銀腕のアガトラム

アカヤシ

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第4話 公爵家次女スレン=フィルボルグ

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「がっは!ごふっ!ぶへっ!待て、待ってくれマイシスター!」

「あらあら、お兄様っ!まだ鍛練を始めて一時間ですよっ!ワタクシの剣術の鍛練に付き合ってくださるんじゃっ!なかったのかしら!」

「確かに鍛練に付き合うとばっ!言ったがっ!的になるとは言ってないぞ!」

七年前から毎日行われている『とある兄妹』の早朝鍛練。

兄の名はブレイズ=フィルボルグ。

妹の名はスレン=フィルボルグ。

ブリドン王国公爵家のフィルボルグ一族の者。

二人ともブリドン王国内で珍しい金髪と赤毛の混じったストロベリーブロンドの髪に十人中十人が美しいと答えるであろう見目麗しい顔、兄のブレイズは長身で細マッチョ、いよいよ公爵家当主になる日が近いと『重度の病に侵されている』と広く知られていても王国貴族令嬢達から絶大な人気を持つ美男。
妹のスレンは小柄ではあるが、本人は動きづらいと本気で嫌っている自己主張の激しい巨乳に、やせているだけでなく程よく筋肉のついた引き締まった腰、プリっとしたボリュームのあるお尻で見た目だけなら王国でトップ5に入るほどの可愛さだが、性格がかなりキツいため男性の人気はほどほどであるが、頼れるお姉様ポジションとして女性の人気はかなり高い。

しかし兄のブレイズは変わり果てた姿となっている。

顔はボコボコ、体は痣だらけ、骨が折れている箇所まである。これから1日が始まる早朝の鍛練にしてはやり過ぎだろう。ちなみにこの兄妹は休日ではなく仕事があり一般人とは比べ物にならないほどの激務が待っている。

「お兄様ご心配なく。公爵家お抱えの治癒の『魔法』が使える者を『いつも通り』控えさせているので。存分にお怪我を負われて結構ですわよ!!!」

「もう負っているし重傷だよマイシスター!!!」

彼女の言う通り、少し離れた場所に数人の魔法使いとフィルボルグ公爵家の雇っている従者達が控えている。そんな彼等の顔は兄妹の方向に向けてはいるが、目は兄妹を見ていない。ずっとずっと遠くの景色を見続けている。彼等はこの七年前間兄妹の早朝鍛練(妹から兄への一方的な体罰)に付き合わされ続けている。最初の頃は彼等も止めようとはしたが聞き入れてもらえず、従者達はオロオロと狼狽え、兄が殴られる度に悲鳴や叫び声を上げていたものだが今では直立不動、微動だにせず待機している。兄が助けを求めても妹の指示を優先し動かない。

なら公爵である父に二人を止めさせればいいんじゃないのかだって?

スレンは鍛練用の木刀で実の兄を容赦なく打ち続ける。兄の顔面への左右連撃で歯が折れ血を滲ませようと止めない。まるで親の敵を討つかのように、鬼神すら泣いて逃げ出しそうな形相で暴風の如く顔面だけでなく身体の隅々まで連撃を叩き込む。

ここまでされる兄の次に父は娘のスレンに嫌われている。

その証拠に七年間、父との会話は一切ない。

一言すらない!!!

挨拶すらしない!!!

父が会いたがっても拒絶し、食事も別々。そもそも父はフィルボルグ公爵領地、スレンは王城で普段仕事をしているため中々会えない。この早朝鍛練のためだけに王都に家を買わず領地が近いとはいえ、わざわざ実家と王都を往復しているのだ。父が何かと理由を作り登城してくるが肝心のスレンは何かと理由を作り王城の外で仕事する徹底ぶりに父も娘に嫌われたショックで痩せこけ弱っており、もう長男のブレイズに公爵家当主の座を譲り田舎に療養しに行くのではと噂が流れるほどである。

家にいる際、用がある場合は母越し。しかしいくら家族間の問題でもさすがに公式の場ではそうはいかないと思っている者もいるだろうが彼女は現在それが許される立場の人間なのだ。

今の彼女の地位は公爵家当主である父よりはるかに上なのだ。

スレン=フィルボルグはブリドン王族直轄の近衛騎士団に所属しており、ブリドン王国王位継承第一位の、つまり次期国王にもっとも近いと言われた男の専属騎士に選ばれた事もあるほどで最高位クラスの騎士になっていた。

近衛騎士団中で上位十人は『ガーディアン(番人)』と呼ばれ序列がつけられ三位以上となると、場合によっては国王と同列の権限を与えられ、王意に逆らうこともできる。ガーディアンが王族も守るが、『国自体』を最優先に守るので『守護者ではなく番人』を意味している。

第一位は団長『イングラムの獅子』 『人間』
第二位は『スコットの一角獣』 『人間』
第三位は副団長『ウェールズの紅龍』『エルフ』
第四位は『クライシスの黒牛』『ドワーフ』
第五位は『フィルボルグの銀鷹』 『人間』

スレンは第五位が与えられている。三位には入っていないものの少なくとも公爵家より上の権限を与えられている。

ちなみに残りは、

第六位は『モーティマーの白獅子』『獣人』
第七位は『ボーフォートの雄牛』 『獣人』
第八位は『リッチモンドの灰犬』『人間』
第九位『ハルトーヴァーの白馬』 『人間』
第十位は『エドワードの鷹獅子』『エルフ』

ブリドン王国は獣人の力を多大に借りてできた国であり、国民のほとんどが大陸で少数派の、死して神となった『獣王』を崇める『獣神教』を信仰しているために(そのため隣の神国には『野蛮人の国』とも言われている)なので強さに関するものには、特に騎士等の渾名などには獣を付けたがる傾向がある。
 
つまり父と兄を消そうと思えばいつでも消せるが、やっていないのは母や他の姉弟がいるためである。

何故スレンは父と兄をここまで嫌っているのか?

それはスレンの初恋を邪魔し、その相手を怪我をさせ、更には公爵家の権力を使い相手に不名誉を塗り被せて追放した事にある。

相手は騎士学校の同級生で犬の獣人。

彼は万人に好かれるタイプではない。

しかしスレンはいつの間にか好きになっていた。

彼のどこが好きかと聞かれれば全部と答えるしかなく、彼の全てが愛おしく思ってしまう。

見返りは求めない、彼に無償の愛を捧げたい。

皆は彼を『格好いいが怖くて近寄りがたい』等言うが、スレンにとって彼がどうしようもないくらい可愛いらしくて仕方がない。

彼の側にいると家族に抱くような穏やかな気持ちがわき上がってくる。

もはや好きという感情を越え、愛しているという感情がただ漏れる。

彼を一生守りたいと思ってしまう。

できればでいい!!!!

できれば彼の耳と尻尾を触らせてほしい!!!!

モッフモフさせてほしい!!!!

獣人は耳や尻尾を撫でられるのが好きな者が多く、異性には抵抗があるものの頼めば少しは触らせてはくれる。だが彼は誰にも触せなかった。少なくともスレンは見たことがない。いや、もしそんな現場を、誰にも触れさせない彼が、特定の人物にだけ触らせる。そんな現場に遭遇してしまった場合、ショックで倒れていただろう。

母に相談したこの気持ちをどう区切ればいいか。

自分は公爵家の人間で、恋愛の果ての結婚なんて望める立場の人間ではないと思っていた。

『既成事実しかないわね!!!!』

母はスレンに見せたことがない妖艶な笑みを浮かべ、舌舐めずりをする。

『デキちゃたらさすがのあの人も無下にはしないでしょ』

あの人とは夫である公爵であり、デキるとはもちろん赤ちゃんである。

『誰もいない場所に彼を呼び出して・・・ヤっちゃいなよユー(笑)!!!!』

母に色々と入れ知恵されたスレンは騎士学校卒業式の日に彼を取り壊し予定で立入禁止になっている古い校舎の裏に呼び出した。

普段はこんな呼び出ししても来てくれなかっただろうが、彼も卒業式の日とあって気持ちが多少浮かれていたのだろうか少し渋りはされたが応じてくれた。

そしてスレンは彼に自分の気持ちを打ち明けた、いやぶつけたと言った方がいいかもしれない。熱い熱い気持ちを想いをぶつけた。

彼は一瞬目を大きく見開いて驚き、少しの間だけ空を見上げた彼は自身の頭を軽く手で掻き、意を決したのかスレンの目を見つめてきた。

『あっ、これ、断られる』

なんとなく返事の聞く前にわかってしまった。顔を両手で覆い隠し涙を流してしまう。

断られた場合はその場で押し倒して既成事実を作っちゃいなさいと母に言われたがそんな気持ちには到底なれない。呼び出しには応じてくれたので嫌われてはいないだろうが、想いが届かなったと。だがいつまでも泣いているわけにはいかない。彼をこれ以上困らせるわけにはいかない。スレンもまた意を決し手をどかし涙を目に貯めながらも歯を食いしばり彼の顔を見る。彼の顔は先ほどの困った顔ではなく焦った表情だった。しかし私が突然泣き出したのを見て慌てふためくといった物ではなく本気の焦りだった。

彼の意識は彼の背後、後ろに向けていた。しかし彼の後ろには何も起きていないし誰もいない。

ドン!!!

スレンは彼に突き飛ばされた。

その瞬間、彼の右腕が宙を舞い肩口から大量の血を噴き流す。

スレンは悟った。

彼は後ろから何者かに狙われるのを気付いていたのだ。しかし彼は普段装備している二刀のナイフを教室に置いてきており、迎撃が間に合うかどうかはわかない。そして回避した場合はおそらく位置的に私が斬られる確率が高かった。私は間抜けにも気付かず顔を手で覆い泣いていた。反応できるわけがなかった。

スレンは突き飛ばされた瞬間、彼の表情を見た。

優しい微笑み、スレンが初めて見る彼の表情だった。

スレンはパニックを起こし意識が飛んでしまい、目を覚ましたのは一週間後だった。

そして全てが終わっていた。

彼は無実でありながら罪人に仕立てられ、卒業式当日に騎士学校を退学させられ、王都から追放され、彼は行方不明になっており彼の故郷である男爵領にも帰っておらず、彼を騎士学校へ推薦した男爵が彼の安否と行方の確認を何度も問い合わせがあったらしい。

スレンは公爵家の娘である自分が狙われたと思っていたがそうではなかった。
狙われたのは彼であり、犯人はあろうことかスレンの兄であるブレイズだった。彼女はそれを知ったすぐ後に兄を半殺しにした。理由があまりにも下らない事だったから。

『私の妹を泣かしたのだ!しかも人気のない場所に連れ込んで!きっと私の妹にあんなことやこんなことをしようとしたに違いない!平民の分際で私の妹に!!!それだけで処刑されて当然だ!!!!スレンは私の物だ!!!!!』

・・・・はあ?何をおっしゃってるのこの人は。

ブレイズ=フィルボルグは重度のシスコンであった。

周りの人間が止めに入らなければ殴り殺していただろう。

スレンは近衛騎士になった後も仕事をこなしながらも彼を探し続けた。七年間探し続けた。その間にブリドン王国の第一王子に求婚され続けている。誰もがお似合いと薦めてくるが断り続け初恋の相手を探し続ける。

「仕方がありませんわね。今日はここまでにいたしましょう」

スレンは近くに設置された椅子に腰をかけ従者の一人が紅茶を用意して新聞手渡す。彼女が新聞を読んでいる間にブレイズの治療をする。いつも通り、ではなかった。

ブフウウウウウウ!!!

彼女が口から盛大に含んでいた紅茶を噴き出したのだ。

紅茶を用意した従者が不味かったのかと顔を青ざめ恐怖に震える。兄妹の鍛練を見ていた彼はもしかしたら自分もやられるんじゃないかと。
スレンは新聞の一面を噴き出し汚れたことを気にせずに見続けている。普段の彼女からは想像ができない醜態を晒しているのだがお構い無しで食い入るように読み続ける。

『王国と神国の国境付近でデスマーチ(死の行軍)が発生!』『規模約二万体のゴブリンの大軍勢!』『上位種のオンパレード!キングやクイーンも出現!』『その大軍勢を率いるのは新種のゴブリン!』『その名はゴブリンホーリーエンジェル!』

は?いつからこの新聞社はゴシップ記事を書くようになったのだろうか?とスレンは最初に思った。

次にその『ゴブリンホーリーエンジェル』なるものの写真が載っていた。

額に第三の目があり、肌が黒く、背中から四枚の黄金の天使のような翼を生やし、おまけに頭上に天使の輪のようなものまである。

ふざけているのか?

スレンは思ったが、この記事を書き現場に居合わせた女性記者も『ゴブリン風情が何天使の真似事してやがる(笑)』と噴き出したと書いてあるが、このゴブリンの能力がエゲつなかったとも書いてある。記者が目撃できたものだけが掲載されていた。

『同種族肉体補強能力』『広範囲回復魔法』『同種族強制進化』『聖属性魔法』『飛行能力』『広範囲防御結界』『同種族強制暴走超強化能力』

『堕天使変異(ゴブリンダークエンジェルに変身)』

『闇属性魔法』『広範囲呪殺魔法』『敵対者強制能力低下』『敵対者重量増加能力』『広範囲破壊結界』『同種族強制超自爆能力』

・・・・ふざけているのか?

こんなゴブリンがいてたまるか!!!

『デスマーチ(死の行軍)完全制圧!ブリドン王国側の国境付近の村や町は被害ゼロ!』

魔物の大軍勢は多くの被害をもたらし、討伐に多くの犠牲が付き物なのだ・・・・被害ゼロですむならデスマーチ(死の行軍)なんて呼ばれないんだよ!!!

『たった二人デスマーチ(死の行軍)を阻止!』

あり得ないわよ!!!そんな事ができるのはガーディアンくらいだ。というよりこの案件はガーディアンの仕事でしょ!

そこでスレンは思った。もしかしたら自分が知らなかっただけで他のガーディアンが向かっていたのか?と。
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