姉、カイヤが、バチバチと火花を散らす長男と次男の間に割って入った。

 モルガの母親は、末の妹サフィリンを産んですぐに亡くなった。一番上の姉のモリオンは、五年前から帝都に出稼ぎに出ているので、ニ十歳ながら、カイヤがこの家の母親代わりだ。

 そして、二十二歳の兄スフェーンが、兄弟たちの昨年亡くなった父親代わりと言える。

 カイヤの剣幕に、思わず男二人は黙り込む。しかし、ふと、モルガはよぎった疑問を口にした。

「アウインとサフィリンは?」

 騒々しい末の二人の姿が無い。スフェーンとカイヤは、思わず顔を見合わせた。
 渋い顔で、スフェーンが重い口を開く。

「サフィリンは、近隣の町アクバールの叔母上のところへ預けた。……アウインは」

 兄の言葉に、モルガの表情が固まった。

「行方不明だ」


  ◆◇◆


「すまない! 本当にすまない!」

 この通り! と、ルクレツィアは遅刻したことを詫び、頭を下げた。下げられた相手──これまたルクレツィアに負けず劣らず小柄な少女は、ため息と同時に「大丈夫」と、ルクレツィアをなだめにかかる。

 大きな瞳のくりくりとした愛らしい少女。しかし、その瞳は、この国の皇族に連なる、皇族色朱色の瞳……。

 ステラ=プラーナ。炎の元素騎士エレメンタルナイツ

「んもう、大丈夫よ! あ……だいじょ……ぶ、じゃないか」

 ため息と一緒に、乾いた笑い声が少女の口から洩れた。その様子に、ルクレツィアは目が点になる。

「実はさ、ギードのヤツが、やってくれちゃったのよ……」
「ギード殿が?」

 ステラと同時に帝都を出発、マルーンに派遣された、ギード=ザイン。
 ルクレツィアとほぼ同じ時期に、戦死した先代に代わり、選ばれた地の元素騎士。

「……何があったか、きいておいた方がいいかしら?」
「あんまり大声で言いたくないんだけど……ちょっとね……」

 ひそひそ……と、ステラがルクレツィアに耳打ちする。可憐な少女たちの内緒話、大変、絵になる構図ではあるのだが……。

「……はぁ?」

 素っ頓狂なルクレツィアの声に、苦笑いするしかないステラであった。


  ◆◇◆


「ふざけとるんか! たいがいにせぃいい加減にしろよ!」

 モルガは、灰の積もった山道を駆け登った。
 子どもの頃から遊び、慣れた道だが、少し滑り、走り辛くはある。

 火山が爆発したその日、アウインは近い年頃の子どもたちと、大人たちから禁じられていた廃坑付近で遊んでいたらしい。と、坑道で遊ぶことを躊躇い、一人帰ったおかげで難を逃れた子どもの証言があったとのこと。

 その証言を裏付けるかのように、噴火の影響で廃坑へ続く道が崩れており、その日以降、アウインを含めた五人の子どもたちの姿が、町から消えた。

 VDを駆る騎士たちが、崩れた建物の撤去や、下敷きになった者たちの救出作業、隣町までの住民の避難に加え、五人の子どもたちの捜索もしてくれているようではあるのだが──頼みの『地の元素騎士』様は、任務前に泥酔した挙句、酒瓶に躓き・・・・・昏倒している・・・・・・とのこと。

 ふと、モルガは歩みを止めた。

 目の前に、小さな少女の姿がある。
 年の頃は、アウインと同じか、それより幼い……十にも満たないと思われる。

 赤い髪に瞳。しかし、この町では見たことがない娘。

「誰……じゃ?」

 少女が手招きをする。思わず固まるモルガに、少女は、口を開いた。

『アウインは、無事』

 少女の言葉に、目を見開いて、モルガは喜ぶ。

「ほんまか! えかった!」
『こっち。ついて来て』

 モルガがついてくることを確認しながら、少女が一歩、歩き出す。
 しかし、その方向は……。

「そっちは、廃坑じゃぁない……」
『……』

 無言の少女の視線に、モルガは思わず口ごもった。
 幼い少女に似合わず、何かしら有無を言わさない──不思議な威圧感を感じる。

「わかった。わかりました! ついていくけぇ……こっちじゃの」

 少女は満足そうににっこりと笑うと、再び歩き出した。

 そして、たどり着いた先、そこは……。

「これ……は……」

 モルガは、思わず固まった。

 跪くように鎮座する、深い茶色の装甲の機体。
 先ほど自分たちが乗ってきた、ハデスヘルと同じ『伝説』。

「精霊機……ヘルメガータ……」

 突然、ヘルメガータの目が赤く光った。同時に、ぎこちない動きで、モルガに向かって手を差し出す。

 そして少女が、恭しく、モルガに跪いて、手を引いた。

『乗って。私の主様マスター
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

【完結】前代未聞の婚約破棄~なぜあなたが言うの?~【長編】

暖夢 由
恋愛
「サリー・ナシェルカ伯爵令嬢、あなたの婚約は破棄いたします!」 高らかに宣言された婚約破棄の言葉。 ドルマン侯爵主催のガーデンパーティーの庭にその声は響き渡った。 でもその婚約破棄、どうしてあなたが言うのですか? ********* 以前投稿した小説を長編版にリメイクして投稿しております。 内容も少し変わっておりますので、お楽し頂ければ嬉しいです。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?

志波 連
恋愛
病弱な父親とまだ学生の弟を抱えた没落寸前のオースティン伯爵家令嬢であるルシアに縁談が来た。相手は学生時代、一方的に憧れていた上級生であるエルランド伯爵家の嫡男ルイス。 父の看病と伯爵家業務で忙しく、結婚は諦めていたルシアだったが、結婚すれば多額の資金援助を受けられるという条件に、嫁ぐ決意を固める。 多忙を理由に顔合わせにも婚約式にも出てこないルイス。不信感を抱くが、弟のためには絶対に援助が必要だと考えるルシアは、黙って全てを受け入れた。 オースティン伯爵の健康状態を考慮して半年後に結婚式をあげることになり、ルイスが住んでいるエルランド伯爵家のタウンハウスに同居するためにやってきたルシア。 それでも帰ってこない夫に泣くことも怒ることも縋ることもせず、非道な夫を庇い続けるルシアの姿に深く同情した使用人たちは遂に立ち上がる。 この作品は小説家になろう及びpixivでも掲載しています ホットランキング1位!ありがとうございます!皆様のおかげです!感謝します!

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...