探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず

文字の大きさ
93 / 99

弟と、兄と、私とーーー

しおりを挟む
「…………ねぇ、さん?」

そこに、いた。
私と同じ、淡い茶色の髪をして、優しげに目尻の下がった、弟。

「姉さん!!」

弟が持っていた荷物を全部乱暴に振り落とし、私に抱きつきました。
思わずフラつきますが、なんとか耐えます。

「姉さん、姉さん……! 会いたかった、会いたかった!」
「はい。私も、です。久しぶりですね」
「うん、うん!」
「お前の弟か」
「はい」

旦那様のことに気づいた弟が、旦那様と目を合わせます。

「あなたは」
「俺はアルジェルド。ラティアンカの夫だ」
「……! 姉さんの」
「手紙で送ったでしょう。その、旦那様ですよ」

すると、弟は警戒するように私を抱きしめ、旦那様を睨みました。

「……姉さんのこと大切にしないのなら、承知しませんよ」
「あ」
「ラティアンカ?」

どういうことだ、とばかりに、旦那様が私を泣きそうな顔をして見てきます。
ごめんなさい、旦那様。
弟に手紙を送ったの……離婚する、という手紙が最後でした。
事情を説明すれば、不服そうに弟は私から離れました。

「一時と言えど、姉さんを傷つけたことを反省してもらいたいのですが」
「す、すまない」
「姉さんに謝ってください」
「ラティアンカ……」
「はいはい、わかってますよ」

何で恋愛絡むと旦那様ってこうもヘタレになるんでしょうね。
普段はそれなりにカッコいいと思うんですが。

「姉さんが顔だけのヤツに誑かされた……」
「いや、俺、世界一の魔術師」
「え? アルジェルド・マルシムさん?」
「ああ」
「好きな人とくっつきたいがために、世界一の魔術師になった……?」
「どういうことですか」

初耳ですよ、それ。
旦那様に詰め寄れば、パッと勢いよく顔を逸らされました。
弟は呆れ顔でため息を吐きました。

「魔術師界隈では結構有名な話ですよ。好きな人に振り向いてもらいたいがために、世界一の魔術師にまでなって、親に頼み込んだって話」
「捏造だ! 俺はっ、頼み込んでない」
「好きな人に振り向いてもらうためっていうのは?」
「………」
「本当なんですね」

どういうことかさっぱり意図が掴めません。
旦那様と私は、親同士の決めた婚約で結ばれたはず。

「旦那様?」
「……悪かった。親同士っていうのは、嘘だ。俺がラティアンカに惚れたんだ。色々ややこしくしないために、そうしたんだ」
「つまり?」
「ラティアンカのこと、ずっと好きだ」

何ですか、その口説き文句。
ぐだぐだですか。

「……ダメだ。人としてダメだ。ポンコツだ」
「そんなこと言ってやらないでくださいよ」
「弟。ラティアンカは絶対に俺が幸せにする。行き違い故にこうなったが……もう、俺は間違えない」
「急に本気じゃないですか。まあ……そこまで言うなら、姉さんに判断を委ねますけど。それで、今日来たのはどんな理由で?」

弟の質問に、私が未来を見る力に目覚めたことを説明しました。

「……そっか。まあ、そんな気はしてた」
「妹はどうなりましたか?」
「妹は…………引き取られたよ。よその家に。いつまで経っても、力が発現しなかったから」
「そんな」
「会ってみたい?」
「会いたい、です」
「ならさ。住所教えるから、会ってやりな」

「上がって」と屋敷へ手招きする弟。
何だか足がすくんでその場で立ち尽くしていると、旦那様がギュッと手を握ってくれました。

「安心しろ。何かあったら、俺が守る」
「………はい」

弟について、屋敷へ上がります。
仮にも魔術師の名家です。
屋敷内は広く、掃除が行き届いていました。

「姉さん。今はさ、兄さんがこの家の家主なんだよ」
「跡を継いだのですか?」
「うん。優秀だったからね」

私が拒み続けたのにも関わらず、優しくしてくれた兄さん。
兄さんは元気にしているのでしょうか。
そうぼんやりと考えていると、廊下に誰かが立っているのが見えました。

「あ、兄さん!」
「? どうしーー」

兄さん。
久しぶりに会う、私の兄妹。
彼は私を見ると、大きく目を見開きました。

「………ラティアンカ、か?」
「はい」
「大きく、なったな……」
「兄さんも、ご立派になられたようで」
「それと、その。綺麗になった」

そこで、耐えきれないとばかりに、兄さんは目元を拭いました。
目尻には拭いきれなかった涙が滲んでいます。

「ごめんな……! お前が父さんや母さんから出て行かされる時、俺は何もできなかった」
「いいんです。対して珍しくもないことでしたから」
「でも」
「それに、今はこの人といられるから幸せです」

旦那様の腕を引けば、旦那様はペコリと兄さんに頭を下げました。

「彼は?」
「私の旦那様です」
「結婚したのか……」
「はい」
「……幸せになれよ。旦那さん。ラティアンカを、幸せにしてやってください」

兄さんが深々と旦那様に頭を下げたので、旦那様も兄さんに言いました。

「約束します。ラティアンカは、絶対幸せにします」
「…………ありがとう」

何だか懐かしさのあまり、涙が出そうになったその時。

「ラティアンカ!?」
「ーーあ」

元両親が、現れました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳 ロミオ王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します

冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」 結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。 私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。 そうして毎回同じように言われてきた。 逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。 だから今回は。

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?

すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。 人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。 これでは領民が冬を越せない!! 善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。 『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』 と……。 そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。

悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん
恋愛
 あ、私、悪役令嬢だ。  クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。  気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…

処理中です...