探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず

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ちょっと付き合ってくれませんか。

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「私達、本当に国に帰っていいの?」
「悪い子なのに」

こてり、と首を傾げてみせた2人。
人形操術の使い手である少女達の瞳は、何だか暗く見えました。
きっとアストロのことを知って、常識を知って。
自分達がいかに異常な生活を強いられてきたのか自覚したのでしょう。

「いいんですよ。それに、マルドゥアさんも待っています」
「……マルドゥアお姉ちゃんが?」
「はい。マルドゥアさんは、王になったんですよ」
「「ええ!?」」

声を揃えて驚いた2人は、興奮冷めやらぬ様子で辺りを駆け回ります。

「凄い凄い!!」
「王様!? お姉ちゃんが!?」
「はい」
「女なのに!?」
「……世界はきっと、ここから変わっていくんだと思います」
「ラティアンカ」
「旦那様」

後ろから旦那様が声をかけてきます。
長く待たせてしまいましたね。

「それでは、お世話になりました」
「はい。あなたに、最大限の感謝を」

現在、私達は風魔置き場にいました。
今から風魔に乗り、ナジクに戻るのです。
見送りに来てくれた女王様が、私達を見て淡く微笑んでいます。

「ラティ様……行っちゃうんですね」
「大丈夫ですよ。また、会いにきます」
「っ、はい!」

ロールは元気よく返事をすると、大きく首を縦に振りました。

「ぜったいぜったい、また会いましょう!!」
「はい」
「ラティアンカ嬢とアル。達者でね~」

エリクル様もヒラリ、と手を振ってくれます。
この場を離れるのはすごく名残惜しいのです。
短い期間でしたが、思い出はたくさんありますからね。

「……レオン様。ちなみに、マオ様は?」
「あいつ? あいつならもう出発したよ。俺にめっちゃ自慢してきやがった。やっぱくそ」
「お口が悪いですよ」
「うるせ~~」

拗ねたようにレオン様がそっぽを向いたので、辺りに笑いが起こります。

「じゃあ、行くか」
「行きましょう」

2人の手を引いて、風魔に乗り込みます。
この風魔はエリクル様が譲ってくれたものです。
自分達だと思って、旅に連れ出してやってくれと。
フワリ、と風魔が浮き上がって、地面がどんどん離れていきます。

「ラティ様っ、またっ、来てくださいね~~!!」

ロール達が見えなくなるまで手を振り、アストロの地を離れました。

◆ ◆ ◆

「マルドゥアお姉ちゃん!!」
「姉様!!」

ロマドの地に降り、風魔から降りれば、マルドゥアさんが待っていました。
あらかじめ連絡したので、マルドゥアさんも準備をしていたようですね。

「お前達……! 今までごめんね、これからは、静かに生きよう」
「うん……ぅん」
「ごめんなさい、姉様。私達、人を」
「うん。それは、許されないことだ。でもボクも同罪。一緒に償って、生きていこう」

頭を撫でられた2人の目にじわりと涙が滲み、マルドゥアさんに縋りつきました。
わんわんと声を上げて泣く姿は、あまりに痛々しくて。

「………」
「こういう現状も、どうにかしないとな」
「そうですね」

現在世界では、戦争が起きている国も珍しくありません。
私達が巡ってきたのは平和な国ばかりでしたから、そういう場面は見ていないのですが。
戦争でも、女は矢面に立たされます。

「行こうか」
「……はい」
「ラティアンカさん、アルジェルド殿。ありがとう」

マルドゥアさんの感謝の言葉に一礼して、私達は再び風魔に乗り込みました。

◆ ◆ ◆

「…………ここ、です」
「わかった」

ここに来るのは、一体何年ぶりなんでしょうか。
正確な数を数えるのすら億劫になるほど、見ていなかった。
私達が来たのは、私のかつての実家です。
私を捨てた家。
本来なら近づきたくもないのですが、兄や弟……何より、妹の存在が気になります。
旦那様が風魔を下ろすと、目の前にそびえ立つ豪邸が、あまりに大きな威圧感を放っているように思えました。

「……ノック、するか?」
「! 待ってください」

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